ループしますか、不老長寿になりますか?
001 プロローグ
煌びやかな灯りがともされた、大きなホールに、一際大きく響く声が広がっていきました。
「モカ、君とは婚約破棄をさせてもらう。そして、俺はこの、ストロベリー=ラペチーノと婚約をする!」
ああ、こう言われるのはこれで何度目なのでしょう。もう数えるのも忘れてしまいましたわね。
最初は夢でも見ているのかと思いました。けれども、何度も、何度も繰り返していくうちに、これは現実で、わたくしは同じ時間を何度も繰り返し、こうして婚約を破棄された瞬間に戻り、そうしてその後の人生は毎回変わっているが、最期はこの婚約破棄から五年後に死んでしまう。
いろいろなことを試しました。最初の方は現実を受け入れることが出来ず、抵抗し、修道院に送り込まれたり、領地に幽閉されたりも致しました。
「わかりましたわ。モカ=キャラメルは、この婚約破棄を受け入れますわ」
「え」
「どうぞお幸せに、シェインク様、ストロベリー様」
わたくしはそう言うと、踵を返し、ホールを後にいたします。
このパーティーは本来、わたくしとこのバルサミコ王国の第一王子シェインク=バルサミコ様のいわば婚前祝いのようなものでしたのに、このような事に毎回なってしまい、それに付き合わせてしまう皆様には申し訳ないとすら思ってしまいますわ。
まあ、わたくし以外は記憶がないようなので、皆様には初めての体験ですわよね。
さて、今回はどういたしましょうか? あのまま会場に留まっていれば、わたくしへの断罪劇が始まるのはもう学習いたしましたので、そのような事は致しませんし、そもそも、婚約者がいるのにストロベリー様と浮気をなさったシェインク様の方が悪いのではないかと気が付いたのは何度目だったでしょうか?
そんな事を考えながら長い廊下を速足で歩いていたら、後ろからバタバタと走ってくる足音が聞こえましたので、後ろを振り返りますと、赤絨毯が引かれた長い廊下を、お父様やお母様、お兄様が走っていらっしゃるのが見えました。
その後ろには、やや遅れてはいますが、国王陛下や王妃陛下のお姿もありますわね。
このパターンは初めてです。
「モカ! 一体どういうことだ!」
「お父様、わたくしが婚約を破棄されてしまったことは、もう覆すことはできませんわよ? 諸外国の方もいらっしゃっている席であのように仰ったのですから、訂正するなど、国家の威信に関わりましょう」
まあ、こうして国王陛下達もこの場にいること自体、問題だと思いますけれども、シェインク様のフォローとかなさらなくてよろしいのでしょうか?
それにしても、回数を重ねるたびに思うのですが、シェインク様は我がキャラメル公爵家との縁を切って、何か得になることがあるのでしょうか?
ストロベリー様と添い遂げたいのでしたら、わたくしと婚姻した後に、側室として迎え入れればいいだけですのに。
繰り返す人生の何度かで、第一王子妃になったストロベリー様が別の方との醜聞を騒がれ、第一王子との仲も冷え切ったものになったという人生もありましたわね。
毎回そう言ったことが騒がれるというわけではありませんので、この婚約破棄以外の事は、本当にランダムで、と、申しますか、色々と変わってくるのでございましょう。
「お前が何かしたのだろう! そうでなければこのような事になるはずがない!」
お父様がそう仰いますが、わたくしはストロベリー様に対して何かした過去は一切ございませんの。
せいぜい、『婚約者のいる殿方に、みだりに近づくことは良い事ではありませんので、シェインク様にお近づきになるのは、お控えになっていただけますか?』と言ったぐらいでしょうか?
まあ、わたくしのお友達が、わたくしの為を思ってかはわかりませんが、ストロベリー様を疎遠にしていたことは確かですわね。
けれども、そもそもストロベリー様は女生同士の交流にあまり関心がなさそうで、いつもシェインク様の傍にいらっしゃいましたわ。
最初の方の人生では、会場に残り、なぜこのわたくしが婚約破棄をされなければならないのかと、糾弾したこともありましたが、それは、わたくしへの断罪劇を持って返される結果にしかなりませんでした。
けれども、わたくしは第一王子の婚約者ということで、王室から警護の方が常に付き添っていらっしゃったのです。
わたくしの行動は全て王室に伝えられていたというのに、毎回このお父様はわたくしが悪かったに違いないと決めつけていらっしゃいます。
「待て、キャラメル公爵。モカの言うことは本当だ。モカは何もしていない。うちの愚息が今回の事を勝手にしでかしたにすぎない。しかも、ありもしない嫌がらせの罪を着せ、自分たちの行いを正当化しようと画策していたようだな」
「国王陛下、シェインク様のフォローをなさらなくてよろしいのですか? シェインク様は仮にも第一王子、会場には諸外国の来賓の方々がいらっしゃっておりますのよ?」
「ふん。元々あれ《シェインク》には期待していない。モカと婚姻を結び、キャラメル公爵家の後ろ盾を得てやっと王太子になれたというのに、それをふいにしたのは自分の責任であろう。モカには、王族教育として、五歳のころからの十年間を無駄にさせてしまった詫びをしなければいけないな」
あらまあ、これも初めてのパターンですわね。
さて、どういたしましょうか?
何度も繰り返した人生の経験上、知識だけは豊富ですが、今回はどのように過ごすか、まだ決めていないのですよね。
「国王陛下」
わたくしは少し小太りな国王陛下を真っ直ぐに見ると、にっこりと微笑みました。
「では一つだけ、今後の人生はわたくしの好きなように生きる権利を頂けますか?」
「モカ! 国王陛下に向かってなにを無礼な」
「黙っておれ、キャラメル公爵。して、モカよ。好きなように生きる権利と申すからには、シェインクとの復縁を望んではいないということだな?」
確認するようにおっしゃる国王陛下にわたくしはコクリと頷きました。すると、シャラン、と髪飾りがこすれる音が静かな廊下に響き渡ります。
「わたくし、家を出て少し自由に生きてみたいと思いますの
」
「……いくら王族教育を受け、市井の生活を学んでいるとはいえ、家を出て暮らすのは無理なのではないか? そなたは優秀とはいえ、一人の令嬢に過ぎないのだぞ?」
いいえ、国王陛下、幾度目かの人生では家を追い出されて市井で暮らしたこともございますので、人間やればなんとかなる物でございますのよ。とは言わずに、わたくしは再びにっこりと微笑むと、ゆっくりと横に首を振りました。
「もちろん、しばらくは家で大人しくしているつもりですが、その後の人生は自分で決めたいのでございます」
いつぞやの人生では、気が付けば年上の貴族の後妻にさせられたり、他国に人質のように売り飛ばされるように嫁がされたりしましたものね。
わたくしのお母様は国王陛下の妹、つまりわたくしとシェインク様は従兄妹同士ということになりますわ。
血筋なのか、わたくしとシェインク様は同じような艶やかなプラチナブロンドに、透き通った青い海にある珊瑚のような濃いピンクの瞳を持っておりました。
幼い頃は、それが面白くて、着せ替えっこなどもしておりましたが、それも今となっては遠い記憶でございますね。
「モカ、家にいるというのなら、僕の仕事を手伝ってはくれないか?」
「お兄様の?」
ここに来て、また新たなパターンですわね。
わたくしと同じプラチナブロンドに、冴え冴えとした蒼い瞳を持つお兄様がそうおっしゃいました。
「そうだよ、モカの王族教育には領地経営の知識もあるだろう? それを逃すなんて、無駄な真似はしたくないからね」
そう言われて、わたくしは少し考えると、とりあえずはお兄様の意見に従ったほうが良いのかもしれない、と思い、コクリと頷きました。
「モカ、君とは婚約破棄をさせてもらう。そして、俺はこの、ストロベリー=ラペチーノと婚約をする!」
ああ、こう言われるのはこれで何度目なのでしょう。もう数えるのも忘れてしまいましたわね。
最初は夢でも見ているのかと思いました。けれども、何度も、何度も繰り返していくうちに、これは現実で、わたくしは同じ時間を何度も繰り返し、こうして婚約を破棄された瞬間に戻り、そうしてその後の人生は毎回変わっているが、最期はこの婚約破棄から五年後に死んでしまう。
いろいろなことを試しました。最初の方は現実を受け入れることが出来ず、抵抗し、修道院に送り込まれたり、領地に幽閉されたりも致しました。
「わかりましたわ。モカ=キャラメルは、この婚約破棄を受け入れますわ」
「え」
「どうぞお幸せに、シェインク様、ストロベリー様」
わたくしはそう言うと、踵を返し、ホールを後にいたします。
このパーティーは本来、わたくしとこのバルサミコ王国の第一王子シェインク=バルサミコ様のいわば婚前祝いのようなものでしたのに、このような事に毎回なってしまい、それに付き合わせてしまう皆様には申し訳ないとすら思ってしまいますわ。
まあ、わたくし以外は記憶がないようなので、皆様には初めての体験ですわよね。
さて、今回はどういたしましょうか? あのまま会場に留まっていれば、わたくしへの断罪劇が始まるのはもう学習いたしましたので、そのような事は致しませんし、そもそも、婚約者がいるのにストロベリー様と浮気をなさったシェインク様の方が悪いのではないかと気が付いたのは何度目だったでしょうか?
そんな事を考えながら長い廊下を速足で歩いていたら、後ろからバタバタと走ってくる足音が聞こえましたので、後ろを振り返りますと、赤絨毯が引かれた長い廊下を、お父様やお母様、お兄様が走っていらっしゃるのが見えました。
その後ろには、やや遅れてはいますが、国王陛下や王妃陛下のお姿もありますわね。
このパターンは初めてです。
「モカ! 一体どういうことだ!」
「お父様、わたくしが婚約を破棄されてしまったことは、もう覆すことはできませんわよ? 諸外国の方もいらっしゃっている席であのように仰ったのですから、訂正するなど、国家の威信に関わりましょう」
まあ、こうして国王陛下達もこの場にいること自体、問題だと思いますけれども、シェインク様のフォローとかなさらなくてよろしいのでしょうか?
それにしても、回数を重ねるたびに思うのですが、シェインク様は我がキャラメル公爵家との縁を切って、何か得になることがあるのでしょうか?
ストロベリー様と添い遂げたいのでしたら、わたくしと婚姻した後に、側室として迎え入れればいいだけですのに。
繰り返す人生の何度かで、第一王子妃になったストロベリー様が別の方との醜聞を騒がれ、第一王子との仲も冷え切ったものになったという人生もありましたわね。
毎回そう言ったことが騒がれるというわけではありませんので、この婚約破棄以外の事は、本当にランダムで、と、申しますか、色々と変わってくるのでございましょう。
「お前が何かしたのだろう! そうでなければこのような事になるはずがない!」
お父様がそう仰いますが、わたくしはストロベリー様に対して何かした過去は一切ございませんの。
せいぜい、『婚約者のいる殿方に、みだりに近づくことは良い事ではありませんので、シェインク様にお近づきになるのは、お控えになっていただけますか?』と言ったぐらいでしょうか?
まあ、わたくしのお友達が、わたくしの為を思ってかはわかりませんが、ストロベリー様を疎遠にしていたことは確かですわね。
けれども、そもそもストロベリー様は女生同士の交流にあまり関心がなさそうで、いつもシェインク様の傍にいらっしゃいましたわ。
最初の方の人生では、会場に残り、なぜこのわたくしが婚約破棄をされなければならないのかと、糾弾したこともありましたが、それは、わたくしへの断罪劇を持って返される結果にしかなりませんでした。
けれども、わたくしは第一王子の婚約者ということで、王室から警護の方が常に付き添っていらっしゃったのです。
わたくしの行動は全て王室に伝えられていたというのに、毎回このお父様はわたくしが悪かったに違いないと決めつけていらっしゃいます。
「待て、キャラメル公爵。モカの言うことは本当だ。モカは何もしていない。うちの愚息が今回の事を勝手にしでかしたにすぎない。しかも、ありもしない嫌がらせの罪を着せ、自分たちの行いを正当化しようと画策していたようだな」
「国王陛下、シェインク様のフォローをなさらなくてよろしいのですか? シェインク様は仮にも第一王子、会場には諸外国の来賓の方々がいらっしゃっておりますのよ?」
「ふん。元々あれ《シェインク》には期待していない。モカと婚姻を結び、キャラメル公爵家の後ろ盾を得てやっと王太子になれたというのに、それをふいにしたのは自分の責任であろう。モカには、王族教育として、五歳のころからの十年間を無駄にさせてしまった詫びをしなければいけないな」
あらまあ、これも初めてのパターンですわね。
さて、どういたしましょうか?
何度も繰り返した人生の経験上、知識だけは豊富ですが、今回はどのように過ごすか、まだ決めていないのですよね。
「国王陛下」
わたくしは少し小太りな国王陛下を真っ直ぐに見ると、にっこりと微笑みました。
「では一つだけ、今後の人生はわたくしの好きなように生きる権利を頂けますか?」
「モカ! 国王陛下に向かってなにを無礼な」
「黙っておれ、キャラメル公爵。して、モカよ。好きなように生きる権利と申すからには、シェインクとの復縁を望んではいないということだな?」
確認するようにおっしゃる国王陛下にわたくしはコクリと頷きました。すると、シャラン、と髪飾りがこすれる音が静かな廊下に響き渡ります。
「わたくし、家を出て少し自由に生きてみたいと思いますの
」
「……いくら王族教育を受け、市井の生活を学んでいるとはいえ、家を出て暮らすのは無理なのではないか? そなたは優秀とはいえ、一人の令嬢に過ぎないのだぞ?」
いいえ、国王陛下、幾度目かの人生では家を追い出されて市井で暮らしたこともございますので、人間やればなんとかなる物でございますのよ。とは言わずに、わたくしは再びにっこりと微笑むと、ゆっくりと横に首を振りました。
「もちろん、しばらくは家で大人しくしているつもりですが、その後の人生は自分で決めたいのでございます」
いつぞやの人生では、気が付けば年上の貴族の後妻にさせられたり、他国に人質のように売り飛ばされるように嫁がされたりしましたものね。
わたくしのお母様は国王陛下の妹、つまりわたくしとシェインク様は従兄妹同士ということになりますわ。
血筋なのか、わたくしとシェインク様は同じような艶やかなプラチナブロンドに、透き通った青い海にある珊瑚のような濃いピンクの瞳を持っておりました。
幼い頃は、それが面白くて、着せ替えっこなどもしておりましたが、それも今となっては遠い記憶でございますね。
「モカ、家にいるというのなら、僕の仕事を手伝ってはくれないか?」
「お兄様の?」
ここに来て、また新たなパターンですわね。
わたくしと同じプラチナブロンドに、冴え冴えとした蒼い瞳を持つお兄様がそうおっしゃいました。
「そうだよ、モカの王族教育には領地経営の知識もあるだろう? それを逃すなんて、無駄な真似はしたくないからね」
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