ループしますか、不老長寿になりますか?
024 バレル視点
「聞いたか? ブレス商会の会長が、ついに後継者を連れて来たって話じゃないか」
「ちげーよ。専属の薬師って話だぜ」
冒険者組合の待合室で聞こえて来た会話に、思わず耳を傾けてしまう。
「それがさぁ、ここだけの話、その薬師ってのが現在も捜索願の出されている、あのキャラメル公爵家のモカ嬢なんじゃないかって話なんだよ」
「ああ、俺も聞いたぜ。髪の色こそ違うが、モカ嬢にそっくりって話だしな」
「いなくなってこの一年、ブレス商会に匿われてたってことか?」
「そうなんじゃないか? 一時は王都を出たって話もあったが、やっぱり箱入り娘が王都を出るなんて無理な話だろう」
その言葉に、それが本当に王都を出ていたんだとは言えず、話の輪に入ることはせずに、ただ立ち聞きを続けるため、依頼書を見る振りを続ける。
「しっかし、その噂。モカ嬢ってのが本物だとしたら、キャラメル公爵家が黙ってないんじゃないか?」
「それが、ほら。あそこの家も、今ごたついてるだろう? 当主が刺客にあって、それ以来声が出ないって」
「ああ、そう言えばそうだったな。声が出ないとか、貴族としたら致命的だよなぁ」
「まあ、息子がその分頑張ってるから、そのうちブレス商会にも接触があるんじゃないか?」
「それだけどさぁ、本気で専属薬師だけなのか?」
「ってーと?」
「ブレス会長もいい年だし、本気で後継者を探してもおかしくはないだろう? しかも、その薬師をめちゃくちゃ気に入ってて、片時も傍から離さないとかなんとか」
「おいおい、それじゃ後継者じゃなくって嫁さんにでもするつもりかって話だな」
「がははは」と聞こえた笑い声に、思わず拳を強く握ってしまう。モカがブレス商会に身を置いたというのは、誰よりも早く知っていたし、専属の薬師として、表裏ともに活躍している事も知っている。
だが、ヒート会長がモカを異常なまでに可愛がっているというのも事実だ。
もしかして、本当に嫁にしようと考えているのだろうか?
そんな事を考えて一ヶ月、俺の心は依頼を受けている最中でも、モカの事でいっぱいになってしまっている。
モカは俺……、我が魔族だということを知っているとスコッチから聞かされた時は、簡単にばらすな!と憤ったものだが、今となっては今後告白をする時に都合がいいかもしれない。
依頼掲示板を他の冒険者たちの話を聞きながら眺めていると、珍しくブレス商会からの依頼があった。
ブレス商会はその規模の大きさから、独自の自衛団のような物を持っているため、こうして依頼が出ることは珍しい。
依頼書を手に取ってみると、Dクラスの冒険者でも務まるような、王都を出てすぐの森への薬草の採取の護衛任務だった。
我は、すぐにモカに関係していると思い、依頼書をそのまま受付に持って行く。
「ブレスさん、これはDクラス用の依頼書ですよ?」
「別にいいだろう、他に気に入ったのがなかったんだよ」
受付に怪しまれたが、働かないよりはましと思われたのか、あっさりと受諾された。
依頼当日、あわよくばモカに会えるかと思っていたが、そんな旨い話はなく、待ち合わせ場所に来たのは、ブレス商会の下っ端の人間たちだった。
「え、バレルってあのバレル?」
そのバレルだ、と突っ込みたかったが、とりあえず頷き、目的地の森まで馬車で移動することになった。
途中、モカの話を聞こうと、ブレス商会の下っ端に話を振ってみる。
「なあ、最近ヒート会長は専属の薬師を雇ったって話じゃないか。どこかに病でも抱えてたのか?」
「いや、俺らもよくわかんねーんだけど、突然会長が連れて来たんだよ。それがすっげー別嬪さんでさあ」
「まあ、いくら別嬪さんとはいえ、会長がずっと傍に置いてるから、おいそれと手は出せねーけどな」
「へえ、そうなのかい」
「まあでも、モカちゃんが来てから、会長の顔色が良くなったのは確かだよな」
「ああ、確かに。前は顔にはだしてないけどやっぱ無理してたんだろうなあ」
その後の話は、すっかりヒート会長とモカが、いかに仲が良いかという話になり、モカがとりあえず、新しい環境でうまくやっているということはわかった。
それにしても、気難しいと有名なヒート会長に伝手があったとは、モカには謎めいたところばかりがあるな。
スコッチに聞いても、本人に聞けと言われてしまうだけだったしな。
モカは本当に不思議な娘だ。
一目ぼれというのは、こういうことを言うのだろうな。スコッチの家で初めてモカを目にしてから、日に日にモカを愛おしいと感じるようになっていった。
数年に一度顔を出せばいい方だったスコッチの山小屋に頻繁に顔を出すようになったのも、全てモカに会いたかったからだ。
モカも、我の視線に気が付いているのかいないのか、時折こちらを試すような事を言ってくることがあったが、恐らくは未だ我の片思いという所なのだろう。
森での薬草探しは、やはりモカの依頼のようで、本当ならモカ自身が来る予定だったそうなのだが、ヒート会長の許可が下りずに代理でこの者が来たという事らしい。
「モカちゃんが会長の嫁? ないな、どっちかって言うと娘を可愛がっているって感じだからなあ。でもまあ、商会内で、後継者をそろそろ選ばないといけないって話が出てるのは確かだぜ」
「そうそう、モカちゃんが来た時も、実は会長の隠し子で、後継者にするつもりで連れて来たんじゃないかっていう噂が流れたぐらいだよな」
「まあ、全く似てないし、モカちゃんは……なあ」
「そうそう、例の噂だろう?」
「モカって娘がキャラメル公爵家のいなくなった令嬢で、いままでヒート会長が匿ってたって噂か?」
「匿ってたってのはともかく、キャラメル公爵家の元娘だってのは本当らしいぜ」
「へえ、そうなのか」
「ああ、キャラメル公爵家に出入りしてたやつが、髪の色こそ違うけど、顔はいなくなった令嬢にそっくりだっていう話だぜ」
その話に、モカがしつこいぐらい丁寧な話し方をすることを思い出し頷く。
やはり、モカはキャラメル公爵家のいなくなった娘なのだろう。スコッチはおそらくこの事を知っていてモカを受け入れているに違いない。
スコッチは来るもの拒まず、去る者追わずだからな。
まあ、そうなってしまったのも、魔族というか、俺の母君と契約をしてしまったからなのだけどな。
母君も人が悪いというか、言葉巧みにまだ何も知らない錬金術師の魔力を取り込むために契約をしたと、いつだか自慢げに話しておられた。
当時、どうしても父君の嫁になりたかった母君は、魔王の花嫁になる条件の魔力基準に達するため、都合よく呼び出された人間の魔力を喰ったらしい。
そしてそれを維持するために、魂の契約まで結んでしまったというのだから、女というのは末恐ろしいものだな。
否、母君の父君への愛がそうさせたのだろうか?
魔王の花嫁は、その保有する魔力の量で決められる。我には未だ花嫁候補はいないが、そのうち決められるだろう。
まあ、父君がご健在な今はまだ自由にさせてもらっている。
俺が人間に紛れて暮らしているのも、そう言った煩わしいことから逃れるためだ。
目的地に到着し、商会の下っ端たちが、あーでもないこーでもないと言いながら薬草を集めているのを目の端に収めながら、周囲にモンスター除けの結界を張る。こうすれば、この辺一帯にモンスターは寄り付かない。
我はその間、悪いとは思いつつも、モカに渡したピアスに魔力を送り込む。
そうすると、ピアスを通じて周囲の様子が分かるのだ。
モカは今、ヒート会長と二人っきりで話している所だった。
『ヒート様、お茶をお淹れいたしましたよ。お砂糖もたっぷり入っていますからね』
『ああ。それにしても、モカの淹れる茶はうまいな』
『ありがとうございます。でも料理の腕はいまいちなのですよね』
『だったら家の料理長に習ってみたらどうだ?』
『よろしいのですか?』
『ああ、俺の所に残らねーってのなら、知識や技術は貪欲に覚えて行け。まあ、俺としては、モカが俺の後継者になってくれるのが一番なんだけどな』
『ご期待に沿えずに申し訳ありません』
クスクスと笑い声を交わしながらの会話に、以前何度か食べさせてもらったモカの手料理の味を思い出す。
確かに、美味いという物ではなかったが、決してまずいという物でもなかったはずだ。
モカはなんでも物事を極めようとする癖でもあるのだろうか?
『それはともかく、シェインク王子はうまい事メルに夢中になってくれてるみたいじゃないか』
『ええ、僥倖ですわね』
ふむ、モカはシェインクに復讐はしないと言っていたが、何をしているのだろうか?
そもそも、ブレス商会は裏の顔があると、一部では有名な商会だ。もちろん、国一番の商会ということもあって、やっかみもあるのだろうが、ヒート会長には裏があると、俺も感じている。
モカはその事を知っているのだろうか?
『それにしても、適当に王城に入り込ませて、密通者として使おうと思ってたメルをよくもまあ見出したよな』
『シェインク様好みで、作法も問題なく仕込まれておりましたし、なによりも、あの目が気に入りましたのよ』
『目?』
『ええ、ヒート様に絶対の忠誠を誓っているという、真っ直ぐな瞳ですわ』
『ははっ、メルは物心ついた時からうちの組織で育てられた娘だからな。俺も目をかけてやっていた』
『ですから選んだのですわ』
ふと、薬草の回収が終わったと声をかけられてそちらを向けば、複数の籠にこんもりと盛られた薬草を持った奴らがこちらを向いていた。
我はモンスター除けの結界を解除すると同時に、モカへの意識も切ることにした。
あの様子ではモカはブレス商会の裏の顔も知っているらしい。
本当にモカは不思議な娘だ。ただの公爵令嬢ではないのはわかるが、いったいどんな経験を積んできたのだろうか。
我の仕入れている、キャラメル公爵家の令嬢の情報は、王族教育に精を出し、数多のご令嬢から慕われる、非の打ちどころのない令嬢ではあったが、ただそれだけのはずで、剣技を覚えていたり、魔法に長けているといった情報は一切入っては来なかった。
「今度会った時にでも聞いてみようか」
「え? なんか言ったか?」
「いや、こっちの話だ。しかし、すごい量だな。何に使うんだ?」
馬車に積まれた籠を指さして言えば、一瞬目をそらされたが、肩を竦めて答えを返された。
「俺達の二日酔いに効く薬用の薬草だって話だぜ」
「は? モカはヒート会長の専属なんだろう? なんだってアンタらの面倒までみてるんだ?」
「なーに、そこがモカちゃんの良い所なんだよ」
「そうそう」
ふむ、モカはブレス商会の中でも随分と人気者になりつつあるようだな。
「ちげーよ。専属の薬師って話だぜ」
冒険者組合の待合室で聞こえて来た会話に、思わず耳を傾けてしまう。
「それがさぁ、ここだけの話、その薬師ってのが現在も捜索願の出されている、あのキャラメル公爵家のモカ嬢なんじゃないかって話なんだよ」
「ああ、俺も聞いたぜ。髪の色こそ違うが、モカ嬢にそっくりって話だしな」
「いなくなってこの一年、ブレス商会に匿われてたってことか?」
「そうなんじゃないか? 一時は王都を出たって話もあったが、やっぱり箱入り娘が王都を出るなんて無理な話だろう」
その言葉に、それが本当に王都を出ていたんだとは言えず、話の輪に入ることはせずに、ただ立ち聞きを続けるため、依頼書を見る振りを続ける。
「しっかし、その噂。モカ嬢ってのが本物だとしたら、キャラメル公爵家が黙ってないんじゃないか?」
「それが、ほら。あそこの家も、今ごたついてるだろう? 当主が刺客にあって、それ以来声が出ないって」
「ああ、そう言えばそうだったな。声が出ないとか、貴族としたら致命的だよなぁ」
「まあ、息子がその分頑張ってるから、そのうちブレス商会にも接触があるんじゃないか?」
「それだけどさぁ、本気で専属薬師だけなのか?」
「ってーと?」
「ブレス会長もいい年だし、本気で後継者を探してもおかしくはないだろう? しかも、その薬師をめちゃくちゃ気に入ってて、片時も傍から離さないとかなんとか」
「おいおい、それじゃ後継者じゃなくって嫁さんにでもするつもりかって話だな」
「がははは」と聞こえた笑い声に、思わず拳を強く握ってしまう。モカがブレス商会に身を置いたというのは、誰よりも早く知っていたし、専属の薬師として、表裏ともに活躍している事も知っている。
だが、ヒート会長がモカを異常なまでに可愛がっているというのも事実だ。
もしかして、本当に嫁にしようと考えているのだろうか?
そんな事を考えて一ヶ月、俺の心は依頼を受けている最中でも、モカの事でいっぱいになってしまっている。
モカは俺……、我が魔族だということを知っているとスコッチから聞かされた時は、簡単にばらすな!と憤ったものだが、今となっては今後告白をする時に都合がいいかもしれない。
依頼掲示板を他の冒険者たちの話を聞きながら眺めていると、珍しくブレス商会からの依頼があった。
ブレス商会はその規模の大きさから、独自の自衛団のような物を持っているため、こうして依頼が出ることは珍しい。
依頼書を手に取ってみると、Dクラスの冒険者でも務まるような、王都を出てすぐの森への薬草の採取の護衛任務だった。
我は、すぐにモカに関係していると思い、依頼書をそのまま受付に持って行く。
「ブレスさん、これはDクラス用の依頼書ですよ?」
「別にいいだろう、他に気に入ったのがなかったんだよ」
受付に怪しまれたが、働かないよりはましと思われたのか、あっさりと受諾された。
依頼当日、あわよくばモカに会えるかと思っていたが、そんな旨い話はなく、待ち合わせ場所に来たのは、ブレス商会の下っ端の人間たちだった。
「え、バレルってあのバレル?」
そのバレルだ、と突っ込みたかったが、とりあえず頷き、目的地の森まで馬車で移動することになった。
途中、モカの話を聞こうと、ブレス商会の下っ端に話を振ってみる。
「なあ、最近ヒート会長は専属の薬師を雇ったって話じゃないか。どこかに病でも抱えてたのか?」
「いや、俺らもよくわかんねーんだけど、突然会長が連れて来たんだよ。それがすっげー別嬪さんでさあ」
「まあ、いくら別嬪さんとはいえ、会長がずっと傍に置いてるから、おいそれと手は出せねーけどな」
「へえ、そうなのかい」
「まあでも、モカちゃんが来てから、会長の顔色が良くなったのは確かだよな」
「ああ、確かに。前は顔にはだしてないけどやっぱ無理してたんだろうなあ」
その後の話は、すっかりヒート会長とモカが、いかに仲が良いかという話になり、モカがとりあえず、新しい環境でうまくやっているということはわかった。
それにしても、気難しいと有名なヒート会長に伝手があったとは、モカには謎めいたところばかりがあるな。
スコッチに聞いても、本人に聞けと言われてしまうだけだったしな。
モカは本当に不思議な娘だ。
一目ぼれというのは、こういうことを言うのだろうな。スコッチの家で初めてモカを目にしてから、日に日にモカを愛おしいと感じるようになっていった。
数年に一度顔を出せばいい方だったスコッチの山小屋に頻繁に顔を出すようになったのも、全てモカに会いたかったからだ。
モカも、我の視線に気が付いているのかいないのか、時折こちらを試すような事を言ってくることがあったが、恐らくは未だ我の片思いという所なのだろう。
森での薬草探しは、やはりモカの依頼のようで、本当ならモカ自身が来る予定だったそうなのだが、ヒート会長の許可が下りずに代理でこの者が来たという事らしい。
「モカちゃんが会長の嫁? ないな、どっちかって言うと娘を可愛がっているって感じだからなあ。でもまあ、商会内で、後継者をそろそろ選ばないといけないって話が出てるのは確かだぜ」
「そうそう、モカちゃんが来た時も、実は会長の隠し子で、後継者にするつもりで連れて来たんじゃないかっていう噂が流れたぐらいだよな」
「まあ、全く似てないし、モカちゃんは……なあ」
「そうそう、例の噂だろう?」
「モカって娘がキャラメル公爵家のいなくなった令嬢で、いままでヒート会長が匿ってたって噂か?」
「匿ってたってのはともかく、キャラメル公爵家の元娘だってのは本当らしいぜ」
「へえ、そうなのか」
「ああ、キャラメル公爵家に出入りしてたやつが、髪の色こそ違うけど、顔はいなくなった令嬢にそっくりだっていう話だぜ」
その話に、モカがしつこいぐらい丁寧な話し方をすることを思い出し頷く。
やはり、モカはキャラメル公爵家のいなくなった娘なのだろう。スコッチはおそらくこの事を知っていてモカを受け入れているに違いない。
スコッチは来るもの拒まず、去る者追わずだからな。
まあ、そうなってしまったのも、魔族というか、俺の母君と契約をしてしまったからなのだけどな。
母君も人が悪いというか、言葉巧みにまだ何も知らない錬金術師の魔力を取り込むために契約をしたと、いつだか自慢げに話しておられた。
当時、どうしても父君の嫁になりたかった母君は、魔王の花嫁になる条件の魔力基準に達するため、都合よく呼び出された人間の魔力を喰ったらしい。
そしてそれを維持するために、魂の契約まで結んでしまったというのだから、女というのは末恐ろしいものだな。
否、母君の父君への愛がそうさせたのだろうか?
魔王の花嫁は、その保有する魔力の量で決められる。我には未だ花嫁候補はいないが、そのうち決められるだろう。
まあ、父君がご健在な今はまだ自由にさせてもらっている。
俺が人間に紛れて暮らしているのも、そう言った煩わしいことから逃れるためだ。
目的地に到着し、商会の下っ端たちが、あーでもないこーでもないと言いながら薬草を集めているのを目の端に収めながら、周囲にモンスター除けの結界を張る。こうすれば、この辺一帯にモンスターは寄り付かない。
我はその間、悪いとは思いつつも、モカに渡したピアスに魔力を送り込む。
そうすると、ピアスを通じて周囲の様子が分かるのだ。
モカは今、ヒート会長と二人っきりで話している所だった。
『ヒート様、お茶をお淹れいたしましたよ。お砂糖もたっぷり入っていますからね』
『ああ。それにしても、モカの淹れる茶はうまいな』
『ありがとうございます。でも料理の腕はいまいちなのですよね』
『だったら家の料理長に習ってみたらどうだ?』
『よろしいのですか?』
『ああ、俺の所に残らねーってのなら、知識や技術は貪欲に覚えて行け。まあ、俺としては、モカが俺の後継者になってくれるのが一番なんだけどな』
『ご期待に沿えずに申し訳ありません』
クスクスと笑い声を交わしながらの会話に、以前何度か食べさせてもらったモカの手料理の味を思い出す。
確かに、美味いという物ではなかったが、決してまずいという物でもなかったはずだ。
モカはなんでも物事を極めようとする癖でもあるのだろうか?
『それはともかく、シェインク王子はうまい事メルに夢中になってくれてるみたいじゃないか』
『ええ、僥倖ですわね』
ふむ、モカはシェインクに復讐はしないと言っていたが、何をしているのだろうか?
そもそも、ブレス商会は裏の顔があると、一部では有名な商会だ。もちろん、国一番の商会ということもあって、やっかみもあるのだろうが、ヒート会長には裏があると、俺も感じている。
モカはその事を知っているのだろうか?
『それにしても、適当に王城に入り込ませて、密通者として使おうと思ってたメルをよくもまあ見出したよな』
『シェインク様好みで、作法も問題なく仕込まれておりましたし、なによりも、あの目が気に入りましたのよ』
『目?』
『ええ、ヒート様に絶対の忠誠を誓っているという、真っ直ぐな瞳ですわ』
『ははっ、メルは物心ついた時からうちの組織で育てられた娘だからな。俺も目をかけてやっていた』
『ですから選んだのですわ』
ふと、薬草の回収が終わったと声をかけられてそちらを向けば、複数の籠にこんもりと盛られた薬草を持った奴らがこちらを向いていた。
我はモンスター除けの結界を解除すると同時に、モカへの意識も切ることにした。
あの様子ではモカはブレス商会の裏の顔も知っているらしい。
本当にモカは不思議な娘だ。ただの公爵令嬢ではないのはわかるが、いったいどんな経験を積んできたのだろうか。
我の仕入れている、キャラメル公爵家の令嬢の情報は、王族教育に精を出し、数多のご令嬢から慕われる、非の打ちどころのない令嬢ではあったが、ただそれだけのはずで、剣技を覚えていたり、魔法に長けているといった情報は一切入っては来なかった。
「今度会った時にでも聞いてみようか」
「え? なんか言ったか?」
「いや、こっちの話だ。しかし、すごい量だな。何に使うんだ?」
馬車に積まれた籠を指さして言えば、一瞬目をそらされたが、肩を竦めて答えを返された。
「俺達の二日酔いに効く薬用の薬草だって話だぜ」
「は? モカはヒート会長の専属なんだろう? なんだってアンタらの面倒までみてるんだ?」
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