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ループしますか、不老長寿になりますか?

茄子

022

 会場を後にしたわたくし達は、休憩用に用意されている部屋の群を通り過ぎていき、奥へと向かっていきます。
 そうしてやってきたのは、国王陛下が私的に使用している応接室の一室ですわ。
 中に入ると、そこにはヒート様の他に、コッチさんとメルさんがいらっしゃいました。

「メル!」
「コッチ様!」

 ストロベリー様はわたくしの手を振りほどいて、コッチさんの元に向かいます。

「コッチ様、急にいなくなるから、あたし心配しちゃったんですよ」
「……」
「コッチ様?」

 ストロベリー様がいくら話しかけても、コッチさんは真顔のまま反応を一切返しません。

「メル! 急にいなくなるから心配したぞ、傷は大丈夫か?」
「……」

 メルさんも同じように、真顔で無反応です。

「メル? メルどうしたんだ? ストロベリーに打たれたショックで気をやってしまったのか?」
「……」
「コッチ様、あたしですよ。ストロベリーですよ、何か言ってくださいよ」
「……」

 何を言っても真顔でまっすぐ前を向いたまま、反応を返すことのない二人に、シェインク様とストロベリー様は必死に話しかけます。

「あらあら、そこにいらっしゃるのがお二人の浮気相手ですの? おかしいですわね、このお二人は、ヒート様の手駒でいらっしゃいますので、貴族なわけがないのですけれども」
「「え」」
「そうですわよね、メルさん、コッチさん」
「「はい、モカ様」」

 わたくしの言葉に反応した二人に、シェインク様とストロベリー様は目を見開きます。

「どういうことだメル! 貴族じゃないだと? お前はレッソ男爵家の庶子なんだろう!? なんとか言え!」
「コッチ様、嘘ですよね? コッチ様のように素敵な方が貴族じゃないなんて、あたしに嘘つくわけがないですよね?」
「「……」」
「ふふふ」

 わたくしが思わず笑ってしまいますと、シェインク様がぐるりとわたくしの方に顔を向けていらっしゃいました。

「モカ! 何がおかしいんだ!」
「あら、これがおかしくなくて何をおかしいというのでしょうか? お二人とも本当に上手く踊ってくださって、わたくしは嬉しいですわ」
「踊る、だと?」
「そうですわ。全てはわたくしが書いたシナリオ通りでございますわ」
「「なっ」」

 わたくしの言葉に、二人は目を見開きます。

「あんな風に婚約を破棄されて、わたくしは何もしないと思っていましたの?」
「それは……」
「しかも、ストロベリー様はわたくしの事を悪役だと仰いましたわよね?」
「あれはっ」
「わたくし考えておりましたのよ。お二人の婚約祝いに何がふさわしいかを。そこで、ストロベリー様の望む通り、悪役になってみることにいたしましたの」
「「なっ!」」
「悪役として、手駒を送り込み、お二人の仲をかき回させていただきました」

 わたくしはそう言って、二人を見ます。

「お気に召していただけましたか?」
「……ァ、アンタのせいかぁあああ!」

 ストロベリー様がわたくしに掴みかかろうとしてきましたが、それをコッチさんが止めます。

「モカお前のしたことは許されることではない!」

 わたくしに手を上げそうになったシェインク様をメルさんが止めます。

「コッチ様?」
「メル?」
「「モカ様に手を出すな、下郎」」
「「なっ」」

 二人の言葉に、シェインク様とストロベリー様はショックを受けたように固まりました。
 それはそうでしょう、シェインク様は愛した人から、ストロベリー様は心を許した方から、「下郎」などと言われたんですものね。

「あらあら、お二人ともそんなにショックなのですか? わたくしもショックでしたわ」

 ループの最初の頃は、ですけれどもね。

「悪役なんて言われたことも初めてでしたし」

 ループしてきた人生の中でも、悪役なんて言われたのは初めてでしたわよ。

「わたくし頑張りましたの。如何でしたか?」

 にっこりと微笑みを浮かべて、言えば、まるで恐ろしいものを見るかのように、わたくしを見てきます。
 ふふ、このような視線を浴びるのは久しぶりですわねぇ。闇社会に染まっていた時にはいつも浴びていた視線ですわ。

「モカ、その辺にしてやってくれ」
「まあ、国王陛下。もう夜会を離れてもよろしかったのですか?」
「一時的に抜けて来ただけだ。シェインク、ストロベリー、お前たち二人は夜会を乱した罰として、ヒート預かりとなる」
「意味が分かりません、父上」
「ヒートって誰ですか?」
「ヒートは俺だ。この国の裏社会のまとめ役をやっている。表向きはブレス商会の会長だけどな」
「「裏社会!?」」

 流石、一時は愛し合った仲ですわね。息がぴったりですこと。

「王子であるシェインクを王城の牢獄に閉じこめるわけにもいかないからな。表向きは自室に幽閉したことにし、数年後に病死する予定だ」
「父上! 何を言っているのかわかっているのですか!?」
「そうです国王陛下。自室に幽閉とか数年後に病死とか、物騒ですよ」
「おぬしらはそれだけの罪を犯したのだ。とにかく後の事はヒートに任せる。ではモカ、我は会場に戻るぞ」
「はい、ご足労ありがとうございました」

 わたくしは国王陛下を、カーテシーで見送ると、国王陛下の気配が完全に遠くに行ったのを確認してから、カーテシーをやめ、ヒート様の傍に行きます。

「ヒート様、このお二人は今後どうなりますの?」
「まあ、とりあえずは使い道が決まるまで牢屋に監禁だな」
「そうですか。せいぜい有効活用してくださいませね」
「ああ、もちろんだ」

 わたくし達の言葉に、未だにコッチさん、メルさんに押さえられたままの格好の二人は顔に絶望を浮かべました。
 その表情を見ていてわたくしは一ついいことを思いついたので、ヒート様に提案させていただくことにしました。

「ヒート様、一度は愛し合った二人ですもの。もう一度愛が芽生えるかもしれませんわ」
「と、いうと?」
「お二人に子作りをさせるというのは如何でしょうか。こんなに美形なお二人なんですもの、生まれてくる子供も、きっと美しいに違いありませんわ」
「なるほど。洗脳を施して娼館ででも働いてもらおうかと思ったが、そういう使い道もあったな」
「武術なども最初から仕込めますし、そうすればメルさんやコッチさんのように優秀な手駒となりましょう」
「そうだな」

 ヒート様はわたくしが提案した案をお気に召して下さったようですので、きっと実行してくださいますわよね。ヒート様はなんだかんだ言って、わたくしに甘いですから。

「だが、それには交換条件があるぜ、モカ」
「あら何でしょうか? 後継者にはなれませんわよ?」
「それに関しては気が向いたら、考え直してくれればいい。交換条件ってのは、定期的に俺の所に顔を出せってことだ」
「まあ」
「お前は俺の専属薬師なんだからな。俺が病んじまった時の為に常時とは言わねーから、一年に一回ぐらいは顔を出せ」
「うーん、そのぐらいでしたら、まあよろしいですわよ」
「よし、じゃあ決まりだな」

 ヒート様はそう言うと、クシャっとしたいつもの笑みを私に向けて下さった後、今度は裏社会を仕切っているボスの笑みを浮かべ、シェインク様とストロベリー様を見ます。

「よかったなぁ。愛し合うもん同士だったんだろう?」
「……あ、あは」
「ストロベリー様?」
「あはははは、ってことは、シェインクはずっとあたしの物って事よね。最高じゃない! あはは、あたしってばやっぱり物語の主人公なんだわ!」

 ストロベリー様はそう言って「あはは」と笑い続けます。

「なんだ、もう壊れちまったのか? もっろい精神だなぁ」
「ス、ストロベリー? 何を言っているんだ?」
「だって、最高じゃない。あたしの純潔はシェインク様が貰ってくれて、その後もずぅっとシェインク様はあたしを抱き続けるのよ」

 いえ、流石に妊娠している間は、交接を禁止しますし、シェインク様にはその間は他の女性の種付けをして貰いますけれどもね。

「まあ、夢を見ていた方が優秀な子供を産んでくれるかもしれませんし、いいのではありませんか?」
「そんなもんかねえ?」
「そういうものですわよ。シェインク様もご安心為さって、ちゃんと愛する方と交接できるよう、わたくしからヒート様にお願いしておきますから」
「モカ? 何を言っているんだ? モカまで頭がおかしくなったのか?」
「あら、わたくしは正常ですわよ。ねえ、ヒート様」
「ああ、モカは正常だな」
「そうですわよねえ」

 まったく、シェインク様ってば何を仰っているのでしょうか。
 さて、とりあえずはやるべきことはやったと言う感じでしょうか。
 お父様の方はヒート様の力を最大限使わせていただいて、発言権を無くさせていただきましたし、これでお兄様も動きやすくなったことでしょう。
 あとは、後始末をして帰るだけですわね。
 シェインク様が簡単に篭絡されてくださったおかげで、早く帰ることが出来そうでよかったですわ。
 さて、タイムリミットまで後三年半と言ったところでしょうか。
 ループの人生か、不老長寿かの二択を選ばなくてはいけませんわよね。

「ねえ、ヒート様。ヒート様は不老長寿が叶うとしたらそれを選びますか?」
「ああん? 不老長寿だぁ? そうだなあ、まあ長寿の内容によるんじゃねーか? 例えばこのまま百まで生きれるってんだったら、不老長寿を選ぶが、それ以上となると、流石に人生に飽きちまいそうだからなあ」
「そうですわよねえ」

 だからスコッチ様は何度も自死を繰り返して諦めて、森の賢者なんてものになっていらっしゃるのでしょうし……。
 難しいですわねえ。

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