当て馬の当て馬ってあんまりですわ

茄子

婚約の無効 ※シンシア視点

(うそよ、うそだわ、嘘に決まってるわ)

 突然父親から告げられた言葉にシンシアは首を傾げ、冗談でしょうと笑った。
 何度も、何度も告げられてそれが冗談ではないとわかると嘘だと決めつけて父の執務机を叩く。

「嘘に決まってるわ!婚約の無効なんて!ありえないわ!」
「嘘でも何でもない。すべてはお前が行ったことの報いだ」
「私が何をしたというの!」
「私たちはお前に言ったはずだ。我が家の財政はお前の入学費用と最低限の学費で精いっぱいだと」
「そんなの何度も言われたわ」
「ではなぜあのように散財した!なぜそれを私たちに言わなかった!なぜ婚約者であるライディーン君に相談しなかった!」
「散財なんかしてない!」

 シンシアの言葉に父親は机に手を叩きつける。

「ならあの食費の請求は何だ!学用品といって使う魔法紙やインク、高級媒体素材はなんだというんだ!」
「魔力を使うとお腹がすくんだもの!それにお父様が今言ったのは必要なものだわ!」
「試験でもなんでもないただの授業にまで使うというのか!」
「皆は使ってるわ!」
「お前の言う皆とは上級貴族の子女のことだろうが!普通は授業では魔法紙も魔法インクも高級媒体素材も使わない!」
「そんなことないわ!」
「いい加減にしろ!お前の学費で我が家がどれほど財政が悪化したと思っている。毎月送られてくる菌が鵜をねん出するのにどれだけ苦労していたと思っている」
「そんなのしら」
「私達はお前に何度も言っていた!知らないなどとは言わせん。お前の学費を賄うだけに我が家はあるのではないと!食費も学用品代も控えろと何度言ったと思っている」

 父の剣幕にシンシアは一歩後ずさり、でもとぎゅっとこぶしを握る。

「最近は家に迷惑をかけないように、してたもん」
「ほう?それはライディーン君に相談して資金援助してもらっていたと?」
「そんなっラディにそんなこと言えないわ。迷惑かけたくなんか…」
「では誰に相談して資金援助してもらっていたと?今お前がつけている瑠璃色宝石細工のペンダントの送り主か?」
「そ、れは…。これはお友達からもらったもので」
「それがいくらするか理解したうえで貰ったんだろうな?」
「知らない…」
「お前の一年時の学費と食費代と同じだ!わかるか?我が家の一年の収入の3分の2以上の価値のある者だ!」

 父の言葉にシンシアは首をかしげる。それなら大した金額ではないのだろうと思ったのだ。
 それを感じ取った父は頭を抱える。

「なぜお前は頭が悪くないはずなのに理解してくれないんだ」
「なにを言ってるの」
「王太子殿下が、ただの友人にそれだけの金額を使って許されるわけないだろう!いくら王太子であったとしても、お前に貢いだ金額が王太子の生活資金で賄えるわけがないだろう」
「ラディ様は何も言ってきてないわ。何も心配しなくていいって、学校の食費も学用品も任せてくれていいって」
「なぜそれを私たちに、せめてライディーン君に相談しなかった!婚約者でもない異性に資金援助される意味をなぜ誰にも問わなかった!」

 その言葉にシンシアは眉を寄せて首をかしげる。家族に言わなかったのもラディに言わなかったのも、ただ心配をかけたくなかったからなのに、どうして理解してくれないのだろう。
 シンシアはフルフルと首を横に振って自分は間違ってないと何度も訴える。

「お前が殿下に援助してもらった金額はセシーリア様に使われるはずの資金だった」
「え?そうなの?でもセシーリア様ってお金持ちなんでしょ?ラディ様がセシーリア様はいつも自分を頼ってくれない、実家から持ってきたお金と人材で何でもしてしまうって言ってたわ」
「ああ、そうだ。セシーリア様は国から配給される資金を一切使わずに生活なさってた。そしてその資金を管理しているのは同じ宮で暮らしていた殿下だ」
「そうなんだ。大変だねセシーリア様の分まで資金管理して」

 見当違いな方向に眉を寄せるシンシアの態度に、父親は思わずもう一度机を強くたたく。

「お前に使われていたのはその資金だといっただろう!これは横領に値する行為だ」
「お、大袈裟だわ」
「大袈裟でも何でもない!今隣国から大使が来ている。セシーリア様の従兄王子に当たる方だ。その方に今回の横領が知られれば、セシーリア様をないがしろにしたと責め立てられる可能性だってある」
「じゃあ知られないようにすればいいんじゃない。お金の管理はラディ様がしてるんでしょう?だったら」
「……そう思うんだな?」
「え?うん」
「お前はセシーリア様に謝って許しを請いどうにか事を荒立てないようにしてもらうのではなく、知られないように誤魔化せばいいというんだな」
「そ、そりゃあちょっとは悪いけど。そもそもその資金っていうのを使わないセシーリア様が悪いわ」

 シンシアのその言葉に父親は立ち上がりシンシアの傍に来ると、手を振りかぶりその頬を力の限り打つ。

「だからこそお前は婚約を無効にされたのだ。ライディーン君・・・いや、リドホルム様に見限られたのだ」

 打たれた頬は一瞬で真っ赤になり、あまりの痛みにシンシアの目に涙が浮かぶ。

「お前はリドホルム家との縁組が無効になった。別の伯爵家の書類上の後妻となり、そのまま王城に上がり殿下の愛人として暮らすことになる」
「…は?なにいってるの?」
「お前と殿下が横領した資金は"愛人への報奨金"であったとされる」
「そんなことどうでもいいのよ!なんで私がラディ以外と結婚しなくちゃいけないの?なんで殿下の愛人にならなくちゃいけないの!?」
「言っているだろう!お前の行った行為への報いだと!もしお前がセシーリア様に申し訳ないと地面に頭をこすりつけて謝罪するのであれば、私達は爵位を返上して許しを請うつもりだった。だがお前は自分の事しか考えず、悪くないといった。お前にはもう愛想が尽きた。即刻この家を出て王城へ行け。婚姻届けには代理として私がサインとして提出しておく」

 だんだんと力がなくなっていく父親の言葉にシンシアは意味が分からないと首を振り、その度にずきずきと痛む頬を押さえる。

「意味わかんない。私何も悪いことしてないわ。ラディ様がいいって言ってくれたんだもの。心配しなくていいって言ってくれたんだもの。学園でも誰も何も言わなかったわ。ラディも何も言わなかったもの」

 ぶつぶつと呟くシンシアを父親は冷たく見る。その瞳には悲しみを呆れが浮かぶ。
 書斎がノックされ、腰に件を下げた兵士が了承を得ずに部屋に入ってくる。

「こちらの書類にサインを。シンシア様に関しては身一つで王城へお越しいただきます」
「ああ…」
「まってよお父様!その書類が婚姻届けなの?いやよ!まってよ!」
「シンシア様はこちらに。王太子殿下が王宮にてお待ちです」
「触らないでっ!いやよ!お父様助けて!」

 シンシアの声を聴きながら父親は書類にサインをして指輪に描かれた家紋に自分の血をつけて押す。

「なんで、なんで私を売るような真似をするの?家族でしょ?お父様なんで!」
「……連れて行ってくれ」

 叫びを無視して兵士がシンシアを部屋から連れ出す。

「シンシアは、王太子殿下の愛人用の宮で暮らすのでしょう?せめてあの子の使っていた服や小物を持たせてもいいでしょうか?」
「必要ありません。シンシア様は王太子宮に住まわれますので、王太子殿下がすべてご用意なさるとのことです」
「は?………なに?」

 最初意味の分からなかった言葉の意味を理解して兵士をまじまじと見てしまう。

「これ以上セシーリア様への無礼を重ねると、殿下はおっしゃるのか?」
「セシーリア様はすでに別の宮に住まいを移しておりますので」

 兵士の言葉に父親は今度こそ口を戦慄かせる。

「王太子殿下は何を考えて…。隣国に喧嘩を売っているとしか」

 愛人を自分の宮に住まわせるためにセシーリア様を追い出したなど、セシーリア様を侮辱したと隣国につけこむ口実を与えているだけだ。

「隣国の大使の希望とだけ聞いている。我が国に落ち度はない」

 兵士の言葉にないわけがないと心の中で叫んだが、実際はあまりのことに体中から力が抜け、執務机にしがみつくしかできなかった。
 そんな様子を一瞥して、兵士は書斎から出て行った。

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