俺だけFPS
銃と、剣と、XV
片や全てのスキルのリキャストタイムを半減し、スタミナを半分しか消費しない天魔。
片や残りその身体は絶体絶命の崖っぷちでありながら、揺らめく闘志を放つ白龍。
この場にある戦力の中で最も重要な要素は三つ。
一つ目と二つ目は、ミズキが宿す二つの証明。【時計仕掛けの魔人】と【時計仕掛けの天人】の初討伐者たる称号の力。
三つ目は、シェリー・バーリオンが放つ純白の龍の加護。
それはある騎士王から認められた証であり、その力の一端である。
【騎士王辻斬り】
騎士王に対して単独で奇襲攻撃を仕掛ける事で開始されるユニーククエスト。
その終了条件は三つある。騎士王に完膚なきまでに返り討ちにあう事、騎士王の白龍を回避あるいは防御し耐える事、そして最後に騎士王のHPを10回以上0にする事。
一つ目のクリア方法では報酬はほぼ無しだ。その打ち合いから多少の経験値がもらえる程度であろう。
二つ目の方法だと大会への参加権を与えられる。
三つ目、騎士王に力量と言う面で完全に勝利した場合に限り、その者には不知火と呼ばれる刀と白龍の加護という称号スキルを報酬として与えられる。
【白龍の加護】
一度だけHPが0になる攻撃を受けてもHPが1残る。
残りHPが1の場合、全ての攻撃に追加効果『白龍の咆哮』が発動する。
シェリー・バーリオンが着るように纏う白龍は観客の厨二病を刺激する。
凶悪な龍の顔が刃へ重なる。白龍の咆哮は全ての斬撃攻撃を遠距離攻撃へと変貌させる。
彼女が一振り刃を振るえば、解放された白龍の咆哮が敵を食らいつくさんを放たれる。それは騎士王の放つ白龍には遠く及ばない威力ではあるが、しかし距離を縮めるという意味ではこの状況に対して最適解とも言える能力の様にも思える。
「できるなら、ずるいって思わないで欲しい」
そう言った彼女の表情は、少しだけ不安の色が見えた。
幾らユニークアイテムや単独しか獲得できない称号スキルがあるゲームと言えど、確かに彼女の能力は破格で、故に相手が相手なら卑怯と罵られてしまうだろう。
しかも彼女自身、努力をした訳ではなく、ただ持っていた技術と経験で運よく手に入れた代物だから。
割り切ってはいても友人と思っている相手から避難されるのは、気持ちの良い物ではなかいだろう。
「思う訳ないだろ」
放たれた白龍の咆哮を銃弾で撃ち抜き消滅させたミズキは答える。
ミズキからしてみれば、もっと強い相手とまだ戦えると言う意味としか捉えていなかった。
それを聞いてシェリーはこの数十分の中で何度目かも分からない笑みを浮かべていた。
(ありがと)
斬撃全てに飛ぶという属性を付ける。白龍の加護の能力はそう言いかえる事ができるだろう。
そして、そのDPSはシェリーの攻撃速度に依存する。
FPSで彼女が最も得意とする武器はSMGだ。次点でHGとARが上がる。
高い命中精度ど、精密なリコイル制御から放たれる彼女の銃は正しくレーザービーム。
それが飛翔する刃で再現される。
武芸者。今の彼女が疲労する舞を見れば凡その日本人はそんな言葉が浮かぶだろう。
未来視から嫌がらせと先読みの斬撃は、確かに相対する者からすれば地獄の一言でしかない。しかし、第三者からするならそれは何よりも綺麗だった。
一刀を撃つたびに、避け辛い場所へ誘導され王手やチェックを連呼されるようなプレッシャーを相手に与える。だからこそ、相対的に見た時こそ彼女の凄まじさが現実味を帯びていく。
少しづつ不利に押し込む一閃。
だがしかし、それはこの男とて同じ事。
彼はその斬撃に銃弾をヒットさせ相殺する事ができる。
剣戟が僅か数cmまで迫れば破裂したように消滅する。まるで何処に斬撃が飛んでくるのか解っているように彼への攻撃の悉くが消失する。
悲しきかな、刃は1で銃は2だ。
だが、シェリー・バーリオンに有利な点が無いかと言われればそんな事はない。
攻撃を行えば、スタミナが減るのは同様、されど銃にはリロードという特殊モーションが必須だ。
ミズキは早弾速弾がある。リロード速度上げるスキルであり、これも他と同様に再使用までの時間が半減している。
更にミズキには手持ちのハンドガンが合計4丁ある。それを入れ替えながら自動装填まで含めればその継続戦闘能力は互角。
斬る。撃つ。斬る。撃つ。斬る。撃つ。斬る。撃つ。
左右に踏み込めば作戦を見抜かれ事前に潰される。
上下に移動すれば相手は間合いを合わせる。
回避と攻撃を同時に行い、少しでも多くのアドバンテージを奪わんと相手の思考を読み続ける。
それだけの力量をお互いが持っているからこその拮抗状態。
だから、単純なその一撃に足を掬われる。
「アイスリング」
通常なら数十文字の詠唱を必要とする魔法だが、魔樹の首飾りの効果で魔法名を口にするだけでマジックメモリーに込められた魔法がノーモーションで発動する。その言葉から放たれた魔法は、シェリー・バーリオンの足元へ向かって行く。
全てのキャパシティを銃弾の相殺に割いている状態では、一手上を行く魔法に反応できない。幸運だったことはそれが攻撃魔法ではなかったこと。
不運だったのはそれが外れると思い込み、無理にでも回避しなかったこと。
凍り付く地面。そして、刀を振るった拍子に地面で上がった摩擦係数に対応できない。
力み過ぎている。バランスは手放された。
好機と見たかミズキは二丁の銃を発砲する。それは適格に体勢を崩したシェリー・バーリオンの頭へ向かう。
今の彼女のHPは文字通り1。転んだだけで死にかねないHPだ。
だから、転ぶとしても彼女は完全な受け身を取る必要がある。
受け身を取りながら銃弾を回避するなど常識的に考えれば不可能だ。
しかし、ここは常識に支配された世界でもなければ現実ですらない。
ゲームであるからこそ、彼等の身体操作の能力は超人の域へ至る。
バウンドラビットとエアジャンプのアーツスキルを発動させる。
それは跳躍力を強化するスキルと空を蹴って跳躍するスキル。
ミズキへ足裏を向けるように後ろへ転んだ彼女はバウンドラビットを発動させ後方へ跳躍する。
後は左手で片手後転を決めて、同時に回転中に短剣サイズへコンパクトにした刃を二度振るう。
それは彼女を護る盾となり、銃弾は相殺された。
だが、綺麗に受け身を取ったとは言っても即座に今まで通りの攻防が続けられる程姿勢を整えられるわけでもない。
多少なり不備は残る。そしてそれを相手は見逃してくれない。
決め切るつもりで放たれる銃弾の嵐を前に、彼女は自信の防御が追い付かない事を察してしまう。
スタミナ管理の問題だ。このままミズキを銃弾をハイペースで撃ち続けた場合、二つの跳躍スキルの発動によってスタミナはシェリー・バーリオンの方が速く尽きる。
(それなら、前へ出る!)
それが彼女の結論だった。
トルネードエッジ。それは短剣専用の回転攻撃アーツ。
前方へ突進しながら身体を回転させ、近い相手を切り裂いて進むスキル。
これは読みではない。これは彼女の反射だ。
前方から迫る銃弾の位置を把握し、どの経路でスキルを発動させれば銃弾に当たる事なく進めるのかを計算する。
それに、パーティクル・ラプラスというゲームの完成度が味方しシェリー・バーリオンが思い描く通り1ミリのズレもなく完全な経路へトルネードエッジが彼女を導いた。
だが、それすらも手のひらの上。単純に考えてミズキという世界二位の男は彼女が突き進むだけのスペースを態々用意するだろうか。
彼女が突き進めるだけのスペースを用意した真の目的があるとするなら、そこを塞ぐ最後の一発こそミズキという男の仕組んだ怒涛の銃弾のラストバレット。
銃口が回転しながら突き進むシェリーの顔へ向いていた。
パン!
彼女の未来視の才能などなくとも誰でも察することが出来るだろう。このままでは自分に当たるという事を。
「あああああああ!!!!」
叫ぶ。それは彼女とパーティクル・ラプラスというゲームの間に起こった一種の奇跡。
ミズキのポジションチェンジに関する特殊なスキルの使用方法と同じように、彼女にのみ使い熟せる意図外のスキル。
名前を付けるとするなら、スキルリンクと言った所だろうか。
トルネードエッジ中に逆回転を意識した脚技スキル、旋風脚を発動させる。
この時、システムは右回転と左回転の双方の指令を受けている状態となる。
人間の可動域や筋肉の運動における絶対が存在しないゲームの世界であるからこそ、その指令は思わぬ形で受理される。
その時、シェリー・バーリオンは空中で停止したのだ。
左右両方の回転指令を受けたスキルシステムは空中での全運動の停止という挙動をした。
正しく、正真正銘、シェリー・バーリオンはこのゲームをバグらせたのだ。
そして三つ目のスキルクイックスピンを発動させ、逆回転の後彼女は見事ミズキの銃弾を掻い潜った。
だが、ミズキの奥の手はもう一つ残っている。
「スタンピード」
ミズキの切れる最後の手札。最後の魔法にして最後のスキル。
これ以上隠しているスキルも武器も存在しない。だが、シェリー・バーリオンはミズキがそれを使う事を知っていたかのように冷静だった。
いや、事実隠していると思っても彼女は知っていたその奥の手が放たれる事を。
アクセサリーは当たり前だがアバターが装備している物だ。魔樹の首飾りもマジックメモリーもミズキの身体についてる物だ。
そしてアイスリングが発動した時、小さ目の青いUSBメモリの様な飾りからその魔法が発射された所を彼女は見ていた。だから、それと形状が全く同じ飾りがもう一つある事にも彼女は気が付いていた。
(KYOKASUIGETU)
それは約0.3秒、20フレームだけ無敵時間を発生させるスキル。この時全ての攻撃はシェリーの身体をすり抜け、クロスレンジまで踏み込めば白龍の加護込みの燕返しを発動させられる。
それで勝利、
そのはずだった。
「ライトニングショック」
「なんで……」
ミズキの雷のマジックメモリーに込められた魔法はスタンピードではなく、ライトニングショックだ。
至極単純で、子供でも思いつきそうな奇策。だが、数秒前に全く同じ言動で放たれたアイスリングという魔法の記憶がシェリー・バーリオンにその発想を抱かせなかった。
視界の端に映る麻痺状態の文字。
それを破る術をその剣士は持ち合わせていなかった。
「ミズキ、楽しかった?」
最後の瞬間まで彼女は笑う。
「ああ」
「良かった」
パン
その乾いた音はシェリー・バーリオンの1残ったHPを0へ追いやる。
その直ぐに後、ミズキWINの文字と声が会場全体に行き渡る。
きっとその時の事をこの光景を見ている誰も忘れる事はできない。神業の連発、VRゲームという物におけるある種の到達点。
試合時間 49分32秒。
決勝進出 ミズキ
「俺だけFPS」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
-
1,392
-
1,160
-
-
3万
-
4.9万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
5,217
-
2.6万
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
450
-
727
-
-
8,191
-
5.5万
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
6,681
-
2.9万
-
-
89
-
139
-
-
218
-
165
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
183
-
157
-
-
614
-
1,144
-
-
614
-
221
-
-
2,534
-
6,825
-
-
1,000
-
1,512
-
-
62
-
89
-
-
6,237
-
3.1万
-
-
62
-
89
-
-
71
-
63
-
-
33
-
48
-
-
398
-
3,087
-
-
14
-
8
-
-
27
-
2
-
-
116
-
17
-
-
104
-
158
-
-
265
-
1,847
-
-
83
-
2,915
-
-
215
-
969
「SF」の人気作品
-
-
1,798
-
1.8万
-
-
1,274
-
1.2万
-
-
477
-
3,004
-
-
452
-
98
-
-
432
-
947
-
-
432
-
816
-
-
415
-
688
-
-
369
-
994
-
-
362
-
192
コメント