俺だけFPS

水色の山葵

銃と、剣と、Ⅱ



 玉座に腰を掛けるのは赤髪の女性。紛れもなく、この国の女王である。その隣に立つのは専属の騎士であり、女王の婿である黒髪の男。
 そして少し離れた左右に位置取るのが、彼等の娘であるミカ・グランとルシア・グランである。


「よく来てくれたミズキ。魔王に挑んだと聞いたがもう体は良いらしいな」


「ええ、次は勝ちます」


「はは、その意気や良しとしよう。さて君に折り入って頼みがあるのだがいいだろうか?」


 女王の話を要約すると、魔界と天界の封印が解けた記念に冒険者プレイヤーの武闘大会を開こうと思うので参加してほしいという話だった。
 PVPイベントか、プレイヤー主催の大会は何度か行われていると聞いたことがあるが、NPCが主導するのは初めてなんじゃないだろうか。


 ルールは基本的なトーナメント形式。出場権は俺とスバルと風船はシードで、それ以外はカゲが選定する。選ぶというのは要するにユニーククエストである。カゲを倒したプレイヤーだけが、参加資格を得られるという話だ。重要な婿様が倒されていいのかと言う話だが、カゲは死なないNPCだ。
 後で知った話だが、この王都にいる主要NPCはかなりのチート特権を得ているらしい。


 まず聖女は運営との通信。賢者は世界規模の探知魔法。女王はプレイヤーのレベルを操る能力を持ち、カゲに至ってはHPが0になっても即時完全回復する。姫二人は俺にしたようにプレイヤーのスキル情報を弄れるようだし。もう何でもありだ。だからこそこの国はできる事がなんでもできるこの世界でもプレイヤーの物にならずに済んでいるのだろう。
 このチート能力が無ければプレイヤーが100人くらいのチームで攻めてきたら防ぎきれないだろうしな。まあ聖騎士団とかいう普段はPKを相手にしている集団が出ててくるなら100人集めても全滅だろうが。俺だって玉座の間まで行くのが精一杯だったんだから。


「分かりました出場させていただきます」


 こんなイベントを逃す手はないし、何よりも俺に必要な対人性能を磨くいい機会だ。


「であるか、感謝しよう。しかしこの大会へ参加するには些か資格が足りて有らぬようだ」


「ミズキ殿、この大会への出場権はレベル99以上ですので悪しからず」


 まぁ、トーナメント形式なら全プレイヤー参加できるわけもないしな。最高位のプレイヤーばかりが集まる大会なら、その条件も納得だ。


「大会はいつですか?」


「二週間後の夜18時からを予定しています」


「分かりました。それまでに上げてきます」


「ご武運を」




 良し、本格的にレベルを上げよう。
 王都周辺なら協力なモンスターもそれなりの数生息しているだろう。
 エリアボスを周回してもいい。新武器と新スキルを試すいい機会だ。


 王宮を出た俺はGoogreを開く。


「VRゲームの便利なとこはゲーム内からネットに接続できる事だよな。なのにチートはできないとかすげえよな」


 パーティクル・ラプラス レベル上げ で検索を掛けると大量の情報が流れてくる。
 経験値の多いレアモンスターの情報や、より良い周回ルートの情報。それらを見ているとすごく疲れた。


「止めだ止め、こんな事してる時間が一番無駄」


 取り敢えずマップから外へ出る。
 王都の四方は全く別のマップに囲まれている。一つは俺たちが行った火山だが、ここはモンスターが湧かないので除外する。
 後三つは川と岩石地帯と氷の大地だ。


 火山と氷雪地帯が隣り合わせになっているのは非常に違和感があるが、そういう物なのだろうか。
 結局俺は氷雪地帯を選択した。理由はレアな素材がありそうだったからという物欲的な話だ。


 この世界にはダンジョンと呼べる物がある。呼べる物と言うのは、それらは一貫性が見受けられずプレイヤー達が便宜上ダンジョンと呼んでいるに過ぎない物だからだ。
 この氷雪地帯にも一応ダンジョンが存在している。


『氷天城』


 城という程骨格が残っている訳ではないが、巨大な山に埋まったアリの巣に近い構造の建造物である。


 レベル上げにダンジョンとはすっぽんと月くらいは近いのではないだろうか。あれ、全く近くないや。


 マップ全体に地面が滑るという特性を持つこのダンジョンは中々厄介な性質の迷宮となる。DEXの数値が高ければ滑るのを抑えられるらしいが、AGLが高いと更に滑りやすくなるという。俺の場合は、スケート場程は滑らないかなって感じ。気を抜いても直立くらいはできそうだ。
 問題はブレーキだが、両脚軌道があれば無理矢理方向転換できるだろう。


 このダンジョンに生息するエネミーは氷属性を持っているという性質こそあるが、様々である。
 鳥もでるしライオンも出てくる。何ならワニとかも出てくるな。


 しかし、それの全てが動物から派生した生き物なら弱点は大方見当がつく。
 まあ、見当なんて着く必要はないんだけどな。


「そう言えば、今は夜だよな」


 確かログインしたのが昼過ぎで、それから色々準備して倒し終わったのが五時過ぎくらい。その後、ステータス確認して王宮行って話聞くのに掛かった時間が二時間くらいだから……
 あ、ゲーム内でも時間確認できるのか。


 19時01分。


「っしゃあああ!!」


 時計仕掛けの天人と時計仕掛けの魔人は、効果は破格だが発動に時刻が関係するという使いにくい性格をしている。
 天人の方が、7時から20時までSTM回復速度2倍。
 魔人の方が、19時から8時までスキルのリキャスト半減である。


 称号スキルが新規で手に入れたもの以外教会でしか付け替えれないというのを知った時は軽く絶望したが、今は超元気だ。なんせ一日二時間しかないフィーバータイムなんだから。


 今の俺はSTM回復速度2倍+スキルリキャスト半減状態である。
 俺が今付けている称号スキルは上の二つに加えて、森林の破壊者、解放者と自称英雄の合計5つ最大数だ。デュアルマジックは使う魔法が無いからベンチ送りになった。


 解放者はボスエネミーに対するダメージがレベル×1%上がる。
 自称英雄はレベル100までの経験値ボーナス10%だ。


 レア度10の武器の破壊力はすさまじく、雑魚敵を蹂躙するには十分な火力を誇っていた。


 青いライオンと青いワニが相対する。脆弱見切で弱点を見破ったのなら、瞬間視界とマイクロショットで照準を合わせ撃ち抜けば眼球へ吸い込ませるように放った弾丸が視界を潰す。このゲーム流石神ゲーと言うべきか感覚器官の概念がある。だから目に攻撃されれば見えなくなるし、耳を殴られれば聴覚が麻痺する。


 流石に一撃で落ちる事は無く、ワニは片目を失いながらも俺に向かって猛進してくる。ただ、速度はそれほどではない。AGLを上げた今の俺にとっては、それ以上の移動速度で動く事は容易だ。
 前転の要領で跳躍し、丁度増したを向いたタイミングでワニのフリーの背中が狙えるように調整する。
 起死回弾起動、これで確定クリティカル+マガジン内の銃弾のクリティカル率を上げる。


 ゼロレンジバースト起動。後は構えて、撃つだけ。


 パン、パン!


 拳銃の発砲音が響き、ワニは完全にポリゴン化する。
 そう言えば種族名何だったんだろう。


 ライオンの方はちゃんと見ておこう。ハンドレット・キング・ブリザードか。まんまって感じだな。


「GUGYAAAAA!!! GArrrA!」


 うっさ。
 パン、パン、パン、パン。


 うん、突進モーションの間に四発は打ち込めるな。二丁拳銃の回転率は素晴らしい。


 少し左に身体をずらし、最後の一発は少し左に外した。


 弾人入替。慣性は有りだ。


 景色が移り変わり、後ろを向けば入れ替えた弾丸がライオンの顔面にヒットしていて、それによって怯んだライオンにもう一度脆弱見切を発動させ赤いポインターを付けて撃ち抜く。
 三発も食わせてやればその身体はポリゴン化していく。


 ライオンは結局クリティカル7、8発掛かったな。結構HP多いのか?
 いや、銃の火力が足りていないだけだな。

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