復讐します

茄子

保健室の先生は私の味方です

「美零」
「あ、お姉ちゃん……な、何か用?」
「何か用?じゃないわよ。アタシがこの間頼んだレポート、赤点だったじゃないの。どうういうつもり?あんた頭だけが取り柄でしょう?」
「……ごめっ」

 そこで私はふらりと倒れこんでしまう。まさに気絶一歩手前といった感じだろうか。しかも今居るのは踊り場の階段の境目。
 下には久艶が待機してくれているとはいえ、危険な行為をしようとしているのは確かだ。

「お姉ちゃんごめんなさいっ」
「ちょっと、何よいきなり」
「お願い、怒らないで……」

 私は弱々しく言いながらも周囲にアピールすることを忘れない。周囲は私こそがお姉ちゃんに虐められていると思うだろう。

「ごめんねお姉ちゃん。私も自分のレポートがあったから、お姉ちゃんのレポートまで手が回らなかったの」
「ちょっと!大きな声で言わないでよ」

 お姉ちゃんは急に声を小さくする。自分が不正をしたという自覚はあるようだ。
 まあ、今更なんだけどね。
 お姉ちゃんが私に宿題を押し付けてるのはA組では有名な話だ。だって、クラスまで来て、わざわざ課題を置いて行くんだから。馬鹿正直だよね、本当に。
 そうして、A組からうわさは広がっていって、学年全体に広まって言っている。
 信じていないのはお姉ちゃんのシンパぐらいだろう。もっともそのシンパもお姉ちゃんのクラスの一部のみと、小規模なものだ。
 私のか弱いアピールの方が勝っているということの表れだろう。

「お姉ちゃん、ごめんなさい。本当にごめんなさい」
「謝るんなら次はちゃんとしなさいよね」
「次があるの?」
「当たり前でしょう!」
「そんな……」

 私はそこでふらりと階段の下に向かって倒れこんでいく。
 そこに久艶が駆けつけて階段の途中で私を受け止めた。

「大丈夫か美零」
「久艶、ありがとう。大丈夫だよ」
「全然大丈夫に見えないぞ、保健室に行こう」
「うん……」

 私はそこで久艶と一緒に保健室に向かった。

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 冗談じゃないわ!
 なんで美零が久艶君に連れられて保健室に行くのよ。
 これじゃまるで私が美零を虐めたみたいじゃないの。久艶君に誤解されちゃうわ。
 そもそも、久艶君がどうしてあんなところにいたの?まるで待機してたみたい。
 もしかして、美零に呼び出されてたとか?
 そうよ、美零の奴、このあたしの印象を悪くするために久艶君を呼び出したに決まってるわ。
 久艶君、誤解しないでくれるといいんだけど、今頃美零にいいように言われてるかもしれないわ。
 あたしが真実をちゃんと伝えてあげなくちゃいけないわよね。

「あ~ら、こんなところでなにをしてるのかしら?美零の具合が悪くなったって聞いたから来てみたら貴方がいるなんて、どういうこと?」

 出たわね、玲羅。あたしに嫌がらせをしてくる厭な奴。
 それにしてもタイミングよすぎ。スタンバってたって感じ。まさか本当にスタンバってたのかしら?まさかね。
 それにしてもまた嫌味を言いに来たのだろうか。

「美零が具合が悪くなる時は必ず貴女がいるのね。本当にどうしてなのかしら?何か事情があるに決まってるわよねえ、そうでなくちゃおかしいもの。ねえ、貴女本当に病弱なの?この学園に来てからそんな素振り全く見たことないじゃないの。むしろ、美零の方が病弱のように見えるわ。それに、美零に宿題を押し付けてるっていう噂もあるし、本当に貴方って自分勝手な姉よねえ」

 何もわかってないくせに。いうだけなら勝手よね。
 こんなに私が病弱だったのは事実だし、健康体で生まれた美零が私に感謝して生きていくことは当然の事じゃない。
 この女は本当に何を言っているのかしら?

「私が病弱だったのは事実で」
「事実でも今は健康体なんでしょう?だったら自分のことは自分でするべきだわ。美零に迷惑をかけないでもらえるかしら?」
「迷惑なんてかけてないっ、どうしてそんなことをいうの?酷い」
「酷いのはどっちよ、美零が具合が悪くなる時は必ず貴女が関わってる時じゃないの、心因性の物だとしたら。確実に原因は貴女だわ。それが分かってるの?」
「そんなわけないじゃないの」

 わかってないわね。美零は私に尽くして当たり前なんだから、それで具合が悪くなるなんてありえないわよ。

「まあいいわ、私はこれから美零の所に行くけど、伝言とかあるかしら?まあ、ないわよねえ。なんといってもレポートが赤点で再提出しなくちゃいけなくて忙しいんだもんねえ」
「それは……」
「まあ、がんばって作成したら?」

 玲羅はそう言って保健室の方に歩いていった。本当に嫌な奴。美零の友達だって言われて納得しちゃうわ。

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「って感じに嫌味を言ってきておいたわよ」
「ナイス、玲羅」

 いつものように図書室の談話室ではなく、保健室の一角で私と玲羅、そして久艶と秋津は集まっている。
 先生も見逃してくれているので、私達は心置きなく話し合いをすることが出来る。
 それにしても、お姉ちゃんはやっぱりレポートの件で私に文句を言いに来たわね。
 まあ、分かってて赤点のレポートをわざと作成したんだけどね。
 これでお姉ちゃんが私に宿題を押し付けているっていう噂はさらに広まるに違いないわ。これが戦略っていう物なのよ。
 シンパを使って人気取りに走ってるだけのお姉ちゃんとは違うっていうところを、見せつけてやらないとね。

「それにしても、踊り場での公開処刑は気分爽快だね。これは本番が楽しみで仕方がないわよ」
「本番ねえ。うふふ、お姉ちゃんのプギャーしちゃ顔を見るのが楽しみだわ」
「確かにな、あの顔が歪むのが楽しみだな」
「俺なんて付きまとわれてるんだぞ、早めに終わらせてくれた方が助かるんだけどな」
「「うふふ」」
「女二人がこえーなあ」
「俺としては頼もしいな」

 私と玲羅がそう言って笑うと、久艶と秋津はそれぞれの反応を示した。
 久艶はお姉ちゃんに付きまとわれてるのがよっぽど嫌なのか、本気で早くこのこと終わらせたいみたいだ。
 まだ夏にもなってないのに、お姉ちゃんの嫌われっぷりはすごいな。

「何やら物騒な話をしているようだけれども、具合の方は大丈夫なのかしら?」
「あ、先生。はい、もう大丈夫です」
「そう。ならよかったわ」

 先生が私の具合の確認のために額に手を当ててくる。熱はないのだが、先生の手がひんやりとしていて気持ちがいい。

「それにしても、倒れる時は必ず貴女のお姉さんが傍にいる時なのは問題だわね。カウンセリングを受けるのもいいかもしれないわ」
「そうですね」
「貴女の事は中学校の先生から引き継いでいるわ、栄養失調なんかを引き起こしていたらしいわね。病弱だっていうお姉さんよりも、私は貴女の方がよっぽど心配だったのよ」
「すみません、ご心配おかけしています」
「ああ、あやまらないで。これも職務ですもの」

 この先生好きだなあ。凛としてて職務に真っ直ぐかと思いきやお茶目なところもあって。
 ちゃんと空気を抜くことが出来る空間を作ってくれる人って少ないんだよね。
 この先生はそれが出来る人だと思う。

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 校医からカウンセリングを受けないかっていう話が来たわ。あたしの何がきにいらないっていうのよ!
 カウンセリングなんて受ける意味なんかないわよ。小さいころに受けてたけど、あたしにはなんの問題もないって言われてるんだから。
 今更受けたって意味ないわよね。
 問題は美零よ。私が想像してたよりも美零の味方が多いのが問題よね。どうしてこうなっちゃったのかしら?みんな騙されてるってどうしてわからないのかしら?
 あたしがちゃんとわからせてあげないといけないわよね。
 そうだ、今度の花火大会に久艶君を誘おうと考えてたんだけど、その前夜祭で行われるベストカップル賞に久艶君と出るのはどうかしら。
 うん、いいわね。久艶君があたしの物だって皆に分かってもらえるいい機会だわ。

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 ふーん、ベストカップル賞か……。
 出るつもりはなかったけど、お姉ちゃんがその気なら、私が久艶と出るしかないよね。
 お姉ちゃんにも舞台には上がってもらう必要性があるから、裏工作はしなくちゃいけないんだよねえ。
 運営委員会に私のお友達は大勢いるから工作はしやすいかな。
 もうすぐお姉ちゃんの無様な姿が見れるかもしれないと思うと、胸がワクテカしてくるわ。

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