オタクとロリ

マッチ棒

第100話

———死は人生の終末ではない。
生涯の完成である。———

これは、15〜16世期にいた聖職者、マルティン・ルターの言葉である。


***

花凛が、救急車に運ばれて3時間が経過した。

俺は、手術室に入っていった彼女の帰りを待つため病院内の長椅子に腰掛けている。



「先生、花凛は助かるんですか?」

「大変言いにくいのですが、それは私たちにもわかりません。我々も全力を尽くしますが、大事なのは彼女自身の踏ん張りです」


頭を抱えながら先ほどの医師との会話が脳裏を過ぎる。


(…頼む、頑張ってくれ!花凛…)


それからしばらくして、手術室の扉が開き医師たちが出てきた。

「せ、先生……か、花凛は助かったんでしょうか…」

問うと、眼鏡をかけ白衣を着た医師は口を開き言った。

「花凛さんはーーーーーーーーーーーーーーーーー」





***



















あれから10年の月日が経った。

俺は、すっかりおじさんの仲間入りをし、今でも変わらず社畜だ。

あの夏の日の夜に出会った少女のことは今でも覚えている。

一緒にコミケに行ったり、旅行に行ったり、遊園地に行ったり、ゲームをしたり。

あの頃に戻れるなら、戻りたいと思っている。

遊園地の帰り道に、通り魔に刺されて緊急手術を受けた彼女と過ごした日々。



……でも、現実はそんなに甘くはない。



彼女は、三花凛(にのつぎかりん)は10年前のあの春の日亡くなった。


その事実に変わりはない。


眼球が枯れるほど泣いたあの病院。彼女のクラスメイトたちが参列した葬式。彼女の骨を納めた四十九日。それから、月命日、一回忌、三回忌、七回忌………。




どれだけの時間が経っても俺の心の中にはあの子が居続けている。



逢えるものなら、あの子に逢いたい。






慎は、暗闇の部屋の中で想う。






あぁ、花凛。君の瞳の色が見たい。君の顔が見たい。君の……元気な姿が見たい。……君の……声が……聞きたい。







もうすぐ40になるその男は、壁に凭れ掛かりながら涙を流し、言った。



















ーーーーーーーーーー花凛、君に出会えて良かった。楽しいひと時をありがとうーーーーーと。

































オタクとロリ             完


          

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