復讐します

茄子

そして復讐は遂げられる

「久艶君、あたしとベストカップル賞に出て欲しいの」
「なんで?」
「だって、あたしたちそういう仲じゃないの」
「はあ……」
「とにかくエントリーしておくからね」
「好きにすれば」

 あたしはその返事を受けて意気揚々と運営委員会に書類を提出しに行った。
 運営委員会の人達は何と言うか、私を見て鼻で笑ったような感じで嫌な感じだったけど、書類はちゃんと受け取ってくれたからまあいいわ。
 ベストカップル賞は私と久艶君に決まってるけど、一応審査はしてもらわないといけないわよね。
 その間にあたしと久艶君の仲の良さを皆に分からせなくちゃいけないわ。

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「とかいって、お姉ちゃんの最近の行動が始まってると思うんだよねえ」
「なるほどねえ」
「久艶乙」
「まじでなー」

 お姉ちゃんは最近久艶の傍にいることが多くて、私達が一緒にいないときはお姉ちゃんと一緒にいると言ったほうがいいぐらい。
 でも、私達と一緒にいる時間の方が長いから、一緒にいると言っても大したことはないんだけどね。
 それに、久艶があからさまにいやそうな顔をしているから、皆、お姉ちゃんが久艶に付きまとってるって思ってる。
 まあ、その通りなんだけどね。
 お姉ちゃんストーカー疑惑まで飛び出てる昨今、気が付いていないのはお姉ちゃんとそのシンパだけというのが現状なんだよね。
 シンパの一人でもお姉ちゃんに現状を伝えることが出来れば、お姉ちゃんの人生も変わったかもしれないのに、可哀そう(笑)。
 まあ、馬鹿な集団だっていう認識は元からされてたんだし、いまさらかあ。
 それにしても、こんな風に考えてる私ってば本当に意地が悪いって言うか、性格が悪いよねえ。
 うふふ、お姉ちゃん、もうすぐ駄目な妹の本領を発揮してあげるから、待っててね。

「それにしても、久艶に付きまとってる時のお姉ちゃんのうざさってばすごいよねえ」
「うんうん。可愛そうな私アピールすごくって、私も悪役令嬢のし甲斐があるっていう物よ」
「玲羅の悪役令嬢も中々もの物だよね」
「でしょう」

 まったくもって、玲羅の悪役令嬢っぷりには感心してしまう。
 嫌味だけでこうも人を追い詰めることが出来るのかっていうぐらいに、追い詰めている。
 おかげでお姉ちゃんは自分で自爆してくれることが多くなってくれて、ますます評価が下がってきてる。
 今では私に宿題を押し付けることもできなくなってるせいで、成績も悪くなってきてるって話だし、言い様だわぁ。
 いつものように図書室の談話室で話していると、扉がノックされる。
 扉を開けるとそこには花火大会の運営委員会のメンバーがいた。

「ベストカップル賞の出場確認に来たよ」
「お疲れ様ー」
「玲羅と秋津、美零と久艶でいいんだよね?」
「そうそう」
「美零のお姉ちゃんと久艶の方は却下しておいたって言うか、受け取っただけで受付してないんだけどねえ。なんで渡しただけで、控えを受け取らないで正式に受付が済んだって思ったんだろうね」
「お姉ちゃんクオリティじゃないかなあ」
「美零のお姉ちゃんって他人の私がこういうのもなんだけど馬鹿なんじゃないの?」

 実際に馬鹿だと思うけどねー。

「実際に馬鹿なんじゃないか?」

 あら、久艶ってば以心伝心しちゃってる。
 久艶はうんざりしたように、手にしているカップの中身を飲みながら呟いている。
 可哀そうにねえ。お姉ちゃんなんかに付きまとわれて。

「じゃあ、受付の最終確認はこれで済んだから、明後日の前夜祭では両カップルともベストカップル賞をめざしてがんばってね」
「っていうかさぁ」
「なに?」
「ベストカップル賞になるためには色々な障害物レースなのに、自称病弱な美零のお姉ちゃんが出るとかありえないでしょう」
「知らないんじゃないの?」
「ウケるんですけどー」
「出場項目にしっかりと書いてあるのに、読んでないのがまるわかりだよねえ、自称病弱にはつらーいレースだと思うんだけどね」
「なんといってもお互いの愛を確認し合うレースだもんねえ。毎年なんだかんだ言って盛り上がるよね」

 そう、ベストカップル賞になるには、ただ舞台に出てお互いにいいところを言い合うだけじゃない。障害物競争を突破しないといけないのだ。
 その障害物競走というのが、毎年変わっているのだから、対策が取れない。今年はいったいどんなものが飛び出してくるのやら。

「今年の障害物レースは何が飛び出す予定なのか教えてもらってもいい?」
「それは当日までのお楽しみだよ」
「ちぇ」

 まあ、そんなに簡単に教えてもらえる物なんかじゃないよね。

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 おかしい。ベストカップル賞の最終確認が来ないわ。
 今日中に最終確認が来るって用紙に書いてあったのに、なにかの手違いかしら?
 運営委員会もつっかえないわねえ。
 しかたがないから私自らが出向いてあげたわよ。
 それなのに……。

「あら、久艶君は美零ちゃんとペアを組んでるから貴女とは組んでいるはずはないんだけど、そもそも、貴女参加申し込みの控えをお持ち?お持ちでないのならそれは受理されてないということなのだけれども、お分かりかしら?」
「なによそれ!私はしっかりと書類を提出したじゃないの」
「提出しただけではだめですよ、ちゃんと受理書の控えをもっていただかないと」
「なっ」

 あったまにくる!なによその言い訳。そもそも美玲が久艶君と一緒にベストカップル賞に出る?
 そんなことあるわけないじゃないの。美零ってば自分の身の丈に合わないことをしてるってわからないのかしら?私が分からせてやらないといけないわけ?
 それが姉としての役目なのかもしれないけど、面倒よね。
 こんな面倒をかけるなんて、美零ってば本当に使えない子なんだから。

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 ベストカップル賞当日、私と久艶は正々堂々とカップルとして宣言をして大会に出場することになった。
 けれども、その前にひと悶着あることは、運営委員会に報告済み。
 他でもない、お姉ちゃんがやらかすことを前提としての事だ。仕掛けた盗聴器ではお姉ちゃんがしでかすのは確実だしね。

「久艶君は私と一緒に出るのが決まってたのに、あとから出しゃばって来た美零がそれを奪ったのよ!皆、騙されないで!」

 ワロス。
 言うに事欠いてそれかよって感じ。
 お姉ちゃんの語彙力のなさは知ってたけど、ここまでとは思わなかったわ。

「お姉ちゃん、久艶は私と中学時代から付き合ってたのよ。なんだったら玲羅と秋津に確認してくれてもいいけど?」
「そんなのあんたの仲間なんだから、嘘い言うに決まってるじゃないの」
「あら、だったら久艶も私の仲間ってことになるわよね。だったら久艶が私と付き合っててもおかしくなんかないじゃないの」
「久艶君はあたしとつきあってるのよ!」
「はあ?いつどこでそんなことがきまったのかしら?久艶、そうなの?」
「そうでしょう、久艶君!」

 私達は同じ舞台上にいる久艶に問いかける。
 すると久艶は肩を竦めて嗤うと。

「美零と付き合ってるに決まってるだろう。思い上がりも甚だしい輩の相手を務めるのは疲れたけれども、それも美零の姉だと思ってのことだ。付き合ってたと思われるなんてとんでもないな」
「なっなんてことを言うの!?」
「なんてこともなにも、事実だからな」

 あはは、お姉ちゃんの顔が醜くなってる。
 泣き顔一歩手前って感じだよねえ。
 さて、私はもう一つの復讐を果たさなくっちゃね。
 お姉ちゃんにはこのぐらいの復讐でもいいんだけど、両親への復讐はこんなものじゃ済まさない。
 私は舞台下にいる人々の中から両親を見つけ出すと、マイクを片手に、名指しで舞台上に上がるように言いつける。
 私が指を指した所をスポットライトが照らし、両親は逃げられなくなる。

「お父さん、お母さん、舞台上に上がってきてよ。姉妹喧嘩の幕引きには両親の仲裁が適役でしょう?まあ、私の事を育児放置してお姉ちゃんにばっかり愛情を注いできたお父さんたちが正常な判断で仲裁が出来るとは思えないけどね。ちなみに、私に対する虐待に関しては、証拠を集めてしっかりと弁護士に送りつけてあるから、お姉ちゃんと一緒に判決を待ってくれていいんだよ。まあ、お姉ちゃんに関しては、優しい虐待を受けたってことで、情状酌量の面があるからこのぐらいで済ませてあげてるんだけどね。そうじゃなかったらもっと徹底的にやり込めるんだから。ほら、なにしてるの?舞台上に上がってきてよ」

 私の言葉に両親は戸惑ったようしているが、運営委員会のスタッフがしっかりと先導して舞台上に誘導してくれた。
 約一年ぶりに見る両親は何も変わっておらず、相変わらず私の事を何とも思っていない、むしろこんなことをしでかした私の事を、憎らしげにすら見ている。

「さぁさぁ皆様お立合い。この度ここに出でたりますは、我らがアイドル美零の両親にございます。美零の育成環境に関しては多くの人が知っている事でございましょう。そう、皆々様、美零は今此処で、その両親に対し、復讐の一手を放つのでございます!」

 運営委員会のスタッフがいい感じにアナウンスしてくれる。
 さぁお父さんお母さん、地獄を見てね。

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 何が起きてるわけ!?
 意味が分からないんだけど、なんでお父さんやお母さんまで壇上に上がらなくっちゃいけないの?しかも復讐って何?
 感謝されてもいいぐらいなのに復讐?思い違いにもほどがあるでしょう。

「お父さん、お母さん。まずはこの証拠をご覧ください」

 そう言って出されたのは美零の育成記録。何のことはない、健康そのものの数値じゃないの、まあ、多少育成不足かも?って感じだけど、病気をしてるわけじゃないんだし、何か問題があるわけ?

「この証拠は、私が育児放棄をされて、満足に食事も与えられてこなかった証拠です」
「なんですって!?」
「ちゃんと家政婦を付けていただろう!」

 そうよ!家政婦がいたんだから問題なんかないじゃないの。

「じゃあ次の証拠です」

 そういって出されたのは診断書。私が心因性の原因になってのパニック症という診断書だった。

「ちょっとまってよ!」
「なにか?」
「これはお父さんとお母さんの断罪でしょう?あたしは関係ないわ!」
「あら、誰がお父さんたちだけの断罪だと言いました?」
「え」
「お姉ちゃん、体が弱い人って守ってもらって当然なんだよね?」
「なにいってんの?」
「今日のこの祭典って、それぞれの親御さんも来てるって知ってる?」
「だからなんなの?」

 もう一体何だっていうのよ。頭がわけわかんなくなってきたわ。
 美零はとにかく生意気だってことはわかったわ。

「お姉ちゃん、お父さんとお母さんは私への育児放棄の罪で裁かされるんだよ。その証拠はもう提出済みって言ったよね?お姉ちゃんは甘やかされた優しい虐待をされたから、これから矯正作業をさせられるけど、しっかり耐え抜いてよね。もちろん、この学園の全員で協力してあげるから」

 なによそれ、まるで私が悪いみたいじゃないの。
 なによこれ、意味が分からないわ。私は皆の中心にいて当然の可哀そうな女の子のはずなのに、どうしてこんなことになってるのよ!

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 あはははは、お姉ちゃんの顔ったらないわね。
 お父さんもお母さんも呆然としてるけど、私の言った意味が分かったのか、慌ててる。
 当然だよねえ、育児放棄してる自覚はあるんだもん。いくら家政婦を付けてるからって、その家政婦の監督不行き届きだもん。
 私のこの発育不良な体はそのせいだしね。私自身がその証拠って感じかな。
 お父さんとお母さんには今後法的な処分が下されることは間違いないし、お姉ちゃんがこの学園で女王様ぶることが出来ないのはきまってることだし、いい気味だわぁ。
 まあ、積年の恨みはまだ晴れてないけど、とりあえずはこんなものでしょう。

「美零、これで復讐はすんだのか?」
「うん、あとはお姉ちゃんにこっそり嫌がらせをしていくぐらいかな」
「そうか」

 久艶の言葉に私はそう答えて、ベストカップル賞が始まる前のごたごたは幕を引いた。
 その後、学園のあちらこちらで、お姉ちゃんに嫌味を言う人やささやかな嫌がらせをする人が目撃されたけど、私の管理外だから知ったことじゃないね。

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