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女子高生探偵小南安奈事件簿

茄子

008

 一方進行役を務める瑞樹も、間近で要注意人物たちを見ていて、ある共通点に気が付いた。
 全員が体のどこかしらに二つの赤い痣があるのだ。まるで吸血鬼の牙で咬まれたようなそんな赤い痣。

「ねえ、その痣は一体どうなさったのかしら?痛くはないの?」
「え?これは……いつの間にかついていて、痛くはないです」

 全員に同じ質問をしてみたが、全員が同じ回答をよこしてきた。
 ミスコンもいよいよ終盤戦となってきて、要注意人物と、他数名が残されることとなった。
 要注意人物以外の数名は、安奈も知っているほど有名な可愛らしい子や美人な子ばかりで、甲乙付けがたいと思えてしまう。
 しかし、要注意人物たちは確かに華やいだ雰囲気を持っているし、美しいと思えるのだが、安奈が敢えてここまで残さなければ予選で落ちていたであろう程度の容姿だ。
 吸血鬼に永遠の美と若さを願ったにしては幾ばかりか物足りないのではないだろうか。

「優勝者は二年A組、佐竹美緒さたけみおさんに決定しました」

 瑞樹がそう宣言すると要注意人物たちの表情が強張り、引きつったものになった。
 佐竹美緒は安奈と瑞樹に次いで、美しいと言われている女生徒なのだから、この順位はある意味妥当なものである。
 それなのにもかかわらず、まるで不服だと言わんばかりの表情に、安奈も瑞樹もより警戒を強めるのであった。
 もしかしたら、彼女たちの間で仲間割れが起きて互いを殺し合っているのかもしれない。そんな仮説すら出てきてしまったのだ。
 ミスコン後、安奈と瑞樹は最後まで候補に残っていたものを慰労するためだと言って、サロンへ招待した。全員はいるのは難しいので、何組かに分けて招待したため、要注意人物に個別に接することもできた。

北条志麻ほうじょうしまさん、今回は残念だったわね」
「どうして私は優勝できなかったのでしょうか?」
「総合的に判断して佐竹先輩がふさわしいと思ったからよ。それに他の審査員の方々もそう思ったみたいね」
「そうでうすか」

 北条は納得いかないのか、不機嫌そうな顔を隠そうともせずに安奈から手渡されたウエルカムドリンクを飲む。赤いヴァージン・マリーだ。
 瑞樹から聞いた赤い痣は制服の内側に隠されて安奈が確認することは出来ない。しかし、水着審査の時、確かに見たと瑞樹は言っていた。
 安奈もそんな瑞樹の言葉を信じている。それは吸血鬼と契約をした証なのではないだろうかと推測しているのだ。

「もっと美しくならなくちゃだめなのね」
「貴女は十分に美しくってよ」
「でももっと美しくならなくちゃダメなんです」
「どうしてそんなことをおっしゃるのかしら?」
「それは……そうでなければだめだからです」

 北条はどうやらそれ以上言うつもりはないらしい。

「話は変わるけれども、春休みはいかがお過ごしでした?学院に残ったとお伺いしておりますわ」
「はい、素晴らしい体験をしました。本当に人生観が変わってしまうような、そんな体験でした」
「まあっどんな体験かしら?」
「……それは言えません」
「どうしてかしら?」
「約束なんです」
「そうなの。残念だわ、そんな体験なら私も是非してみたいのに」
「先輩には必要ありませんよ」
「そうかしら?」
「はい。先輩は十分に美しいんですから」
「まあ、ありがとう」
「けれども、その人生観変える体験と、美しさが関係しているのね。貴女が最近雰囲気が変わったというのと関係もしているのかしら?」
「それは、はい。そうです」
「そうなの。随分雰囲気が変わったと聞いていてよ」
「どうしてそんなことを聞くんですか?」
「今回の出場者の身辺調査の一環で聞いていた時に、貴女のように雰囲気が変わったという方が何人かいらっしゃったのよ。だから少し気になってしまってね」
「……私以外にも?」
「ええそうよ、お気づきにならなかった?」
「いいえちっとも」

 北条の目に暗い陰が落ちる。
 まるで、何かに裏切られてしまったと、目で語っているかのようだった。

「顔つきや体つきはみんな違うのに、まるで同じ人を見ているような錯覚さえ起こしてしまう瞬間があったほど、似ている雰囲気をもっているのに?」
「そういわれても、そんなことには気がつきませでしたから」
「そうなの。きっと仲良くなれるのではないかと思ったのだけれども残念だわね」

 それでは、と安奈は北条から離れて次のターゲットのもとへ向かった。

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