戦闘狂の迷宮攻略 〜早熟と模倣でお前のスキルは俺のもの〜

水色の山葵

三人目の適合者



「素晴らしい、ここまでたどり着きましたか」


「すまない……アーサス」


 49階層、その門の前を支配していたのは黒い装束に身を包んだ五人の男を引き連れた一人の紳士服の男。
 その男の年齢は30程だろうか。しかし、何よりも重大な事はその人物の事ではない。この場には僕と寧さんにフランスの三人の他に7人の人物がいた。
 五人の黒い装束の男たち。紳士服の男。そして最後に麗しき黄金の髪をなびかせる美女。


「リレイヤ様」


 アーサス・ペンディアスがそう呼ぶとその女性は俯く。女性に拘束の類はなく、まるで自分から手を貸しているような違和感を覚える。しかし、王女が自ら国家に反逆した者達に手を貸しているとは考えにくい。
 さて、どうしたものか。


 リレイヤ・アルフレート・ウィンザー・ジャンヌ・エリザベス
 レベル32


 ユニークスキル
 聖槍適合者
 集中


 Pスキル
 眷属召喚4
 槍術5
 魔法昇華6
 自己治癒4
 思念伝達4
 精霊召喚5
 光性の極意6


 Aスキル
 Ⅲライトニングスピア
 Ⅳエナジードレイン
 Ⅳスレイブチャーム
 Ⅴフォーススピア
 Ⅷブレイブオーラ




 わお。フランスにもすごいのがいるじゃないか。最強が。
 レベルを考えると彼女がこのダンジョンの攻略を行っていたのは明白だな。
 そして何よりも聖槍適合者の文字。翔くんや寧さんと同じ黄金のオーラを宿すスキル。


「何者だ! 君たちは自分たちが何をしているのか解っているのかい? セバス、何故お前がここにいる」


 アーサスさんから出る声はこれまでに聞いたことがない程の怒りが込められていた。
 セバスと呼ばれたのはまず間違いなく紳士服の男だろう。どうやら二人は知り合いの様だ。


「私は我が王の意向に従っているだけでございます」


 セバスと呼ばれた男は、薄気味の悪い笑みを浮かべながら、こちらの様子を伺う様に答えた。


「それにしてもアーサス様ともあろう物が他国の者に助けを求めるなど、誇りある騎士団長の行動とは思えませんね」


「すぐに姫を解放しろ!」


「申し訳ありませんが、その要求には答えかねます」


「そうか、ならば制圧するだけだ。こちらには不明アンノウンがいるのだから」


「ほう、世界一位が…… それは少し計算外ですね。仕方ありません本来なら貴方に使う予定だったのですが。やれ」


 セバスが黒装束の男の一人に合図を送ると黒装束の男は何やら詠唱を始めた。しかもその手のひらからはまるで魔法陣のような模様が出現していた。


「あの魔法陣は転移魔法です!」


 黛の言葉に反応し僕は直ぐにその場を飛びのく。


「無駄です。この部屋内は全て対象です」


 セバスの言葉を聞くと同時に一瞬で景色が消えた。
 49階層は大きく分けて二つのエリアに分かれる。ボスが待ち構えるエリアとその前に存在する安全地帯だ。今僕達が居たのは安全地帯内だった。
 しかし、僕の視界が暗転し、次に目に入った光景は目の前のボス。風のディユウベント
 そいつは飛んでいた。いや浮いているというのが正しいだろうか。まるで空の上から全てを見渡す神の如く。


 半透明な人型の体に緑色の光る髪。幽霊みたいだな。ただし大きさは僕の二倍以上はありそうだ。スキルには勿論一の権能の文字が入っている。


 なるほど、完全に分断されたわけか。


 しかし、この程度でを大人しくできたと思っているのならふざけるのも大概にしろよ。
 今更この程度の敵に後れを取る事などありはしない。
 能力合成・属性付与+身体操作=【状態変化】。能力合成によって新たなスキルを開発する。そのスキルは付与魔法を自身に対してのみ一度の付与で10分間持続させるスキルだ。
 この能力で俺は自分の肉体に無効化魔法をエンチャントする。


「キュローーーーーーーーーー」


 風の神の甲高い声が部屋全体に反響する。うるせえな。
 更にその二本の腕を空に上げ手のひらの間に風の塊を発生させた。それを発射する。


「鬱陶しい」


 ブレイブソード起動。
 黄金に光る刀身で風の弾丸を受け止める。受け流す形で弾丸は明後日の方向へ飛んでいく。
 一歩、俺は前に進む。
 弾丸を簡単にいなされた事で一瞬硬直した風の神だったが、しかしそれも一瞬の事だった。すぐさま次弾が飛んでくる。
 ブレイブソードの宿った刀身で弾く。
 また一歩、俺は前に出る。


 5発ほど打ったところで奴もそれが効果を持たない事を理解したようだ。手の中の風が強くなっていく。今までの数倍の威力の風が放出された。本来なら全てのスキルを無効化する一の権能の効果内の風の球だが、それは無効化魔法を身体全体に宿した今の俺には関係ない。


むし密語さざめき


 空の妖刀の刀身が風の球に触れると同時にその魔力が完全に消失した。
 一歩前に出る。そしてそこから風の神までの距離は跳躍一歩分。そに気が付いたのか奴は直ぐに距離を取るように後退する。


「おせぇなあ!」


 超加速リミットアクセル起動。いっきに加速して距離を詰める。超加速による跳躍は一瞬にして奴と俺との間にあった空間を消し去る。


「ブレイブソード解放!」


 黄金に輝く刀身から風の弾丸六発分の威力を持つ一閃を叩き付ける。見た目からは想像できないが、こいつもそれなりの装甲を持っているのか、金属音のような甲高い音が鳴り響き、切り裂くには至らなかった。しかし、上段から振り下ろされたブレイブソードによって地面に叩き付けられる。


 天狐によって空を蹴り、叩き落した奴を追いかける。拳に白と黒のオーラが宿るのを感じる。相棒のアシストで俺の拳にザ・ワンがエンチャントされていた。


 落下速度を天狐によって底上げし、こぶしを叩き付ける。
 バッコーーーーーン!!と地面が砕ける音が聞こえ、土煙をあたりにまき散らす。


「この程度か」


 土煙が晴れると、そこには俺以外の生物は立っていなかった。






 しかし……それを俺が理解した瞬間、脳が直接揺らされるような感覚に陥る。大量の情報が送り込まれるような謎の感覚に俺は膝をつき呻く事しかできない。


「なん……だ、これ……」


 意識が薄れていく。やばい、このままじゃ……


 ファーストステップ 50階層到達を確認。
 セカンドステップ 30体以上のボス撃破を確認。
 サードステップ 三つ以上のダンジョン49階層突破を確認。
 ラストステップを開始します。


 そんな言葉と共に俺は完全に気絶した。


















 side椎名寧




「徹さん!」


 敵の手のひらから発生した魔法陣が、輝きを強くするのと同時に徹さんの姿が掻き消えてしまった。
 しかし、その姿を見失ったのは一周の事で、次に彼が現れたのはボス部屋の中だった。
 ダンジョンのボスエリアはボスを倒すまで出てくることはできない。つまり、徹さんは49階層ボスを倒す事を余儀なくされたという事だ。


「流石に一位でもここのモンスターを相手に一人で戦うのは無謀というものでしょう。さあ、騎士団長殿、頼みの綱の彼も終わりましたよ。これは読めましたか? ミスタージーニアス」


「貴様……」


 アーサスさんが紳士服の男性。セバスと呼ばれた彼を睨みつけています。私はフランス語は得意ではありません。しかし意味を聞き取るくらいはできます。
 そして、理解しました。セバスという彼はともかくとしても、アーサスさんも黛さんも、ああ、まだ解っていないのですね。


 彼は私を救ってくれた。彼は何よりも速く、何よりも強く、そして何よりも優しい。
 貴方たちにそれを分かれとは言いません。そんな事は私が理解しておけばいい話だから。
 でも、何も分からないくせにあの人の事を見くびるな。


「私の前であの人の事をかってに語らないでください」


 私の言葉はフランス語ではない。けど、アーサスさんと黛さんは私の言葉を理解したようで驚くようにこちらに目を向けました。
 あの王女、なるほど清明さんや翔くんと同じ適合者ですか。それが解れば敵の狙いも概ね解りました。適合者の能力を使って何かしたい事でもあるのでしょう。そしてそれには聖槍が必要だと。例えば49階層の突破とか。
 しかし、一の権能の前では聖装を持っていない適合者の能力は完封される。だから彼らの目的は聖槍。そして、黛さんが持っているという国宝、乙女の旗。十中八九、それが聖槍なのでしょうね。


「本当に今更ですね」


 天空の塔での経験によって私の魔力操作と魔力容量が爆発的に増加した。今なら安倍晴明の能力は十全に使用できる。
 徹さん、貴方から譲られたこれを使います。


 私は聖典を開く。勝手に目の前で浮遊するその本は桁違いの黄金の光を放っている。


「この本は世界に存在する全ての書物を網羅している。それには電子媒体も魔法書の類も含まれる。つまり、私はこの世界に存在するあらゆる魔法を使えるという事」


 セバスという名の彼も私の言葉に耳をすませ、一字一句を逃すまいと私の言葉を聞いている。
 彼も日本語が解るようだ。


「適合者がそこの彼女だけだとでも思いましたか?」


「まさか、それは聖武具だとでも……」


 なんだセバスさん、日本語話せるんじゃないですか。


「そうですよ?」


 ディスペル。それは解呪の魔法。対象に掛かっているあらゆる魔法効果を弾く魔法。
 王女に発動してみましたが、弾かれますか。


「貴方は……何者ですか……」


 問いかけと呼ぶよりは、驚愕からでた現実を無視したいという願望のように聞こえる。


「私はただのあの人の仲間です」


「まさか、あの方も……そうだとでも?」


「ふふ、とお、いえ、不明アンノウンはその程度ではありませんよ」


 私が階層主の部屋に目を向けると、一人の例外もなく敵味方関係なく全員がそこに目を向ける。そこには階層主を地にたたき落し、止めと言わんばかりに拳を突き刺す徹さんの姿があった。


「我らですら、いや姫様ですら勝てなかったと言うのに、ああも簡単に」


「あははは。セバス、どうやら彼は僕の予想以上の存在だったようだよ。それでどうする?」


「速やかに王女様に掛かっている支配を解除し拘束を受け入れてください」


「くっ」


 歯ぎしりする音が私にまで聞こえてきた。
 勝負は見えたと私も、そしてフランスの騎士の方達も思ったでしょう。
 しかし、現実はあらぬ方向へ進む。


 バタン、と階層主の部屋から音が聞こえた。おかしい、階層主は完全に消えているのに外へ出さないための結界が発動し続けている。何かが起きている。私がそれを理解するのとセバスさんが笑みを浮かべるのは同時だった。


「動かないでいただきましょう!」


 徹さんから目を離し、声の方向を向くとセバスさんが王女様の首にナイフを突き付けていた。


「やめろセバス!」


「それは聞けません。それが我が王命ならば」


「お前の王とは誰の事だ!」


「答えられませぬ」


 アーサスさんの目を見る。私の意思が伝わるように。


「!」


 私の顔は自分でも思いもよらない程の怒りを帯びていたでしょう。私は今すぐにでも階層主の部屋に飛び込みたい。それを伝える。


「ああ、いいとも。ここは僕達に任せてくれ」


「! お願いします!」


 私は、私の思いに合致するオーダーを受けとり、駆ける。付与魔法によって自身の脚力を極限まで上昇させる。階層主の部屋の扉まで一瞬にしてたどり着いた。そのまま、減速する事なく扉の中へ突き進む。


 ガキンッ!!


「なっ!」


 弾かれた。何故!? 階層主の部屋への侵入に制限がかかるなんてありえないはずなのに。


「寧くん。戻ってきたまえ」


 私が弾かれた事を理解したアーサスさんの声が聞こえた。


「しかし!」


 ただ、その指令はさっきの言葉とは全く違ったものだった。


「聞くんだ! あの中に入る方法は一つじゃない。そもそも彼はどんな手段であの中へ入った?」


 思い出す。そして気が付く。咄嗟に私は黒装束の男の中の転移魔法を使用した者を探す。しかし、その服装や体格はほぼ一緒で、どれが転移魔法を使った人物かの判別がつかない。


「優先事項はこの場の制圧だ! 異論はあるかい?」


 落ち着いて。そう、徹さんはあの程度で危険にはならない。今は、いやいつだって私はあの人の事を信じている。


「ありません」



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