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女子高生探偵小南安奈事件簿

茄子

030

 翌日は休日だったため、安奈と瑞樹はそれぞれ要注意人物三人をサロンへと呼び出し、ついでに長谷川もサロンへ招待した。

「はあ、なんつーか、またすげーなこりゃ」
「お気に召していただけましたか?」
「いやぁ、おっさんにはちょっと場違いすぎて浮いちまうな」
「まあ、ふふ」

 長谷川はサロンを見て口をあんぐりと開けて恐る恐る勧められたソファに腰を掛けると、瑞樹が淹れてくれた紅茶に口を付けた。
 五十嵐たちも相変わらずの豪奢で優美なサロンにうっとりとしつつ、紅茶に口を付けている。
 ふと、安奈はこの者たちが随分と無防備なのではないだろうかと思ってしまった。
 今飲んでいる紅茶に何か入っていたらどうするつもりなのだろうか?もっともそんなことはしないし、する気もないので、それが伝わっているのかもしれないのだが……。

「皆さんにご紹介するわね。こちらは長谷川警部さんよ。長谷川警部には皆さんのことはお話しているから自己紹介はいらない、ですよね?」
「ああ、大丈夫だ」
「それで、水瀬先輩が昨日仰ってくれた、部屋替えのことを長谷川警部にご相談したところ、空き部屋に女刑事さんと一緒に寝起きしてはどうかという話になったんです。特に北条さんは一人中等部の寮生でしょう?心配だわ」
「待ってください先輩。どうして私たちだけなんですか?」
「それは……」
「お宅らが危険なドラックに手を染めたからだよ」

 安奈が言いよどむと長谷川がズバリと答える。

「ドラック?そんなものに手を出した覚えはありません!」
「落ち着いて北条さん、例の魔女からもらったという蕾がドラックなのよ」
「そんなっ!」

 北条はショックを受けたのか、顔面から血の気が引き、顔が引きつっている。
 水瀬と五十嵐は前以てドラックだということを理解しているためか、表情に変化は見られなかった。
 どさり、とソファの背もたれに体重をかけて力なくする北条を、隣に座った瑞樹がそっとその肩をさすって宥める。

「ラミアがもたらしたドラックは、今学院の外の若者の間ではやり出している物の亜種のようなものだそうよ」
「私がドラックを……」
「ショックなのは仕方がないわ。私はむしろショックを受けていない五十嵐先輩と水瀬先輩の方に驚くのだけれども」
「もちろんショックは受けたわ。ドラックだと知った時はね。けれども、ある意味納得も行ったのよ。五十嵐さんも言っていたけれども、ドラックでもなければこんなに自分が変わることなんてなかったんじゃないかってね」
「だからってドラックをしていいってわけじゃないんだぜ、お嬢さんたち」
「もちろん、今後はラミアから蕾を受け取っても食さないと誓います」
「それでいい」

 十字を切った水瀬に長谷川は頷いた。五十嵐や北条も同じように十字を切っている。

「それにしてもこの場に三人集められたということは、ドラックを使用したのは今はもうこの三人のみになってしまったということなのね?」
「はい、五十嵐先輩」
「そう、あとは亡くなってしまったのね」
「この学院で起きている連続殺人事件は、皆ドラックを食した人なんです。だから、先輩方にも危険が及んでいます。刑事の方と行動を共にしていただいたほうが安全なのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?」
「私は構わないわ」
「私もよ」

 水瀬と五十嵐はすぐさま了承するが、北条はショックからまだ立ち直れないのかぐったりとしたままだ。

「北条さん、いかがかしら?お部屋だけでも移動していただけると私たちも安心できるのだけれども」
「……私は、大丈夫です」
「え?」
「私は成功だって魔女が言ってましたもの、私は死ぬようなことは絶対にありません。心配をするのならそちらの先輩方だけで結構です」
「北条さん……」
「成功というのなら私も言われたわよ」
「なんですって!魔女は私が唯一の成功者だって言ったんですよ」
「私は吸血鬼ラミアに成功者だと言われたわ。別人物なのかしらね」

 いきり立つ北条に、水瀬は面白そうに顔をゆがめて笑う。
 確かに、魔女と吸血鬼が別人なのだとすれば、それぞれの成功者だということになる。しかし、モンタージュを見る限りでは同一人物のようだし、と安奈は二人を見ながら考える。
 睨み合う二人を仲裁したのは瑞樹だった。

「落ち着いて、二人とも。北条さん、成功者というのがどういうものなのかわからない以上、やはり心配なのよ。水瀬先輩も北条さんを虐めないでくださいな」
「あら、ごめんあそばせ」
「先輩……。確かに成功者って言っても色々ありますよね。でも私は唯一の完全な成功者なんです問題はありません」

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