ループしますか、不老長寿になりますか?
011
スコッチ様の所に来て一週間、毎日のように掃除をし、時に庭仕事をし、時に森の中に狩りに出かけ、時に薬の調合のお手伝いをして過ごしました。
「そろそろ、商隊が来る頃合いだな」
スコッチ様のその言葉に、わたくしは自分の意識を森の隅々まで広げていきます。
これは結界魔術の応用ですわね。魔力は経験値に影響を受けるのか、ループを繰り返す度に魔力は増えていきました。
その増えた魔力を使って魔法を使うのですから、わたくしの結界魔法は広い範囲まで広げることが出来るのです。
隣国との境目にあるこの森一つを丸々囲えるぐらいの結界は張ることが出来ますのよ、結構すごいと思いません?
まあ、スコッチ様も森全体に結界を張るぐらい容易く出来ますけれどもね。
そして意識を巡らせれば、確かにこの家に近づいてくる複数人の気配がありました。
見知った気配に、わたくしはほっと息を吐き出します。
これで小麦や鶏、牛の手配をしていただくことが出来ます。
小麦を家庭菜園に植えることも考えたのですが、既に様々な薬草や野菜で場所を占められており、小麦を植える場所はありませんでした。
やはり、小麦は買うのが一番ですわね。
トロティー様が扱う商品でしたら確かなものでしょうしね。
……あ、でも待ってください。今回はいつも通りの荷でやってくるんですのよね? その場合、小麦は当然積まれていませんわ。
となると、小麦が手に入るのは三ヶ月後でしょうか……。
ああ、絶望ですわ。それまで主食がマッシュポテトだなんて。
鶏も牛も三ヶ月後になるでしょうし、まともな食事がとれるようになるのは三ヶ月後ですか……。
はあ、なんとか早めに分隊でもいいので回して下さらないでしょうか?
そんな風に考えていると、家の外が賑やかになってきて、家のドアがノックされました。
「はーい」
「え!?」
まず対応に出たのが私だったからでしょうか、トロティー様は目を真ん丸くして驚いていらっしゃいます。
「君は? スコッチ殿の弟子か何かか?」
「まあ、そんなところですわ。どうぞ、トロティー様」
「俺の名前をなぜ知って? スコッチ殿から聞いていたのか?」
「ふふ」
わたくしは意味深な笑みを浮かべて、トロティー様を中に案内いたしました。
「すごい! あの汚部屋がこんなに清潔に整えられている!」
そうでしょうとも、わたくし頑張っておりますもの。
スコッチ様ってばすぐに、物をあっちこっちに置いたり、ゴミをそのままになさるから大変なんですのよ。
「これは君が?」
「ええ、毎日掃除を欠かしておりませんわ」
「弟子というよりも家政婦としての仕事の方が多そうだな」
「まあ、否定は出来ませんわね」
わたくしは苦笑を浮かべると、綺麗に磨き上げられた椅子をトロティー様に勧めました。
「ああ、来たか。トロティー」
「やあスコッチ殿。いいお弟子さんを持ったようだな」
「弟子と言うか、……まあ、そんなもんだ」
「今お茶をお持ちいたしますわね」
わたくしはそう言って台所に向かって準備していたお茶を持って、すぐに作業部屋に戻ります。
「どうぞ、トロティー様。こんな森の奥まで来てお疲れでしょうから、疲れの取れるハーブティーをご用意いたしましたわ」
「ここで水以外を飲めるとは思わなかった」
そうでしょうね。スコッチ様がそんな気が利く方とは思えませんもの。
自分用には薬湯を用意するぐらいの事はしますのにね。
「それでな、トロティー、今回は色々と注文があるんだ」
「なんだ? そっちのお嬢さん」
「モカと申します」
「モカちゃんの普段着でも注文する気か?」
「それには及びませんわ。服は手持ちの物で十分ですので。私が欲しいのは、小麦と鶏と牛、それと他調味料全般ですわ」
「は?」
「豊かな食生活の為に、是非とも仕入れて欲しいのです」
「だ、そうだ」
わたくしがにっこりと笑みを浮かべながら言うと、スコッチ様は少しゲンナリとした感じに投げやりに仰いました。
トロティー様はそんなわたくし達を交互に見ると、事情を察したのか、すぐさま了承してくださいました。
「モカちゃんも苦労してるんだな」
「ええ、毎日マッシュポテトでは流石に飽きてしまいますし、野菜と肉魚だけでは作れる物も限られてしまいますもの」
「なるべく早く手配して届けるように分隊の奴に手を回しておこう」
「ありがとうございます」
わたくしはその言葉に、内心「やった!」とガッツポーズを取ります。まあ、表面上はにこにこと笑みを浮かべているだけですけれどもね。
「モカの件はひとまず以上だな。それで、今回の売り上げはどうだった?」
「いつも通り完売だ。これが手数料を引いた売り上げだ」
そう言って、トロティー様は麻袋をテーブルの上に置きました。
「モカ、用意しておいた商品を持ってきてくれるか?」
「わかりましたわ、スコッチ様」
わたくしは、作業部屋の隅に積まれている箱を風魔法で浮かばせると、トロティー様の傍に積み直します。
「モカちゃんも魔法を使えるのかい?」
「ええ、まあ」
わたくしはにこにことした表情を崩さないまま返事をいたしました。
「ふむ……」
そんなわたくしを値踏みするようにトロティー様が見てきますが、わたくしはにこにことした笑みを崩すことはありませんでした。
笑みを浮かべるぐらい造作もない事ですもの。
まあ、審美眼のあるトロティー様なら、この笑みが真実なのか偽物なのか簡単に見破れるでしょうね。
ですので、わたくしのこの笑みは真実の物ですわ。
わたくしの中では、古い知り合いにまた会えた事と、予定よりも早く希望したものが手に入るという喜びの笑みです。
「じゃあ、今回の品物を見せてもらうぜ」
「好きにしろ」
スコッチ様はわたくしの淹れたハーブティーを飲みながら暢気に仰います。
トロティー様は箱の中身を一つずつ確認していますので、わたくしはその背中を懐かしい感覚で眺めます。
いつかの人生の時にもこうやって何度もこの家にやって来ては同じように検分なさっておいででしたよね。
自分の目で見たものでなければ、信じることが出来ない。と言うわけではないのですが、スコッチ様の商品に関してだけは、必ずトロティー様が検分をなさっておいででした。
「オッケーだ。相変わらずの良品ばかりだな」
「そうか。それと、今回分の薬だ」
「ああ、代金はいつも通りでいいか?」
「構わない。ただし、次回からはお前に薬を卸すのは私ではなくモカになる。お前の母親の病に効く薬の調合が出来るそうだ」
「なっ!」
またトロティー様が目を真ん丸くして驚きました。今度は目が飛び出しそうなほど驚いていらっしゃいます。
「モカちゃんが作るっていうのか? スコッチ殿が保証するなら腕は確かなんだろうが、お袋の病に効く薬を本当に調合できるのか?」
「ええ、トロティー様のお母様のご病気は、お医者様は胸の病と大雑把に仰っているようですが、正確には肺に水が溜まって、呼吸がし辛くなってしまうという病なのです。ですので、その病に効く薬を調合いたします。今回は生憎時間がありませんでしたので間に合いませんでしたが、次回、三か月後にいらっしゃる頃には完成しておりますわ。それを二年ほど飲み続ければ病は完治いたします」
「どうして会ったこともないお袋の病を正確に当てることが出来るんだ?」
「お会いしたこと、ございますのよ」
「は?」
「今ではない人生で、わたくしは確かにトロティー様のお母様にお会いして、同じように薬を調合し、病を完治させました」
「今ではない人生?」
わたくしの言葉に、トロティー様が首を傾げます。
わたくしは、五年という人生をループしていることをトロティー様にお伝えすべきか迷いましたが、信じていただくためにはお話すべきだと思い、口を開きました。
「わたくし、実は同じ人生をループしているのでございます」
「は?」
「信じられないかもしれませんけれど事実ですわよ?」
わたくしは、にっこりと笑みを浮かべて口を開きました。
「そろそろ、商隊が来る頃合いだな」
スコッチ様のその言葉に、わたくしは自分の意識を森の隅々まで広げていきます。
これは結界魔術の応用ですわね。魔力は経験値に影響を受けるのか、ループを繰り返す度に魔力は増えていきました。
その増えた魔力を使って魔法を使うのですから、わたくしの結界魔法は広い範囲まで広げることが出来るのです。
隣国との境目にあるこの森一つを丸々囲えるぐらいの結界は張ることが出来ますのよ、結構すごいと思いません?
まあ、スコッチ様も森全体に結界を張るぐらい容易く出来ますけれどもね。
そして意識を巡らせれば、確かにこの家に近づいてくる複数人の気配がありました。
見知った気配に、わたくしはほっと息を吐き出します。
これで小麦や鶏、牛の手配をしていただくことが出来ます。
小麦を家庭菜園に植えることも考えたのですが、既に様々な薬草や野菜で場所を占められており、小麦を植える場所はありませんでした。
やはり、小麦は買うのが一番ですわね。
トロティー様が扱う商品でしたら確かなものでしょうしね。
……あ、でも待ってください。今回はいつも通りの荷でやってくるんですのよね? その場合、小麦は当然積まれていませんわ。
となると、小麦が手に入るのは三ヶ月後でしょうか……。
ああ、絶望ですわ。それまで主食がマッシュポテトだなんて。
鶏も牛も三ヶ月後になるでしょうし、まともな食事がとれるようになるのは三ヶ月後ですか……。
はあ、なんとか早めに分隊でもいいので回して下さらないでしょうか?
そんな風に考えていると、家の外が賑やかになってきて、家のドアがノックされました。
「はーい」
「え!?」
まず対応に出たのが私だったからでしょうか、トロティー様は目を真ん丸くして驚いていらっしゃいます。
「君は? スコッチ殿の弟子か何かか?」
「まあ、そんなところですわ。どうぞ、トロティー様」
「俺の名前をなぜ知って? スコッチ殿から聞いていたのか?」
「ふふ」
わたくしは意味深な笑みを浮かべて、トロティー様を中に案内いたしました。
「すごい! あの汚部屋がこんなに清潔に整えられている!」
そうでしょうとも、わたくし頑張っておりますもの。
スコッチ様ってばすぐに、物をあっちこっちに置いたり、ゴミをそのままになさるから大変なんですのよ。
「これは君が?」
「ええ、毎日掃除を欠かしておりませんわ」
「弟子というよりも家政婦としての仕事の方が多そうだな」
「まあ、否定は出来ませんわね」
わたくしは苦笑を浮かべると、綺麗に磨き上げられた椅子をトロティー様に勧めました。
「ああ、来たか。トロティー」
「やあスコッチ殿。いいお弟子さんを持ったようだな」
「弟子と言うか、……まあ、そんなもんだ」
「今お茶をお持ちいたしますわね」
わたくしはそう言って台所に向かって準備していたお茶を持って、すぐに作業部屋に戻ります。
「どうぞ、トロティー様。こんな森の奥まで来てお疲れでしょうから、疲れの取れるハーブティーをご用意いたしましたわ」
「ここで水以外を飲めるとは思わなかった」
そうでしょうね。スコッチ様がそんな気が利く方とは思えませんもの。
自分用には薬湯を用意するぐらいの事はしますのにね。
「それでな、トロティー、今回は色々と注文があるんだ」
「なんだ? そっちのお嬢さん」
「モカと申します」
「モカちゃんの普段着でも注文する気か?」
「それには及びませんわ。服は手持ちの物で十分ですので。私が欲しいのは、小麦と鶏と牛、それと他調味料全般ですわ」
「は?」
「豊かな食生活の為に、是非とも仕入れて欲しいのです」
「だ、そうだ」
わたくしがにっこりと笑みを浮かべながら言うと、スコッチ様は少しゲンナリとした感じに投げやりに仰いました。
トロティー様はそんなわたくし達を交互に見ると、事情を察したのか、すぐさま了承してくださいました。
「モカちゃんも苦労してるんだな」
「ええ、毎日マッシュポテトでは流石に飽きてしまいますし、野菜と肉魚だけでは作れる物も限られてしまいますもの」
「なるべく早く手配して届けるように分隊の奴に手を回しておこう」
「ありがとうございます」
わたくしはその言葉に、内心「やった!」とガッツポーズを取ります。まあ、表面上はにこにこと笑みを浮かべているだけですけれどもね。
「モカの件はひとまず以上だな。それで、今回の売り上げはどうだった?」
「いつも通り完売だ。これが手数料を引いた売り上げだ」
そう言って、トロティー様は麻袋をテーブルの上に置きました。
「モカ、用意しておいた商品を持ってきてくれるか?」
「わかりましたわ、スコッチ様」
わたくしは、作業部屋の隅に積まれている箱を風魔法で浮かばせると、トロティー様の傍に積み直します。
「モカちゃんも魔法を使えるのかい?」
「ええ、まあ」
わたくしはにこにことした表情を崩さないまま返事をいたしました。
「ふむ……」
そんなわたくしを値踏みするようにトロティー様が見てきますが、わたくしはにこにことした笑みを崩すことはありませんでした。
笑みを浮かべるぐらい造作もない事ですもの。
まあ、審美眼のあるトロティー様なら、この笑みが真実なのか偽物なのか簡単に見破れるでしょうね。
ですので、わたくしのこの笑みは真実の物ですわ。
わたくしの中では、古い知り合いにまた会えた事と、予定よりも早く希望したものが手に入るという喜びの笑みです。
「じゃあ、今回の品物を見せてもらうぜ」
「好きにしろ」
スコッチ様はわたくしの淹れたハーブティーを飲みながら暢気に仰います。
トロティー様は箱の中身を一つずつ確認していますので、わたくしはその背中を懐かしい感覚で眺めます。
いつかの人生の時にもこうやって何度もこの家にやって来ては同じように検分なさっておいででしたよね。
自分の目で見たものでなければ、信じることが出来ない。と言うわけではないのですが、スコッチ様の商品に関してだけは、必ずトロティー様が検分をなさっておいででした。
「オッケーだ。相変わらずの良品ばかりだな」
「そうか。それと、今回分の薬だ」
「ああ、代金はいつも通りでいいか?」
「構わない。ただし、次回からはお前に薬を卸すのは私ではなくモカになる。お前の母親の病に効く薬の調合が出来るそうだ」
「なっ!」
またトロティー様が目を真ん丸くして驚きました。今度は目が飛び出しそうなほど驚いていらっしゃいます。
「モカちゃんが作るっていうのか? スコッチ殿が保証するなら腕は確かなんだろうが、お袋の病に効く薬を本当に調合できるのか?」
「ええ、トロティー様のお母様のご病気は、お医者様は胸の病と大雑把に仰っているようですが、正確には肺に水が溜まって、呼吸がし辛くなってしまうという病なのです。ですので、その病に効く薬を調合いたします。今回は生憎時間がありませんでしたので間に合いませんでしたが、次回、三か月後にいらっしゃる頃には完成しておりますわ。それを二年ほど飲み続ければ病は完治いたします」
「どうして会ったこともないお袋の病を正確に当てることが出来るんだ?」
「お会いしたこと、ございますのよ」
「は?」
「今ではない人生で、わたくしは確かにトロティー様のお母様にお会いして、同じように薬を調合し、病を完治させました」
「今ではない人生?」
わたくしの言葉に、トロティー様が首を傾げます。
わたくしは、五年という人生をループしていることをトロティー様にお伝えすべきか迷いましたが、信じていただくためにはお話すべきだと思い、口を開きました。
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