当て馬の当て馬ってあんまりですわ

茄子

断罪の宴 シンシア

「ああああああ!」

 叫び声にはっとして顔を上げる。昨晩使われたホールに集められた、マティアスの蝶が皮膚に同化した人々の中央にいる国王が叫び声を上げて血涙を流している。

「国王は何を見ていらっしゃいますの?」
「さあ?」
「マティが見せている幻覚だろう?」
「そうだけど、エリック様に殺すなって言われてるから死なない程度の幻覚だよ。まあ、トラウマものなのは保証するけど」
「ああ、そういえば言われたな。馬鹿王太子も似たようなものか?」
「うん。ついでに愛人も」

 叫びすぎて喉でもつぶれたのか、国王の声が聞き苦しくなったのでマティアスの兄、ラルスの連れて来た近衛が猿轡を噛ませて声をさせなくさせる。
 殿下とシンシア、そして国王の愛人の一部はとうの昔に喉がつぶれて猿轡を噛ませられており、王妃はその中でいっそ殺されたほうがましなのだと言えるほど顔を白くさせ体を震えている。
 貴族や兵士、騎士や侍女などの何人かはすでに首を落とされ、隣に並ばされているものがその首を持たされている。

「リア、顔色が悪いけど?」
「……血の匂いに負けてるんですわ」
「暴走した魔物とかの血はいくらでも平気なのに?」
「ええ…」

 セシーリアは顔を青くさせながらも、血涙を流してもがき声なき声を上げる王族や愛人たちを見つめる。
 マティアスの幻影・幻覚は隣国では破ることが出来るのは皇帝と皇太子ぐらいだといわれている。
 捕縛の魔術によって暴れることもできずにいる彼らは何を見せられているのだろう。





************************************************





「シンシア」
「ラディ!」

 微笑みを浮かべてくるライディーンにシンシアは勢いよく抱き着いて幸せを感じる。

「あのね、怖い夢を見たわ」
「夢?どんな?」
「私がラディの愛人になるの」
「私の愛人?」
「違うわ、コンラード殿下の愛人よ」
「それはちょっと困るな」
「もういいの、夢だもの」
「夢?本当に夢?」
「夢よ。あんなの夢に決まってるわ。私はラディと幸せな暖かい家庭を作るんだもの」
「ふーん?シンシアが私を殺したのに?」
「え?」

 顔を上げればあちこちから血を流すライディーンの顔にシンシアはびくりと抱き着いていた腕に力を入れてしまう。

ーぐちゃ。

「え?」

 間近で聞こえた何かがつぶれる音に恐る恐る手を離すと触れていた手がひしゃげているのが見えて一歩離れる。

「私を殺したくせに」
「ちがっ、私はそんなことしてない。違うのよ」

 慌ててライディーンに手を伸ばして肩を掴むとマラ肉がつぶれる音がしてライディーンの腕がべちゃりと音を立てて床に落ちる。

「あ、あ…」

 咄嗟に医療魔法を発動させて癒そうとするがすればするほどライディーンの体が崩れていく。

「シンシアが私を殺したんだ」
「ああ、ちがっ違うの」

 そう言ってぐちゃりと顔がつぶれて血と肉の塊になったライディーンを腕に抱きしめて必死に医療魔法を発動させる。

「ちが、ちがうの」
「何が違うんだシシー」
「ラディ?」

 肩をたたかれて振り返ればコンラードが困ったように微笑んでいて、シンシアは腕の中を見るがライディーンの肉塊は嘘のように消えている。

「わ、私…夢を見てたみたい」
「夢?」
「そう、すごく嫌な夢…」
「可哀そうに」

 そう言ってシンシアを後ろから抱きしめてくるコンラードのぬくもりにほっと息を吐いて身をゆだねる。

「あのねラディ、私幸せな家庭を作れるわよね?ラディと一緒に作れるわよね」
「愛人の分際でバカみたいな夢を語るね」
「え?」
「ただの一時の遊びで相手をしてやったからって温かい家庭?私の妻になる?愚かしいにもほどがある」
「何言ってるの?ラディだって私と一緒にいると温かい気持ちになるっていってたじゃない」
「ただのリップサービスだよ。ただの愛人に夢を見せてあげたんだ」

 その言葉に振り向けばコンラードは後ろ向きになっているピンクブロンドの女性を抱きしめて肩越しにシンシアを冷たい目で見つめてくる。

「私の妻はセシーリアだけだ」
「違う!セシーリア様とじゃラディは幸せになれないの!」
「私が愛しているのはシアだけだ」
「うそよ!私のことを愛してるって言ったじゃない!」
「お前なんか、シアの代わりにもならない。白雪のようなシアとぐちゃぐちゃに踏み荒らされたお前じゃ比べるのも烏滸がましい」
「なんでそんなこというの?私はラディのために何でもしたじゃない。言われた通りにしたじゃない。私の初めてだって全部ラディにあげたじゃない!」

 そう叫べばいつの間にか手に剣を握りしめていた。

「全部、全部ラディにあげたのに。いう通りにしたのに!」

 立ち上がって勢いをつけてセシーリアごろコンラードを剣で貫けば、いつの間にかセシーリアが消えてコンラードだけが残り胸に深々と剣が刺さっている。

「私はもうラディしかいないのに」
「また私を殺すんだね、シンシア」

 聞こえた声にコンラードの顔を見れば、いつの間にかライディーンになっており口から血を流してシンシアを見ている。

「え?あ…」

 ふらりと持っていた剣から手を離してふらふらと離れる。

「ラディ?」
「やっぱり私を殺すんだね、シンシア」
「あ、ちがうのそうじゃないの」
「私を殺したんだよね」
「ひっ」

 背後から抱きしめられ、耳元でコンラードがささやく。

「愛してる私を殺すなんてシシーはひどいね」
「だ、だって…、私っ私は…」
「シンシアに愛された人は全員不幸になる。いや、かかわった人全員だ」
「私のせいじゃない。私のせいなんかじゃない!」
「シンシアのせいだよ」
「ちがう!違うわ!」
「シンシアのせいで私も不幸になった。本当に愛しているのはセシーリアなのに」

 シンシアは違うと叫んで耳をふさぎしゃがみこむ。

「純粋で愚かなシンシア。君のせいで私は死んだんだ」
「単純で自分の幸せしか考えないシンシア。お前のせいで私は不幸になる」




***********************************************





「~~~!!!」

 びくりとシンシアが震えて動かなくなる。

「死んだか?」
「生きてるよ。まあ、精神が死にかけてるっぽいから修復しておくけど」

 そういってマティアスがシンシアに向かって魔法をかける。
 幻覚から目が覚めたのか、それとも偶々なのか目を開けたシンシアとセシーリアの目が合う。

「~~!」

 何かを叫ぶシンシアの様子にラルスが嗤う。

「いい具合に壊れてくれてるけど、まだ足りない。"愛してる"王太子の死にざまをちゃんと見てもらわないといけないしなあ」
「王太子のほうもいい具合なんじゃない?兄上がこの後どうするかは知らないけど」
「まあ、なぶり殺しだな。幸いマティもいるから腕の一本や二本なくなっても治せるだろう?人間としての誇りも尊厳も踏みつぶしてやるよ。リアを侮辱して凌辱したんだ、当たり前だろう」

 その言葉にセシーリアは軽く息を吐き出す。ラルスの身内愛は隣国の中でも異常なほどだ。とくにセシーリアに対する愛情はすさまじく、魔の森で傷の一つでもつけられればその対象を消し炭にしたり肉塊になるまでなぶり殺しにしていた。
 かといってセシーリアを自分の妻に希うかと言えばそういうわけでもなく、ただ無償の献身的な愛を捧げている。
 ラルスやマティアスの父親がセシーリアの母親に向けていたものと同じだと父親に聞いた時は、血の恐ろしさを感じたものだ。
 今まで我慢していた分の反動もあるのだろうが、ラルスはこの国でセシーリアに害意を持った人間を一人残らず殺しつくすだろう。

「リアの慈悲を無駄にした人間は苦しみぬいて死ねばいいんだよ」
「ラス…。いつだって貴方の愛は重いわ」
「そう?身内を守ろうとするのは我が国の民の本能だけどね」
「兄上は飛び抜けてるけどね」
「お爺様も父上も似たようなものだと思うけど」
「血ですわね」
「兄上の母上の父上への愛も相当だから仕方ないだろうね」

 マティアスはそう言ってちらりと殿下を見て嫌そうに顔をゆがめる。

「どうかなさいまして?」
「あまりにも強い幻覚を見てるから流れ込んできただけ。ものすっごく不愉快になった」
「……そろそろ殺すか」

 マティアスの言葉にラルスがそう呟くと、いつの間にかコンラードの前に立ち片腕を掴んで持ち上げた。

「当て馬の当て馬ってあんまりですわ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く