ループしますか、不老長寿になりますか?
032 番外編 山小屋での日常
「スコッチ殿、急な発注で申し訳ないんだが、レティの薬草の煎じ薬を、百ほど急ぎで用意してくれないか?」
三ヶ月ごとに来るトロティー様は、山小屋に入ってくるなりいきなりそう仰いました。
お茶の準備をしていたわたくしは、とりあえず席に着くよう促して、少し息の上がったトロティー様の前にお茶をお出しします。
「レティの薬草はこの時期はもうほとんど取れないんだがな」
「わかってる。だが、そこをなんとか頼めないか」
「なにかあったのですか?」
あまりにも必死なご様子に、わたくしは自分の分のお茶をテーブルの上においてからそう問いかけます。
「隣国の国境の村で、流行病が始まっちまったんだ。レティの煎じ薬があれば、初期の段階で改善されるんだが、対処が遅れれば命に係わるんだ」
「まあ、ではジュール病が流行しておりますのね。国境の村といえば、こちらにも影響が出ないとは限りませんし、スコッチ様なんとか準備出来ないものでしょうか?」
わたくしが横に座っているスコッチ様にそう言いますと、スコッチ様は少し考えるようなそぶりを見せ、ため息をつきますと「出来るだけのことはする」と仰いました。
わたくしも収納ボックスにあるレティの薬草の数を確認しますが、三十ほどしかストックがありませんわね。
これではとても煎じ薬を百個ほど用意する事は出来ませんわね。
トロティー様から、いつものように三ヶ月分の調味料などを購入してから、わたくしは早速森の中に入ることにしました。
スコッチ様は手持ちの薬草で早速煎じ薬を作るようですわ。
「とは言いましても、本当に時期を過ぎてしまっておりますのよね」
森に入って群生地帯をいくつか歩き回りましたが、やはりどれも成長しすぎていて、このまま使用しても効果が出ないものばかりになってしまっています。
「裏庭の畑で育てている分の収穫はすでに済んでおりますし、どういたしましょう」
もっと北の方の森、つまり国を越えて別の森に行けば、まだ薬草が採れるかもしれないのですが、確実にあるとは限りませんし……。
「仕方がないですわね。大地には少し負担をかけてしまいますが、これも人助けですわ」
わたくしは言うが早いか、空中に魔法陣をいくつも描き始めます。
これは、植物の成長を早める魔術で、作物の育成に使う物なのですが、今回は一度成長を終えて、再度芽吹かせるところまでしなければなりませんので、大地の栄養をいつもよりも使うことになってしまいます。
あとでここに肥料をまかなければなりませんわね。牛の排せつ物を使った堆肥が余っておりますので、それで大丈夫でしょうか?
目の前で、レティの薬草はみるみる成長し、枯れていきます。ここでいったん冷却魔法を周辺にかけ、気温を一気に下げて土に霜が降りるのを確認すると、しばらく待ってから今度は火魔法で周囲の温度を上げていきます。
並行して、育成の魔術を発動しておりますので、なかなか集中力が必要な作業になっております。
レティの薬草が枯れて、すっかり更地になった地面から、ぽこぽこと新芽が生えだして来ましたので、ここからは慎重にゆっくりと育つように調整しつつ、一番の収穫時を狙います。
「よし」
収穫すべきベストタイミングまで成長を終えたのを確認して、魔法陣を解除します。
「ふう、やはり大地に大分負担をかけてしまいましたわね」
腰を落として収穫しながら、地面に触れてわたくしはそう独り言ちます。
レティの薬草を丁寧に、そして素早く積んでいくと、ふと背後に気配を感じました。
「まあ、今忙しいので相手をしている暇はないのですが、仕方がありませんわね」
うっかり、モンスター除けの結界を張るのを忘れていたせいで、モンスターが魔力に寄ってきてしまったようです。
わたくしはスカートの下からククリを取り出すと、モンスターに向かって構えます。
「ああでも、丁度よかったですわ。コカトリスの肝を使った薬を作りたいと思っていた所なんですの」
そう言ってわたくしは、コカトリスと一気に距離を詰めます。コカトリスは石化の能力もありますので、早めに対処するに限りますわ。
それに、毒霧を吐かれてせっかく成長させたレティの薬草を枯らされても困りますしね。
すばやく喉元に一本ククリを差し込んで固定すると、もう一本スカートの中からククリを取り出し、羽を両方切り落とします。
返す刃で、コカトリスの目をえぐるように切り付けて、仕舞えばあとは止めを刺すだけです。
首を切り落とし、念のため、縦真っ二つに切り裂きます。あ、もちろん使用する肝は避けて切りましたわよ。
どさりと音を立てて倒れるコカトリスを確認して、「ふう」と軽く息を吐きます。
まったく、モンスター除けの結界を貼り忘れるだなんて、わたくしもうっかりしておりますわね。
でもまあ、おかげでコカトリスの肝が手に入ったのですし、良しと致しましょう。
わたくしは早速と言わんばかりに、その場でコカトリスを解体して収納ボックスに仕舞っていきます。
収納ボックスは生命体でなければ何でも収納出来ますし、中に入っている間は時間が止まっているのか、状態変化が起きないのが便利な所ですわよね。
この収納ボックスに近い冒険者御用達のアイテムボックスがついた鞄もあるのですが、あれは中に入っている物が時間と共に劣化してしまうのが難点なのです。
収納ボックスにコカトリスを全て仕舞い終えてから、わたくしは再度、レティの薬草を摘む作業に戻りました。
それなりの面積分を育成しましたので、一人で収穫するのは少し時間がかかってしまいますわね。
けれども、ここにある物を全て使用しても、レティの煎じ薬百個分にはなりませんわね。
明日は別の所の群生地帯で育成魔術を行いますか。
すっかり日も暮れてしまった頃、やっとこの辺一帯のレティの薬草の収穫を終え、山小屋に戻ります。
辺り一面は暗くなっておりますので、火魔法で灯りを作って歩いて行きます。
もちろん、モンスター除けの結界を張るのも忘れてはおりません。
「ただいま戻りました」
「……」
山小屋に戻ると、スコッチ様はまだ調合に集中しているらしく、返事はありませんでした。
けれども、わたくしが取って来たレティの薬草をスコッチ様の横に置けば、それを無言でご自分の収納ボックスに仕舞われましたので、周囲の状況はわかっているようですわね。
「食事の準備をしてきますわね」
「……」
返事はありませんでしたので、今晩のメニューは具沢山のスープにでも致しましょうか。
スコッチ様は、調合などに夢中になると、食事を取るのが面倒だと言って、何も取らなくなってしまいますので、せめて栄養価のある物を、無理やり……、基、多少強引にでも取っていただかなくてはいけないのですよね。
スープでしたら、わたくしがスプーンで口元に持って行けば呑み込んでくださいますしね。
以前はサンドイッチでチャレンジしたのですが、咀嚼が面倒なのか、一口食べてそれ以降食べては下さいませんでした。
まったく、どれだけ集中していらっしゃるのでしょうね。死にたくても死ねない体だとはいえ、無理をするのは良くありませんのに。
わたくしはスープを作ると、先ず自分の分を食べて、味と栄養価を確認してから、スコッチ様の分を持って行きます。
「スコッチ様、スープをお持ち致しましたわ」
「……」
返事はありませんし、手も止まってはいませんが、一瞬こちらに視線をよこしてくださいましたので、食べさせろと言うことなのでしょう。
わたくしはいつものように、スプーンを手に取って、皿に入ったスープを一掬いして、スコッチ様の口元に持って行きます。
具は沢山入っておりますが、ほとんどはすりつぶしてありますので、咀嚼する必要はほとんどありませんので、スコッチ様は無言でスプーンを咥えると、ごくりと呑み込みました。
その作業を繰り返すこと十数回、皿が空になったのを確認して、わたくしはいったん台所に戻って食器を洗って片づけました。
そうして作業部屋に戻ると、まだスコッチ様は調合をなさっていらっしゃいました。
わたくしは邪魔にならない様に、出来上がったレティの煎じ薬を小分けにしていき、小さな麻袋に入れていきます。
その作業は、夜通し行われ、材料が尽きたところで、初めてスコッチ様の手が止まりました。
「モカ、寝なくていいのか?」
「今更それを仰いますか?」
「ああ、もう朝なのか。気が付かなかった」
「わたくしは朝食を作ってから、再度材料のレティの薬草を取りに行ってまいりますが、スコッチ様は朝食を食べたら少し眠ったほうがよろしいですわよ」
「ああ、そうだな。眠くはないが、少し横にならせてもらう」
「ええ、そうしてくださいませ。煎じている途中に眠気で手元が狂っては大変ですもの」
わたくしはそう言って台所に向かうと、簡単な朝食、サンドイッチを作って作業部屋に戻りました。
「とりあえず、サンドイッチとミルクですわ。作業をしている間はスープ状の物を召し上がっていただきますし、作業をしていない時ぐらいは固形物を召し上がって下さいませね」
「わかった」
わたくしはスコッチ様と一緒にサンドイッチを食べ、それが終わると牛舎と鶏舎に向かいました。
ルーチンワークを終えると、わたくしは森の中に入って行きます。
昨日とは違った群生地帯に到着すると、今日はちゃんとモンスター除けの結界を張ってから昨日と同じように、魔術を展開します。
あ、昨日の場所に堆肥を撒かなくてはいけませんわね。帰り際に寄ることにいたしましょう。
それから三日、わたくしとスコッチ様の共同作業で、なんとかレティの煎じ薬百個ほどを準備することが出来ました。
あとはこの煎じ薬を取りに来ていただくだけなのですが、予定では四日後に分隊の方々がいらっしゃるはずですわね。
それにしても、ジュール病が流行るなんて、思いもよりませんでしたわ。
初期症状は風邪のような軽いものなのですが、放置しておくと、咳に血が混ざるようになって、そのまま肺が破れて血を吐いて死んでしまうという、庶民には恐ろしい病なのでございます。
貴族などになれば、かかりつけの医師がレティの煎じ薬を持っていることが多いので、事なきを得るのですが、医師にかかることの難しい庶民は最初風邪だと放置する方が多いのですよね。
あ、隣国で流行り始めているということは、バルサミコ王国でも流行る可能性がありますし、ヒート様にそれとなく注意しておくようにお伝えしておかなければなりませんわね。
「モカ」
「なんでしょうか、スコッチ様」
「もう寝なさい」
「え?」
スコッチ様の言葉に、わたくしはこの四日間、碌に寝ていないことを思い出しました。
「そう、ですわね。でも寝るのはスコッチ様もですわよ。仮眠は取っていらっしゃったようですけれども、ちゃんとは寝てはいらっしゃらないでしょう?」
「そうだな、私もひと眠りさせてもらう」
わたくし達はそう言って、お互いに寝室に向かいました。
目が覚めると、随分すっきりした気分になっておりましたので、大分眠り込んでしまったことがわかります。
慌てて身なりを整えて作業部屋に行きますと、そこには優雅にお茶を飲んでいるスコッチ様が居らっしゃいます。
「申し訳ありません、わたくし随分と眠ってしまったようですわね」
「ああ、二日ほど眠っていたな」
「まあ、そんなに!?」
まさかそんなに眠っているとは思いませんでした。確かに、久しぶりに連日睡眠をとらずに魔力を使いましたが、バレル様との契約で魔力が底上げされているはずのわたくしですし、このぐらいの事で二日も眠るなんて、どうしてでしょうか?
うーん、純粋に睡眠が足りなかっただけとか?
まあ、二日間寝たおかげか、肌の調子は良くなりましたわね。
薬湯で誤魔化してはおりましたけれども、やはり徹夜は良くありませんわよね。
その時、作成しておいたレティの煎じ薬を入れておいた木箱が無くなっていることに気が付きました。
「スコッチ様、煎じ薬の入った木箱は、スコッチ様が持っているのですか?」
「いや、今朝早くにトロティーの所の分隊が予定よりも早く到着して持って行った」
「あら、そうなのですか」
まあ、予定より早く到着したのは驚きましたが、それだけ切羽詰まっているということなのかもしれませんわね。
よかったですわ、わたくしの収納ボックスに仕舞っておかなくて。
「スコッチ様」
「なにかな?」
「ちょっと遅くなりましたが、朝食を作りますわ。何かご希望はございますか?」
「モカに任せるよ」
「わかりましたわ」
わたくしはそう言ってふと、二日間眠っていたということは、と慌てて牛舎と鶏舎に向かい、まずは朝のルーチンワークをするところから始めました。
朝食はもう少し遅くなりそうですわね。もう朝食というよりはブランチという感じでしょうか?
そうしましたら、丁度コカトリスの肉もありますし、バターソテーにして、付け合わせは何にしましょうか、……保冷庫に確かピーマンが大量にありましたし、ピーマンをメインとした野菜炒めでいいでしょうか。スープはコーンポタージュでいいですわね。
わたくしはメニューを決めると、早速台所に向かいました。
三ヶ月ごとに来るトロティー様は、山小屋に入ってくるなりいきなりそう仰いました。
お茶の準備をしていたわたくしは、とりあえず席に着くよう促して、少し息の上がったトロティー様の前にお茶をお出しします。
「レティの薬草はこの時期はもうほとんど取れないんだがな」
「わかってる。だが、そこをなんとか頼めないか」
「なにかあったのですか?」
あまりにも必死なご様子に、わたくしは自分の分のお茶をテーブルの上においてからそう問いかけます。
「隣国の国境の村で、流行病が始まっちまったんだ。レティの煎じ薬があれば、初期の段階で改善されるんだが、対処が遅れれば命に係わるんだ」
「まあ、ではジュール病が流行しておりますのね。国境の村といえば、こちらにも影響が出ないとは限りませんし、スコッチ様なんとか準備出来ないものでしょうか?」
わたくしが横に座っているスコッチ様にそう言いますと、スコッチ様は少し考えるようなそぶりを見せ、ため息をつきますと「出来るだけのことはする」と仰いました。
わたくしも収納ボックスにあるレティの薬草の数を確認しますが、三十ほどしかストックがありませんわね。
これではとても煎じ薬を百個ほど用意する事は出来ませんわね。
トロティー様から、いつものように三ヶ月分の調味料などを購入してから、わたくしは早速森の中に入ることにしました。
スコッチ様は手持ちの薬草で早速煎じ薬を作るようですわ。
「とは言いましても、本当に時期を過ぎてしまっておりますのよね」
森に入って群生地帯をいくつか歩き回りましたが、やはりどれも成長しすぎていて、このまま使用しても効果が出ないものばかりになってしまっています。
「裏庭の畑で育てている分の収穫はすでに済んでおりますし、どういたしましょう」
もっと北の方の森、つまり国を越えて別の森に行けば、まだ薬草が採れるかもしれないのですが、確実にあるとは限りませんし……。
「仕方がないですわね。大地には少し負担をかけてしまいますが、これも人助けですわ」
わたくしは言うが早いか、空中に魔法陣をいくつも描き始めます。
これは、植物の成長を早める魔術で、作物の育成に使う物なのですが、今回は一度成長を終えて、再度芽吹かせるところまでしなければなりませんので、大地の栄養をいつもよりも使うことになってしまいます。
あとでここに肥料をまかなければなりませんわね。牛の排せつ物を使った堆肥が余っておりますので、それで大丈夫でしょうか?
目の前で、レティの薬草はみるみる成長し、枯れていきます。ここでいったん冷却魔法を周辺にかけ、気温を一気に下げて土に霜が降りるのを確認すると、しばらく待ってから今度は火魔法で周囲の温度を上げていきます。
並行して、育成の魔術を発動しておりますので、なかなか集中力が必要な作業になっております。
レティの薬草が枯れて、すっかり更地になった地面から、ぽこぽこと新芽が生えだして来ましたので、ここからは慎重にゆっくりと育つように調整しつつ、一番の収穫時を狙います。
「よし」
収穫すべきベストタイミングまで成長を終えたのを確認して、魔法陣を解除します。
「ふう、やはり大地に大分負担をかけてしまいましたわね」
腰を落として収穫しながら、地面に触れてわたくしはそう独り言ちます。
レティの薬草を丁寧に、そして素早く積んでいくと、ふと背後に気配を感じました。
「まあ、今忙しいので相手をしている暇はないのですが、仕方がありませんわね」
うっかり、モンスター除けの結界を張るのを忘れていたせいで、モンスターが魔力に寄ってきてしまったようです。
わたくしはスカートの下からククリを取り出すと、モンスターに向かって構えます。
「ああでも、丁度よかったですわ。コカトリスの肝を使った薬を作りたいと思っていた所なんですの」
そう言ってわたくしは、コカトリスと一気に距離を詰めます。コカトリスは石化の能力もありますので、早めに対処するに限りますわ。
それに、毒霧を吐かれてせっかく成長させたレティの薬草を枯らされても困りますしね。
すばやく喉元に一本ククリを差し込んで固定すると、もう一本スカートの中からククリを取り出し、羽を両方切り落とします。
返す刃で、コカトリスの目をえぐるように切り付けて、仕舞えばあとは止めを刺すだけです。
首を切り落とし、念のため、縦真っ二つに切り裂きます。あ、もちろん使用する肝は避けて切りましたわよ。
どさりと音を立てて倒れるコカトリスを確認して、「ふう」と軽く息を吐きます。
まったく、モンスター除けの結界を貼り忘れるだなんて、わたくしもうっかりしておりますわね。
でもまあ、おかげでコカトリスの肝が手に入ったのですし、良しと致しましょう。
わたくしは早速と言わんばかりに、その場でコカトリスを解体して収納ボックスに仕舞っていきます。
収納ボックスは生命体でなければ何でも収納出来ますし、中に入っている間は時間が止まっているのか、状態変化が起きないのが便利な所ですわよね。
この収納ボックスに近い冒険者御用達のアイテムボックスがついた鞄もあるのですが、あれは中に入っている物が時間と共に劣化してしまうのが難点なのです。
収納ボックスにコカトリスを全て仕舞い終えてから、わたくしは再度、レティの薬草を摘む作業に戻りました。
それなりの面積分を育成しましたので、一人で収穫するのは少し時間がかかってしまいますわね。
けれども、ここにある物を全て使用しても、レティの煎じ薬百個分にはなりませんわね。
明日は別の所の群生地帯で育成魔術を行いますか。
すっかり日も暮れてしまった頃、やっとこの辺一帯のレティの薬草の収穫を終え、山小屋に戻ります。
辺り一面は暗くなっておりますので、火魔法で灯りを作って歩いて行きます。
もちろん、モンスター除けの結界を張るのも忘れてはおりません。
「ただいま戻りました」
「……」
山小屋に戻ると、スコッチ様はまだ調合に集中しているらしく、返事はありませんでした。
けれども、わたくしが取って来たレティの薬草をスコッチ様の横に置けば、それを無言でご自分の収納ボックスに仕舞われましたので、周囲の状況はわかっているようですわね。
「食事の準備をしてきますわね」
「……」
返事はありませんでしたので、今晩のメニューは具沢山のスープにでも致しましょうか。
スコッチ様は、調合などに夢中になると、食事を取るのが面倒だと言って、何も取らなくなってしまいますので、せめて栄養価のある物を、無理やり……、基、多少強引にでも取っていただかなくてはいけないのですよね。
スープでしたら、わたくしがスプーンで口元に持って行けば呑み込んでくださいますしね。
以前はサンドイッチでチャレンジしたのですが、咀嚼が面倒なのか、一口食べてそれ以降食べては下さいませんでした。
まったく、どれだけ集中していらっしゃるのでしょうね。死にたくても死ねない体だとはいえ、無理をするのは良くありませんのに。
わたくしはスープを作ると、先ず自分の分を食べて、味と栄養価を確認してから、スコッチ様の分を持って行きます。
「スコッチ様、スープをお持ち致しましたわ」
「……」
返事はありませんし、手も止まってはいませんが、一瞬こちらに視線をよこしてくださいましたので、食べさせろと言うことなのでしょう。
わたくしはいつものように、スプーンを手に取って、皿に入ったスープを一掬いして、スコッチ様の口元に持って行きます。
具は沢山入っておりますが、ほとんどはすりつぶしてありますので、咀嚼する必要はほとんどありませんので、スコッチ様は無言でスプーンを咥えると、ごくりと呑み込みました。
その作業を繰り返すこと十数回、皿が空になったのを確認して、わたくしはいったん台所に戻って食器を洗って片づけました。
そうして作業部屋に戻ると、まだスコッチ様は調合をなさっていらっしゃいました。
わたくしは邪魔にならない様に、出来上がったレティの煎じ薬を小分けにしていき、小さな麻袋に入れていきます。
その作業は、夜通し行われ、材料が尽きたところで、初めてスコッチ様の手が止まりました。
「モカ、寝なくていいのか?」
「今更それを仰いますか?」
「ああ、もう朝なのか。気が付かなかった」
「わたくしは朝食を作ってから、再度材料のレティの薬草を取りに行ってまいりますが、スコッチ様は朝食を食べたら少し眠ったほうがよろしいですわよ」
「ああ、そうだな。眠くはないが、少し横にならせてもらう」
「ええ、そうしてくださいませ。煎じている途中に眠気で手元が狂っては大変ですもの」
わたくしはそう言って台所に向かうと、簡単な朝食、サンドイッチを作って作業部屋に戻りました。
「とりあえず、サンドイッチとミルクですわ。作業をしている間はスープ状の物を召し上がっていただきますし、作業をしていない時ぐらいは固形物を召し上がって下さいませね」
「わかった」
わたくしはスコッチ様と一緒にサンドイッチを食べ、それが終わると牛舎と鶏舎に向かいました。
ルーチンワークを終えると、わたくしは森の中に入って行きます。
昨日とは違った群生地帯に到着すると、今日はちゃんとモンスター除けの結界を張ってから昨日と同じように、魔術を展開します。
あ、昨日の場所に堆肥を撒かなくてはいけませんわね。帰り際に寄ることにいたしましょう。
それから三日、わたくしとスコッチ様の共同作業で、なんとかレティの煎じ薬百個ほどを準備することが出来ました。
あとはこの煎じ薬を取りに来ていただくだけなのですが、予定では四日後に分隊の方々がいらっしゃるはずですわね。
それにしても、ジュール病が流行るなんて、思いもよりませんでしたわ。
初期症状は風邪のような軽いものなのですが、放置しておくと、咳に血が混ざるようになって、そのまま肺が破れて血を吐いて死んでしまうという、庶民には恐ろしい病なのでございます。
貴族などになれば、かかりつけの医師がレティの煎じ薬を持っていることが多いので、事なきを得るのですが、医師にかかることの難しい庶民は最初風邪だと放置する方が多いのですよね。
あ、隣国で流行り始めているということは、バルサミコ王国でも流行る可能性がありますし、ヒート様にそれとなく注意しておくようにお伝えしておかなければなりませんわね。
「モカ」
「なんでしょうか、スコッチ様」
「もう寝なさい」
「え?」
スコッチ様の言葉に、わたくしはこの四日間、碌に寝ていないことを思い出しました。
「そう、ですわね。でも寝るのはスコッチ様もですわよ。仮眠は取っていらっしゃったようですけれども、ちゃんとは寝てはいらっしゃらないでしょう?」
「そうだな、私もひと眠りさせてもらう」
わたくし達はそう言って、お互いに寝室に向かいました。
目が覚めると、随分すっきりした気分になっておりましたので、大分眠り込んでしまったことがわかります。
慌てて身なりを整えて作業部屋に行きますと、そこには優雅にお茶を飲んでいるスコッチ様が居らっしゃいます。
「申し訳ありません、わたくし随分と眠ってしまったようですわね」
「ああ、二日ほど眠っていたな」
「まあ、そんなに!?」
まさかそんなに眠っているとは思いませんでした。確かに、久しぶりに連日睡眠をとらずに魔力を使いましたが、バレル様との契約で魔力が底上げされているはずのわたくしですし、このぐらいの事で二日も眠るなんて、どうしてでしょうか?
うーん、純粋に睡眠が足りなかっただけとか?
まあ、二日間寝たおかげか、肌の調子は良くなりましたわね。
薬湯で誤魔化してはおりましたけれども、やはり徹夜は良くありませんわよね。
その時、作成しておいたレティの煎じ薬を入れておいた木箱が無くなっていることに気が付きました。
「スコッチ様、煎じ薬の入った木箱は、スコッチ様が持っているのですか?」
「いや、今朝早くにトロティーの所の分隊が予定よりも早く到着して持って行った」
「あら、そうなのですか」
まあ、予定より早く到着したのは驚きましたが、それだけ切羽詰まっているということなのかもしれませんわね。
よかったですわ、わたくしの収納ボックスに仕舞っておかなくて。
「スコッチ様」
「なにかな?」
「ちょっと遅くなりましたが、朝食を作りますわ。何かご希望はございますか?」
「モカに任せるよ」
「わかりましたわ」
わたくしはそう言ってふと、二日間眠っていたということは、と慌てて牛舎と鶏舎に向かい、まずは朝のルーチンワークをするところから始めました。
朝食はもう少し遅くなりそうですわね。もう朝食というよりはブランチという感じでしょうか?
そうしましたら、丁度コカトリスの肉もありますし、バターソテーにして、付け合わせは何にしましょうか、……保冷庫に確かピーマンが大量にありましたし、ピーマンをメインとした野菜炒めでいいでしょうか。スープはコーンポタージュでいいですわね。
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