俺だけFPS

水色の山葵

銃と、剣と、Ⅳ



 ダンジョンから出た俺は、雑貨屋にあった測量アイテムを使って把握したこの山の内部にある洞くつとやまの位置を照らし合わせる。
 測量の方法は簡単で、まず広間までの通路の長さと曲がる角度を測って地図にする。広間までの地図が出来上がれば、全ての広間のサイズが同じだったので、それを隣接する壁同士でくっつけてマップにすればいい。


 そうすれば、おのずと12番目の部屋の位置が山のどのあたりになるのかが解る。
 1番の部屋にも11番の部屋にも12番目に行けるような通路も仕掛けも無かった。だったら、入る方法は中からじゃなく外からだと予想した。


 そして丁度12番目の部屋の真上になる場所を見つけた。
 気が付いた事と言えば、雪をかき分けた先の地面に張る氷だ。お手製の地図と見比べてみれば、ここら辺が広間の真上である事は間違いないはずだが、透明度の高い氷であるはずの地面を覗いてみても広間は見えない。
 なるほど、これなら山に隠し部屋への入り口があったとしても普通なら絶対に見つけられないだろうな。


 周りの雪をかき分けていくとどう見ても氷ではない地面を見つけた。
 鉄だろうか、金属でできたハッチのような蓋がある。ファンタジー世界にハッチってどうなんだ。


 そこには文字が書かれていて、緑色のタッチパネルには『外00』『内00』と書かれている。
 文字の方は問題のようだ。


『内部の全ての空間が外の部屋と同じ形状とサイズの部屋になっているとするなら、広間の数は幾つになるか、外周と内部の部屋数を分けて入力せよ
 同じIDのプレイヤーの場合、再入力には一週間のインターバルが発生します』


 むずいな。えっとまず12だろ。で、それに隣接する部屋との結合を考えて、内部にある部屋と俺が見た広間のサイズが同じだとする場合……
 蜂の巣みたいな構造だなこのダンジョンは。


「合計は12+7で1207かな……」


 1207と入力するとハッチが豪!と音を立てて上に開き始める。
 中はそこまで深くないようで、覗けば広間の地面が見える。
 この距離なら落下ダメージを無効にする必要もないだろう。


 飛び降りたっ、ってバカお前落下硬直中の攻撃は反則だろバカお前!


 何の行動もできない俺は、強烈なダメージとノックバックで吹き飛ばされる。
 やばい、HPゲージが半分持ってかれた! 次貰ったら死!


 すぐに動き始める。今の俺に攻撃力はまだ要らない。
 天魔絶息をインベントリに仕舞い込み、森怒と森和の拳銃に入れ替える。


 森怒の拳銃を撃ち放ち、森和の拳銃を俺自身へ打ち込む。
 これでHPは8割程度まで回復した。撃ち放った銃弾は俺を襲った敵の眉間を捉える。


「GARUUUUuuu!!」


「SHUUUHUUUU!!」


「GAGIGAGAUUUOOOOO!!」


 なんだこいつら。氷でできた猛獣が三匹。
 しかも地球上に存在しない生き物どもだ。


 虎に似た身体を持ちながらそれよりも二回り以上巨大な身体を持ち、しかし発達した牙は顎よりも長い。
 意味不明な浮遊能力を持ち、伝承にしか登場する事は無い天空の支配者。
 もしも現代に居れば、全ての肉食動物の長であったであろう古代の獣王。


 サーベルタイガー、龍、ティーレックスの三匹が目の前で獰猛な瞳を俺に向けていた。


「三体同時とか、バランスやばいのは俺の方なんだろうけどさあ!」


 両脚軌道を発動させ、突進してくる三体の攻撃を回避。同時にクリティカルの弱点部位を見切る。
 武器を天魔絶息に切り替えて銃弾を撃つ。


 奴らの基本的な動作は噛み付きだ。それを回避できるのであれば、今のところ回避不可能な攻撃はない。獣であるが故か、AIはそれほど賢い訳では無いようだ。


 パン!パン!


 銃弾を当てていくが、気になる点が幾つかある。
 このゲームのクリティカル効果はダメージ二倍とノックバック追加だ。俺の場合は敵エネミーに脆弱見切を使えばどこに攻撃を当てればクリティカルになるのかを把握することができる。
 ただ、そのエネミーの原作現実が生き物の場合であれば弱点は自ずとそれに近くなる。例えば眼球だったり脳みそだったりがある顔部分は殆どが弱点になる。
 そして顔に銃弾を当てる場合、殆どのエネミーはノックバックによって多少なり怯みが発生する。俺が殆ど敵の攻撃を受けていないのはこの仕様が大きく味方をしているからだ。


 始まりの街北の森にいた猪だって突進中であってもその減速という形でノックバックは発生した。しかし、今目の前にいるエネミーの内一体、サーベルタイガーの突進にはその予兆が全くと言っていい程見受けられない。
 俺の銃弾がクリティカルヒットしている事はエフェクト的に間違いはない、しかしサーベルタイガーの突進モーションはノックバックの一切を受け付けない。


 ってか寧ろ加速してるんだよな!


 両脚軌道を溜まったそばから吐き出して、何とか緊急回避に割り当てているがこのままだと手数の差がまずい。
 龍の動きが鈍いのが唯一の救いか。そんな事を考えているとそんな事は無いとばかりに龍が動きを止めた。


 この状態で動きを止める事に喜びを覚える程、俺はおめでたい事は考えられない。
 大技の溜めか、それともモーションチェンジのフラグを踏んだか。


 どっちでもいい。取り敢えずサーベルタイガーとティラノの攻撃を掻い潜りつつ、銃弾を龍に集中させてみるか。


 銃の良い面の特徴として下振れが無い、という物があげられる。このゲームの一発の攻撃力は、武器攻撃力とプレイヤーのSTR、クリティカルの有無、そして攻撃モーションによる物理演算が関係する。
 そしてこの中で最も重要な攻撃パラメータは間違いなく、攻撃モーションである。
 非常に当たり前の話ではあるが、素早く振った斬撃と遅く振った斬撃のどちらが攻撃力が上がるかなど子供でも解るだろう。そして、そんな常識物理演算を間違いなくこのゲームは模倣している。
 だからこそ、銃というのはモーションに関係しない唯一の攻撃手段と言っていい。銃を持ち、引き金を引けるだけのSTRと、狙いを付けられるだけの技術があれば銃という武器は一定のダメージを出し続ける事ができる。


 だからこそ、近接戦闘をしながら回避と攻撃を同時に行える武器という扱いになる。
 まあ防御ができないという致命的な欠陥があるのだが。


 龍には問題なくノックバックが入るので、それを利用して出来るだけの揺蕩う龍の位置を後ろへずらしておく。これで大技が来たとしても回避できるだけの時間を稼げるだろう。
 そして、


「お前らの動きパターンはもう見切れる」


 もう両脚軌道は必要ない。どれだけの速さとどれだけの可動域があったとしても、持っている手札がそもそもプレイヤーとエネミーとでは天と地ほどの差があるのだ。


 紙一重。お前の首がどれだけ伸びるのか、噛み付きモーションの一瞬前に少しだけ減速する事、それが解ればお前の間合いはもう見切ったと同じ事。
 突進以外は距離がそもそも足りていない。前への移動はお前達の方が速いが、横移動はその限りではない。それが四足歩行動物と二足歩行動物の差だ。


 ただ、その程度で倒しきれる程甘い敵ではないようだ。
 やはりと言うべきは後方で揺蕩う龍が大きく口を開き、そこへ光が集中していく。
 更に言えば、龍の周りの大気が固形化、拳大の氷となっていく。


 無数の氷針と極太のブレスが俺へ目掛けて放たれる。

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