当て馬の当て馬ってあんまりですわ
出会い ※コンラード視点
学園で3学年にもなればそれぞれの個性というものが出てくる。
私は補助魔法よりも攻撃魔法、そして強化魔法を得意とする。座学や帝王学も順調にこなせばこなすほどシアとの差を自覚させられて胸がムカムカとする。
シアは今年の授業のいくつかで魔法師団長の指導を受けることが決まっている。だがそれは建前上のことだ。史実は魔法師団長と発動魔法陣の研究をするためだ。
最高学年になったシアの医療魔術の級友も参加するらしい。
「……っ」
知らず握られた拳の間から血が流れる。爪が皮膚を裂いて肉をえぐり血管を傷つけた。
だがこんな痛みは胸に巣食う不快感に比べればどうということはない。
離れたところを同学年の令嬢と歩いていくシアを見てさらに強く拳を握る。
「ちょっと!何してるんですかっ血が出てますよ」
驚いたように掛けられた声に殺気を含めて振り返れば、シアと同じ医療魔法を使える生徒であったことを思い出す。
「すぐに止血しますね。あ、私医療魔法が使えるから大丈夫です」
いうが早いか血が流れている手を取られて横の噴水から水をすくって血を流され、ポケットから魔法陣の書かれた紙を取り出すと傷ついている手のひらの上に乗せる。
「大丈夫ですよ」
にっこりと屈託のない笑みを向けられ、手のひらを持ち上げられ唇のすぐ近くまでもっていかれる。
『主よ、主よ。その力をお惠みくださひ。血を流す子に貴方の癒しをお與へくださひ』
魔法陣の書かれた紙がゆっくりと緑の粒子に変わり、傷をふさいでいく。
「よかったぁ」
「……ああ、ありがとう」
ふんにゃりと安心したように笑う女生徒に思わずクスリと笑う。王太子の前でこんな表情をする令嬢はいない。
「………って、王太子殿下!す、すみません私ったら咄嗟のことで無礼を」
ハッとしたように下がって頭を下げる女生徒になんだか悲しくなってしまい声をかける。
「いい、助かった。君の名前は?」
「シンシアです」
「シンシア嬢、見事な医療魔法だ。お礼をしたいのだけどなにがいいかな」
「そんなお礼なんていいですよっ私の魔法なんていまだにセシーリア様に認めてもらえてないし」
悲しそうなその言葉に苛立ちが沸き上がってくる。
「こんなに見事なのに?」
そういって手を動かしてみるが何の支障もない。
「その魔法もまだ駄目だって言われてます。私はセシーリア様やイーノック様みたいに魔法師団長の指導を受けれないんです」
「それは……」
そう言いかけたところでシンシアのお腹からきゅるると音が聞こえ、シンシアは真っ赤になってお腹を押さえコンラードは一瞬目を丸くしたがクスクスと笑い始めた。
「ま、まだご飯食べてなくって」
「そうか。ならぜひ昼食をご馳走しよう。おいで」
流石にエスコートすることはできないので子犬を呼ぶように手招きをする。
「待ってください」
パタパタと走ってくる様子もかわいらしい。
食堂に連れ立って入り注文口に並ぶ。ちょうどシアたちが注文を終えたところらしく、トレイにはパンとサラダ、デザートが乗っている。
「いいなあ」
「ん?」
「あ、いえ。私って男爵家なので皆さんのような贅沢が出来なくっていつもパンとか贅沢でサラダなんです」
少し舌を出して言うその姿をかわいらしいと思った。
「今日は私の驕りだ。パンでもサラダでもスープでもデザートでも好きなだけ注文するといい」
「え、でも」
「治療のお礼だから」
そういって手をひらひらさせ、自分の注文をする。
「ロンステッカーを二個、両方ハムとチーズを挟んで。サラダは春野菜とローストビーフを乗せてくれ。スープはオニオンスープ、クルトンはいらない。デザートはレモンシャーベット」
注文してずれてシンシアに順番を譲れば食堂の受付が少し怪訝な顔をするのがわかる。
「どうした、早く注文しなさい。私の驕りなのだから気にすることはない」
「あ、はい。えっと…ロンステッカーと、春野菜ろローストビーフのサラダと、オニオンスープとレモンシャーベットをお願いします」
「なんだ、私と同じものか?」
「あの、あんまり知らないので」
それでいいと確認を取って会計をすると出されたトレイを受け取り席を探す。
すでにほぼ満席状態。見渡して気が付いたが食堂の人間すべてがこちらを気にしているように見える。
「あ、あそこ二人分空いてますよ」
「ああそうだな」
指をさされたほうへ歩いていけばその席にいる男子生徒は目を見開き、急いで食事を食べていく。
品がないと眉をしかめそうになるが顔には出さず席に着く。
「殿下、私たちは食べ終わったのでどうぞごゆっくり」
そういって空になったトレイをもって足早に去っていく姿に何なのだと溜息を吐きたくなる。
「すみません」
「どうしてシンシア嬢が謝る?謝ることはない」
「私が席に着くとこうなることが多いんです。そうじゃなくてもなんだか私笑われているようで…」
「それは…」
了承を得ることなく席に座ったので不快に思われたのかもしれないとは思うが、笑われているというのはどういうことなのだろうか。
「気にすることはない」
「あ、でも殿下は別ですよ。普段は作り笑いばっかりですけど、さっきは本当に笑ってたでしょう?そっちのほうが素敵ですよ。でもっ私すっごく恥ずかしかったんですから」
「っ……それは、すまないな。ほらお待ちかねの昼食だ」
「はい!」
作り物の笑顔と面と向かって言われたのは初めてだった。完璧な笑みを作っている自身があっただけにショックだ。
心からの笑みなんてここ数年人前で出したことなんかなかった。
目の前でマナーはいまいちだが食事を本当においしそうに食べる姿にほほえましくなる。
セシーリアとの会食はいつも緊張と不満だけでほほえましいなどと思ったことはない。
「私はそんなに作り笑いが下手か?」
「そんなことないでしょ、セシーリア様みたいに完璧です。二人で一緒にいるときもすっごい幸せそうな笑顔ですよ。私は作り物の仮面見てるみたいで気持ち悪いですけど」
「……シアもか?」
「はい。とうかセシーリア様が本当に笑ったのなんて授業の時にケネス先輩の魔法式がうまくできたときとか、昼食会での他人の失敗談とかそういうときですね」
せっかく穏やかになっていた心の仲がさざ波だつ。やはりセシーリアの話題は腹立たしさと憎らしさが増すだけだ。
「でもラディはそれが王族なんだっていうんです。そうやっていっつも気を張るなんて王族って大変ですね。殿下って相当無理してるんじゃないですか?」
「そんなことは」
「私だったら無理です。本当に笑いあえる人と結婚して、暖かな家庭を築くのが夢なんです」
「そうか」
自分ではありえない夢を持つことが出来ることに、純粋に羨ましいと思った。
私もそんな家族が欲しかったし作りたかった。
私は補助魔法よりも攻撃魔法、そして強化魔法を得意とする。座学や帝王学も順調にこなせばこなすほどシアとの差を自覚させられて胸がムカムカとする。
シアは今年の授業のいくつかで魔法師団長の指導を受けることが決まっている。だがそれは建前上のことだ。史実は魔法師団長と発動魔法陣の研究をするためだ。
最高学年になったシアの医療魔術の級友も参加するらしい。
「……っ」
知らず握られた拳の間から血が流れる。爪が皮膚を裂いて肉をえぐり血管を傷つけた。
だがこんな痛みは胸に巣食う不快感に比べればどうということはない。
離れたところを同学年の令嬢と歩いていくシアを見てさらに強く拳を握る。
「ちょっと!何してるんですかっ血が出てますよ」
驚いたように掛けられた声に殺気を含めて振り返れば、シアと同じ医療魔法を使える生徒であったことを思い出す。
「すぐに止血しますね。あ、私医療魔法が使えるから大丈夫です」
いうが早いか血が流れている手を取られて横の噴水から水をすくって血を流され、ポケットから魔法陣の書かれた紙を取り出すと傷ついている手のひらの上に乗せる。
「大丈夫ですよ」
にっこりと屈託のない笑みを向けられ、手のひらを持ち上げられ唇のすぐ近くまでもっていかれる。
『主よ、主よ。その力をお惠みくださひ。血を流す子に貴方の癒しをお與へくださひ』
魔法陣の書かれた紙がゆっくりと緑の粒子に変わり、傷をふさいでいく。
「よかったぁ」
「……ああ、ありがとう」
ふんにゃりと安心したように笑う女生徒に思わずクスリと笑う。王太子の前でこんな表情をする令嬢はいない。
「………って、王太子殿下!す、すみません私ったら咄嗟のことで無礼を」
ハッとしたように下がって頭を下げる女生徒になんだか悲しくなってしまい声をかける。
「いい、助かった。君の名前は?」
「シンシアです」
「シンシア嬢、見事な医療魔法だ。お礼をしたいのだけどなにがいいかな」
「そんなお礼なんていいですよっ私の魔法なんていまだにセシーリア様に認めてもらえてないし」
悲しそうなその言葉に苛立ちが沸き上がってくる。
「こんなに見事なのに?」
そういって手を動かしてみるが何の支障もない。
「その魔法もまだ駄目だって言われてます。私はセシーリア様やイーノック様みたいに魔法師団長の指導を受けれないんです」
「それは……」
そう言いかけたところでシンシアのお腹からきゅるると音が聞こえ、シンシアは真っ赤になってお腹を押さえコンラードは一瞬目を丸くしたがクスクスと笑い始めた。
「ま、まだご飯食べてなくって」
「そうか。ならぜひ昼食をご馳走しよう。おいで」
流石にエスコートすることはできないので子犬を呼ぶように手招きをする。
「待ってください」
パタパタと走ってくる様子もかわいらしい。
食堂に連れ立って入り注文口に並ぶ。ちょうどシアたちが注文を終えたところらしく、トレイにはパンとサラダ、デザートが乗っている。
「いいなあ」
「ん?」
「あ、いえ。私って男爵家なので皆さんのような贅沢が出来なくっていつもパンとか贅沢でサラダなんです」
少し舌を出して言うその姿をかわいらしいと思った。
「今日は私の驕りだ。パンでもサラダでもスープでもデザートでも好きなだけ注文するといい」
「え、でも」
「治療のお礼だから」
そういって手をひらひらさせ、自分の注文をする。
「ロンステッカーを二個、両方ハムとチーズを挟んで。サラダは春野菜とローストビーフを乗せてくれ。スープはオニオンスープ、クルトンはいらない。デザートはレモンシャーベット」
注文してずれてシンシアに順番を譲れば食堂の受付が少し怪訝な顔をするのがわかる。
「どうした、早く注文しなさい。私の驕りなのだから気にすることはない」
「あ、はい。えっと…ロンステッカーと、春野菜ろローストビーフのサラダと、オニオンスープとレモンシャーベットをお願いします」
「なんだ、私と同じものか?」
「あの、あんまり知らないので」
それでいいと確認を取って会計をすると出されたトレイを受け取り席を探す。
すでにほぼ満席状態。見渡して気が付いたが食堂の人間すべてがこちらを気にしているように見える。
「あ、あそこ二人分空いてますよ」
「ああそうだな」
指をさされたほうへ歩いていけばその席にいる男子生徒は目を見開き、急いで食事を食べていく。
品がないと眉をしかめそうになるが顔には出さず席に着く。
「殿下、私たちは食べ終わったのでどうぞごゆっくり」
そういって空になったトレイをもって足早に去っていく姿に何なのだと溜息を吐きたくなる。
「すみません」
「どうしてシンシア嬢が謝る?謝ることはない」
「私が席に着くとこうなることが多いんです。そうじゃなくてもなんだか私笑われているようで…」
「それは…」
了承を得ることなく席に座ったので不快に思われたのかもしれないとは思うが、笑われているというのはどういうことなのだろうか。
「気にすることはない」
「あ、でも殿下は別ですよ。普段は作り笑いばっかりですけど、さっきは本当に笑ってたでしょう?そっちのほうが素敵ですよ。でもっ私すっごく恥ずかしかったんですから」
「っ……それは、すまないな。ほらお待ちかねの昼食だ」
「はい!」
作り物の笑顔と面と向かって言われたのは初めてだった。完璧な笑みを作っている自身があっただけにショックだ。
心からの笑みなんてここ数年人前で出したことなんかなかった。
目の前でマナーはいまいちだが食事を本当においしそうに食べる姿にほほえましくなる。
セシーリアとの会食はいつも緊張と不満だけでほほえましいなどと思ったことはない。
「私はそんなに作り笑いが下手か?」
「そんなことないでしょ、セシーリア様みたいに完璧です。二人で一緒にいるときもすっごい幸せそうな笑顔ですよ。私は作り物の仮面見てるみたいで気持ち悪いですけど」
「……シアもか?」
「はい。とうかセシーリア様が本当に笑ったのなんて授業の時にケネス先輩の魔法式がうまくできたときとか、昼食会での他人の失敗談とかそういうときですね」
せっかく穏やかになっていた心の仲がさざ波だつ。やはりセシーリアの話題は腹立たしさと憎らしさが増すだけだ。
「でもラディはそれが王族なんだっていうんです。そうやっていっつも気を張るなんて王族って大変ですね。殿下って相当無理してるんじゃないですか?」
「そんなことは」
「私だったら無理です。本当に笑いあえる人と結婚して、暖かな家庭を築くのが夢なんです」
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