当て馬の当て馬ってあんまりですわ
やってきたいとこ王子
冬、王城に二人目の隣国からの大使がやってきた。
謁見の間にメタリックなアイスブルーの、ひどく冷たい美貌を持つ青年が立っている。
「マティアス・ガルアーズスと申します。ご存じないかもしれませんので付け加えるのであれば、隣国皇位継承権第3位をいただいております。それと、セシーリアのいとこに当たります」
入室した時から一度も下げられていない頭に、国王陛下や王妃陛下、王太子殿下の機嫌が悪くなっていくのがわかる。
「先だって別のものがこの国を訪れましたが、本当にセシーリアに挨拶程度しかできなかったと嘆いていました。今回はしばらく滞在させていただけるとのことで嬉しく思います」
「であるか。しかし聞きたいのだが」
「なんでしょうか?」
「貴殿は大使としてきているというのに、礼を欠いているのではないか?」
国王陛下の言葉に、マティアスは今気が付いたとばかりに肩をすくめる。
だがその瞳に浮かんだ冷たい色にセシーリアはマティアスが怒りをため込んでいると理解して大事にならなければいいと祈るしかない。
「これは失礼をいたしました。"自分よりも格が下の人間″に膝をついて頭を下げるような教育を受けていないもので」
そういってわざとらしく、"膝を折らずに"胸の前に片腕を当て腰を折るという礼をする。
マティアスのその行動に陛下がぎりっとこぶしを握った音が謁見の間に響く。
「隣国の王族は随分と無礼なようだ」
「そのようなことはありませんよ。我が皇族・・は尊敬できる人間にはちゃんと敬意を払います」
「なにを」
「そもそも、あなた方が私達皇族と同列だと考えているなんて思ってもいませんでしたもので」
「セシーリア!お主のいとこであろう!これが隣国の礼儀か!?」
なぜ突然こちらに話しを振るのかとは思ったが、セシーリアは困った顔をして陛下を見る。
「隣国の礼儀ではございません。マティアス様個人の判断でございましょう」
「ではお主が言い聞かせよ!次期王太子妃としての役目であろう」
「お言葉ですが」
陛下の言葉にマティアスが口を挟む。
「この国に属する人間に教えを受ける気はありません。我が国の姫であるセシーリアにであればやぶさかではありませんが」
「どちらでも同じであろう。セシーリアに我が国の礼儀を習うがいい。大使であろうとそれまで離宮より出ることは許可できぬ。貴殿との外交の担当はセシーリアと我が息子だ」
「では我が国の姫であるセシーリアが私に教え、我がいとこ姫がこの国との懸け橋になるということでよろしいのでしょうか」
「そうだと言っておる」
陛下の言葉にハッとしたように王妃が口を開こうとしたが、マティアスに見つめられ目をそらしたためタイミングを逃してしまう。
殿下も気が付いたようで陛下に何かを言おうとしたが、一歩遅かった。
「では、我が国から一つ目の要求をこの場で申し上げましょう。現在我がいとこ姫は王太子宮に住んでいるとのことですが、私が住まう離宮もしくはその隣にある宮に住まいをうしていただきたい」
「なん、だと?」
殿下が思わずと言った感じに呟けば、マティアスの視線が向けられる。
「今国王陛下がおっしゃったではありませんか。辺境伯令嬢ではなく、我が国の姫であると。婚約者とはいえ我が国の姫をこの国の王太子と一緒に住まわせるわけにはいきませんので」
「私の婚約者を私の宮に住まわせることに問題は一切ない」
「ありますよ。婚約者であっても我が国の姫なのでありこの国と我が国の架け橋、言ってしまえば大使のようなもの。大使が王太子宮にいるなどおかしなはなし。それであれば私も王太子宮に滞在するのが道理でしょう」
すごい屁理屈を並べてくるとセシーリアは思ったが、殿下を馬鹿にするような、虫けらを見るような目を向けられた殿下は頭に血が上ってきているらしく、段々と顔が赤くなっていく。
「屁理屈を言って己の思うままにするのが隣国のやり方か」
「屁理屈?文句があるのなら我が国の姫と、この国との懸け橋だと認めた国王陛下へどうぞ」
「そのようなことを認めてはおらぬが?」
「おや、自分の発言も覚えていないというのでしょうか。これは驚きました、それであればそもそもいとこ姫への婚約の話しも怪しくなってきますね」
「貴様っ」
「それで?一つ目の要求は飲んで貰るのですよね。もらえないと言われても、我がいとこ姫の宮の移動は今回の外交条件の最低条件ですので、もし実行していただけないのであれば、我が国としては大変残念ですが300年前から今までにお貸ししたものを返していただくことになります」
「300年前だと?」
陛下が訝し気に眉をしかめれば、マティアスはさも今思い出したと言わんばかりに、そして可笑しくてたまらないと口の端を持ち上げる。
「ああ、そうでした。この国の人間たちはその記憶すらなかったことにしているんでしたか」
「どこまで我々を馬鹿にする気だ!」
「まさか、馬鹿になどしていませんよ。それで、どうするんです?」
控えている兵に指示を出そうとする陛下の手を抑え込んで王妃が額に汗を浮かべて口を開く。
「要求をのみましょう。ただし、セシーリアは王太子の婚約者です。貴方と同じ宮に住まわせることはできませんので隣の離宮に移動させます」
行動を無理に止められたこと、勝手に発言したことに陛下の顔は真っ赤になり、押さえられている手を動かして王妃の手を払う。
「勝手なことをいうでない」
「陛下、気を静めてください。今ここで話しをとん挫させてどうなるのです」
「母上っ。そもそもどうしてこんな要求をのまなければいけないのですか」
「隣国の大使であり継承権第三位の王子の正式な要求であり、陛下が言質を取られたのです。今は私どもには何も反論することはできません」
そもそも言質を取られた陛下が悪いのだと王妃は暗に言ってマティアスを見る。
「これでよろしいのですね」
「ええ。王妃陛下が考えることのできる人でよかったですよ」
マティアスはそういうと、セシーリアを自分のもとに呼び寄せると、そのまましばらく滞在する離宮へと案内するように言って、共に謁見の間を後にした。
謁見の間にメタリックなアイスブルーの、ひどく冷たい美貌を持つ青年が立っている。
「マティアス・ガルアーズスと申します。ご存じないかもしれませんので付け加えるのであれば、隣国皇位継承権第3位をいただいております。それと、セシーリアのいとこに当たります」
入室した時から一度も下げられていない頭に、国王陛下や王妃陛下、王太子殿下の機嫌が悪くなっていくのがわかる。
「先だって別のものがこの国を訪れましたが、本当にセシーリアに挨拶程度しかできなかったと嘆いていました。今回はしばらく滞在させていただけるとのことで嬉しく思います」
「であるか。しかし聞きたいのだが」
「なんでしょうか?」
「貴殿は大使としてきているというのに、礼を欠いているのではないか?」
国王陛下の言葉に、マティアスは今気が付いたとばかりに肩をすくめる。
だがその瞳に浮かんだ冷たい色にセシーリアはマティアスが怒りをため込んでいると理解して大事にならなければいいと祈るしかない。
「これは失礼をいたしました。"自分よりも格が下の人間″に膝をついて頭を下げるような教育を受けていないもので」
そういってわざとらしく、"膝を折らずに"胸の前に片腕を当て腰を折るという礼をする。
マティアスのその行動に陛下がぎりっとこぶしを握った音が謁見の間に響く。
「隣国の王族は随分と無礼なようだ」
「そのようなことはありませんよ。我が皇族・・は尊敬できる人間にはちゃんと敬意を払います」
「なにを」
「そもそも、あなた方が私達皇族と同列だと考えているなんて思ってもいませんでしたもので」
「セシーリア!お主のいとこであろう!これが隣国の礼儀か!?」
なぜ突然こちらに話しを振るのかとは思ったが、セシーリアは困った顔をして陛下を見る。
「隣国の礼儀ではございません。マティアス様個人の判断でございましょう」
「ではお主が言い聞かせよ!次期王太子妃としての役目であろう」
「お言葉ですが」
陛下の言葉にマティアスが口を挟む。
「この国に属する人間に教えを受ける気はありません。我が国の姫であるセシーリアにであればやぶさかではありませんが」
「どちらでも同じであろう。セシーリアに我が国の礼儀を習うがいい。大使であろうとそれまで離宮より出ることは許可できぬ。貴殿との外交の担当はセシーリアと我が息子だ」
「では我が国の姫であるセシーリアが私に教え、我がいとこ姫がこの国との懸け橋になるということでよろしいのでしょうか」
「そうだと言っておる」
陛下の言葉にハッとしたように王妃が口を開こうとしたが、マティアスに見つめられ目をそらしたためタイミングを逃してしまう。
殿下も気が付いたようで陛下に何かを言おうとしたが、一歩遅かった。
「では、我が国から一つ目の要求をこの場で申し上げましょう。現在我がいとこ姫は王太子宮に住んでいるとのことですが、私が住まう離宮もしくはその隣にある宮に住まいをうしていただきたい」
「なん、だと?」
殿下が思わずと言った感じに呟けば、マティアスの視線が向けられる。
「今国王陛下がおっしゃったではありませんか。辺境伯令嬢ではなく、我が国の姫であると。婚約者とはいえ我が国の姫をこの国の王太子と一緒に住まわせるわけにはいきませんので」
「私の婚約者を私の宮に住まわせることに問題は一切ない」
「ありますよ。婚約者であっても我が国の姫なのでありこの国と我が国の架け橋、言ってしまえば大使のようなもの。大使が王太子宮にいるなどおかしなはなし。それであれば私も王太子宮に滞在するのが道理でしょう」
すごい屁理屈を並べてくるとセシーリアは思ったが、殿下を馬鹿にするような、虫けらを見るような目を向けられた殿下は頭に血が上ってきているらしく、段々と顔が赤くなっていく。
「屁理屈を言って己の思うままにするのが隣国のやり方か」
「屁理屈?文句があるのなら我が国の姫と、この国との懸け橋だと認めた国王陛下へどうぞ」
「そのようなことを認めてはおらぬが?」
「おや、自分の発言も覚えていないというのでしょうか。これは驚きました、それであればそもそもいとこ姫への婚約の話しも怪しくなってきますね」
「貴様っ」
「それで?一つ目の要求は飲んで貰るのですよね。もらえないと言われても、我がいとこ姫の宮の移動は今回の外交条件の最低条件ですので、もし実行していただけないのであれば、我が国としては大変残念ですが300年前から今までにお貸ししたものを返していただくことになります」
「300年前だと?」
陛下が訝し気に眉をしかめれば、マティアスはさも今思い出したと言わんばかりに、そして可笑しくてたまらないと口の端を持ち上げる。
「ああ、そうでした。この国の人間たちはその記憶すらなかったことにしているんでしたか」
「どこまで我々を馬鹿にする気だ!」
「まさか、馬鹿になどしていませんよ。それで、どうするんです?」
控えている兵に指示を出そうとする陛下の手を抑え込んで王妃が額に汗を浮かべて口を開く。
「要求をのみましょう。ただし、セシーリアは王太子の婚約者です。貴方と同じ宮に住まわせることはできませんので隣の離宮に移動させます」
行動を無理に止められたこと、勝手に発言したことに陛下の顔は真っ赤になり、押さえられている手を動かして王妃の手を払う。
「勝手なことをいうでない」
「陛下、気を静めてください。今ここで話しをとん挫させてどうなるのです」
「母上っ。そもそもどうしてこんな要求をのまなければいけないのですか」
「隣国の大使であり継承権第三位の王子の正式な要求であり、陛下が言質を取られたのです。今は私どもには何も反論することはできません」
そもそも言質を取られた陛下が悪いのだと王妃は暗に言ってマティアスを見る。
「これでよろしいのですね」
「ええ。王妃陛下が考えることのできる人でよかったですよ」
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