俺だけFPS

水色の山葵

歌姫は一人で歌うⅢ



 街は中世的な建物が立ち並ぶ場所だった。都市という程栄えてはいないが、村という程人口が少ないわけでもない。
 森林では全く目にしなかった他のプレイヤーもそこら中に溢れている。発売から結構な時間が経っているのに始まりの街がこんなに活気付いているとは。それだけ新規のプレイヤーが多いという事なのだろうか。


 まあいい。とりあえずこの街へ来た目的を片付けさせてもらおう。
 まずは肉とか魔石とかをどこへ行けば買い取ってくれるのかをヘルプに確認し、その足でそこへ向かう。
 買取所ではドロップ品を一括で買い取ってくれるようで念のため全ての素材を10個ずつ残して後は全て売却。魔石は同じモンスターの魔石を幾つかで合成してスキル獲得用のアイテムにできるらしいので一応取っておく。


 それで取り敢えずこの世界の通貨であるジェルを87000程手に入れる事ができた。
 次はレッドゲージに突入した食料ゲージを回復させる。満タンから6時間でレッドゾーン、8時間で0になるくらいの減り方だな。
 食事ができる場所は街の至る場所にあったので、とりあえず屋台で売っていた串焼きを食す。一体何の肉なのだろうかと考えたが、兎肉の様だ。バブルバニーの事だろうと思うが、美味かった。
 味をここまで再現できるVRゲームも珍しい。


 次は武器と防具だ。なんと言っても俺の武器はハンドガン一本だけ。
 攻撃力は上がらないし、同じのでもいいから二本欲しい。後は弾薬も一万発くらい買いためておきたい。
 防具は良いのがあったらで。今のところ、基本的にダメージ貰う事がないから余裕があったらでいいと思ってる。


「いらっしゃい」


 武器屋は直ぐに見つかった。入ると本物の人間と全く同じような反応を返す店主が迎えてくれた。
 ここまでリアリティのあるNPCは確かにこのゲーム以外では見たことが無い。


「銃? ガンナーかい? 悪いけど俺が作ってるのは近接武器と盾くらいだぜ」


 と門前払いを食らってしまった。銃は普通の武器屋には売っていないのか。困ったな。
 まあ、そりゃ剣と銃じゃ構造や用途からして全く別物だし、同じ人物が作っているというのもおかしな話だ。


「兄ちゃん、銃なら街の東にある店に行きな。まあ、あんまり人気にんき人気ひとけもない場所だがな」


「おお~」(NPCのAIへの感動)


 礼を言って店を後にする。ヘルプからマップを見ながら進んでいくと、確かに銃が飾られた店を発見した。
 東に行くに連れて、店主の言葉通り人気が少なくなってきたんだがどういう事だろうか。そしてその最果てにあるこの店には何があるというのか。


「なんだ、客か?」


 中へ入ると葉巻を咥えたおっちゃんが出迎えてくれた。


「ガンナーか。新調か? 手入れか? それともガンナーには飽きたか?」


「新調と手入れと弾薬の補充に」


 銃は弾を撃つ度に耐久値を消費する。完全に壊れると失われるという訳ではないが、耐久値を回復させるまで戦闘で使用できなくなる。
 耐久値が半分くらいになった初期武器も手入れをしてもらっておいた方がいいだろう。
 ガンナーに飽きたという言葉は気になるが、多分俺が察している通りだろう。


「なんだ、ガンナーは弱いって言ってる連中の仲間じゃねえのけ?」


 俺と同じプレイヤーの話なのだろう。彼等からすれば俺たちがどう見えているのかは分からないが、急に現れた連中が自分の作った武器が弱い弱いと話していれば腹が立つのも仕方のない事か。
 あんまり得意じゃないがロールプレイが必要か。っていうか現実の人間と同じように話せばいいだけか。


「俺は銃が好きなんで。強さはまだ分かりませんが、少なくとも今は十分使えてます」


 剣ならもっと効率よく狩りをしてレベルを上げられるのかもしれない。対モンスターに置いて、弓に劣る武器なのかもしれない。けれど、銃には銃の強みはあると思う。
 少なくとも連射速度と弾速は弓に負ける訳がない。成ればプレイヤーの攻撃に物理エンジンが使用される以上、武器としての攻撃力は絶対に銃の方が上だ。
 魔法とかスキルとか言われたらどうしようもないですけど。


「お前。STRは?」


「10だけど」


「敵に弾どんぐれえ当たる?」


「全弾弱点に当てられるけど」


「ほう」


「ん?」


「下に射撃場がある。好きな武器使っていいから合ったやつ探しな」


「おお!!」


 店の地下へ降りる階段を進めば、確かにそこは射撃場になっていた。
 壁には実弾が外れて開けられたであろう窪みは幾つもある。再現性リアリティがやばい。


「HG、SG、SR、AR、SMG、LMG、ロケットランチャーにグレネードランチャーなんでもあるぜ?」


 いや、最後二つこんな場所でぶっ放したら俺もあんたも死ぬが。


 凡そ全ての武器を試した結果、俺の回答は出た。ここで暮らしたい!
 死ぬほど楽しい。


「気に入ったもんはあったか? っていうか本当に何もんだあんた。ハンドガンで30m誤射無しとかありえねえ。しかもSTR10ってことは銃の反動軽減が殆ど0ってことだろ?」


 STRって銃の場合は反動制御に補正が掛かるステータスなのか。しかし結局反動なんて一発撃てば見切れる。確かにFPSゲームでバレルの役割をするのがSTRなら上げるメリットは十分にあるだろう、しかし俺が得意なのは単発銃だ。リコイルも反動も後回しでいい。


「今お前に見せてんのは一般的な素材で作れる武器だが、もしなんかの素材を持ってるならそれで銃を作る事も出来るぜ? それかお前の武器を強化してやってもいい」


「強化?」


「ああ、既存の武器にモンスターとかの素材を加えて別の形へと進化させる事ができる。性能が上がるのは勿論だが、特殊な効果が発揮されることもあるぜ」


「ほう。ちなみにどんな素材?」


「まあ、なんでもいいが鉱石系は絶対必要だな。硬い素材の方が良い武器が作れるってのはなんでも共通だ。後、銃の場合は弾丸もカスタムできるな。例えば状態異常を引き起こす弾とか、属性付きの弾みたいにな。これは弓矢と同じじゃ」


 属性付きの銃弾だと…………!!
 欲しいに決まってんじゃねえか!


「ここら辺で取れる最上級の素材の情報プリーズ!」


「あ? まあいいが。森林地帯のエリアボス森林の守護者ドルイドゴーレムが最上級だな。木造ゴーレムの癖に、火に強い特性を持つ素材がドロップする」


「武器のメンテと弾薬補充は?」


「お前が試し打ちしてる間に終わらせておいたぜ」


「行ってきます!!」


「は? おめぇあそこのボスは今のお前の銃じゃ勝てな…………。行っちまいやがった、知らねえぞ全く。ま、それは負けといてやるぜ。そいつがあればもしかしたらひょっとするかもな」

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