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ループしますか、不老長寿になりますか?

茄子

010

 あの時のわたくしは、とにかく修道院や領地に幽閉されたり、年上の貴族の後妻にさせられたり、他国に人質同然に嫁がされたくないばっかりに、着の身着のままで王都を飛び出しました。
 あの時のわたくしは、余程切羽詰まっていたのでしょう、王都の関所を護る門番の方もあの時は深く詮索せず、わたくしを王都の外に出してくださいました。
 それから私は、近くの村に行くという方の馬車に乗せてもらい、村に行きましたが、特に指針があったわけではありませんでしたので途方に暮れていた所、さらに遠くの村に交易に行くという馬車に乗って、とにかく王都から離れようとしていました。
 そうして辿り着いたのが、国境の近くにある村でした。
 そこで、わたくしはスコッチ様と出会ったのです。

『君、大丈夫か?』

 初めてかけられたその言葉に、わたくしは精神的にも肉体的にも疲労していたせいでしょうか、思わず泣いてしまったのでございます。
 泣きながら、わたくしは王都であったことを話しました。そして、あのまま王都に居たら修道院に行くか、領地に幽閉されるか、自分の意志にそぐわない所に嫁がされてしまうということを説明いたしました。
 そうすると、スコッチ様はそのままわたくしを自分の家に招き入れてくださいました。

『自分の家だと思って好きに過ごしてくれて構わないよ』
『よろしいのですか?』
『もちろん』

 そう言って仮面を取ったスコッチ様に、思わず見惚れてしまったのは仕方がない事だったのではないでしょうか。
 まあ、その後に出された食事に、一瞬湧き上がった恋心も見事に砕かれたのは言うまでもありませんわ。
 出されたのは、野菜スティックに塩を振りかけた物と水でした。

『え、これが食事ですか?』
『そうだけど?』

 その言葉にわたくしは絶句いたしました。
 馬車でお世話になった方々に頂いた食事は、質素ながらも、パンとおかずがありました。
 この人は食事がなっていない! と、そう思わず眉間にしわをよせてしまいますと、スコッチ様はなにかおかしなところでもあるのかい? とでも言いたそうな目で見ていらっしゃったのです。

『こんなもの、食事とはいえませんわ』
『え、十分食事だろう?』

 あの時のショックは未だに忘れることはできません。
 スコッチ様は胃が満たされれば、それでいいという考えの持ち主の様で、味や質などは関係ないという考えのようでした。
 そんなスコッチ様の元に残り続けたのは、一目惚れをしてしまったということもありましたが、他に行く当てもなかったことと、スコッチ様の食生活をどうにかしようと思っての事でした。
 とはいえ、わたくしも食事等、作ったことが無く、スコッチ様の持っている書籍の中からやっと見つけ出した料理本を見て、試行錯誤を繰り返して、食べられるレベルに持って行くのには一年以上かかってしまいました。
 スコッチ様は、料理なんて薬の調合と同じようなものなのだから、と並行して薬の調合方法も教えてくださるようになりました。
 それから十回ほどのループ人生は、スコッチ様の所に入り浸って、料理と薬師としての腕を磨きました。
 まあ、料理の腕はあまり上がりませんでしたが、薬師としての腕はめきめきと上がりました。
 もう教えることが無いと言われた次のループから、私はいろいろな事にチャレンジしようと、様々な職業に就くようになりました。
 剣技を覚えるために、隣国の騎士団に入る事十数回、体力をつけるまでは時間がかかりますが、技だけは経験から覚えておりますので、手数だけはどんどんと増えていきましたし、人の気配を察することが出来る様になったり、咄嗟に反応することは出来るようになったりも致しました。
 騎士の修行にそれなりに満足した次は、侍女として様々な国の貴族に仕えることにいたしました。
 王族教育で培った語学が役に立ちました。
 他国のマナーも学んでおりましたので、貴族のご令嬢の手ほどきも出来ましたのよ。
 そうやって、色々とまともな職業に就き続けて、ふと冒険者になってみようと思い立ち、冒険者になったりもいたしました。
 冒険者というのは完全に実力主義でございますので、初めはわたくしも苦労を致しましたが、何度も繰り返してコツを覚えて、五年の間にBランクまで行くことが出来るようになりましたのよ。
 Bランクというのは一人で、ワイバーンを狩ることが出来るレベルですわね。
 そうして、冒険者をした後は、裏稼業にも手を染めました。
 そこで判明したのは、バルサミコ王国にも闇はあったということです。まあ、そうでもなければ国は成り立ちませんわよね。
 わたくしは裏から手を回して、お父様を追い落としたりも致しました。復讐したかったのかと聞かれれば、そうだったのかもしれないとしか、答えることが出来ませんわね。
 シェインク様とストロベリー様は、わたくしが何もしなくても、勝手に凋落して居りましたので、興味が湧きませんでした。
 ああ、でも一度だけ、わたくしが手を出したことがありますわね。
 あの時はストロベリー様がシェインク様以外の方と恋仲にあるという噂が広まっており、そのせいで二人の仲が冷え切っているということを聞いて、わたくしにあのようなことをしたくせに、と思って思わず手を出してしまったのですよね。
 まあ、結果は皆様がご想像しているとおりかもしれませんが、よく物語に出てくるざまぁという物になったという感じでございますね。
 ストロベリー様の恋仲になったという方は、所謂こちら側、闇の部類の者でしたのでそれも利用させていただきました。
 なぜ闇の部類の者が、ストロベリー様に近づいていたかと申しますと、シェインク様を暗愚の王として持ち上げようとする派閥が生じていたため、当時の王太子様が国の暗部を使い徹底的にシェインク様を貶めることにしたのです。
 ですので、わたくしとは利害が一致し、わたくしは王太子様と結託してシェインク様とストロベリー様を陥れました。
 そうして最後に二人の前に姿を現し、全ての種明かしをして差し上げたのです。
 あの時のシェインク様とストロベリー様の顔と言ったら、今思い出しても笑いがこみ上げてきますわね。
 ストロベリー様は最期まで、主人公は自分なのにこんな扱いされるのはおかしいと叫んでおりましたわね。
 あの時は意味が分かりませんでしたけれども、今回のループで、ストロベリー様が夢見るイカレ頭なご令嬢だということが分かりましたわね。
 まあ、それでいったら、あの時のわたくしは、正しく悪役でございました。
 勝ったのはわたくしですけれどもね。
 そんな風に何度も闇に身を置いたからでしょうか、わたくしは元々使えていた光属性魔法の他にも、闇属性魔法を使えるようになったのです。
 そこで、わたくしは魔法という物に興味を持ち、そこから後のループはしばらく魔法の修行に明け暮れました。
 おかげで全属性の魔法と生活魔法が無詠唱で出来るようになりました。
 そして、今回の人生になったというわけです。
 いかかですか? 中々に数奇な人生を送って来たと思いますわ。
 まあ、どの人生も五年というタイムリミット付きでしたので、同じ職業に何度も就かなくては、極めることが出来なかったのですけれどもね。
 ですので、今回は、今回こそは二十歳以上の人生を歩みたいと思ったのですが、魔族との契約ですか。
 難しいですわね。
 五百年も生きたいわけではありませんし……。
 ああでも、わたくしが魔族と契約をして不老不死不老長寿?を得ることが出来たら、スコッチ様はお一人で寂しく過ごすことは無くなるのではないでしょうか?
 ああ、でも確かどなたかは存じませんが、スコッチ様には魔族の友人がいらっしゃるのでしたね。
 お一人で寂しい思いをしているわけではないのでしたね。
 さて、魔族の方とわたくしは会っているのでしょうか?
 魔族にとって五年の月日など一瞬の事でしょうし、その間スコッチ様の元を訪れていなければ、お会いしておりませんわね。
 とにかく、わたくしは初めて一人で王都を抜け出した時にスコッチ様に出会っていなければ、今のわたくしはなかったと言っても過言ではありません。
 その点では、スコッチ様に感謝してもしきれませんわね。
 ……でも、よくよく考えたら、ループ当初のわたくしは、今よりももっと純粋で、真っ直ぐだったように思います。
 ループを重ねたせいで達観してしまっていると言うのもありますけれども、このようにひねくれた性格になったのは、スコッチ様がきっかけとも言えますわね。
 まあ、今の性格に文句があるわけではございませんので、よろしいのですけれどもね。

『モカ、忘れてはいけないよ。私はいつでもモカの味方だ』

 いつかの人生で、スコッチ様がそうおっしゃってくださったことがありました。
 何がきっかけだったかは忘れてしまいましたが、そのお言葉だけは覚えております。
 だからでしょうか?
 こうして再びスコッチ様の元を訪れたのは……。
 確かに、スコッチ様はいつでもわたくしの味方でいらっしゃいました。
 闇社会に身を置いていた時にお会いした時も、わたくしの話を親身に聞いてくださいました。
 まあ、五百年も生きていますし、死のうとしても死ねない体なのですから、わたくしのような小娘のことなど、一時の余興のように思っていらっしゃった可能性がありますけれどもね。
 けれども今回の人生では、がっちり組み込ませていただきました。
 魔族との契約の件も、スコッチ様はきっとわたくしの不利にならない様に協力してくださるに違いありません。
 なんだかんだいって、スコッチ様はお優しいですからね。
 そんなスコッチ様が、わたくしは好きですわよ、恋愛感情ではなく、わたくしの勝手ではありますが、親を慕うような情愛を持っております。

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