俺だけFPS

水色の山葵

歌姫は一人で歌うⅧ



 二人の高レベルプレイヤーに出会った次の日。始まりの街に午前11時集合で次の街まで進み始めた所なのだが。なんというか、今俺は一種の異次元を見ている。
 このパーティクル・ラプラスというゲームにおける最高峰。頂きカンストまで登ったプレイヤーだけが見せられる極致。


 巨大化し、重量を増し、不動で全ての攻撃を受け、反撃の一撃で敵を叩き潰す騎士。
 初撃を確定でいなし、陽炎の如く不形。神速の斬撃と、拡大された刀身から放たれる灼熱の炎が敵を焦がす。
 もうスキルなのか武器効果なのか、アクセが関係してるのかと一見しただけじゃまるで分からん。


「やっぱり、君の初見封じは僕のと相性悪いね」


「抜かせHPお化け、今幾つですかぁこのやろう」


「3000は行ってないよ」


 HPってそんなに伸びるんだ。ステータスポイントで振り分け出来ないパラメーターなのにどうやってそんなに盛るんだろうか。


「ユニーク何個秘蔵してるんだよ」


「それは君も同じだろっと!」


 そんな会話をしながら二番目の街『クリミナ』のエリアボス『瓦礫の守護者アトラントゴーレム』をバラバラにしていく。
 仲間パーティーになったプレイヤー同士は、お互いのHPMPとSTMを確認することができる。HPゲージは%表記なので実数値は分からないが、スバルのHPはどんな攻撃を受けても微動だにしない。
 風船の方はSTMが一瞬で消えて一瞬で回復するというのを凄い速さで繰り返している。運動量がヤバいな。たまにMPも使ってるから魔法攻撃もしてるっぽいけど、全部のスキルのエフェクトが魔法じみてて何が何やらあった物ではない。


 とりあえず、風船の移動速度は俺が回復弾を決め撃ちするしかないくらい速い。偏差撃ちしようにも、急カーブと急ブレーキ、急加速を連続でやられるからエイムが安定出来ない。
 カーブ中に動きが止まるほんの一瞬を狙って撃つのが精いっぱいである。こっちは耐久力がそれほどある訳でもないようで、ボスクラスの相手には本当に稀に攻撃を貰っている。
 騎士の方はむしろ全弾当たりに行っているが。


「そろそろ三つ目の街に着くよ」


 AGLがそれほど高くない俺の為に、基本的に歩きで進行する。
 二つ目の街は入って数秒で出るという、マップ埋めの為だけの行動にちょっと笑ってしまったが、三つ目の街ではもう慣れた。


「本当は僕達はここから一気に王都に転移できるんだけど、君はできないからね。この街に拠る意味はないね」


 そう言って次のルートを進む。王都までの最短ルート。
 この世界には現在30を超える街が発見されている。しかし、最前線までの最短ルートは始まりの街から7つの街の経由でたどり着くことができる。
 二人に置いて行かれないように付いていくだけだが、彼等が通った道にモンスターが現れた事はない。


 通った場所のモンスター全部倒して進むとか、最早戦車だな。


「さてと、ここのモンスターは確か……」


海水の守護者リヴァイアゴーレムだね」


「こいつ嫌いなんだよな」


 フィールドは海というか泉だが、名前は海水の守護者らしい。どうやらエリアボスは大体ゴーレムらしいな。
 現れたのは水を操る龍型のゴーレム。西洋のドラゴンではなく、東洋の龍だ。魚体を長くしたような見た目で、泉に身を隠す。
 スピードで翻弄するタイプの風船は少しきつそうな相手だな。事実少しだが顔を顰めている。


「じゃあ僕がやろう。ここの為に溜めたからね」


 スバルが抜き放ったのは黄金の剣。それを水面へ突き立てる。


雷電貯蔵ライトニングチャージ……解放リリース


 それは雷だった。いつの間にか空に浮かんでいた暗雲から、落雷が泉に落ちる。


 それを受けたリヴァイアゴーレムはひとたまりもないとばかりに陸へ打ち上げられる。
 空中に吹き飛んだ巨体に向かって跳躍と加速を繰り返した風船によって、その巨体は七枚に下ろされる。
 HP全損。ポリゴン化していくその姿を俺は唖然と眺めるしかない。始まりの街周辺のエリアボスを倒すのに、俺は弾薬を何発消費しただろう。少なくとも数百では足りない数だっただろう。
 それよりも強いであろうここのボスを、彼等はたった二つの動作で倒しきった。


 俺も速くそこへ辿り着きたい。同じ場所で銃弾を撃ち放ちたい。そう思ってしまうのは、このゲームが神ゲーの証なのだろう。


「ミズキ君、悪いね。君の楽しみを奪ってしまっているようで」


「いや、全然大丈夫っすよ。それより最前線のプレイヤーってこんなに強くなるんですね」


「まあ、僕達は最前線組の中でも特に進んでるし、ユニークアイテムだって僕とあいつはレア度9を二つ以上は持ってるからね。この麒麟の宝剣もその一種だよ。この剣で受けたダメージを雷撃に変換して蓄積、撃ち返す。あいつのあの二刀流の内の一本の晶剣も確か一撃に着きクリティカル判定を二回行って、どっちかでクリティカルが出たらクリティカルにするとかいうユニークアイテム」


「つっよ」


「はは、まあそういう反応になるよね。ユニークアイテムは誰でも手に入る物じゃないけど、誰でも手に入れられる可能性があるアイテムなんだ。このゲーム一番のクソゲー要素っていう奴もいるけど、僕はこれくらいの方が丁度いいとさえ思う。それが現実味リアリティに結びついてる部分もあると思うから」


「プレイヤー同士の格差っすか」


「まあ、そうだけど。アーツスキルの獲得方法とか連続挑戦可能なユニーククエストとか、隠してる奴は沢山いるし、このゲームの世界観システム的に今更って感じもするんだよね。実際に、このゲームは大衆に認められてるし、ぬるま湯が好きな奴向けのコンテンツだっていっぱいあるからね」


「おら! さっさと進むぞ!!」


「解ったよ! それじゃあ、また後で色々話そう」


「了解っす」


 それにしてもユニークアイテムか。もしかしてこの仮面って結構やばい代物なのか?


 それにまさか一日でここまで進むとは。確かにこの道中は全部あの二人が撲滅して進んでいくから面白みに欠けるが、それはそれとして見てるだけでも面白い物がある。
 あの頂に立つ自分を想像するとわくわくする。俺もSRで補助するか。












「それにしても銃か。難儀な武器を選んだもんだな」


「そうだね。銃っていうのは火力的にも戦闘スタイル的にもこのゲームに適していない」


 銃には筋力《STR》が一切乗らない。その分、武器攻撃力が高く設定されてはいるが、それでも攻撃力《DPS》はSTR込みの近接武器に及ばない。
 しかし、銃というファンタジー世界にはない武器種だからこそこの世界でそれを使ってみたいと思うプレイヤーは多い。彼もその一人なのだろうと、この時二人の最上位プレイヤーは思っていた。
 そして、その他大勢と同じようにその性能スペックの低さに絶望し、武器を変更するかキャラを作り直す事になるだろうなと予想していた。


 銃は種類によるが、一発の威力が剣以下で、遠距離攻撃手段としては魔法や弓には遠く及ばない。
 火力《DPS》的に見ても使い易さ的に見てもだ。まあ、一番の問題は当てても倒れないモンスターが殆どなのに、命中率はいいとこ6割程度という事なんだが。
 大型モンスターならその限りではないが、小型や人型相手にはかなりきつく、戦闘しながら発砲ではクリティカルを狙うなんて芸当は難しい。


 もしも大規模レイド戦に銃が参戦した場合、役割があるとしたら後方支援だろが、それも火力は魔法以下でアシスト性能も属性矢や状態異常矢を扱える弓やバフデバフ職以下。お前は何をしに来たんだと言わんばかりの役割の無さだ。
 それがこの世界で銃が弱い理由。そもそも理論値として、全弾命中でもさせなければDPSが他の武器に並べない時点で強くある事は難しい。
 かと言って反動を抑制しようとSTRを上げるのでは本末転倒だ。銃を使うなら銃を装備可能な最低限の筋力と後はDEXとLUKに振るクリティカル型が最適だ。というかクリ率上げる以外に火力が上がらないんだからそうするしかない。


 もしも銃を使おうと思うのならば、どんな体勢や状態に関係なく狙った場所へ弾を当てる精密なエイム力をステータス外で持っている必要がある。
 それも全弾ヒット程度ではまだ魔法職と並ぶ程度。更にその上でクリティカルを出せるガンナーだけが、遠距離職業としての性能を持てる。


 仮に全ての銃弾でクリティカルを出せるような人物が居れば、その人物はこのゲームで一番強い遠距離プレイヤーに成れるだろうが、今のところそんな人物は一人もいない。


 だからきっと、彼も最前線にそのままの装備で居座る事はないだろう。
 二人の意見が一致した瞬間。その音が鳴った。


 パァン!!


 その音は連鎖する。


 パァン!!
 パァン!!


 銃の中でも一発の威力が他の追随を許さない最強火力。SRスナイパーライフルから放たれるその音が響く度にパーティーログにモンスターの討伐履歴が更新される。
 一発一殺ワンショットワンキル


 それは確かに彼の銃弾の威力がすごいという事だが、問題はそこではない。
 何故、一発撃って一発当たるのかという話である。


 SRは銃の中でも特に難易度の高い武器である。
 遠距離狙撃を可能とする武器ではあるが、それでも数百m離れた位置に居る飛ぶ鳥を落とすのは難しい。低レベルならSTRに多めに振っていたとしてもその威力の銃を撃った場合反動は凄まじい事になっているだろう。
 それを計算し、重力や風の影響を現実と全く同じように受けるこの世界で全ての弾丸を当てるのは困難なはず。


 確かに今、彼は妨害の一切を受けてはいないが、それでも狙っているのは二人のどちらの視界にも映っていないような遠距離の敵だ。
 それを一発一発の間隔が3秒前後で当てているという事実。圧倒的な精密性エイム力


「そういや、さっきからあの人俺に回復弾当ててたんだよな」


 このゲーム最速のプレイヤーは誰かと問われた場合、まず間違いなく名が挙がるのが風船というプレイヤーだ。
 それに合わせて銃弾をヒットさせるのは最早神業の類ではないだろうか。


 もしかしたら、あの人は魔法職のDPSを越えられるかもしれないなと二人の最上位プレイヤーは頭の片隅にミズキという名前を置いた。

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