女子高生探偵小南安奈事件簿
001
5月の新緑を隠すような朝靄の中、それはまるで捨てられたもののように転がされていた。
聖堂の前に、まるでそこからは入れなかったとでもいうように必死に手だけが伸ばされていた。
まるで枯れ木のように体中の体液が失われてしまったようなそれは、確かに元人間だったのだろう。
例え、今は人として見ることが出来なくても。
その死体が発見され、誰なのかが特定をされるのは早かった。
なんと言っても、外界から遮断された学院の中での出来事だ。いなくなった生徒の特定など早く済んでしまう。
溝口詩世それが今回の被害者であり、最初の被害者であった。
ところ変わって古い修道院を改築したミステリー研究会のサロンでは、会長の小南安奈がランランと目と輝かせてサロンの中を忙しなく歩き回っていた。
天井には大きなシャンデリアが下げられており、壁には揃いの電飾。猫足のキャビネットに、大理石のテーブル。手触りの良いソファにはふかふかのクッションが置かれている。
ダークグレーのカーテンとラベンダー色の毛足の長い絨毯。壁紙は薄紫に統一されている。
様々な古書が収められたシェルフが壁に並び、その隙間を縫うように絵画が飾られている。
「事件だわ!」
「安奈、人の死を喜ぶべきではなくってよ」
興奮する安奈をたしなめたのは、副会長の橘瑞樹。ソファに座って優雅に紅茶を飲んでいる。
安奈は背筋も手足もすらりと伸び、笑顔になれば華やかさを増し、校内のどこに居ても彼女の優美な姿は目を引くのだ。理想的な八頭身に形の良い輪郭。栗色の腰まである長い髪に、蠱惑的な大きな瞳に気品と色香を漂わせた花の蕾のような唇。そして生来の育ちの良さが醸し出す、洗練された雰囲気。
対して瑞樹は安奈ほど花があるわけではないが、同じように美しく、安奈が薔薇の花であるのなら、瑞樹は長椅子黒髪のストレートヘアーが美しい清楚な百合の花のような雰囲気の少女だ。
瑞樹の言葉に安奈はやっと落ち着きを取り戻したのか瑞樹と対面するソファに座ると、自分でポットからカップに紅茶を注ぎ入れた。
「だって、血を抜かれた死体なんて今こそ我がミステリーサークルの出番だと思わなくって?」
「私たちよりも刑事事件だと思うわ。不気味だもの。犯人がこの学院にいるかと思うおぞっとするわ」
「だからこそいいんじゃないの!七不思議を追いかけるよりもずっと刺激的だわ!」
「それはそうだけれど、危険なのではないかしら?なんと言っても相手は凶悪犯よ」
「だからなによ。私と瑞樹がいれば怖いものなしだわ」
「随分高く私を買ってくれているけれど、生来私の体は強くはないのよ、知っているでしょう?」
「それは重々承知だわ。でも、だけど、無理のない範囲でならいいでしょう?」
懇願するように目を潤ませる安奈に瑞樹は溜息を吐くと降参だと言わんばかりにカップをテーブルの上に戻すと両手を上げた。
「わかったわ。お付き合いいたしますわ会長」
「頼んだわよ副会長」
「それで、会長の推理はどうなのかしら?」
「まずは吸血鬼なんて言うオーソドックスなところから攻めていきたいわね」
「この学院に吸血鬼がいるとして、今まではどうして活動してこなかったというの?ここの所編入生もいないのよ?」
「そうね、血が必要になることが何か起きたのかも」
「例えば?」
「吸血鬼特有の病気にかかってしまったとか、妊娠してしまったとか」
「妊娠!それこそ非現実的だわ。この学院は外界からは隔離されているのよ。もちろん長期休暇は実家に帰る人もいるし全くゼロというわけではないだろうけれど、確率は低いのではないかしら?」
「うーん、じゃあやっぱり何かの儀式に血が必要だったのかもしれないわ」
「儀式?」
「そう、悪魔召喚とか!」
いいことを思いついたと言わんばかりに安奈は紅茶を一気に飲み干してうんうんと頷く。
「ミッション系スクールで悪魔召喚なんて非道徳的な話だけれども、吸血鬼よりはまだ納得がいくかもしれないわね」
「そうでしょう!早速情報を集めなくっちゃいけないわね。聞き込み開始よ」
「その前に溝口詩世の身辺調査をしたほうが良いのではなくって?親しい人物とか最近接近し始めた人とかの中にそういう人がいるかもしれなくってよ」
「なるほど!流石は瑞樹だわ!早速身辺調査と行きましょう!」
安奈はカップをテーブルに置くといそいそとサロンを出ていった。
残された瑞樹は溜息を吐きながら二人分のカップを持って備え付けられたキッチンに洗いに行くのだった。
聖堂の前に、まるでそこからは入れなかったとでもいうように必死に手だけが伸ばされていた。
まるで枯れ木のように体中の体液が失われてしまったようなそれは、確かに元人間だったのだろう。
例え、今は人として見ることが出来なくても。
その死体が発見され、誰なのかが特定をされるのは早かった。
なんと言っても、外界から遮断された学院の中での出来事だ。いなくなった生徒の特定など早く済んでしまう。
溝口詩世それが今回の被害者であり、最初の被害者であった。
ところ変わって古い修道院を改築したミステリー研究会のサロンでは、会長の小南安奈がランランと目と輝かせてサロンの中を忙しなく歩き回っていた。
天井には大きなシャンデリアが下げられており、壁には揃いの電飾。猫足のキャビネットに、大理石のテーブル。手触りの良いソファにはふかふかのクッションが置かれている。
ダークグレーのカーテンとラベンダー色の毛足の長い絨毯。壁紙は薄紫に統一されている。
様々な古書が収められたシェルフが壁に並び、その隙間を縫うように絵画が飾られている。
「事件だわ!」
「安奈、人の死を喜ぶべきではなくってよ」
興奮する安奈をたしなめたのは、副会長の橘瑞樹。ソファに座って優雅に紅茶を飲んでいる。
安奈は背筋も手足もすらりと伸び、笑顔になれば華やかさを増し、校内のどこに居ても彼女の優美な姿は目を引くのだ。理想的な八頭身に形の良い輪郭。栗色の腰まである長い髪に、蠱惑的な大きな瞳に気品と色香を漂わせた花の蕾のような唇。そして生来の育ちの良さが醸し出す、洗練された雰囲気。
対して瑞樹は安奈ほど花があるわけではないが、同じように美しく、安奈が薔薇の花であるのなら、瑞樹は長椅子黒髪のストレートヘアーが美しい清楚な百合の花のような雰囲気の少女だ。
瑞樹の言葉に安奈はやっと落ち着きを取り戻したのか瑞樹と対面するソファに座ると、自分でポットからカップに紅茶を注ぎ入れた。
「だって、血を抜かれた死体なんて今こそ我がミステリーサークルの出番だと思わなくって?」
「私たちよりも刑事事件だと思うわ。不気味だもの。犯人がこの学院にいるかと思うおぞっとするわ」
「だからこそいいんじゃないの!七不思議を追いかけるよりもずっと刺激的だわ!」
「それはそうだけれど、危険なのではないかしら?なんと言っても相手は凶悪犯よ」
「だからなによ。私と瑞樹がいれば怖いものなしだわ」
「随分高く私を買ってくれているけれど、生来私の体は強くはないのよ、知っているでしょう?」
「それは重々承知だわ。でも、だけど、無理のない範囲でならいいでしょう?」
懇願するように目を潤ませる安奈に瑞樹は溜息を吐くと降参だと言わんばかりにカップをテーブルの上に戻すと両手を上げた。
「わかったわ。お付き合いいたしますわ会長」
「頼んだわよ副会長」
「それで、会長の推理はどうなのかしら?」
「まずは吸血鬼なんて言うオーソドックスなところから攻めていきたいわね」
「この学院に吸血鬼がいるとして、今まではどうして活動してこなかったというの?ここの所編入生もいないのよ?」
「そうね、血が必要になることが何か起きたのかも」
「例えば?」
「吸血鬼特有の病気にかかってしまったとか、妊娠してしまったとか」
「妊娠!それこそ非現実的だわ。この学院は外界からは隔離されているのよ。もちろん長期休暇は実家に帰る人もいるし全くゼロというわけではないだろうけれど、確率は低いのではないかしら?」
「うーん、じゃあやっぱり何かの儀式に血が必要だったのかもしれないわ」
「儀式?」
「そう、悪魔召喚とか!」
いいことを思いついたと言わんばかりに安奈は紅茶を一気に飲み干してうんうんと頷く。
「ミッション系スクールで悪魔召喚なんて非道徳的な話だけれども、吸血鬼よりはまだ納得がいくかもしれないわね」
「そうでしょう!早速情報を集めなくっちゃいけないわね。聞き込み開始よ」
「その前に溝口詩世の身辺調査をしたほうが良いのではなくって?親しい人物とか最近接近し始めた人とかの中にそういう人がいるかもしれなくってよ」
「なるほど!流石は瑞樹だわ!早速身辺調査と行きましょう!」
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コメント
門脇 賴
今日からノベバにお世話になります新人です。本作品が第一作目です。
推理系、探偵系が好きなのでたびたび立ち寄らせていただきます。よろしくです。