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女子高生探偵小南安奈事件簿

茄子

016

 警察で大々的に報道されるかと思われた今回の事件も、ドラックが出てきたせいなのか、この環境のせいなのか、訴えだす保護者はいないと聞く。自分の娘がドラックに手を出していたなどと報道されては困ると、積極的に火消しに回っている親もいるぐらいだ。
 今回の件は保護者にのみ説明をされているが、どの保護者も自分の娘が関わっていないか、自分の娘の評判に関係するのではないかと気が気ではない。
 安奈の父親の小南氏は説明をする側だが、同じ学院に娘を通わせている親として、皆さんと同じように不安な気持ちを抱えていると告白することで、保護者の心理を宥めることに成功したようだった。
 小南氏は学院の経営だけではなく、病院の経営やホテルの経営など、幅広く事業を展開している人物なだけあって、人心把握術には優れているのだろう。
 そうしてその血は安奈にも受け継がれていると、瑞樹は思っている。
 安奈にあるカリスマは、間違いなく小南氏の血なのだと、そう思わざる得ない。

「春休み中にドラックが渡されたのだとしたら、その人はラミアを騙っていたのかもしれないわね」
「もしくはその使いというところかしら?」
「そうね、そうして魔法の薬だとでも言ってドラックを渡した。自慢ではないけれどもこの学院の生徒は裕福な家庭の子供がほとんどだもの、お金を引き出せると考えてもおかしくはないわ」
「嫌な話ね」
「……けれどもそれ以降の接触はない、となるとお金が目的とは考えにくいわね」
「というと目的は何なのかしら?」
「分からないわ。お金でもなく、生贄でもなければ……、って生贄よ!そのドラックを飲んでいる人を生贄に捧げて何かをしようとしているのなら、中々に有力な説になるのではなくて?」
「生贄、確か最初の怪奇メールにもそんなことが書いてあったのだったわよね」
「そうなのよね」
「『麗しき乙女の勇気に乾杯を捧げる。赤き夜はまだ続く。血の生贄もまた再び続く。』だったかしら。二度目のメールにも生贄になりたくなければとあったし、確かに生贄というのは何か関係しているのかもしれないわね」
「そうでしょう!生贄なんてオカルトっぽいけれども、ミステリーでも生贄は定石ともいえるものよね」
「そうかしら?」
「そうよ!」
「それにしても、ラミアの使いもしくはそのものがドラックを渡していたとして、それは春休みのいつ頃なのかしら?神宮寺さんの話では春休みの終わりごろに急に人が変わったようになったということだったわよね」
「そうね、春休み中に何かがあったのは間違いないんだわ。ああ、こんなことなら実家に帰らずに残ればよかったわ」
「そんなことを言うものではなくってよ。ご両親もお兄様も心配していらっしゃるのだから」
「兄はいいのよ。好き勝手にしているのだから」
「そんなこと言うものではなくってよ。お兄様なりに安奈のことを想っていらっしゃるわ」

 瑞樹の言葉に安奈は少しだけ考えるように顔を上げると、少し照れたように頬を染めて顔を反らす。

「そんなの当り前よ。……そんなことよりも今は事件のことが心配だわ。この事が続くようなのであれば、赤い月の晩には犠牲者が出てしまうということだもの」
「照れちゃって。でも確かに続くのは好ましくないわね。ドラック……。とにかく春休みにこの学院に残っていた生徒やシスターのリストや出入りした業者のリストよね、ちょっと大変だけれども時間を貰えれば作って見せてよ」
「なるべく早くお願いできるかしら?瑞樹はそちらに集中してちょうだい。私は神宮寺さんと一緒にできるだけ調べてみるわ」
「まあ、神宮寺さんをまた巻き込む気?」
「ええ、だって今回のことに一番詳しそうなのが今のところ神宮寺さんなんですもの」
「それは確かにそうだけれども……あまり下級生をこき使うのではなくってよ」
「分かっているわ」
「けれども、神宮寺さんはまだ何かを隠している、そんな気がするのよね。あのノートをなぜ彼女が持っていたのかも気になるし」
「それは確かにそうね。安奈の咄嗟の勘がなければあのノートは発見できなかったし」
「だから少しでも一緒に行動をしていれば何かがわかるかもしれないと思うのよ」
「無理はいけなくってよ」
「分かっているわ」

 安奈はそう言って笑ったが、瑞樹は自分がいないところで安奈が何をしでかすか不安で仕方がなかった。

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