ループしますか、不老長寿になりますか?
020
「上手くいっているようだな」
「はい、流石はヒート様がお育てになった手駒ですわね」
わたくしはヒート様と共に、国王陛下の即位十周年記念の夜会に参加しておりました。
ヒート様は表向き、国内最大の商会の会長ですので、今回の夜会の招待状が届きました。まあ、もし来ないようでしたら、国王陛下にお願いして招待状を頂くだけなのですけれどもね。
わたくしは今、ヒート様専属の薬師として働いておりますので、今回はヒート様のパートナーとして参加致しました。
わたくしとヒート様の視線の先では、シェインク様がヒート様の送り込んだ手駒のメルさんと一緒に二曲目を踊り出すところでした。
二曲連続で踊ることは、この国では恋人関係であると、言っているようなものです。
ファーストダンスこそ、ストロベリー様と踊っておりましたけれども、これでは何の意味もありませんわね。
それとも、今度こそストロベリー様を正妃にして、メルさんを側室にするつもりなのでしょうか?
いいえ、そんなはずはありませんわ。メルさんからの報告では、シェインク様はメルさんを本気で愛してしまっているようですから、真っ直ぐで前科のあるシェインク様でしたら、絶対に婚約破棄を致しますわ。
それにほら、ストロベリー様がシェインク様とメル様が踊っているのを射殺さんばかりの視線で睨みつけていらっしゃいます。
ストロベリー様の隣にはコッチさんがいらっしゃいます。
今回、コッチさんにはストロベリー様を誘導する役目をお願いしておりますので、今もきっと、宥めつつもその怒りを正当化するような言葉を告げているに違いありません。
わたくしとヒート様はそれを離れた場所から高みの見物をしている状態でございます。
「モカ様。お久しぶりですわ」
「ご機嫌よう、モカ様。お戻り頂けて嬉しゅうございますわ」
魔法で髪の色を変えているとはいえ、顔の造作はいじっておりませんし、そもそも、今回ストロベリー様が激昂するような噂を流すよう、お願いするお手紙を送っておりましたので、わたくしのお友達たちが、わたくしを見つけるのは簡単だったのかもしれませんわね。
「ご機嫌よう、皆様。お久しぶりですわね。今回はご協力していただき、ありがとうございます」
わたくしが集まっていらっしゃった皆様を見て、そう言って微笑めば、皆様大したことはしていないと仰ってくださいました。
「それに、胸がすく思いでしたわ」
「本当にそうですわよね。人の不幸は蜜の味と申しますけれども、ストロベリー様の不幸はお名前も相まって甘露でございますわ」
「ふふ、皆様も中々に意地が悪くていらっしゃいますわね。けれども、仕上げはまだですので、最後まで気を引き締めなければいけませんわ」
わたくしがそう言えば、クスクスと皆様が笑い、もちろんだと頷いてくださいました。
あまり長く皆様がここに集まっていると、わたくしの正体が分かってしまいますので、一度解散していただきました。
「モカは男女関係なくモテるようだな」
「光栄なことですわよね」
「なあモカよ、何度も説いているが、考え直す気はないか?」
「申し訳ありません、ヒート様。この一件が終わりましたら、やはりわたくしは国境付近の森に帰ろうと思いますの」
「はあ、森の賢者の住まう場所というのは、そんなにも魅力的なのか?」
「何度かお話しさせていただいておりますけれども、魅力的と言いますか、落ち着く場所なのでございます」
わたくしの言葉に、ヒート様はため息を吐き出すとヤレヤレと首を振りました。
「俺の胸の病もすっかり良くなったし、確かに薬師として引き留めておくことはもうできないからな。しかし、組織の者も、この数か月でモカはただの薬師ではないと認めているぞ。本当に俺の後継者にならないか?」
繰り返される問いに、困った笑みをヒート様に向けます。
「ヒート様」
「はあ、意志は変わらないか」
「はい」
ヒート様は肩を竦めて、視線をシェインク様とメルさんに戻します。二人はなんと三曲連続で踊るようです。
三曲連続は夫婦もしくは婚約者でなければ踊ることありません。シェインク様ももちろんそのことはご存知でしょうから、これは暗に正妃にするのはメルさんだと、対外的にアピールしているつもりなのでしょうけれども、周囲の貴族からは呆れた視線を向けられていることに気が付いていないようですわね。
約一年前に、このわたくしと婚約破棄をした事は、貴族の間ではまだ記憶に新しいでしょうし、数か月前にやっと正式な婚約者になったばかりのストロベリー様を差し置いて、またポッと出の令嬢と、所謂そう言う仲だと見せつけているのですから、呆れられても当然ですわよね。
「メルはよほどシェインク王子に気に入られたと見える」
「気に入られそうな方を選びましたし、魅了効果のある香水を持たせておりますし、当然でございましょう」
わたくしはクスクスと笑います。
「魅了効果のある香水は闇の方で流したいのだが」
「申し訳ありませんが、ご覧の通り効果があり過ぎますので、流通させるのはいくら闇でも危険かと思いますわ」
「そうか」
「まあ、今回ご協力していただいたお礼に、在庫分はお渡しいたしますので、お好きにしていただいて結構ですわよ」
「そうか、ではありがたく頂いておく」
そんな話をしていると、三曲踊って気が済んだのか、ダンスホールから離れるシェインク様とメルさんの姿が視界に入り込みます。
シェインク様はメルさんの腰から手を離すことをしておらず、随分と独占欲が強いようですわね。
けれども、計画をもう一段階進めるためにはシェインク様がメルさんから離れていただく必要がございますので、国王陛下に視線を送ります。
国王陛下には、事前に今回の事についてお話を通してありますので、わたくしの視線に頷かれますと、侍従を呼び出していらっしゃいました。
その侍従が足早にシェインク様の元に行くと、耳元で何かを伝えています。
シェインク様は好機と考えたのか、メルさんを伴って国王陛下の下へ行こうとしましたが、それを侍従は制しているようです。
あくまでもメルさんはシェインク様のご学友ですものね、国王陛下の前に同伴することを拒絶されたのでしょう。
不服そうなシェインク様でしたが、国王陛下の方を見て、ため息を吐くと、メルさんの腰から手を離し、侍従と一緒に国王陛下の元に向かいました。
まるでそのタイミングを待っていたかのように、ストロベリー様がメルさんの方に駆けよっていきます。
「風魔法で、あちらの会話が聞こえるように致しますわね」
「頼む」
わたくしは風魔法を操り、メルさんの周辺の音声が聞こえるように致しました。
「なんのつもりよ!」
「え?」
「シェインクと三曲連続で踊るなんて、あたしに対して失礼だと思わないわけ?」
「だって、シェインク様が腰から手を離して下さらなくて……」
メルさんのその言葉に、ストロベリー様の顔が真っ赤になります。
「ふざけないで。どうせアンタが強請ったんでしょう! そうでなくちゃ、あたしと愛し合ってるシェインクが、あたしを差し置いて三曲連続で踊るなんてありえないわ。どうせ市井の出身でわからない振りでもしたんでしょう」
「三曲連続で踊る事に何か意味があるのですか?」
メルさん、流石は演技派ですわね。目を潤ませて、おどおどとストロベリー様に尋ねています。
「三曲連続で踊るってことは、夫婦か婚約者だっていう意味なのよ! 知ってたでしょう!」
「え!?」
今初めて知ったかのようなその反応、素晴らしいですわ、メルさん。
「なによとぼけちゃって! あたしを馬鹿にしてるの!?」
「そうだよメル様。万が一知らなかったからって、許される行いじゃないよ」
「コッチ様まで……、わたくし、本当に知らなくて、知っていたらシェインク様にちゃんと、ストロベリー様と踊るようにお願いいたしましたわ」
「っ! 馬鹿にして!」
「きゃっ」
丁度よく通りかかった給仕の持っている盆の上からワイングラスを取り上げると、真っ赤なワインが入ったままのグラスを、ストロベリー様がメルさんに投げつけました。
それは見事に命中して、胸元から腰まで真っ赤な染みが出来てしまいます。
濃い色のドレスなら染みも誤魔化せたかもしれませんが、生憎メルさんが今宵着ているドレスは、白銀の装飾品の少ないマーメイド型のドレスですので、ワインの染みが一層目立ちますわね。
「あ、ひ、酷い……。せっかくシェインク様から頂いたドレスですのに」
「なんですって!?」
「君、ドレスまでシェインク様に強請ったのかい? いくらなんでもひどすぎるんじゃないかな。婚約者や家族以外からもらったドレスを着てくるなんて」
「コッチ様の言う通りよ、馬鹿にするのもいい加減にして!」
バシーンと言う、乾いた音が聞こえてきます。
ストロベリー様が手にしていた扇子で、メルさんの頬を打ったのですわ。
さらに、ストロベリー様はメルさんを押し倒すと、馬乗りになり、扇子を持った手を再び高らかと掲げました。
「きゃああああああ!」
「だ、誰か。ストロベリー様をお止めして!」
ここぞとばかりに、周囲に待機していたわたくしのお友達たちが、騒ぎ始めます。
そうしますと、自然と視線が集まることになり、その騒ぎは離れたところに居たシェインク様のところまで届く事になりました。
騒ぎに気が付いたシェインク様が大慌てで、ストロベリー様の元に、いいえ、メルさんのもとにでしょうか? 駆けていきます。
「このっ。この!」
「痛いっ、申し訳ありません、イタっ。お止めください、ストロベリー様っ」
「うるさい、この売女が!」
バシーン、バシーンと乾いた音が響いて行きます。ストロベリー様が一方的に暴力をふるっているように見えますわね。
「やめろ!」
「離しっ、あ……シェインク」
人波を掻い潜ってやっと辿り着いたシェインク様が、ストロベリー様の手を掴んで止めます。
「メルに何をしているんだ、ストロベリー!」
「シェインク、違うのよこれはっ……。あ、あたしは悪くないんだからね。この女が悪いのよ」
「何を言っている、メルが泣いているじゃないか! それせっかく俺が贈ったドレスにワインの染みが出来ているし、今まさにストロベリーはメルに対して暴力をふるっていた!」
シェインク様は強引にストロベリー様の手を引き上げて、メルさんから体を引き離すと、邪魔だと言わんばかりに後方に捨て去るように、手を離しました。
バランスを崩したストロベリー様は、みじめにも床に倒れこんでしまいます。
シェインク様はメルさんに駆け寄ると、そっと抱き起し、打たれて傷付いた頬をそっと撫でておりますわね。
患部には不用意に触れない方がいいのですけれども、そのような常識もご存じないのでしょうか?
「メル、大丈夫か」
「大丈夫ですわシェインク様。あの、どうかストロベリー様をお怒りにならないで下さいませ、何も知らずにいたわたくしが悪いのでございます」
「こんな仕打ちをされてまで、何故庇うんだ。どう考えてもストロベリーが悪いだろう」
「いいえ、貴族の常識を良く学ばないまま、このような煌びやかな席に出席したわたくしが悪いのでございますわ」
「メルは数か月前まで市井で暮らしていたんだ。貴族の常識に疎くっても仕方がないじゃないか」
「ですが、婚約者でもない方に贈っていただいたドレスを纏って夜会に出たり、同じ殿方と三曲続けて踊るのは婚約者か夫婦という常識すらわたくしは知らなかったのです。皆様の反応から見るに、この事は最低限知っておくべき事のようですし、やはりわたくしが悪いのですわ」
「それはっ……」
ふふ、シェインク様が困っていらっしゃいますわね。
どちらも、メルさんが知らないということをいいことに外堀を埋めようと先走った行動にシェインク様が出た結果ですものね。
メルさんはポロポロと涙を流しながら、何度も自分が悪いのだと仰います。
「そうよ、その女が悪いのに、シェインクはどうしてその女を庇うの!?」
ストロベリー様の悲痛な声が、シンとした会場に響き渡ります。
「はい、流石はヒート様がお育てになった手駒ですわね」
わたくしはヒート様と共に、国王陛下の即位十周年記念の夜会に参加しておりました。
ヒート様は表向き、国内最大の商会の会長ですので、今回の夜会の招待状が届きました。まあ、もし来ないようでしたら、国王陛下にお願いして招待状を頂くだけなのですけれどもね。
わたくしは今、ヒート様専属の薬師として働いておりますので、今回はヒート様のパートナーとして参加致しました。
わたくしとヒート様の視線の先では、シェインク様がヒート様の送り込んだ手駒のメルさんと一緒に二曲目を踊り出すところでした。
二曲連続で踊ることは、この国では恋人関係であると、言っているようなものです。
ファーストダンスこそ、ストロベリー様と踊っておりましたけれども、これでは何の意味もありませんわね。
それとも、今度こそストロベリー様を正妃にして、メルさんを側室にするつもりなのでしょうか?
いいえ、そんなはずはありませんわ。メルさんからの報告では、シェインク様はメルさんを本気で愛してしまっているようですから、真っ直ぐで前科のあるシェインク様でしたら、絶対に婚約破棄を致しますわ。
それにほら、ストロベリー様がシェインク様とメル様が踊っているのを射殺さんばかりの視線で睨みつけていらっしゃいます。
ストロベリー様の隣にはコッチさんがいらっしゃいます。
今回、コッチさんにはストロベリー様を誘導する役目をお願いしておりますので、今もきっと、宥めつつもその怒りを正当化するような言葉を告げているに違いありません。
わたくしとヒート様はそれを離れた場所から高みの見物をしている状態でございます。
「モカ様。お久しぶりですわ」
「ご機嫌よう、モカ様。お戻り頂けて嬉しゅうございますわ」
魔法で髪の色を変えているとはいえ、顔の造作はいじっておりませんし、そもそも、今回ストロベリー様が激昂するような噂を流すよう、お願いするお手紙を送っておりましたので、わたくしのお友達たちが、わたくしを見つけるのは簡単だったのかもしれませんわね。
「ご機嫌よう、皆様。お久しぶりですわね。今回はご協力していただき、ありがとうございます」
わたくしが集まっていらっしゃった皆様を見て、そう言って微笑めば、皆様大したことはしていないと仰ってくださいました。
「それに、胸がすく思いでしたわ」
「本当にそうですわよね。人の不幸は蜜の味と申しますけれども、ストロベリー様の不幸はお名前も相まって甘露でございますわ」
「ふふ、皆様も中々に意地が悪くていらっしゃいますわね。けれども、仕上げはまだですので、最後まで気を引き締めなければいけませんわ」
わたくしがそう言えば、クスクスと皆様が笑い、もちろんだと頷いてくださいました。
あまり長く皆様がここに集まっていると、わたくしの正体が分かってしまいますので、一度解散していただきました。
「モカは男女関係なくモテるようだな」
「光栄なことですわよね」
「なあモカよ、何度も説いているが、考え直す気はないか?」
「申し訳ありません、ヒート様。この一件が終わりましたら、やはりわたくしは国境付近の森に帰ろうと思いますの」
「はあ、森の賢者の住まう場所というのは、そんなにも魅力的なのか?」
「何度かお話しさせていただいておりますけれども、魅力的と言いますか、落ち着く場所なのでございます」
わたくしの言葉に、ヒート様はため息を吐き出すとヤレヤレと首を振りました。
「俺の胸の病もすっかり良くなったし、確かに薬師として引き留めておくことはもうできないからな。しかし、組織の者も、この数か月でモカはただの薬師ではないと認めているぞ。本当に俺の後継者にならないか?」
繰り返される問いに、困った笑みをヒート様に向けます。
「ヒート様」
「はあ、意志は変わらないか」
「はい」
ヒート様は肩を竦めて、視線をシェインク様とメルさんに戻します。二人はなんと三曲連続で踊るようです。
三曲連続は夫婦もしくは婚約者でなければ踊ることありません。シェインク様ももちろんそのことはご存知でしょうから、これは暗に正妃にするのはメルさんだと、対外的にアピールしているつもりなのでしょうけれども、周囲の貴族からは呆れた視線を向けられていることに気が付いていないようですわね。
約一年前に、このわたくしと婚約破棄をした事は、貴族の間ではまだ記憶に新しいでしょうし、数か月前にやっと正式な婚約者になったばかりのストロベリー様を差し置いて、またポッと出の令嬢と、所謂そう言う仲だと見せつけているのですから、呆れられても当然ですわよね。
「メルはよほどシェインク王子に気に入られたと見える」
「気に入られそうな方を選びましたし、魅了効果のある香水を持たせておりますし、当然でございましょう」
わたくしはクスクスと笑います。
「魅了効果のある香水は闇の方で流したいのだが」
「申し訳ありませんが、ご覧の通り効果があり過ぎますので、流通させるのはいくら闇でも危険かと思いますわ」
「そうか」
「まあ、今回ご協力していただいたお礼に、在庫分はお渡しいたしますので、お好きにしていただいて結構ですわよ」
「そうか、ではありがたく頂いておく」
そんな話をしていると、三曲踊って気が済んだのか、ダンスホールから離れるシェインク様とメルさんの姿が視界に入り込みます。
シェインク様はメルさんの腰から手を離すことをしておらず、随分と独占欲が強いようですわね。
けれども、計画をもう一段階進めるためにはシェインク様がメルさんから離れていただく必要がございますので、国王陛下に視線を送ります。
国王陛下には、事前に今回の事についてお話を通してありますので、わたくしの視線に頷かれますと、侍従を呼び出していらっしゃいました。
その侍従が足早にシェインク様の元に行くと、耳元で何かを伝えています。
シェインク様は好機と考えたのか、メルさんを伴って国王陛下の下へ行こうとしましたが、それを侍従は制しているようです。
あくまでもメルさんはシェインク様のご学友ですものね、国王陛下の前に同伴することを拒絶されたのでしょう。
不服そうなシェインク様でしたが、国王陛下の方を見て、ため息を吐くと、メルさんの腰から手を離し、侍従と一緒に国王陛下の元に向かいました。
まるでそのタイミングを待っていたかのように、ストロベリー様がメルさんの方に駆けよっていきます。
「風魔法で、あちらの会話が聞こえるように致しますわね」
「頼む」
わたくしは風魔法を操り、メルさんの周辺の音声が聞こえるように致しました。
「なんのつもりよ!」
「え?」
「シェインクと三曲連続で踊るなんて、あたしに対して失礼だと思わないわけ?」
「だって、シェインク様が腰から手を離して下さらなくて……」
メルさんのその言葉に、ストロベリー様の顔が真っ赤になります。
「ふざけないで。どうせアンタが強請ったんでしょう! そうでなくちゃ、あたしと愛し合ってるシェインクが、あたしを差し置いて三曲連続で踊るなんてありえないわ。どうせ市井の出身でわからない振りでもしたんでしょう」
「三曲連続で踊る事に何か意味があるのですか?」
メルさん、流石は演技派ですわね。目を潤ませて、おどおどとストロベリー様に尋ねています。
「三曲連続で踊るってことは、夫婦か婚約者だっていう意味なのよ! 知ってたでしょう!」
「え!?」
今初めて知ったかのようなその反応、素晴らしいですわ、メルさん。
「なによとぼけちゃって! あたしを馬鹿にしてるの!?」
「そうだよメル様。万が一知らなかったからって、許される行いじゃないよ」
「コッチ様まで……、わたくし、本当に知らなくて、知っていたらシェインク様にちゃんと、ストロベリー様と踊るようにお願いいたしましたわ」
「っ! 馬鹿にして!」
「きゃっ」
丁度よく通りかかった給仕の持っている盆の上からワイングラスを取り上げると、真っ赤なワインが入ったままのグラスを、ストロベリー様がメルさんに投げつけました。
それは見事に命中して、胸元から腰まで真っ赤な染みが出来てしまいます。
濃い色のドレスなら染みも誤魔化せたかもしれませんが、生憎メルさんが今宵着ているドレスは、白銀の装飾品の少ないマーメイド型のドレスですので、ワインの染みが一層目立ちますわね。
「あ、ひ、酷い……。せっかくシェインク様から頂いたドレスですのに」
「なんですって!?」
「君、ドレスまでシェインク様に強請ったのかい? いくらなんでもひどすぎるんじゃないかな。婚約者や家族以外からもらったドレスを着てくるなんて」
「コッチ様の言う通りよ、馬鹿にするのもいい加減にして!」
バシーンと言う、乾いた音が聞こえてきます。
ストロベリー様が手にしていた扇子で、メルさんの頬を打ったのですわ。
さらに、ストロベリー様はメルさんを押し倒すと、馬乗りになり、扇子を持った手を再び高らかと掲げました。
「きゃああああああ!」
「だ、誰か。ストロベリー様をお止めして!」
ここぞとばかりに、周囲に待機していたわたくしのお友達たちが、騒ぎ始めます。
そうしますと、自然と視線が集まることになり、その騒ぎは離れたところに居たシェインク様のところまで届く事になりました。
騒ぎに気が付いたシェインク様が大慌てで、ストロベリー様の元に、いいえ、メルさんのもとにでしょうか? 駆けていきます。
「このっ。この!」
「痛いっ、申し訳ありません、イタっ。お止めください、ストロベリー様っ」
「うるさい、この売女が!」
バシーン、バシーンと乾いた音が響いて行きます。ストロベリー様が一方的に暴力をふるっているように見えますわね。
「やめろ!」
「離しっ、あ……シェインク」
人波を掻い潜ってやっと辿り着いたシェインク様が、ストロベリー様の手を掴んで止めます。
「メルに何をしているんだ、ストロベリー!」
「シェインク、違うのよこれはっ……。あ、あたしは悪くないんだからね。この女が悪いのよ」
「何を言っている、メルが泣いているじゃないか! それせっかく俺が贈ったドレスにワインの染みが出来ているし、今まさにストロベリーはメルに対して暴力をふるっていた!」
シェインク様は強引にストロベリー様の手を引き上げて、メルさんから体を引き離すと、邪魔だと言わんばかりに後方に捨て去るように、手を離しました。
バランスを崩したストロベリー様は、みじめにも床に倒れこんでしまいます。
シェインク様はメルさんに駆け寄ると、そっと抱き起し、打たれて傷付いた頬をそっと撫でておりますわね。
患部には不用意に触れない方がいいのですけれども、そのような常識もご存じないのでしょうか?
「メル、大丈夫か」
「大丈夫ですわシェインク様。あの、どうかストロベリー様をお怒りにならないで下さいませ、何も知らずにいたわたくしが悪いのでございます」
「こんな仕打ちをされてまで、何故庇うんだ。どう考えてもストロベリーが悪いだろう」
「いいえ、貴族の常識を良く学ばないまま、このような煌びやかな席に出席したわたくしが悪いのでございますわ」
「メルは数か月前まで市井で暮らしていたんだ。貴族の常識に疎くっても仕方がないじゃないか」
「ですが、婚約者でもない方に贈っていただいたドレスを纏って夜会に出たり、同じ殿方と三曲続けて踊るのは婚約者か夫婦という常識すらわたくしは知らなかったのです。皆様の反応から見るに、この事は最低限知っておくべき事のようですし、やはりわたくしが悪いのですわ」
「それはっ……」
ふふ、シェインク様が困っていらっしゃいますわね。
どちらも、メルさんが知らないということをいいことに外堀を埋めようと先走った行動にシェインク様が出た結果ですものね。
メルさんはポロポロと涙を流しながら、何度も自分が悪いのだと仰います。
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