戦闘狂の迷宮攻略 〜早熟と模倣でお前のスキルは俺のもの〜

水色の山葵

それぞれの思い



『私たちが行くダンジョンはコロセウムよ。一階層につき敵対生物が一体現れ、それを倒す事によって次の階層へ進むことができるわ。これが9階層までの生物データ、こっちがマップデータね。まあ9階層までの全ての階層の構造は同じだったけどね』


 僕達の付き添いは会談の時にいた女冒険者だった。アメリカは冒険者という名のダンジョン探索者を国家資格として正式に採用した。冒険者はダンジョンの侵入権限、得たアイテムの使用許可とアイテムを国に売る権利を持っている。ダンジョン内で得たアイテムは現在の所最低値が日本円で3万円。
 冒険者試験に受かる事ができるアメリカ国籍の持ち主であればだれでもダンジョンに入る事が可能で、命懸けだが見返りも多い職業となっているようだ。


 そして日本のダンジョンにはないアメリカダンジョンの特性。同時に入った人間以外の人間がダンジョン内に存在しないという特徴を持っている。
 アメリカで冒険者を職業にしている人間は推定200万人。アメリカにはダンジョンが3つ存在しているので各地にギルドと呼ばれるダンジョンに関する国営施設が存在している。


 オリビアと名乗ったその女の指示に従いアメリカ入国を済ませた僕と寧さんは直ぐにコロセウムと呼ばれるダンジョンがあるワシントンDCに着いていた。


『探索は明日からよ。それまで少し休んでおいてね』


 明日からって、もう夜やないかい!
 外は真っ暗ホテルで夕食食べて寝るくらいしかすることがない。
 時差で眠気もそんなにないから、部屋で一人アメリカのダンジョンについての情報を漁っていると扉がノックされた。


『空いてますよ』


 従業員かと思って英語で話したが扉を開けたのは寧さんだった。


「あの、少しお話しがあるのですが……」


「いいよ。どうせ暇だったとこだし」


「正直な話、私は私の力では徹さんの足手まといになっていると感じています」


「そうなんだ」


「実際にダンジョン攻略の際に戦っているのは徹君だけです、私も九重さんも近接戦闘能力はありませんから。もしかしたら私たちが居なくてもダンジョン攻略は可能なのではないですか?」


「君もそういう事を考えるんだね。でも君の力は実際酒吞童子もがしゃ髑髏も倒している。今の戦闘についてこれていないのは一重にレベルが僕に追いついていないのと『アイツ』に近接戦闘能力の才能がありすぎるせいだ。寧さんは一撃必殺の魔法があるし、九重さんの百鬼夜行は寧さんの防御に非常に役立っていると僕は考えているよ」


「でも………………それなら徹君は必要ありませんよね?」


「ああ、気が付いたんだね。いや、遅いか早いかの違いでしかないか。それで、僕をパーティーから追い出して今後は二人でダンジョン攻略をするかい?」


「そう言うつもりでした。でも、どうやら私は貴方無しでは本気になれないようです」


「ああ、僕は君にそう言ってもらえるだけで幸せだよ。君たちには降霊術と百鬼夜行という誰にも負けない能力がある。なら、やはり僕や『あいつ』が居なくても君たちは強い」


「いいえ、それは違います。徹さんと徹君は二人で完成された存在なんだと思います。欠点を補い人間が絶対に持っている矛盾を二つに分ける事によって無くした存在。それに私たちは不純物なんです。だから、私と九重さんとで相談して決めました。徹君に見合う力を身に着けるだけの時間をください!」


「そっか。うん、分かったよ。実は僕からも頼もうと思っていたんだ。僕はこれからアメリカのダンジョンを攻略していく。今回アメリカに来たのはダンジョン間転移を開通させるためだ。コロセウムはダンジョン内で別の探索者に合う事がない。つまり日本に居ながらアメリカに気が付かれることなく攻略を進める事ができるという事だ。だから日本のダンジョンは君に任せてもいいかい?」


「分かりました! 私たちは必ず貴方に見合う力を身に着けます!」


「僕も歩みを進めるつもりはないから、簡単に追い付けると思わない方がいいよ」


「徹さんの方は、追い抜かれて突き放されてたとしても温情でパーティーに入れてあげるのでご心配なさる必要はありませんよ」


「楽しみにしてるよ」


「はい」


「明日が最後のダンジョン攻略か」


「いいえ、私たちが世界一を手に入れるために少しだけ離れるだけです」


 ひとしきり話して寧さんは部屋から出て行った。




 良かったのか?


 何が?


 コロセウムで探索者通しが接触しないって知ったのはさっきだ。


 だから?


 アメリカのダンジョンを攻略しようと思っていたなんて嘘だ。


 そうだよ?


 良かったのか?


 何があろうと私は前を向く。彼女に初めて会った時に言われた言葉だ。僕もそんな生き方をしてみたいと思ったし。何よりもかっこいいなって思ったんだ。


 ああ。


 だからさ、きっとこれでいいんだ。僕が前を向かない事が一番かっこ悪い。


 そうかい。ま、明日は俺がそのストレスを吹き飛ばすくらい暴れてやるよ。


 ありがとう。


 やめろ、きもちわりい。






 僕は目じりに溜めた涙が零れないように耐えながら眠りについた。








 side 椎名 寧


(良かったのかい?)


 宙に浮き、半透明な着物の男が私に話しかけてくる。実際に言葉を発している訳ではなく心に直接語り掛けてくるように。


(何の話ですか?)


(彼にあんな嘘を吐かせた事さ)


(ええ、今の私ではあの人の隣に立つ資格はありませんから)


(それで、君はどうやって強くなるつもりなのかな? 自慢じゃないけど僕の力は完成している。僕の理を読み解く力に期待しているのならやめた方がいい。君に降霊した僕なら別だけど、君自身にそれを扱う才能ないよ)


(解っていますよ、そんな事は。だからダンジョンを攻略するんです)


 私の能力は守護霊である安倍晴明を降霊させる事で理を読み解く力を使い相手を消滅させる。私以外の私の能力を知る人間は、全員そう思っている。


(それに、貴方なら私の才能とやらを引き出せるでしょう?)


(僕が協力する意味あるかな)


(あら、私が死んでも構わないんですか?)


(ああ~、それは困るね。相当困る。なんたって楽しみが無くなっちゃうからね。いいだろう君の才能を伸ばす方法は僕が教えよう。そう君の才能、補い助ける力を)








 side 安倍晴明


(それにしてもダンジョンか……。あれを作った者はあんな紛い物で何を企んでいるのやら)

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