ループしますか、不老長寿になりますか?
029
月日は経ち、もうすぐわたくしの二十歳の誕生日がやってきます。
けれども、まだバレル様がわたくしの前に姿を現すことはありません。
けれども、近くには来ていらしているのでしょう、時折、玄関先に花と一緒に珍しい調味料や香辛料、小物などが置かれている時があります。
その度にバレル様が早くいらしてくれればいいと願ってしまうのですから、わたくしも欲張りですわね。
バレル様のかわりのように、あれ以来チーノ様がよく山小屋にいらっしゃるようになりました。バレル様の近況などを教えてくださいます。
やはり、お母様の説得に苦戦しているようなのです。
わたくしは側妃を何人娶っても構わない派ですので、お母様が望むのであれば、その分側妃を迎え入れても構わないと思うのですが、それでは駄目なのでしょうか?
「ふう、もうすぐわたくしも二十歳になりますわね」
「そうか、もうそんな時期か。バレルはまだ来ないな。モカ、契約の方はどう思っているんだ?」
牛舎での独り言のつもりでしたが、いつの間にいらっしゃったのか、スコッチ様が返事をなさいましたので、驚いてそちらの方を見ます。
「いついらっしゃいましたの?」
「ついさっきだ。ここの所、モカは心ここにあらずと言った感じだからな、お得意の気配を感じることにも注意を払えなかったんじゃないか?」
「そう、ですわね……」
わたくしは搾り終えたミルクの入った大きめのバケツを持って、スコッチ様の傍まで行きますと、深くため息をつきます。
「駄目ですわね、わたくしから言い出したことですのに」
「まあ、私にはわからないが、恋とはそのようなものなのではないか?」
「そうなのでしょうか? 長らくそのような感情から遠のいておりましたので、わたくしもよくわかりませんわ」
困ったように眉をへにゃりと下げてしまったわたくしの頭を、ポン、と軽く撫でてスコッチ様はお一人で山小屋の方に戻っていきました。
何しにいらっしゃったのでしょうか? 思わず首を傾げてしまいます。
バレル様でしたら、お手伝いしてくださいますのに……、いえ、駄目ですわ。このように考えてしまっては。
そうしていよいよわたくしの二十歳の誕生日、ヒート様やお兄様、トロティー様からお祝いの品が届く中、わたくしは今日もバレル様が来ないかもしれないという思いに、思わずため息を吐いてしまうのです。
「おはよう、モカ。今日で二十歳になったんだな」
「おはようございます、スコッチ様。ええ、今日で二十歳になりましたわ。わたくしに残された時間ももう僅かですわね」
「まあ、チーノの話によれば、あのクソ女もそろそろ折れそうだと言っていたし、今日あたり来るんじゃないか?」
「そうでしょうか?」
期待して来ない方が、絶望感が強いので、期待はしない様にしたいのですが、スコッチ様の言葉に、思わず希望を持ってしまったのはどうしてなのでしょうね。
「ではわたくしは裏庭に行ってまいります。朝食のご希望はございますか?」
「さっぱりしたものがいいな」
「……本当にリクエストをしてくださるだなんて珍しいですわね。わかりましたわ」
わたくしは多少驚きながらも、裏庭の牛舎と鶏舎に向かい、いつものルーチンワークを終えると、台所に向かい、さっぱりしたメニューを考えながら朝食を作り始めます。
そうすると、スコッチ様が台所にいらっしゃって、わたしに声をかけていらっしゃいました。
「モカ、あと三人分の朝食を追加してくれ」
「え?」
「お待ちかねのバレルがやってきたようだぞ。両親を連れてな」
「まあ!」
わたくしはその言葉に、手にしていた卵を思わずぐちゃり、と潰してしまいました。
「あらっ……」
ぐちゃりと手を汚す卵が床にこぼれていくのを目で追いながら、今言われたことを頭の中で反芻して、バレル様がいらっしゃるのだという事に、思わず顔がふにゃり、とにやけてしまいます。
淑女としていけないと思いつつ、頬のゆるみを抑えることが出来ません。
手を洗い、床にこぼれた卵を片付けて、わたくしは何にしたらいいか、と必死に頭の中で考えます。
バレル様のお母様は何でしたらお気に召していただけるでしょうか?
チーノ様はあっさりしたものがお好みですし、メニュー自体は考えていた、サラダパスタでいいでしょうか?
レモングラスのソースをかけてさっぱりとさせてみるのがいいかもしれませんわね。
ああ、それにしてもどうしましょう。この日を待っておりましたが、実際にいらっしゃるとなると緊張して手がうまく動きませんわね。
わたくしは何とか食事を作り終えると、作業部屋に料理を運び込み、テーブルの上に並べてから、いつものように、ほぼすっぴんの状態でいることを思い出して、途端におろおろしてしまいました。
「スコッチ様。わたくし、ちゃんとお化粧をしておいたほうが良いでしょうか?」
「どうしてだ?」
「だって、バレル様のお母様がいらっしゃるのでしょう? ちゃんとしたほうが良いかと思いまして……」
「気にしなくていい。いつものままのモカで十分だ」
「そうでしょうか」
わたくしは、スカートを持ってもじもじとしてしまいます。
「ほら、もうすぐ到着するぞ」
「あ、お迎えに行かなくてはいけませんわね」
わたくしがそう思って、ドアの前に行くと同時に、ドアをノックされました。
「は、はい」
わたくしは緊張した声を出して、恐る恐るドアを開けます。
そこには、以前と変わらない、けれども衣装は高位魔族の物なのでしょう、いつもとは違って立派なお召し物を着ているバレル様がいらっしゃいます。
「モカ、待たせたな」
「バレル様」
わたくしは思わず目に涙がたまってしまい、バレル様の姿が霞んでしまいます。
「そうだ、誕生日おめでとう。これはプレゼント第一弾だ」
そう言って渡されたのは、バレル様の瞳の色と同じ色の、真っ赤な薔薇の花束でした。
「ありがとうございます」
わたくしは声が震えているのを自覚しながら、頂いた花束を胸に優しく抱きかかえます。
その時でした。
「ちょっとバレル、いちゃついているのだったら、わたくしは帰りますわよ」
「母君」
「ピーチ、久々に出会った恋人同士なのだ、そうカリカリするな」
「旦那様がそうおっしゃるのでしたら……」
そのお声にバレル様の影になっていたお二人を見るために、体の位置をずらしますと、そこに居るのはチーノ様と、バレル様に色味以外よく似ていらっしゃる、美しい女性がいらっしゃいました。
「はじめまして、モカ=マティと申します」
「ピーチ=ラックですわ。貴女がわたくしのバレルを誑かした小娘ですのね」
「母君! なぜそのように仰るのですか!」
「ふん」
ピーチ様の第一印象は、よくないようですわね。けれども、こうしていらっしゃってくださったということは、少しはわたくしという存在を受け入れて下さっているのですわよね?
「狭い家ですが、どうぞ」
「ああ、邪魔させてもらう」
「皆様の分の朝食も準備しておりますので、よろしければ召し上がってくださいませ」
「あら、そんな召使がするような真似をしていますの? そのようなもの」
「いただこう」
「旦那様!」
「なんだピーチ、せっかくのもてなしを受け入れない理由などないだろう」
「……わかりました、旦那様がそう仰るのでしたら……」
あきらかに渋々と言った感じで、ピーチ様が山小屋に入っていきます。
そういえば、スコッチ様はピーチ様の事をクソ女と言って嫌っていらっしゃいましたが、大丈夫でしょうか?
三人が入った後に、わたくしも中に入りますと、既にピーチ様は当たり前の顔をして席に座っておりました。
丁度スコッチ様の目の前の席ですわね。いつも私が座っている席ですわ。
わたくしが外で三人の対応をしている間に、急ごしらえですが、スコッチ様が魔法で作った席に残った私達も座ります。
急ごしらえなだけあって、座り心地はあまり良いとは言えませんわね。
このようなものに、魔王様と次期魔王様を座らせて良いのでしょうか?
まあ、お二人が何も言わないのでよいのですけれども……。
「それで、これは何なのかしら?」
「あ、今朝はさっぱりしたメニューにいたしました。サラダパスタにレモングラスを使用したソースをかけた物でございます。スープはキュウリの冷製ポタージュになっておりますわ」
「そう、じゃあいただくわ」
意外な事に、説明を聞くとすぐにピーチ様はフォークを手に取り、サラダパスタを口に運びました。
お気に召していただけますでしょうか?
「……ふん」
ピーチ様はそう一言おっしゃって、黙々と食べ続けます。
な、なにか気にいらない物でも入っていたのでしょうか?
「ではいただこうか」
「そうですね、父君」
「モカ、お前も食べなさい」
「は、はい」
チーノ様もバレル様もフォークを持って食べ始めたのを確認してから、わたくしはスコッチ様の隣に座って、三人の様子を見ながら、砂を噛むような思いで食事を始めました。
ピーチ様は、柔らかなピンク色の髪の毛と、ピンクサファイヤを埋め込んだような瞳の、美しい方です。少しきつめな印象を受けてしまうのは、わたくしが緊張しているからかもしれませんわね。
食事が終わり、わたくしが食器の片づけをしようと立ち上がったところで、「まあまあですわね」とピーチ様が声をお出しになりました。
「よかったなモカ、ピーチに気に入られたようだぞ」
「え?」
「旦那様、そこまでは言ってはおりませんわよ。人間の小娘にしてはまあまあだと言っただけですわ」
「わかったわかった」
「旦那様!」
ピーチ様は少しだけ耳を赤くして、チーノ様に食って掛かりますが、バレル様はその様子を見て、ため息を吐き出しました。
「母君、水鏡でモカの事を見て、モカならば我の嫁にしても良いと認めて下さったではありませんか」
「それはっ……」
途端にピーチ様はもじもじとチーノ様とバレル様の間で視線を行き来させます。
「そ、そうです。スコッチはこの娘の事をどう思っているのです?」
「は? 私がどう思っていようと関係ないだろう」
「あら、関係ありますわ」
「なぜだ」
スコッチ様の声音が低くなります。機嫌が悪くなっているのがまるわかりですわね。余程ピーチ様の事がお嫌いなのでしょうか?
「バレルと結婚した後に、あーだこーだと言われては困りますもの。スコッチがこの娘に保護者的感情以上の物を持っていないのはわかりますが、結婚後に何も口を出さないと誓いなさいませ」
「なぜそのようなことをお前に言われなければならない」
「わたくしはこの娘の義母になるのですわよ。言うに決まっているでしょう」
ピーチ様のその言葉に、わたくしは驚いてチーノ様とバレル様を見ます。
二人も些か驚いたように、ピーチ様を見ていらっしゃいました。
「ピーチ、今日はモカの様子を見るだけじゃなかったのか?」
「あ……」
自分の失言に今気が付いたと言わんばかりに、ピーチ様がご自分の手を口に当てました。
「……し、仕方がないでしょう。バレルがこの娘と結ばれないのなら死を選ぶというのですから、次期魔王がたかが人間の小娘のせいで死んだ等、末代までの恥ですもの」
ピーチ様は幾分早口にそう仰いますと、キッとわたくしの方を見ます。
「それで、モカと言いましたね。貴女はバレルの正妃になる覚悟はありますの? 魔族との契約についてはスコッチを見ていればわかるでしょうが、たかが人間には耐えきれないほどの永い間を生きなければならないのですよ」
「それは、もう覚悟が出来ております。バレル様のご両親、チーノ様とピ―チ様さえ認めていただければ、わたくしはいつでもバレル様と契約を結ぶ準備は出来ております」
「そう……。スコッチはそれでいいのですね」
「モカが言うんだ、仕方がないだろう」
ピーチ様とスコッチ様の間で火花のような物が散ったように感じました。
けれども、まだバレル様がわたくしの前に姿を現すことはありません。
けれども、近くには来ていらしているのでしょう、時折、玄関先に花と一緒に珍しい調味料や香辛料、小物などが置かれている時があります。
その度にバレル様が早くいらしてくれればいいと願ってしまうのですから、わたくしも欲張りですわね。
バレル様のかわりのように、あれ以来チーノ様がよく山小屋にいらっしゃるようになりました。バレル様の近況などを教えてくださいます。
やはり、お母様の説得に苦戦しているようなのです。
わたくしは側妃を何人娶っても構わない派ですので、お母様が望むのであれば、その分側妃を迎え入れても構わないと思うのですが、それでは駄目なのでしょうか?
「ふう、もうすぐわたくしも二十歳になりますわね」
「そうか、もうそんな時期か。バレルはまだ来ないな。モカ、契約の方はどう思っているんだ?」
牛舎での独り言のつもりでしたが、いつの間にいらっしゃったのか、スコッチ様が返事をなさいましたので、驚いてそちらの方を見ます。
「いついらっしゃいましたの?」
「ついさっきだ。ここの所、モカは心ここにあらずと言った感じだからな、お得意の気配を感じることにも注意を払えなかったんじゃないか?」
「そう、ですわね……」
わたくしは搾り終えたミルクの入った大きめのバケツを持って、スコッチ様の傍まで行きますと、深くため息をつきます。
「駄目ですわね、わたくしから言い出したことですのに」
「まあ、私にはわからないが、恋とはそのようなものなのではないか?」
「そうなのでしょうか? 長らくそのような感情から遠のいておりましたので、わたくしもよくわかりませんわ」
困ったように眉をへにゃりと下げてしまったわたくしの頭を、ポン、と軽く撫でてスコッチ様はお一人で山小屋の方に戻っていきました。
何しにいらっしゃったのでしょうか? 思わず首を傾げてしまいます。
バレル様でしたら、お手伝いしてくださいますのに……、いえ、駄目ですわ。このように考えてしまっては。
そうしていよいよわたくしの二十歳の誕生日、ヒート様やお兄様、トロティー様からお祝いの品が届く中、わたくしは今日もバレル様が来ないかもしれないという思いに、思わずため息を吐いてしまうのです。
「おはよう、モカ。今日で二十歳になったんだな」
「おはようございます、スコッチ様。ええ、今日で二十歳になりましたわ。わたくしに残された時間ももう僅かですわね」
「まあ、チーノの話によれば、あのクソ女もそろそろ折れそうだと言っていたし、今日あたり来るんじゃないか?」
「そうでしょうか?」
期待して来ない方が、絶望感が強いので、期待はしない様にしたいのですが、スコッチ様の言葉に、思わず希望を持ってしまったのはどうしてなのでしょうね。
「ではわたくしは裏庭に行ってまいります。朝食のご希望はございますか?」
「さっぱりしたものがいいな」
「……本当にリクエストをしてくださるだなんて珍しいですわね。わかりましたわ」
わたくしは多少驚きながらも、裏庭の牛舎と鶏舎に向かい、いつものルーチンワークを終えると、台所に向かい、さっぱりしたメニューを考えながら朝食を作り始めます。
そうすると、スコッチ様が台所にいらっしゃって、わたしに声をかけていらっしゃいました。
「モカ、あと三人分の朝食を追加してくれ」
「え?」
「お待ちかねのバレルがやってきたようだぞ。両親を連れてな」
「まあ!」
わたくしはその言葉に、手にしていた卵を思わずぐちゃり、と潰してしまいました。
「あらっ……」
ぐちゃりと手を汚す卵が床にこぼれていくのを目で追いながら、今言われたことを頭の中で反芻して、バレル様がいらっしゃるのだという事に、思わず顔がふにゃり、とにやけてしまいます。
淑女としていけないと思いつつ、頬のゆるみを抑えることが出来ません。
手を洗い、床にこぼれた卵を片付けて、わたくしは何にしたらいいか、と必死に頭の中で考えます。
バレル様のお母様は何でしたらお気に召していただけるでしょうか?
チーノ様はあっさりしたものがお好みですし、メニュー自体は考えていた、サラダパスタでいいでしょうか?
レモングラスのソースをかけてさっぱりとさせてみるのがいいかもしれませんわね。
ああ、それにしてもどうしましょう。この日を待っておりましたが、実際にいらっしゃるとなると緊張して手がうまく動きませんわね。
わたくしは何とか食事を作り終えると、作業部屋に料理を運び込み、テーブルの上に並べてから、いつものように、ほぼすっぴんの状態でいることを思い出して、途端におろおろしてしまいました。
「スコッチ様。わたくし、ちゃんとお化粧をしておいたほうが良いでしょうか?」
「どうしてだ?」
「だって、バレル様のお母様がいらっしゃるのでしょう? ちゃんとしたほうが良いかと思いまして……」
「気にしなくていい。いつものままのモカで十分だ」
「そうでしょうか」
わたくしは、スカートを持ってもじもじとしてしまいます。
「ほら、もうすぐ到着するぞ」
「あ、お迎えに行かなくてはいけませんわね」
わたくしがそう思って、ドアの前に行くと同時に、ドアをノックされました。
「は、はい」
わたくしは緊張した声を出して、恐る恐るドアを開けます。
そこには、以前と変わらない、けれども衣装は高位魔族の物なのでしょう、いつもとは違って立派なお召し物を着ているバレル様がいらっしゃいます。
「モカ、待たせたな」
「バレル様」
わたくしは思わず目に涙がたまってしまい、バレル様の姿が霞んでしまいます。
「そうだ、誕生日おめでとう。これはプレゼント第一弾だ」
そう言って渡されたのは、バレル様の瞳の色と同じ色の、真っ赤な薔薇の花束でした。
「ありがとうございます」
わたくしは声が震えているのを自覚しながら、頂いた花束を胸に優しく抱きかかえます。
その時でした。
「ちょっとバレル、いちゃついているのだったら、わたくしは帰りますわよ」
「母君」
「ピーチ、久々に出会った恋人同士なのだ、そうカリカリするな」
「旦那様がそうおっしゃるのでしたら……」
そのお声にバレル様の影になっていたお二人を見るために、体の位置をずらしますと、そこに居るのはチーノ様と、バレル様に色味以外よく似ていらっしゃる、美しい女性がいらっしゃいました。
「はじめまして、モカ=マティと申します」
「ピーチ=ラックですわ。貴女がわたくしのバレルを誑かした小娘ですのね」
「母君! なぜそのように仰るのですか!」
「ふん」
ピーチ様の第一印象は、よくないようですわね。けれども、こうしていらっしゃってくださったということは、少しはわたくしという存在を受け入れて下さっているのですわよね?
「狭い家ですが、どうぞ」
「ああ、邪魔させてもらう」
「皆様の分の朝食も準備しておりますので、よろしければ召し上がってくださいませ」
「あら、そんな召使がするような真似をしていますの? そのようなもの」
「いただこう」
「旦那様!」
「なんだピーチ、せっかくのもてなしを受け入れない理由などないだろう」
「……わかりました、旦那様がそう仰るのでしたら……」
あきらかに渋々と言った感じで、ピーチ様が山小屋に入っていきます。
そういえば、スコッチ様はピーチ様の事をクソ女と言って嫌っていらっしゃいましたが、大丈夫でしょうか?
三人が入った後に、わたくしも中に入りますと、既にピーチ様は当たり前の顔をして席に座っておりました。
丁度スコッチ様の目の前の席ですわね。いつも私が座っている席ですわ。
わたくしが外で三人の対応をしている間に、急ごしらえですが、スコッチ様が魔法で作った席に残った私達も座ります。
急ごしらえなだけあって、座り心地はあまり良いとは言えませんわね。
このようなものに、魔王様と次期魔王様を座らせて良いのでしょうか?
まあ、お二人が何も言わないのでよいのですけれども……。
「それで、これは何なのかしら?」
「あ、今朝はさっぱりしたメニューにいたしました。サラダパスタにレモングラスを使用したソースをかけた物でございます。スープはキュウリの冷製ポタージュになっておりますわ」
「そう、じゃあいただくわ」
意外な事に、説明を聞くとすぐにピーチ様はフォークを手に取り、サラダパスタを口に運びました。
お気に召していただけますでしょうか?
「……ふん」
ピーチ様はそう一言おっしゃって、黙々と食べ続けます。
な、なにか気にいらない物でも入っていたのでしょうか?
「ではいただこうか」
「そうですね、父君」
「モカ、お前も食べなさい」
「は、はい」
チーノ様もバレル様もフォークを持って食べ始めたのを確認してから、わたくしはスコッチ様の隣に座って、三人の様子を見ながら、砂を噛むような思いで食事を始めました。
ピーチ様は、柔らかなピンク色の髪の毛と、ピンクサファイヤを埋め込んだような瞳の、美しい方です。少しきつめな印象を受けてしまうのは、わたくしが緊張しているからかもしれませんわね。
食事が終わり、わたくしが食器の片づけをしようと立ち上がったところで、「まあまあですわね」とピーチ様が声をお出しになりました。
「よかったなモカ、ピーチに気に入られたようだぞ」
「え?」
「旦那様、そこまでは言ってはおりませんわよ。人間の小娘にしてはまあまあだと言っただけですわ」
「わかったわかった」
「旦那様!」
ピーチ様は少しだけ耳を赤くして、チーノ様に食って掛かりますが、バレル様はその様子を見て、ため息を吐き出しました。
「母君、水鏡でモカの事を見て、モカならば我の嫁にしても良いと認めて下さったではありませんか」
「それはっ……」
途端にピーチ様はもじもじとチーノ様とバレル様の間で視線を行き来させます。
「そ、そうです。スコッチはこの娘の事をどう思っているのです?」
「は? 私がどう思っていようと関係ないだろう」
「あら、関係ありますわ」
「なぜだ」
スコッチ様の声音が低くなります。機嫌が悪くなっているのがまるわかりですわね。余程ピーチ様の事がお嫌いなのでしょうか?
「バレルと結婚した後に、あーだこーだと言われては困りますもの。スコッチがこの娘に保護者的感情以上の物を持っていないのはわかりますが、結婚後に何も口を出さないと誓いなさいませ」
「なぜそのようなことをお前に言われなければならない」
「わたくしはこの娘の義母になるのですわよ。言うに決まっているでしょう」
ピーチ様のその言葉に、わたくしは驚いてチーノ様とバレル様を見ます。
二人も些か驚いたように、ピーチ様を見ていらっしゃいました。
「ピーチ、今日はモカの様子を見るだけじゃなかったのか?」
「あ……」
自分の失言に今気が付いたと言わんばかりに、ピーチ様がご自分の手を口に当てました。
「……し、仕方がないでしょう。バレルがこの娘と結ばれないのなら死を選ぶというのですから、次期魔王がたかが人間の小娘のせいで死んだ等、末代までの恥ですもの」
ピーチ様は幾分早口にそう仰いますと、キッとわたくしの方を見ます。
「それで、モカと言いましたね。貴女はバレルの正妃になる覚悟はありますの? 魔族との契約についてはスコッチを見ていればわかるでしょうが、たかが人間には耐えきれないほどの永い間を生きなければならないのですよ」
「それは、もう覚悟が出来ております。バレル様のご両親、チーノ様とピ―チ様さえ認めていただければ、わたくしはいつでもバレル様と契約を結ぶ準備は出来ております」
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