俺だけFPS

水色の山葵

銃と、剣と、Ⅵ



 調べはついた。
 幻想種はパーティクル・ラプラスの世界でも非常に珍しい種族だ。
 この種族と言うはエネミー的な意味ではなく、NPCの種族の話だ。


 人間に加えて、獣人やドワーフのような亜人と呼ばれる種族は割と多く確認されている。
 ただ、幻想種は完全に別枠である。亜人種が多くいるのに対して、幻想種の定義とは既に絶滅している、もしくは現存するかもしれないが発見数がほぼない種族の事を指すらしい。


 それで言えば、妖精やエルフが多く住んでいたあの街はかなり特別な場所という事になるんじゃないだろうか。


 それと、色々と調べていると最近の話になるが凄い記事と見つけた。
 というか世間は割とこの話題で持ち切りだったらしいが、俺はずっとゲームをしていたから知らなかった。
 丁度俺たちが時計仕掛けの魔人と天人を倒していた事、つまり昨日ある法案が可決された。


 いや、改案されたと言った方が正しいか。


 一定レベル以上高度かつ言語を放つAIとゲーム内であっても戦うというシチュエーションを禁止していた法律が無くなったのだ。
 コンプライアンス的にR18ゲームでもNGを喰らっていたにも関わらずたった一日でその法案が改正された。


 まるで、あの魔王が現れる日を調整したかのような。
 まるで、スバルや風船が動画を上げる事を見越していたかのような。


 そんな絶妙なタイミングでの改正案の受理。


 ちょっとした闇を見た気がする。
 まあ、あんまり俺に関係ないしどっちでもいいけど。


 ただもしもこの法案が通らず、あの魔王がゲームから抹消されていたらと思うとリベンジマッチを不可能にされるのは困る。
 そう考えれば俺にとって良い事だとも思える。


 気を取り直してゲームの事を考えよう。
 やはり、何度調べても氷の街についての情報はネットの海の何処にも存在していなかった。
 あの場所に到達している人物はもう一人いるらしいが、やはりもう一人のプレイヤーは秘蔵しているようだ。
 だったら俺もばらさないでいいだろう。秘蔵するのを悪いと思ったことはない。FPSゲームでいうゲーム内ランクマウントみたいなもんだろう。


 間違いなくあの場所はユニークシナリオ関連だろう。
 それを態々教えてやるなんてとんでもない。










 少し仮眠をとってゲームにログインしようとすると、昨日の内に登録していた二人の動画投稿チャンネルがタイミングよく更新され、魔王についての情報がネットに上がった。
 それを機に法案改正にはパーティクル・ラプラスが絡んでいるんじゃないかとか色々言われているらしい。ある種の陰謀論だが、それにしても出来過ぎたシナリオだ。


 朝食と言っていいのか分からないが時刻は午後二時、俺は食事をとって再度ゲームへとログインした。








 アイスフィードにある古代迷宮の名前は『カケシェルテル』。
 出てくるモンスターは氷系ではなく、雷属性のエネミーだった。


 3m程の巨体のゴーレムと雷を纏った狼が俺の前に立ちふさがる。
 エネミーネームは機械仕掛けの巨人ジャイアントゴーレム血狼の王子ブラッドウルフ・プリンスという雷とは何の関係もなさそうな名前だが、状態異常を受けている。


 電獣化。どういう状態か知らないが、それのせいでバチバチと紫電が奴らの身体を覆っている。


「触れなそうだな」


 それは確かに厄介な能力だろう。
 こちらが攻撃するだけで自動的に反撃してくるというのだから。


「けどなぁ、銃なんだよなぁ~」


 銃弾で攻撃するのであれば、雷が武器を伝って俺へ攻撃してくることはないだろう。
 近接武器殺しのような特性ではあるが、銃弾で攻撃する俺にとっては全く意味のない効果だ。


 しかし基本的なスペックが高い。
 流石に王都周辺の隠しマップにある隠しダンジョンだ。今まで戦ったボスを除くエネミーの中では群を抜いたスペックを誇っている。
 移動速度だけを見てもそれを理解できるし、あのゴーレムの一発は多分受けきれないだろう。


 両脚軌道で様子を見ながら弱点を察知して、起死回弾を起動する。
 マガジン内の全ての弾丸のクリティカル率を上げるこのスキルだが、その本当に素晴らしい点は左右に持つ銃全てのマガジンに対して有効であるという点だ。


 二丁拳銃を基本的な攻撃手段とする俺にとっては非常に相性がいい。
 不満があるとすれば、リキャストが少し長いという事だが、優秀さを考えれば余裕でおつりがくる。


 朝には時計仕掛けの天人の称号スキルが発動する。STMの回復速度を二倍にする強力なスキル。
 これがあれば両脚軌道をそれほど廻さなくても回避が間に合う。


 厄介なのは狼の方だ、雷を纏っているだけあってかなり速い。
 対応が一手遅れるせいで回避と言うよりは弾く事になってしまう。


 多少のダメージであれば、仮面のリジェネで乗り切れるが回復量より受けてるダメージの方が多いな。


 火力を優先して天魔絶息を装備しているが、ある程度の交戦時間を想定すると持ち替えての回復弾は必須に思える。


 てか、これ雑魚敵だよな。強すぎるんだが?


 マップは凹凸の少ない平地の洞窟って感じで、戦い易さで言えば今までのマップで一番いい。
 だからこそ、ジャイアントゴーレムの一発から身を潜められるような場所もなく、回避を余儀なくされる。
 一撃必殺の破壊力とプレイヤーを翻弄する敏捷性、この二匹結構面倒だぞ。


 だけど、弱点が無いわけじゃない。


 一発。ジャイアントゴーレムの頭上目掛けて銃弾を撃つ。それは勿論回復弾だ。
 それに対して弾人入替を発動し、その巨体の頭上へと乗る。


 起死回弾のリキャスト終了と共に即座に発動する。同時に武器を狙撃銃に入れ替える。
 ゼロレンジバースト。このゲームのクリティカルは狙撃銃の場合に限り、貫通弾となる。


 身長3m越えのエネミーの頭からけつへ一本の光が走る。


 てか触っただけでスリップダメージかよ、いてぇ。


 三発。それだけ打ち込めばジャイアントゴーレムはポリゴン化していった。
 やはり、貫通弾は軌道上の当たり判定の数だけ攻撃力を上げるらしい。


「後はお前だけだぜ。一匹になっちまえば、噛み付きとタックル、後ひっかきくらいしか攻撃手段を持ってないお前なんか手こずるわけねえ」


 両脚軌道はもう必要ない。
 マイクロショットでできるだけ外さないように打ち込んでいく。
 流石に速い。マイクロショット無しだと置き撃ちしか当たんねえな。


 けど、目が慣れれば、四足歩行生物の弱みが露見する。
 真っすぐ進むのは得意でも曲がる場合は円を描くようにしか曲がれない。


 なら行動予測は簡単だ。それに対してスピードを頭に入れれば偏差撃ちも当たる様になっていく。


 ジャイアントゴーレムが倒れてから1分程で狼の方もポリゴン化していく。


 この古代迷宮はどうやら、一階層事に敵が配置されている仕組みらしい。
 つまり、勝ち抜き戦の闘技場型ダンジョンだ。何階層まで到達できるか挑戦アタックしてみろよってことなんだろうな。


 そう言えば素材アイテムの他に『バッテリー』というアイテムもドロップした。
 それと同時にユニークシナリオ『氷精霊交換所』が開始された。


 どうやらバッテリーを女王に渡すとアイテムと交換してくれるらしい。
 そういうシステムね。


 一階層は辛うじて勝てたけど、これ絶対ソロの難易度じゃないよな。
 まあ、行けるとこまで行ってみるんだけど。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品