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女子高生探偵小南安奈事件簿

茄子

022

「わかっているわ、どうして夜に散歩をしたかと聞きたいのよね?」
「はい」
「その日の夜は赤い月が綺麗でね、まるで引き寄せられるかのように気が付いたら散歩に出ていたの」
「春休み中に赤い月の夜なんてありましたか?」
「あったのよ。少なくとも私の眼には赤く見える月があったわ」

 北条と違い、水瀬は幾分客観的に自分の現状を捉える事が出来ているらしい。
 安奈はもう一つ気になっていたことを水瀬に聞いてみることにした。

「水瀬先輩、何故ドラックだとわかっていて食したのですか?美しさを手に入れることがそんなに必要なのでしょうか?」
「貴女にはわからないでしょうね。美しさを持っているのだもの」
「そうですね。私は自分で自分が美しいことを知っています」
「憎たらしい子ね。けれどもそんな貴女だからこそ皆が貴女に憧れるのよ」

 水瀬はうっとりとしたように安奈を見つめ、グイッと体を近づけて、安奈の頬に手を伸ばした。

「この頬も、この唇も、この瞳も、眉も、顎も、輪郭も、何もかもが美しい。まるで精巧につくられたお人形さんのようだわ」
「ありがとうございます」
「ラミアはね、美しいものが好きなのだそうよ。美しいものを集めているのだと言っていたわ」
「集めている?」
「そう、美しいものや若さを集めているの。私たちはそのおこぼれに預かっていると言って感じね」
「そんなことをラミアは言ったんですか?」
「ええ、言ったわよ」
「先輩はそれを信じているんです、よね」
「そうよ、信じているわ。そうでなければこんな風に美しくはなれなかったもの」
「そうですか」

 安奈はラミアのしたいことが分からずに混乱してしまう。
 そもそも、警察が来るまではラミアはこの学院の中を自由に行き来出来ていたということになる。
 そうなると学院内の者の可能性が高くなる。北条の言った「新任の」という言葉も気になるところだ。

「催眠術にかかった記憶はありますか?」
「ないわね。少なくとも夜中に散歩をした日に変わったことはなかったと思うわよ。新任の……、いえ何でもないわ」
「新任のなんですか?北条さんも言いよどんでいました」
「新任でいらした高梨先生やシスターを紹介されたぐらいだって事よ。大したことではないでしょう」
「そうですか」

 確かにただ紹介されただけなのであれば大したことはないが、その中にラミアに関係する者がいるのかもしれないと考えると、問題だ。
 高梨のことは除外するとしても、新しく赴任してきた教師やシスターの数は十数人になる。その一人一人をあたっていくのは、瑞樹に造らせているリストをあたるのと並行して作業するのは一苦労になってしまうだろう。
 高梨に頼んでもいいが、安奈としてはやはり自分の足で探してみたいのだ。

「特に仲良くなったシスターや先生はいらっしゃいますか?」
「いいえ、皆さん平等にお知り合いといった感じよ。先生も新任の方は私の担任ではないしね。むしろ高梨先生は新任だけれど貴女の担任なのではなかったかしら?」
「そうですけれども……」
「怪しいのではなくて?」
「高梨先生は男の人ですよ。ラミアであるはずがありません」
「それもそうね」

 水瀬は笑ってカップに入った紅茶を飲み干すとお代わりを要求した。
 安奈はカップにお代わりを注ぐとポットをテーブルの上に置いて「ふう」と息を吐き出した。

「なんだかお疲れのようね」
「謎が深すぎて私の頭の中はぐるぐるネズミです」
「難しく考えるからぐるぐるネズミになってしまうのよ。物事は案外単純なところに隠れていたりするものなの」
「先輩は当事者なのに随分と冷静ですね。次の犠牲者は先輩かもしれないんですよ」
「美しい姿を貰った代償に死ぬのなら仕方がないことだと思っているわ。枯れ木のようになるのだったかしら?」
「先輩は死体を見たことがないんですね」
「ええ、私が到着するのはいつも警察が来た後だもの、死体は隠されてしまっていたわ」
「そうですか。枯れ木のようになって死ぬなんて怖くないんですか?」
「怖いでしょうね。手に入れたがみるみるしわがれていくのですもの」
「だったら」
「けれども、それでも、私は今現在、後悔なんてしていなくってよ」

 水瀬はまっすぐに安奈を見て言うと、そろそろ寮の門限だから帰ろうと言って安奈を立たせる。
 片付けがあると言って水瀬を先に帰らせた安奈は、カップやポットを洗って、門限のぎりぎりに寮に帰ったのだった。

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