第53話〜雨(過去)〜

「雨、早く止まないかなぁ」

寝室の小さな窓のそばで花凛は、そう呟いた。

「なんだ？花凛、雨が嫌いなのか？」

「……うん。あまり、思い出したくないことがあったから…」

そう、俯きながら言った花凛は昔のことを話し始めた。

それは、まだ花凛が三家(にのつぎけ)の娘だった時の話だ。

当時、5歳だった少女は母親からひどい言葉と暴力を浴びせられていた。

少女の両親は、結婚以前に子供が体に宿ったため互いの親から猛反対をされた。がしかし、二人はそのまま結婚。そして、結婚してからまもなく一人の女の子が二人の間に生まれた。

子供の名前は、花凛(かりん)。花のように凛とした子になりますようにと願って二人が考えて名付けた。

しかし、花凛が生まれてから間も無くして父親の方が借金を作った。父親は、小さな町工場で働いていたが給料は安く、自分を含めた家族三人をそれなりに養うのは厳しかった。
そこで、闇金に手を染め100万ほどの借金を作ってしまった。

そして、そのことが原因で両親は別れた。
花凛は、母親の方に引き取られたがそれが悪夢の始まりだった。

花凛が、3歳になったことから母親は水商売を始めた。

夜は、遅くまで働き昼間は花凛のことを放って寝る。それの繰り返し。

ろくに食事も与えず、花凛の体重はみるみる減っていった。

それから、花凛が5歳になった頃母親に彼氏ができた。
彼女が働く店で知り合った男だ。

母親は、男をよく家に連れてきては性行為をしたり、日頃のストレス発散のために花凛に煙草などを無理やり与えて嫌がる姿を見て楽しんでいた。

そんな悪夢のような日々が続いたある雨の日。

花凛は、11月の冷たい雨の中裸足で身につけているものは下着だけで家の外に出された。

「ママ、寒いよ。中に入れてよ。」

少女は、一生懸命母親を呼ぶ。
しかし、肝心の母親は男と一緒にバーに酒を飲みにいっていた。少女が家の中に入れたのは外に出されてから4時間後のことだった。

………。

そんな、胸糞悪い花凛の過去を聞いた俺は思わず花凛を抱きしめた。

「…え、ちょ、なに。どうしたの、慎？」

「……が…る。」

「え…なに？どうしたの？」

「……俺が、俺が絶対守ってやる！」

俺は、花凛を強く抱きしめた。