当て馬の当て馬ってあんまりですわ

茄子

陛下とのお茶会

 サマーパーティーから二週間ほどたった日殿下共々国王陛下のお茶会に呼ばれた。
 予定を急遽変更し国王陛下と王妃陛下の住まう宮へ行く途中、場所の変更を告げられる。
 変更先は国王陛下の私的な宮。わかりやすく言えば後宮だ。
 行き先の変更に何か不穏なものを感じながらも、陛下の侍従に案内されて道を歩いていく。
 王城の奥、国王夫婦の宮のさらに奥に隠されるようにある宮は周囲を高さ2メートルほどの鉄柵で囲まれており、扉には見張りの兵が立っている。

「相変わらず趣味が悪い」

 殿下の言う通り、初めて足を踏み入れた宮の中はまさに豪奢というかお金の無駄遣いとしか思えないほどに装飾過多であった。

「陛下のご趣味でしょうか?」
「愛人どもが自分への寵愛をこうして見せびらかしているんだ。それを許している父の趣味と言えば趣味なのかもな」

 何も言えずにいるセシーリアに殿下は酷薄な笑みを浮かべる。

「何を心配した?ここに入れられるかもしれないという不安か?私がこのような宮を作るかという不安か?」
「いえ…」
「私との婚約がなくなればシアはここの一員になるだろうな」
「それだけは決してございません。私はラディ様の婚約者でございます」
「………ならいい」

 この会話すら、あとで陛下に報告されるのだと言葉を慎重に選んでいく。
 そのあともいくつか会話をしてたどり着いた最奥の部屋。

「ソフィー・ウルマン様のお部屋にございます」
「ああ、今一番寵愛を受けているというウルマン夫人か」
「はい」

 そういって侍従が扉を開ければ応接間が見え、さらにその奥の居間に案内される。
 当然と言えば当然だが、そこにいるのは国王陛下と愛人のソフィー様で王妃陛下の姿はない。

「本日はお招きいただきありがとうございます父上」
「お招きいただきありがとうございます国王陛下」
「ああ、座るといい」

 殿下がソフィー様をわざと無視した挨拶をするのでセシーリアも口上はソフィー様を無視し、目線だけで挨拶をする。
 ソフィー様は特に気にするでもなく、陛下に甘えるようしなだれかかったまま、どちらかと言えばこちらの存在を無視しているようにすら見える。

「婚約してから二年半ほどか。二人の仲の良さは私の耳にも届いている」
「ええ、このように完璧な婚約者を持てて嬉しいですよ」
「だが、先日の学園のパーティーでセシーリアとは一曲しか踊らなかったそうだな?」
「それは…」
「私がお願いしたのです。女生徒のダンス練習の成果を見てくださいませと」
「ほう。なるほどな……では特定の女生徒と過ごす時間が多かったというのは意図したものではないということか?」
「もちろんです」
「私はてっきりその娘をお前の愛人にする気なのかと思っていたのだが、勘違いであったか」
「ええ、そのようなつもりはありません」
「では愛人は誰にするつもりだ?」

 その言葉にセシーリアが思わず殿下を横目で見ると、殿下は腰に手をまわし陛下に見せつけるように身を寄せる。

「結婚前からそのようなことを考えるのは誠意が足りないというものです」
「そうか?王妃とは国を支えるパートナーではあるが、愛人や公妾は国王の癒しとなる存在だ。なあソフィー」
「ええ、陛下」

 クスクスと笑って陛下の首に手をまわし息子の前だというのに濃厚な口づけを交わす二人にセシーリアは笑顔の仮面を被ったまま視線を下に落とす。
 ソフィー様を抱きしめ腰に手をまわし、背中を撫でながら陛下はちらりとセシーリアに視線を投げ嗤う。

「二人はまだ契りを交わしていないのだったな」
「ええ」
「なぜだ?」
「なぜと言われましても、まだ早いとだけ」
「お前の性交の講義は終えていると聞いているが?セシーリアのその体を前にして手を出せぬとは、腰抜けか?」
「私たちのことは私たちの間で決めます」
「ならん。お前たちの性交は国の行く末にかかわる。国王として口を出させてもらう」

 当たり前だと陛下はいい、セシーリアの体を舐めるように見て殿下をあざ笑うかのように見て、わざとらしくソフィー様の体をまさぐる。

「自信がないのであれば私が手ほどきしてやろうか?4人で致すのもまた一興」
「ふざけないでください!」

 ガタリと殿下が立ち上がり陛下に向かおうとしたのを、思わず腕を引いて引き留めて首を振る。

「やはりセシーリアのほうが執政者としては上のようだな」

 陛下がそう言ったところで侍従が扉をノックし、殿下に使いが来ていると伝えてくる。

「ここに呼べばいい」
「いえ、どうぞこちらへ」

 立ち上がった殿下を強引に連れていく侍従にセシーリアも立ち上がりついていこうとしたが、陛下に止められてしまう。

「すぐ終わるだろう。茶でも飲んで待つがいい」
「……かしこまりました」

 殿下がこちらに視線を向けて部屋を出ていき扉を閉めると、今度はソフィー様が侍女を連れて奥の部屋に行ってしまう。

(この状況はいけませんわね)

 そうは思うが、陛下相手に下手なことはできない。

「あれとの婚約はお前にはすまなかったな」
「いいえそのようなことはございません」
「………本当に、リリアン姫に似ておる。いやそれ以上の美貌か」
「恐れ多いお言葉にございます」

 陛下が立ち上がりテーブルを回ってセシーリアに近づいてくるのがわかり、素早く立ち上がり距離を取る。

「なぜ離れる」
「なぜ近づかれますか」
「未来の娘の顔をよく見たいだけだ」
「ご遠慮いただきたく存じます」
「ほう?」

 器用に片眉を持ち上げて陛下は一歩近づき、セシーリアが一歩下がる。

「アレが気に入らぬ故体を許していないのであろう?」
「そのようなことはございません」
「婚約が嫌なのであれば特別に解消を許すぞ」
「無理にございましょう」
「要はお前が王家の人間のものになればいい。そうなれば隣国は手を出せない。ここ最近問題になっている魔物の討伐にも喜んで手を貸してくれるだろう」
「それは、陛下の愛人になれということですか?」
「ああ、アレから聞いているか。そうだ、私のものにならないかセシーリア」
「お断りいたします」

 壁際に追い詰められて顎を掴まれる。

「結婚の前に他の男に純潔を散らされてしまえば否でも解消となるだろう」
「それ以上お近づきになりますな」

 腕に隠した小型のナイフを取り出して構える。

「……私に武器を向けるか。どうなるかわかっての行動か?」
「もちろん陛下に武器を向けたとあっては一大事にございましょう。けれど」
「なっ」

 セシーリアはナイフを自分の首筋に当て皮一枚を切る。
 その行動に驚き陛下は手を離して一歩下がる。

「自傷する分には問題ございません。私に触れなさいますな。ステンホルム国王陛下。このような場所であっても王城で私を死なせたとなれば隣国はだまっておりませんでしょう」
「………なるほど。どこまでも母親譲りか」

 陛下は苦々しく言うと手を叩く。すぐさま奥から薄い寝着を纏ったソフィー様が現れ状況についていけず目を瞬かせる。
 陛下は乱暴にソフィー様を抱き寄せると濃厚な口づけをして体に触れる。

「興がそがれた。宮へ戻れ」
「かしこまりました」

 浅くカーテシーをしてすぐさま居間への扉を開ける。

「シアっ無事か!」
「ラディ様!?」

 兵に拘束されたラディ様に駆け寄り、兵に拘束を解くように命じる。

「陛下のご命令が優先ですので」
「その陛下に宮へ帰れと言われたのです。早く離しなさい」

 一瞬のためらいの後殿下は拘束が解かれふらつきながらもセシーリアの体を確かめる。

「何もされていないな」
「ええ、もちろんですわ」
「……この傷は?」
「自分で致しました」

 そこで殿下はセシーリアの袖に触る。

「無事なんだな」
「私はラディ様の婚約者でございます」
「そうか」

 殿下はそう言ってセシーリアの腰に手をまわし強く体を寄せると、このようなところには一秒でも長くいたくないと言って早足で歩いていく。
 横に見える顔はとてもではないが顔色がいいとはいえず、目には冷たい光が宿っていた。

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