ループしますか、不老長寿になりますか?
003
「まあ、お母様。どうかなさいましたの?」
まあ、今回の婚約破棄について聞きに来たのでしょうけど、こうしてお母様がわたくしの部屋の前で、わたくしを待っていたことは初めてですわね。
大抵はわたくしが説明に赴きますものね。
「モカ、話があります」
「……わかりましたわ。とりあえず着替えてまいりますので、その間お茶でも召し上がって待っていてくださいませ」
「分かりました。早くなさいね」
「分かりましたわ」
はあ、これでお母様までループの記憶があるなんておっしゃったらどうしましょうか?
お父様は完璧に記憶はございませんわよね。あったらあのようにわたくしを責めたり致しませんもの。
いえ、記憶があってもわたくしを責めたかもしれませんわね。
わたくしは着替えを始めます。まずは髪飾りを外し、複雑に結い上げた髪を解いていきます。
そうしてやっとドレスを脱ぎ始めます。一人では脱げませんので、侍女に手伝って貰わなければいけません。
化粧も落として三十分ほど経ってやっとわたくしはお母様のもとに戻りました。
「それでお母様、お話というのは、今回の婚約破棄の件でしょうか?」
「ええ、本当に貴女が何かをしたわけではないのですね?」
お母様の言葉に、わたくしはコクリと頷きます。
「ええ、私はただ『婚約者のいる殿方に、みだりに近づくことは良い事ではありませんので、シェインク様にお近づきになるのは、お控えになっていただけますか?』と言っただけですわ」
「そう……」
お母様は何か思うことがあるのか、少し考えこむ様に頬に手を当てて、首を傾げました。
わたくしと同じ、プラチナブロンドと珊瑚のような濃いピンクの瞳を持っておりますし、わたくしはお母様によく似ていると言われております。
確かに、成長するごとに、お母様に似ていくとは感じましたわね。
「お母様?」
「モカ、本当にマキアートの手伝いをするつもりなの?」
「はい、そのつもりですが?」
その言葉にお母様の顔が曇ります。そもそも、お母様はお兄様を好いてはいませんものね。
「もし貴女が良ければ、新しい婚約者を見つけてくださるように旦那様に言ってもいいのよ?」
「その必要はございませんわ。もし添い遂げたい方を見つけたいのでしたら、自分で見つけますので」
「そう……」
幾度目かの人生では、恋する方に巡り合うこともありましたが、今回もその方にお会いできるとは限りませんし、また恋をするとは限りませんものね。
ループの人生の中で、同じように尊敬する方はいらっしゃいますが、同じ方に恋をすることはあまりないのですわよね。
なんと言いますか、新鮮味? それも違いますわね、親しい方であることに変わりはないのですが、一歩踏み込めなくなる感じなのですよね。どうしてなのでしょうね。
「お話はそれだけですか?」
「そう、そうね……。とりあえずは、貴女に非がないことを確認しにきましたのよ。旦那様は、今も貴女が何かをしでかしたと思っているようですが、シェインク様が浮気をなさっていたというのは事実ですからね」
「……お母様、お兄様の事をまだ気にしていらっしゃいますの?」
「っ……」
お母様の反応に、思わずため息を吐き出しそうになります。それをこらえて、真っ直ぐにお母様を見ます。
きっとお母様は、わたくしがお兄様と仲良くなることが気に入らないのでしょうね。
「お母様、お兄様は本当にお父様の隠し子だといまだに思っていらっしゃいますの?」
「それは……」
「お父様もそれはないと言っていたではありませんか。お兄様のお仕事を手伝うのは、あくまでも一時的な事でございますわよ」
「……だって、あんなに似ていますのよ?」
そんなに似ているでしょうか? 確かに笑った時などは似ていると感じますが、普段の表情や仕草などは全く違うと思うのですけれども。
「確かに笑った時など、似ていると感じることもございますが……」
「そうでしょう」
「それ以外は、似ていると思ったことなどございませんわ」
「そうなの? わたくしは似ていると思うのよ。貴女は知らないでしょうけれども、ここにやって来た時など、旦那様に生き写しかと思えたほどです」
「そうなのですか」
そんな事をいわれましても、わたくしの生まれる数年前のことですし、わたくしが物心ついた頃には、似ているとは思っておりませんでしたし、お母様の思い込みなのではないでしょうか?
「親戚筋なので、血は繋がっておりますし、多少似ていることもあるのではないでしょうか? 確か、お父様のはとこのお子様でいらっしゃいますわよね」
「ええ、旦那様はそう仰ってますわね。けれども、そのはとこの方はお亡くなりになっていて、どこにも証拠はありませんわ」
「お母様、いつまでも疑っていては、お父様にもお兄様にも失礼なのではありませんか?」
わたくしの言葉に、お母様は「はあ」とため息を吐くと、少しだけ潤んだ目でわたくしの方を見てきます。
「貴女まで旦那様の味方なのですね」
「お母様、わたくしは誰の味方というわけではありませんわよ」
そう言うと、お母様は少しだけショックを受けたような顔をなさいました。
自分の味方でいて欲しかったのでしょうね。
けれども、わたくしはループする人生の中で、お母様に庇われた記憶は一切ございませんので、同情する気も起きませんわね。
薄情な娘と思うかもしれませんけれども、ループしすぎて、親子の情というものに疎くなってしまっている感は否めませんわ。
お母様は、その後特に何かを言うこともなく部屋を出ていかれました。
まったく、困った方ですわね。重ねた記憶の分だけ、お母様の思考が幼く感じてしまいますのよね。
所詮は王族から嫁いでいらっしゃった箱入り娘ですものね。
わたくしは、侍女に部屋の片づけを命じると、寝室兼書斎になっている部屋に入ります。
五年ぶりの部屋ですが、何度見ても変わりのない、懐かしい部屋ですわ。
王族教育だと、必死に勉強した部屋でもあります。
夜遅くまで、睡眠時間を削って必死に王族としてマナーを覚えましたし、外国語も勉強いたしました。
毎日のように城に通い、姿勢から毎回チェックされたのです。
「はあ、あと五年……」
今回はどのように生きましょうか。このままお兄様のお手伝いをしてもいいのですが、義妹がいつまでもお兄様の傍にいるなんて、将来のお義姉様に悪いですものね。
ちなみに、お兄様にはちゃんと相思相愛の婚約者がいらっしゃいますわよ。
わたくしの婚約祝いが終わったら挙式を上げる予定になっておりましたが、婚約破棄になったせいで、それが遅れてしまうのですよね。
まったくシェインク様には本当に困ったものですわ。
まあ、今回の婚約破棄について聞きに来たのでしょうけど、こうしてお母様がわたくしの部屋の前で、わたくしを待っていたことは初めてですわね。
大抵はわたくしが説明に赴きますものね。
「モカ、話があります」
「……わかりましたわ。とりあえず着替えてまいりますので、その間お茶でも召し上がって待っていてくださいませ」
「分かりました。早くなさいね」
「分かりましたわ」
はあ、これでお母様までループの記憶があるなんておっしゃったらどうしましょうか?
お父様は完璧に記憶はございませんわよね。あったらあのようにわたくしを責めたり致しませんもの。
いえ、記憶があってもわたくしを責めたかもしれませんわね。
わたくしは着替えを始めます。まずは髪飾りを外し、複雑に結い上げた髪を解いていきます。
そうしてやっとドレスを脱ぎ始めます。一人では脱げませんので、侍女に手伝って貰わなければいけません。
化粧も落として三十分ほど経ってやっとわたくしはお母様のもとに戻りました。
「それでお母様、お話というのは、今回の婚約破棄の件でしょうか?」
「ええ、本当に貴女が何かをしたわけではないのですね?」
お母様の言葉に、わたくしはコクリと頷きます。
「ええ、私はただ『婚約者のいる殿方に、みだりに近づくことは良い事ではありませんので、シェインク様にお近づきになるのは、お控えになっていただけますか?』と言っただけですわ」
「そう……」
お母様は何か思うことがあるのか、少し考えこむ様に頬に手を当てて、首を傾げました。
わたくしと同じ、プラチナブロンドと珊瑚のような濃いピンクの瞳を持っておりますし、わたくしはお母様によく似ていると言われております。
確かに、成長するごとに、お母様に似ていくとは感じましたわね。
「お母様?」
「モカ、本当にマキアートの手伝いをするつもりなの?」
「はい、そのつもりですが?」
その言葉にお母様の顔が曇ります。そもそも、お母様はお兄様を好いてはいませんものね。
「もし貴女が良ければ、新しい婚約者を見つけてくださるように旦那様に言ってもいいのよ?」
「その必要はございませんわ。もし添い遂げたい方を見つけたいのでしたら、自分で見つけますので」
「そう……」
幾度目かの人生では、恋する方に巡り合うこともありましたが、今回もその方にお会いできるとは限りませんし、また恋をするとは限りませんものね。
ループの人生の中で、同じように尊敬する方はいらっしゃいますが、同じ方に恋をすることはあまりないのですわよね。
なんと言いますか、新鮮味? それも違いますわね、親しい方であることに変わりはないのですが、一歩踏み込めなくなる感じなのですよね。どうしてなのでしょうね。
「お話はそれだけですか?」
「そう、そうね……。とりあえずは、貴女に非がないことを確認しにきましたのよ。旦那様は、今も貴女が何かをしでかしたと思っているようですが、シェインク様が浮気をなさっていたというのは事実ですからね」
「……お母様、お兄様の事をまだ気にしていらっしゃいますの?」
「っ……」
お母様の反応に、思わずため息を吐き出しそうになります。それをこらえて、真っ直ぐにお母様を見ます。
きっとお母様は、わたくしがお兄様と仲良くなることが気に入らないのでしょうね。
「お母様、お兄様は本当にお父様の隠し子だといまだに思っていらっしゃいますの?」
「それは……」
「お父様もそれはないと言っていたではありませんか。お兄様のお仕事を手伝うのは、あくまでも一時的な事でございますわよ」
「……だって、あんなに似ていますのよ?」
そんなに似ているでしょうか? 確かに笑った時などは似ていると感じますが、普段の表情や仕草などは全く違うと思うのですけれども。
「確かに笑った時など、似ていると感じることもございますが……」
「そうでしょう」
「それ以外は、似ていると思ったことなどございませんわ」
「そうなの? わたくしは似ていると思うのよ。貴女は知らないでしょうけれども、ここにやって来た時など、旦那様に生き写しかと思えたほどです」
「そうなのですか」
そんな事をいわれましても、わたくしの生まれる数年前のことですし、わたくしが物心ついた頃には、似ているとは思っておりませんでしたし、お母様の思い込みなのではないでしょうか?
「親戚筋なので、血は繋がっておりますし、多少似ていることもあるのではないでしょうか? 確か、お父様のはとこのお子様でいらっしゃいますわよね」
「ええ、旦那様はそう仰ってますわね。けれども、そのはとこの方はお亡くなりになっていて、どこにも証拠はありませんわ」
「お母様、いつまでも疑っていては、お父様にもお兄様にも失礼なのではありませんか?」
わたくしの言葉に、お母様は「はあ」とため息を吐くと、少しだけ潤んだ目でわたくしの方を見てきます。
「貴女まで旦那様の味方なのですね」
「お母様、わたくしは誰の味方というわけではありませんわよ」
そう言うと、お母様は少しだけショックを受けたような顔をなさいました。
自分の味方でいて欲しかったのでしょうね。
けれども、わたくしはループする人生の中で、お母様に庇われた記憶は一切ございませんので、同情する気も起きませんわね。
薄情な娘と思うかもしれませんけれども、ループしすぎて、親子の情というものに疎くなってしまっている感は否めませんわ。
お母様は、その後特に何かを言うこともなく部屋を出ていかれました。
まったく、困った方ですわね。重ねた記憶の分だけ、お母様の思考が幼く感じてしまいますのよね。
所詮は王族から嫁いでいらっしゃった箱入り娘ですものね。
わたくしは、侍女に部屋の片づけを命じると、寝室兼書斎になっている部屋に入ります。
五年ぶりの部屋ですが、何度見ても変わりのない、懐かしい部屋ですわ。
王族教育だと、必死に勉強した部屋でもあります。
夜遅くまで、睡眠時間を削って必死に王族としてマナーを覚えましたし、外国語も勉強いたしました。
毎日のように城に通い、姿勢から毎回チェックされたのです。
「はあ、あと五年……」
今回はどのように生きましょうか。このままお兄様のお手伝いをしてもいいのですが、義妹がいつまでもお兄様の傍にいるなんて、将来のお義姉様に悪いですものね。
ちなみに、お兄様にはちゃんと相思相愛の婚約者がいらっしゃいますわよ。
わたくしの婚約祝いが終わったら挙式を上げる予定になっておりましたが、婚約破棄になったせいで、それが遅れてしまうのですよね。
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