俺だけFPS

水色の山葵

銃と、剣と、Ⅹ



 2041年 8月22日 18時00分


 その日、数多くのゲーマーたちは一つのゲームに注目していた。
 今年の初めの1月28日に発売されてから約半年、今尚クリアした人間は居らず、今尚神ゲーと称される日本で最も注目されているゲーム。


 その最高峰のプレイヤーが集まるPVPイベント。その放送はゲーム内外問わず、あらゆる場所で放送されていた。
 出場者は29名。その全員がこのゲームの最高レベル到達者の中から選ばれた選りすぐりの参加者たちだ。


 その中でも下馬評で注目されている選手の内何名かの紹介を生放送の司会をしているタレントが解説していく。
 ゲーム内ではNPCの解説実況が行われている映像を見る事ができ、逆にゲーム外のネット放送では豪華なゲストが集まった生放送を見る事ができる。


 ゲーム初の期間限定イベントがPVPのしかもここまで大規模な物になるなど誰が予想しただろうか。
 しかしパーティクル・ラプラスというゲームの性能を前に、この規模が現実的ではないと思える人間は少なかった。


 紹介された名前の中には有名実況者二名と、その二人のパーティーメンバーとしてこのイベントの引き金になったワールドクエストの進行を行ったプレイヤー『ミズキ』の事についても触れられていた。
 ただ、優勝予想順位はそれほど高くなく29名中6位。
 やはり銃という武器性能のハンデからミズキが優勝すると考えた人物は少ないだろう。


 しかし、低いわけでもないのは彼がシード枠という事が関係する。
 イベントを開催するためのワールドクエストを進行したという報酬の一部で、風船、スバル、ミズキの三人はこの大会のシード選手として参加しているのだ。


 優勝候補一位に選ばれたのはBB選手です!と司会者が読み上げると、生放送のコメント欄が「まあそうだよな」、「だろうな」というようなコメントで埋まる。


 BB。有名配信者兼プロゲーマーで、ゲームが上手いからという理由だけで動画配信サイトの登録者70万人越えを達成したプレイヤーだ。
 元々は格ゲーマーであり、それと同時にパーティクル・ラプラスのゲーム実況も行っている。ただ、彼の配信で彼が言葉を発する事は稀である。


 基本はプレイ映像の垂れ流しで、たまに動きの解説をする程度でコメントへの返信など滅多にしない。
 だから、喋らない実況者という二つ名まで付く始末だ。


 しかし、そんな彼がその規模の配信者である理由は一重にそのプレイスキルが常軌を逸している為だ。
 公式記録1092戦1002勝。51引き分け。39負。


 100戦以上戦っているプロの中でも勝率9割越えの格闘ゲームのプレイヤーは今のところ彼だけである。
 VRにおける格闘ゲームのセンスとはほぼ=で使用感の変わる様々な技の使い分けの上手さだ。


 急に数十m跳んだり、急に高速で移動したり、急に技溜めが長くなったり。その全てを身体で記憶する事が絶対条件。その上で、それを当たり前にやる格ゲーマーの頂点が彼である。
 それを証明するかの様に、彼のキャラクタービルドは拳武器。ナックルである。


 このゲームにおける拳の有用性は、打撃属性というノックバック値とスタン値が多く蓄積される属性が付く事。そして銃の真逆、ダメージ計算においてSTRの二倍の数値が参照されるということだ。


 第二位風船。
 第三位スバル。
 と続いていくが、一位と二位の間には票数にして1.5倍の差がある。


 やはり実況者界隈、プロゲーマー界隈でも抜きんでた実力を持つ彼は票数としてその実力を証明する。
 後は実況者ではない無名のプレイヤーが続いていく。


 その後、改めてルール説明が始まった。
 武器防具スキルに制限はなし。正し三桁以上のレベルのプレイヤーは強制的にレベル99まで落とされて、ステータスを一時的に振り分け直す。
 道具の使用は禁止。戦闘用インベントリには武器と、銃や弓の弾薬のみ入れておくことができる。
 その上で一般の参加者は5度の戦いを制する必要がある。


 一回戦。ミズキ、風船、スバルのシード選手を除く、26名の選手が戦いを始める。


 刀を装備したプレイヤーや、銃と剣の二刀流のプレイヤーのような珍しい装備のプレイヤーも居る。
 無名プレイヤーだが、参加条件のユニーククエストを達成している時点でその実力は保障されていると言えるだろう。


 この一回戦で出場プレイヤーの約半数が削れ16名までその数を減らす。


 BBは当たり前の様に危げなく二回戦へ駒を進めた。相手選手は槍という一見拳とは相性の良さそうな武器を装備していたが、スキルエフェクトを纏うその槍をスキルエフェクトの宿っていない拳で叩き落とし、懐に入り込み顔面を強打。そこから何かしらのスキルを発動したようで、連続で攻撃を与え続けノックアウト。


 このゲームのHPは基本的に100だ。それを補強する最も単純な方法は防具の性能である。しかし顔面を前から守る防具はあまり多くない。視界を確保するためにどうしても前が開いた装備が使い易いと考えてしまうからだ。
 だからこそ、顔面が致命的な弱点となってしまう。防具の無い部位に防具の防御力は関与しない。


 BBの攻撃箇所は当たり前の様に全て顔面を狙っていて、大きめのスタンとノックバックを貰い続けた相手選手は成す術なくHPを一気に全損させられていた。


 一回戦の全13試合は同時に行われたので、それほど時間は経っていないが二回戦からは一戦づつ行われる。この段階で、生放送の同時視聴数は500万人を突破しようとしていた。


「それでは、第二回戦第一試合を始めましょうか! 対戦カードは『BB』VS『ミズキ』!!」


 高らかに司会者がそれを読み上げる。トーナメント表は事前に公開されているので、それほど驚きもないが、生放送のボルテージはまた一段階上がる。
 優勝候補と謎めいた銃使いの対戦である。


 一部ではFPSの世界大会で活躍したミズキ選手と同一人物ではないかと言われているが、確証はなかった。
 だからこそ、このカードはかなり注目の一戦となっていた。


 この時生放送で行われた、どちらが勝つと思うかというアンケートの結果は82%がBBの勝利という物だった。






 両者が対面するのは王都にある施設の中でも最も大きな場所である、闘技場というエリアだ。街内でここだけが戦闘行為を行っても聖騎士が現れないエリアとなっている。
 客席にはNPCとプレイヤーが超満員で押しかけ、カメラも多く配置されている。


 闘技場の広さは直系20m程の円形。空中には特殊なバリアが張られ、上10m以上の跳躍は不可能になっている。


 実況が熱の篭った声で開戦を合図した。


「それでは! READY、GO!!」


 生放送の司会者と、ゲーム内の実況の声がリンクし、18時30分キッカリに戦いの鐘が鳴り上がる!


「は?」


 その声はBBというプレイヤーネームを持った男の声だっただろうか。
 それとも司会かゲストか、観客の誰かだろうか。


 否、全員だ。


 疑問はコメントを埋める。
『何?』『どういうこと?』『何してんだ?』


 誰もが注視したのはミズキの手元だ。
 漆黒の銃と純白の銃。されど、引き金に手を掛けられたのは黒い銃だけ。白い銃の銃身・・をミズキは握っていたのだ。
 白いスキルエフェクトがミズキの身体を覆ったと思えば、銃身を掴んでいた銃を相手に放り投げた。


 銃は銃弾を撃つための物だ。それ自体を投げつける事など想定されている訳が無い。
 だからこそ、その意味不明な動作は強制的に警戒を迫る。


 放り投げられた白い銃、それに試合を見る全ての瞳が引き寄せられる。


 誰も、ミズキが狙撃銃を白い銃があった左手に出現させている事に気が付かない。


 パン!


 そんな乾いた音でミズキの手元に会場全体の目が移った。
 相手選手、BBに至っては一発貰う覚悟はあったかもしれない。確かにその奇怪な動きなら一発貰ってしまうかもしれないなと思う。だからこそ、それが狙いなのだと判断しBBは被弾を覚悟した。


 しかし、ミズキを見てみればその銃口は自分とは全く別の方向を向いていた。


 それはミズキ自身のこめかみ。


 黒いエフェクトが、ミズキの身体を覆いそれが銃へ流れていく。


 何をしているのかコメントも実況も、相手選手でさえ理解できなかった。
 ミズキがした事と言えば、自分の武器の片方を放り投げ自分を撃つという意味不明な行為。
 だが歴戦の猛者である彼は感じ取る。本能的に、直感的に、これ以上あいつに何かをさせてはいけないと。


 狙撃銃に黒いエフェクトと同時にバチバチという青い雷が宿る。


 走る。距離を詰めなければ攻撃はできないからだ。
 早速人間の出せる速度の限界点などとうに超えた超スピードで一気にミズキに近づく。
 お互いの元々の距離は10m。3秒もあれば辿り着く距離だ。


 だが、どれだけ速度の限界を超えても初速は変えられない。
 逆に言えばミズキの元へたどり着くまで三秒も掛かってしまうのだ。


「遅い」


 雷の弾丸は速着の効果を有し、見てから避けるとか銃口から着弾位置を読んで避けるとかそんな方法を、ミズキの速射は許さない。


 氷怒の電磁銃
 基礎攻撃力750。マガジンサイズ6。
 マガジン内の弾薬を全て消費する事でその数に応じて一発の攻撃力を上げる。


 天魔絶息。
 純黒絶魔ブラックカオス自身に撃つ事でマガジン内の弾薬の数を10発増やす。


 その増やした弾丸は魔力弾。
 全ての銃に装填する事ができる特殊な弾丸で、銃によって弾丸としての形状を変化させる効果がある。


 この三つの道具の効果には相関性がある。
 要するに、天魔絶息で増やす銃弾の装填先は装備中の全ての武器が対象であり、絶対に天魔絶息の黒い銃に装填される訳ではない。


 今、氷怒の電磁銃の装填数は16発。
 一度の戦闘で一度しか使用できないという制限こそあれ、その一撃は天魔すら穿った絶息の一撃と同等の威力すら持っていた。


 白と黒が混ざったような雷は、1ミリの誤差もなくBBの顔面、それも眼球へ吸い込まれるようにぶち当たる。
 いいや、その頭をぶち抜いた。


 ワンショットワンキル。


 それはRPGで使われるような用語じゃない。


「良し。次だ」


















 二回戦第一試合勝者『ミズキ』
 戦闘時間 12秒。



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