ループしますか、不老長寿になりますか?
005
朝の騒動を終え、午前の授業を終えて昼食をお友達と頂いていると、珍しくストロベリー様がお一人でわたくし達の所にいらっしゃいました。
「モカ様、シェインク様を解放して差し上げてください」
「は?」
いきなり何を言い出すのでしょうか、この娘は。
今回のループは本当に今までに無いパターンが多いですわね。
「婚約破棄を言い渡されたのです。いくら未練があるからって、国王陛下まで巻き込んで婚約を続行するなんて卑怯です」
「何のことです?」
「ですから」
「私は婚約破棄を受け入れましたわよ? 国王陛下には今後私の人生を自由にする権利を頂いただけですわ。何か勘違いなさっているのではなくて?」
「だって、モカ様はシェインク様の事を愛していらっしゃるのでしょう?」
「いいえ」
「へ?」
わたくしの即答に、シェインク様と同じようにストロベリー様が間の抜けた顔をなさいます。
「どうしてそんな結論に辿り着きますの? わたくしとシェインク様の間に有ったのはせいぜい友愛ですわよ。まあ、兄妹のような感覚ですわよね。それに、わたくしはストロベリー様がシェインク様の側室になることに、反対など致しませんわよ? なのに、どうしてわざわざ虐めなどしなければいけませんの?」
「それは、そういうものだから」
「は?」
「……どうしてちゃんとやってくれないんですか?」
ストロベリー様の言葉に首を傾げます。
「だって、物語ではあたしは主人公で、モカ様は悪役じゃなくちゃいけないんです」
…この娘、頭がおかしいのではないでしょうか?
主人公とか悪役とか、物語の読みすぎなのでは?
「ちなみに、そうおっしゃる根拠は?」
「あたしは光の魔法が使えます。そういう女の子は主人公だって決まっているんです」
「……そうですか」
他に何と答えろと? ちなみに、光魔法ならわたくしも使えますがなにか?
ほら、わたくしが何も言わない様に視線で制していたお友達も、呆れた様な表情を浮かべているではありませんか。
「ストロベリー様、童のような事を仰っていないで、婚約者になったシェインク様の所に行かれたら如何ですか?」
「……そうやって負け惜しみを言うんですね」
そう言ってこの場を去っていくストロベリー様の背中を見て、思わずため息を吐き出しそうになるのをこらえて、シェフの作ったサンドイッチを咀嚼いたしました。
「一体今のは何だったのでしょうか?」
「意味が分かりませんわ、モカ様大丈夫ですか?」
皆様が心配して声をかけてくれます。
「ええ、大丈夫ですわ。それにしても、ストロベリー様は随分と思い込みが激しいみたいですわね。物語の中の主人公に自分を重ねているのでしょうか?」
ループしているとも思えませんし、あれが素なのだとしたら、シェインク様が王太子になることはまず無理ですわね。
そもそも、ストロベリー様は男爵令嬢、後ろ盾にはなりませんわ。今回の件で、ストロベリー様を養子にしてまで、シェインク様と縁を繋ぎたいと思う家もそうそうないでしょうしね。
「そう言えば、パーティーにいらっしゃっていたご来賓の方々を放って置いてしまいましたが、その後は大丈夫でしたの? 国王陛下まで私の方にいらっしゃったでしょう?」
わたくしの問いかけに皆さんが視線を合わせて苦笑を浮かべます。
まあ、なんとなく察することは出来ますが、一応聞いておきませんとね。
「その、ストロベリー様がモカ様に虐められたと訴えて、ご来賓の方々が呆れた様にそれを見ていらっしゃいましたわね」
「ええ、なんといってもご来賓の方々は皆様モカ様の普段の行いをご存知ですもの、そのようなことをしないと分かっていらっしゃいますわ」
まあ、諸外国からのご来賓の方々といっても、見知った方々ですものね、そうなりますわよね。
けれども、そうなりますとシェインク様はますます王太子の座から遠のいてしまいますわね。
たかが男爵令嬢ごときを御せないどころか、その甘言に乗せられるような方を王太子になど据えることなどできませんもの。
幸い国王陛下には他にも三人の王子がいらっしゃいますので、その中から一番優秀な方を選べばいいのですから。
食後のお茶を頂いていると、今度はストロベリー様を連れてシェインク様がいらっしゃいました。
本当に、今回の人生は珍しいことのオンパレードですわね。
「まあ、シェインク様。ストロベリー様を連れてまで、何かご用事ですか?」
「お前達、ストロベリーを虐めたそうだな」
は?
「泣きながら俺の所にやって来たぞ!」
「虐めてなどおりませんが?」
「嘘を吐くな!」
ああ、本当に面倒くさい。
「嘘ではございませんわよ? むしろ、ストロベリー様の誤解を解いて差し上げたのですわ」
「誤解だと?」
「ええ、私がシェインク様を愛しているという誤解を解いて差し上げたのですわ。それと、ストロベリー様が随分と物語に傾倒しているようなので、それをご指摘して差し上げたのですわ」
「どういうことだ?」
「ご自分の事を主人公とおっしゃったり、わたくしの事を悪役だとおっしゃったり、夢物語を仰っておいででしたわ」
わたくしの言葉に、シェインク様がストロベリー様を見ますと、ストロベリー様は目に涙を浮かべて、シェインク様を見つめていらっしゃいました。
今のどこに、泣く要素があったのでしょうか?
ストロベリー様の思考回路は理解できませんわね。
ループを繰り返して、変人と呼ばれる方々にもお会いしましたが、ストロベリー様のような方には初めてお会いしました。
そう言えば、いつかの人生で人は思い込みで何とでもなると言っていた方がいましたわね。
あの方は、騎士の修行中にその言葉を使って、自分を追い込んでいらっしゃいましたが、ストロベリー様は別方向に思い込みが激しいですわ。
「なっ泣くな、ストロベリー。俺は君がそんな妄想に囚われているなんて思っていないからな!」
「シェインク様っ」
なんなんですか、この三文芝居。
「あの、いちゃつきたいのでしたら他所でやっていただけますか? わたくし達は今昼食後のお茶を楽しんでいる所ですので」
わたくしの言葉に、ストロベリー様がぶわっと涙をこぼしました。
「ひどい! そうやってあたしを見下して虐めるんですね!」
何を言ってるんでしょうね、この頭のイカレタ娘は。
「今のどこが虐めだと?」
「立派な虐めです。あたしを迫害したじゃないですか! あたしが男爵令嬢だからって、そうやって邪険に扱うんですね!」
「……何を言っても無駄なようですわね。シェインク様、ストロベリー様を連れてここから立ち去ったほうが、お互いの精神的安定のためだと思いませんか?」
「ふんっ。言われなくてもそうする! 行こう、ストロベリー」
そう言って立ち去っていく二人の背中を見て、わたくしとお友達は思わずため息を吐きそうになりました。
「モカ様、シェインク様を解放して差し上げてください」
「は?」
いきなり何を言い出すのでしょうか、この娘は。
今回のループは本当に今までに無いパターンが多いですわね。
「婚約破棄を言い渡されたのです。いくら未練があるからって、国王陛下まで巻き込んで婚約を続行するなんて卑怯です」
「何のことです?」
「ですから」
「私は婚約破棄を受け入れましたわよ? 国王陛下には今後私の人生を自由にする権利を頂いただけですわ。何か勘違いなさっているのではなくて?」
「だって、モカ様はシェインク様の事を愛していらっしゃるのでしょう?」
「いいえ」
「へ?」
わたくしの即答に、シェインク様と同じようにストロベリー様が間の抜けた顔をなさいます。
「どうしてそんな結論に辿り着きますの? わたくしとシェインク様の間に有ったのはせいぜい友愛ですわよ。まあ、兄妹のような感覚ですわよね。それに、わたくしはストロベリー様がシェインク様の側室になることに、反対など致しませんわよ? なのに、どうしてわざわざ虐めなどしなければいけませんの?」
「それは、そういうものだから」
「は?」
「……どうしてちゃんとやってくれないんですか?」
ストロベリー様の言葉に首を傾げます。
「だって、物語ではあたしは主人公で、モカ様は悪役じゃなくちゃいけないんです」
…この娘、頭がおかしいのではないでしょうか?
主人公とか悪役とか、物語の読みすぎなのでは?
「ちなみに、そうおっしゃる根拠は?」
「あたしは光の魔法が使えます。そういう女の子は主人公だって決まっているんです」
「……そうですか」
他に何と答えろと? ちなみに、光魔法ならわたくしも使えますがなにか?
ほら、わたくしが何も言わない様に視線で制していたお友達も、呆れた様な表情を浮かべているではありませんか。
「ストロベリー様、童のような事を仰っていないで、婚約者になったシェインク様の所に行かれたら如何ですか?」
「……そうやって負け惜しみを言うんですね」
そう言ってこの場を去っていくストロベリー様の背中を見て、思わずため息を吐き出しそうになるのをこらえて、シェフの作ったサンドイッチを咀嚼いたしました。
「一体今のは何だったのでしょうか?」
「意味が分かりませんわ、モカ様大丈夫ですか?」
皆様が心配して声をかけてくれます。
「ええ、大丈夫ですわ。それにしても、ストロベリー様は随分と思い込みが激しいみたいですわね。物語の中の主人公に自分を重ねているのでしょうか?」
ループしているとも思えませんし、あれが素なのだとしたら、シェインク様が王太子になることはまず無理ですわね。
そもそも、ストロベリー様は男爵令嬢、後ろ盾にはなりませんわ。今回の件で、ストロベリー様を養子にしてまで、シェインク様と縁を繋ぎたいと思う家もそうそうないでしょうしね。
「そう言えば、パーティーにいらっしゃっていたご来賓の方々を放って置いてしまいましたが、その後は大丈夫でしたの? 国王陛下まで私の方にいらっしゃったでしょう?」
わたくしの問いかけに皆さんが視線を合わせて苦笑を浮かべます。
まあ、なんとなく察することは出来ますが、一応聞いておきませんとね。
「その、ストロベリー様がモカ様に虐められたと訴えて、ご来賓の方々が呆れた様にそれを見ていらっしゃいましたわね」
「ええ、なんといってもご来賓の方々は皆様モカ様の普段の行いをご存知ですもの、そのようなことをしないと分かっていらっしゃいますわ」
まあ、諸外国からのご来賓の方々といっても、見知った方々ですものね、そうなりますわよね。
けれども、そうなりますとシェインク様はますます王太子の座から遠のいてしまいますわね。
たかが男爵令嬢ごときを御せないどころか、その甘言に乗せられるような方を王太子になど据えることなどできませんもの。
幸い国王陛下には他にも三人の王子がいらっしゃいますので、その中から一番優秀な方を選べばいいのですから。
食後のお茶を頂いていると、今度はストロベリー様を連れてシェインク様がいらっしゃいました。
本当に、今回の人生は珍しいことのオンパレードですわね。
「まあ、シェインク様。ストロベリー様を連れてまで、何かご用事ですか?」
「お前達、ストロベリーを虐めたそうだな」
は?
「泣きながら俺の所にやって来たぞ!」
「虐めてなどおりませんが?」
「嘘を吐くな!」
ああ、本当に面倒くさい。
「嘘ではございませんわよ? むしろ、ストロベリー様の誤解を解いて差し上げたのですわ」
「誤解だと?」
「ええ、私がシェインク様を愛しているという誤解を解いて差し上げたのですわ。それと、ストロベリー様が随分と物語に傾倒しているようなので、それをご指摘して差し上げたのですわ」
「どういうことだ?」
「ご自分の事を主人公とおっしゃったり、わたくしの事を悪役だとおっしゃったり、夢物語を仰っておいででしたわ」
わたくしの言葉に、シェインク様がストロベリー様を見ますと、ストロベリー様は目に涙を浮かべて、シェインク様を見つめていらっしゃいました。
今のどこに、泣く要素があったのでしょうか?
ストロベリー様の思考回路は理解できませんわね。
ループを繰り返して、変人と呼ばれる方々にもお会いしましたが、ストロベリー様のような方には初めてお会いしました。
そう言えば、いつかの人生で人は思い込みで何とでもなると言っていた方がいましたわね。
あの方は、騎士の修行中にその言葉を使って、自分を追い込んでいらっしゃいましたが、ストロベリー様は別方向に思い込みが激しいですわ。
「なっ泣くな、ストロベリー。俺は君がそんな妄想に囚われているなんて思っていないからな!」
「シェインク様っ」
なんなんですか、この三文芝居。
「あの、いちゃつきたいのでしたら他所でやっていただけますか? わたくし達は今昼食後のお茶を楽しんでいる所ですので」
わたくしの言葉に、ストロベリー様がぶわっと涙をこぼしました。
「ひどい! そうやってあたしを見下して虐めるんですね!」
何を言ってるんでしょうね、この頭のイカレタ娘は。
「今のどこが虐めだと?」
「立派な虐めです。あたしを迫害したじゃないですか! あたしが男爵令嬢だからって、そうやって邪険に扱うんですね!」
「……何を言っても無駄なようですわね。シェインク様、ストロベリー様を連れてここから立ち去ったほうが、お互いの精神的安定のためだと思いませんか?」
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