当て馬の当て馬ってあんまりですわ

茄子

仕組まれた事故 ※ライディーン視点

「ひっ、あ…なん、でぇ?」

 シンシアは目の前のライディーンの姿に呆然と力なく座り込んでいる。





 楽しい会話をしていたはずなのに、逃げるように立ち去ろうとしたライディーンが運悪く会談で足を踏み外してしまった。
 慌てて駆けよれば、少なくない段数の一番下まで落ちていて、体と頭はかばったようだけどど両足と両腕がいろいろとありえない方向に曲がっていた。

「っ!ま、待ってて今治すから」

 丁度持っていた医療魔法の魔法紙の中から骨折の術式を取り出して発動出せる。

「大丈夫、最近はセシーリア様だって褒めてくれることが多いんだから、すぐに治るからね」

 大怪我の治療のせいか、体の大半の魔力が奪われるけれどもライディーンのためなのだから仕方がない。
 術式の発動が終わり、ほっと息を吐いてライディーンを見る。

「ラディもうだい、じょ……え?あ…あ?」

 そこにいたのは"折れた状態で骨がくっつき、神経や筋、血管がそのままの状態"で骨などが再生したはずの皮膚を歪に盛り上げている姿だった。
 苦痛に歪む顔にもう一度術式を発動しようとしたが魔力が足りず、たまたま目に入った魔力媒体に仕える絵を壁から外してもう一度術式を発動さた。

「ひっ、あ…なん、でぇ?」

 ちゃんと発動されたはずの術式なのに、今度は骨が皮膚を突き破り、中に溜まっていた血が溢れ出してくる。

「なんで?なんで?……ラディ、ラディはどこ?何かあったら助けてくれるって言ってたもの。ラディを探さなくちゃ…」

 ふらりと立ち上がったシンシアを、痛みと遠のきそうになる意識にあらがっていたライディーンが見る。
 意識が途切れかけても痛みのせいで呼び戻され、強い痛みにまた意識が遠のきかける。
 これ以上血を流せは流石に命が危ないと冷静になった頭がいうが、動くこともできない体に、開けば叫び声しか出てこない口ではどうすることもできない。
 そして、どうしてこの場に人がいなかったのか、どうしてシンシアがわざわざここに来てライディーンと出会ってしまったのか。それを仕組んだであろう殿下のことを考え痛みを無理やりやり過ごして目を閉じる。

(可哀そうなシンシア)

 怒りでも侮蔑でもなく、ライディーンはただそう考えながら意識を閉じた。






「ラディ、お願いラディを助けて」
「可愛そうなシシー。どうしてライディーンと会ってしまったんだい?」
「だっていたんだもの。学園ではいつも避けられてしまうし、捕まえなくちゃってちゃんとお話ししなくちゃって思ったのよ」
「ああ、そうだよね。でもシシー私はちゃんと教えただろう?もうライディーンに近づいてはいけないと」
「で、でもっ」
「ライディーンを愛しているのなら、近づいてはいけないんだよ。言ったはずだよ、シシーがライディーンに近づいてしまったら彼には不幸なことが起きるって」

 暗い世界に聞こえて来た声に耳を傾ければ、おそらく自分のすぐ横でなされている会話なのだとわかる。

「でもそんなの」
「シシーのせいだよ。シシーがライディーンと会話をしたから彼は階段から落ちることになった。君が未熟な医療魔法の術式を確認しないで発動させたから彼は……こんな目に合っている」
「ひっ」

 体に掛けられたシーツがはぎとられた感覚とシンシアの悲鳴に、自分の体がひどいことになっているのだと理解する。

「私、私はそんなつもりじゃ。術式だって最新のを持ってたはずで」
「昨日侍女と一緒に君の実家から贈られてきた学用品の整理をしたのを忘れてたの?一年のものから順に並べたって言ってたよね」
「あ、でも……違うわ」
「普通の紙に書かれた術式なら発動しなかったのに、わざわざ魔法紙に書かれた昔の術式を何の確認もしないで発動させたんだよ」
「わざとじゃ…」
「でも、シシーのせいだよ。約束を破ったせいでライディーンはこうなってしまった。シシー、君のせいだ」
「あ、あ…」
「可哀そうに。治療には長い時間とお金がいる。その補助をする人も見つけないといけない」
「っ!私がするわ!ラディの補助は私が」
「だめだよ。君はもう人妻なんだ、もし君が彼の補助を買って出ても君の書類上の夫が許さないだろう」
「そんな見たこともない人なんて関係ないわ!」
「関係ない?前も言ってたけどシシーはそんなに書類上の夫がいるのがいや?」
「嫌よ!いくら陛下が決めたからってあったこともない夫なんていやよ」
「いなくなればいいって思うほどに嫌?」
「当たり前じゃない!」

 シンシアのその言葉に思わず駄目だと言おうと口を開こうとするが、体が鉛のように重くて動かすことが出来ない。

「そう。……でも今はシンシアの書類上の夫だ。今回のことでリドホルム伯爵家に賠償を支払うことになるよ」
「そうなの」
「残念だね。君の実家の財産をすべて譲られた矢先にこんな賠償なんて」
「え?」
「学用品が来た時に言っただろう?キドランド伯爵家から届いたって。君は自分の私物を懐かしんで聞いてなかったみたいだけど」
「どういうこと?財産全てって、まるでハンメルト男爵家がなくなったみたいな言い方」
「無くなったよ。原因はシシーの手紙だよ」
「え?」
「書いたでしょう、手紙。王城なんか好きでいるんじゃない、元の生活に戻りたい、シシーがここにいるのは陛下や父君や私を置いてシアが王太子宮を出て言ったせいだって」
「なんでしって…」
「君の父君が爵位返上の手続きの際に提出してきたからね」
「ひどい!人の手紙を勝手に!」
「うん、ひどいよね。でも………シシーが手紙なんか出さなければ、こんなことにはならなかったよね」
「え?なんで私のせいなの?ただ手紙を書いただけなのに」

 その言葉にガンガンと痛む頭がさらにひどく痛んでくる。
 シンシアは本当にこの王城に住んでいる意味を理解していない。同学年の令嬢や先輩令嬢が何度もいっているの嫌味を言われている、悪口を言って責められていると思うほどだ。

「いっただろう?私以外を頼るような真似をしてはいけないって。それに、あの手紙の内容は不敬罪に値するんだ。死刑になってたかもしれないんだよ」
「い、いやよ!」
「うん。言ったじゃないか。私は君を守ってあげるって。男爵家は"自主的に"爵位を返上して地方へ行ったから死刑を免れたけど、おって言ってはダメだよ。今度こそ死刑になるかもしれない」
「わ、わかった。追ったりなんかしないわ」
「そう、いいこだねシシー。言うことを聞いているいい子なら私が望みをかなえてあげる。欲しいものだって手に入れてあげる」
「なら私をラディの補助にして」
「ああ、それはダメだよシシー」
「なんで?今望みは叶えるって言ってくれたのに」
「だって、シシーは話しかけたせいでライディーンは階段から落ちて大怪我をして、シシーがちゃんと確認せずに術式を発動させたから余計にひどいことになってるんだ。これ以上シシーがライディーンの傍にいるなんてできないよ」
「私のせいなら私が面倒を見るわ」
「……悪い子だね、シシー」
「え?」
「ああそうそう。関係ないけどシシーが使った絵画、只の伯爵家が支払えるような額じゃないんだ」
「でも緊急用で」
「うん、仕方なかったんだよね。でも、駄目になった絵画の賠償金とリドホルム家への賠償金で、キドランド伯爵家は爵位返上する羽目になるみたいだよ」
「じゃあ結婚の話しはなかったことになるのね」
「残念だけど、君は貴族ではなく只の国民の妻になってしまうね」
「そんなっそんなの酷い」
「何がひどいのかな」
「なんで没落しても私が妻のままなの?おかしいわ」
「書類上の夫がいることが嫌?」
「嫌よ」
「本当に?」
「あたりまえだわ!」

 そう、と殿下が小さく呟くのが聞こえ絶望感が襲ってくる。
 なぜシンシアは気が付かないんだ。ハンメルト男爵は爵位は低くても立派な方だった。子供たちへの教育もしっかりとしていたのに、どうしてシンシアだけが腹を読むこと、悪意を隠すことを覚えなかったんだ。
 もっとちゃんと貴族としての教育を受けていれば、あのまま私の正妻として生きる道もあったかもしれないのに…。

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