当て馬の当て馬ってあんまりですわ
初めての談話
断られるかとも思ったが、殿下との面会の希望が通ったと聞かされ、それもこちらが赴くのではなく、この部屋に来るというので急いで茶菓子などの手配をする。
殿下が来る予定は一時間後、ちょうどアフターヌーンティーの時間なので軽食も用意しておこうと王宮から配属された侍女に伝えると、一瞬わからないというように動きを止められたが、すぐに厨房へと向かってくれた。
そういえばアフターヌーンティーは隣国の習慣で、この国にはないのだったか。お母様の影響で我が家では当たり前だったからうっかりしていた。
「言い忘れていたわ。スコーンは今からでは間に合わないでしょうから、小さめのサンドイッチにするように伝えておいて」
「かしこまりました」
実家から連れてきた侍女が先ほどの侍女を追いかけるため幾分速足で部屋を出ていく。
「うっかりしてましたわ。我が家はお母様に合わせていたためどちらかと言えば隣国よりの習慣ですものね」
大陸一の戦力と経済力、そして国土を持つ隣国の王女である母に辺境伯の家が生活習慣を合わせるのは当然のように受け入れられ、すぐに浸透した。
もともと、我が国よりも隣国との交流が多かったという理由もある。
お婆様が我が国の王女だったとはいえ、身分はお母様のほうが上。王女とはいえ愛妾腹の子で継承権はなかったからだ。
手配してしまえばセシーリアにすることはなくなってしまうので、持ってきた荷物の中から本を取り出し読み始める。
古代文字で書かれた本で、隣国でも読める人はあまりおらず、我が国では研究者などの一部が読める程度だろう。
お母様からの教育でセシーリアは読めるが、弟は読めない。
それにしても、と溜息を吐く。
婚約が決まるまでは自分が辺境伯を継ぐ気満々だったのだが、婚約のせいで弟にその役目を押し付けることになってしまった。
辺境伯の補佐となれるよう勉強はさせていたが、今は10歳の弟の今後の教育を考えると気の毒になってくる。
セシーリアは趣味と実益を兼ねていたが、あのどこか気弱な弟に辺境伯が務まるのだろうか。
あのどこか気が弱いのはお婆様譲りだろう。お父様はどちらかと言えばいざというときは譲らない頑固者だし、お母様も押しが強い性格だった。
そんなことをつらつらと考えていると時間になったらしく侍女が声をかけてくる。
殿下は応接室に通されているとのことなので、今セシーリアのいる談話室に通すように言う。
「よろしいのですか?」
「婚約者ですもの」
「かしこまりました」
呼びに行くと同時にアフターヌーンティーのセッティングを談話室にするよう伝えたのだろう、おそらく居間に用意されていた軽食やお茶の準備などが談話室に運ばれてくる。
テーブルに問題なく配膳されたタイミングでドアがノックされ、殿下が入室してくる。
「今回は急なお目通りをお許しくださってありがとうございますわ、殿下」
少し浅めのカテーシーをすれば殿下の視線が一瞬胸に寄せられたのを感じる。
「いい。婚約者なのだし、家族と離れての生活には不安も多いだろう」
「お気遣いありがとうございますわ。どうぞソファにお座りになってくださいませ」
「ああ。ところでこれは隣国の習慣だったか?」
「はい、アフターヌーンティーと申しますわ」
物珍しそうにサンドイッチやマカロンなどを見る殿下に笑みを向け、向かいのソファに座ろうとすると制止され、横に座るよう言われる。
ためらえば立ち上がってセシーリアの腕を取り有無を言わさず横に座らせる。
(はて、物語の中では冷めた婚約者同士のはずだったと思うのだが…)
「婚約者なのだから殿下、セシーリア様では仰々しい。これから俺のことはラディと呼ぶように」
「では私のことは」
「他の者が呼ばない愛称がいい」
ラディというのはヒロインにのみ許した呼び方ではなかっただろうかと考えつつも、親しい人や家族から呼ばれるセシーと呼んでほしいと言おうと思ったところでそんな要求をされ戸惑ってしまう。
「では、シアとお呼びくださいませ。ラディ殿下」
「シア、殿下はいらない」
「……はい、ラディ様」
まだどこか不満そうではあるが、とりあえずは納得したらしく、紅茶に口一口飲んだ後マカロンを掴んで不思議そうに見る。
「この菓子?も隣国のものか?」
「マカロンといいましてメレンゲとアーモンドパウダーを混ぜたものに食紅で色を付けてたものでジャムやクリームを挟んだものですわ」
「ああ、いい。調理方法まで知る必要はないからな」
「……そう、ですわね」
実は昨日セシーリアが宿の厨房を借りて作ったもので、先ほど厨房で爽やかになるようミントクリームに挟んで持ってきてもらったものなのだが、確かに調理方法まで殿下が知る必要はないのかもしれない。
非常食用のパンなどを作れば興味を持ってくださるだろうか。
「ところで、その衣装も隣国の物か?」
「ええ、隣国で流行っている型のドレスになりますわ」
「君は隣国に随分傾倒しているようだな」
「お母様の生活に合わせた生活を我が家では送っておりましたので」
「そうか。シアはこの国の王妃といずれなるのだから、我が国の生活になれるように」
「かしこまりましたわ」
ソファに隣り合わせて座っているため、軽く頭を下げるだけで留める。流石にこの位置で深く頭を下げれば必然的に胸を腕せよせてしまう形になり、谷間が見えてしまう。
(まあ、谷間ぐらい見られてもどうってことないけれど)
そんなことを考えていると指であごを持ち上げられる。
「ふん。隣国の妖姫の娘なだけあって男を誑かすのは上手いようだ」
「そのようなこと」
「では無意識か?王都に入ってからも王城に入ってからもずいぶん媚びを売っていたそうじゃないか」
「それは…」
(売ってた自覚はありますが。だって貴方が将来浮気した時のために色々根回ししておかなきゃダメでしょうし)
「言い訳は聞かない」
「なっんん」
反論をしようとしたところで口をふさがれてソファに押し倒され、スカートをたくし上げられふくらはぎの上にあるナイフを抜かれる。
「物騒なことだ。これも隣国の常識か?」
「いいえ、ただの護身用ですわ」
「どうだか。私の首を狙っているのか?それとも先ほど誑かした父の首か?」
「なにをおっしゃってますの」
すっとナイフがセシーリアの首に向けられかけたところで、侍女がテーブルに用意してあったナイフで殿下の持っていたナイフをはじく。
「連れてきた侍女まで物騒だな」
「護衛を兼ねておりますので」
「ふん」
そこで殿下はセシーリアから離れ、身を起こす。すぐさまセシーリアも起き上がりスカートを直していると今度は腰に手をまわされリボンがはずされる。
そこから出てくるのは鋼糸。
「ああ、もういい。遊びは終わりだ」
「…なにを?」
「全員出ていけ。一時間ほど二人っきりにしろ」
「承服いたしかねます」
「黙れ。この宮の主は私だ」
「私の主はセシーリア様なれば…」
「殿下のお言葉に従いましょう」
「姫様っ」
剣呑な雰囲気になりつつある殿下に、いやむしろさっきすら出し始めた殿下に慌てて侍女に出ていくように命令する。
「1時間でいいのですわね?」
「ああ……いや、そうだな。呼ぶまでに変えようか」
「かしこまりましたわ」
視線を向ければ歯を食いしばり頭を下げ退室する侍女たち。
「……何をなさるおつもりですの?」
「言っただろう、ごっこ遊びは終わりだ。隣国の影響を強く受けた王妃など危険極まりない。放っておけばいつ我が国が取り込まれるか分かったものじゃない」
「そのようなつもりはございません」
「体にきけばいい」
「なにを?」
(いやいや、貴方本編で白い結婚貫いてたでしょ?体にきくとかまさか冗談ですわよね?)
蒼白になり逃げようと腰をひねるセシーリアの、直したばかりのスカートを瞬く仕上げ足をすくいあげる。
「父を一目で誑かすような女は、徹底的に調べるに限る」
「誑かしてなどおりませんわ」
「言ったはずだ、言い訳は聞かない」
つっと足を撫でられ、手が太ももを撫でようとしてパニエの下にある暗器に触れたらしく一気に足を持ち上げられる。
「念入りなことだな」
「このようなこと、許されるとお思いですか」
「許されるさ。私たちは婚約者という間がらなのだから。そうだろうシア」
許されないと言おうと口を開いたところでまた口がふさがれた。
殿下が来る予定は一時間後、ちょうどアフターヌーンティーの時間なので軽食も用意しておこうと王宮から配属された侍女に伝えると、一瞬わからないというように動きを止められたが、すぐに厨房へと向かってくれた。
そういえばアフターヌーンティーは隣国の習慣で、この国にはないのだったか。お母様の影響で我が家では当たり前だったからうっかりしていた。
「言い忘れていたわ。スコーンは今からでは間に合わないでしょうから、小さめのサンドイッチにするように伝えておいて」
「かしこまりました」
実家から連れてきた侍女が先ほどの侍女を追いかけるため幾分速足で部屋を出ていく。
「うっかりしてましたわ。我が家はお母様に合わせていたためどちらかと言えば隣国よりの習慣ですものね」
大陸一の戦力と経済力、そして国土を持つ隣国の王女である母に辺境伯の家が生活習慣を合わせるのは当然のように受け入れられ、すぐに浸透した。
もともと、我が国よりも隣国との交流が多かったという理由もある。
お婆様が我が国の王女だったとはいえ、身分はお母様のほうが上。王女とはいえ愛妾腹の子で継承権はなかったからだ。
手配してしまえばセシーリアにすることはなくなってしまうので、持ってきた荷物の中から本を取り出し読み始める。
古代文字で書かれた本で、隣国でも読める人はあまりおらず、我が国では研究者などの一部が読める程度だろう。
お母様からの教育でセシーリアは読めるが、弟は読めない。
それにしても、と溜息を吐く。
婚約が決まるまでは自分が辺境伯を継ぐ気満々だったのだが、婚約のせいで弟にその役目を押し付けることになってしまった。
辺境伯の補佐となれるよう勉強はさせていたが、今は10歳の弟の今後の教育を考えると気の毒になってくる。
セシーリアは趣味と実益を兼ねていたが、あのどこか気弱な弟に辺境伯が務まるのだろうか。
あのどこか気が弱いのはお婆様譲りだろう。お父様はどちらかと言えばいざというときは譲らない頑固者だし、お母様も押しが強い性格だった。
そんなことをつらつらと考えていると時間になったらしく侍女が声をかけてくる。
殿下は応接室に通されているとのことなので、今セシーリアのいる談話室に通すように言う。
「よろしいのですか?」
「婚約者ですもの」
「かしこまりました」
呼びに行くと同時にアフターヌーンティーのセッティングを談話室にするよう伝えたのだろう、おそらく居間に用意されていた軽食やお茶の準備などが談話室に運ばれてくる。
テーブルに問題なく配膳されたタイミングでドアがノックされ、殿下が入室してくる。
「今回は急なお目通りをお許しくださってありがとうございますわ、殿下」
少し浅めのカテーシーをすれば殿下の視線が一瞬胸に寄せられたのを感じる。
「いい。婚約者なのだし、家族と離れての生活には不安も多いだろう」
「お気遣いありがとうございますわ。どうぞソファにお座りになってくださいませ」
「ああ。ところでこれは隣国の習慣だったか?」
「はい、アフターヌーンティーと申しますわ」
物珍しそうにサンドイッチやマカロンなどを見る殿下に笑みを向け、向かいのソファに座ろうとすると制止され、横に座るよう言われる。
ためらえば立ち上がってセシーリアの腕を取り有無を言わさず横に座らせる。
(はて、物語の中では冷めた婚約者同士のはずだったと思うのだが…)
「婚約者なのだから殿下、セシーリア様では仰々しい。これから俺のことはラディと呼ぶように」
「では私のことは」
「他の者が呼ばない愛称がいい」
ラディというのはヒロインにのみ許した呼び方ではなかっただろうかと考えつつも、親しい人や家族から呼ばれるセシーと呼んでほしいと言おうと思ったところでそんな要求をされ戸惑ってしまう。
「では、シアとお呼びくださいませ。ラディ殿下」
「シア、殿下はいらない」
「……はい、ラディ様」
まだどこか不満そうではあるが、とりあえずは納得したらしく、紅茶に口一口飲んだ後マカロンを掴んで不思議そうに見る。
「この菓子?も隣国のものか?」
「マカロンといいましてメレンゲとアーモンドパウダーを混ぜたものに食紅で色を付けてたものでジャムやクリームを挟んだものですわ」
「ああ、いい。調理方法まで知る必要はないからな」
「……そう、ですわね」
実は昨日セシーリアが宿の厨房を借りて作ったもので、先ほど厨房で爽やかになるようミントクリームに挟んで持ってきてもらったものなのだが、確かに調理方法まで殿下が知る必要はないのかもしれない。
非常食用のパンなどを作れば興味を持ってくださるだろうか。
「ところで、その衣装も隣国の物か?」
「ええ、隣国で流行っている型のドレスになりますわ」
「君は隣国に随分傾倒しているようだな」
「お母様の生活に合わせた生活を我が家では送っておりましたので」
「そうか。シアはこの国の王妃といずれなるのだから、我が国の生活になれるように」
「かしこまりましたわ」
ソファに隣り合わせて座っているため、軽く頭を下げるだけで留める。流石にこの位置で深く頭を下げれば必然的に胸を腕せよせてしまう形になり、谷間が見えてしまう。
(まあ、谷間ぐらい見られてもどうってことないけれど)
そんなことを考えていると指であごを持ち上げられる。
「ふん。隣国の妖姫の娘なだけあって男を誑かすのは上手いようだ」
「そのようなこと」
「では無意識か?王都に入ってからも王城に入ってからもずいぶん媚びを売っていたそうじゃないか」
「それは…」
(売ってた自覚はありますが。だって貴方が将来浮気した時のために色々根回ししておかなきゃダメでしょうし)
「言い訳は聞かない」
「なっんん」
反論をしようとしたところで口をふさがれてソファに押し倒され、スカートをたくし上げられふくらはぎの上にあるナイフを抜かれる。
「物騒なことだ。これも隣国の常識か?」
「いいえ、ただの護身用ですわ」
「どうだか。私の首を狙っているのか?それとも先ほど誑かした父の首か?」
「なにをおっしゃってますの」
すっとナイフがセシーリアの首に向けられかけたところで、侍女がテーブルに用意してあったナイフで殿下の持っていたナイフをはじく。
「連れてきた侍女まで物騒だな」
「護衛を兼ねておりますので」
「ふん」
そこで殿下はセシーリアから離れ、身を起こす。すぐさまセシーリアも起き上がりスカートを直していると今度は腰に手をまわされリボンがはずされる。
そこから出てくるのは鋼糸。
「ああ、もういい。遊びは終わりだ」
「…なにを?」
「全員出ていけ。一時間ほど二人っきりにしろ」
「承服いたしかねます」
「黙れ。この宮の主は私だ」
「私の主はセシーリア様なれば…」
「殿下のお言葉に従いましょう」
「姫様っ」
剣呑な雰囲気になりつつある殿下に、いやむしろさっきすら出し始めた殿下に慌てて侍女に出ていくように命令する。
「1時間でいいのですわね?」
「ああ……いや、そうだな。呼ぶまでに変えようか」
「かしこまりましたわ」
視線を向ければ歯を食いしばり頭を下げ退室する侍女たち。
「……何をなさるおつもりですの?」
「言っただろう、ごっこ遊びは終わりだ。隣国の影響を強く受けた王妃など危険極まりない。放っておけばいつ我が国が取り込まれるか分かったものじゃない」
「そのようなつもりはございません」
「体にきけばいい」
「なにを?」
(いやいや、貴方本編で白い結婚貫いてたでしょ?体にきくとかまさか冗談ですわよね?)
蒼白になり逃げようと腰をひねるセシーリアの、直したばかりのスカートを瞬く仕上げ足をすくいあげる。
「父を一目で誑かすような女は、徹底的に調べるに限る」
「誑かしてなどおりませんわ」
「言ったはずだ、言い訳は聞かない」
つっと足を撫でられ、手が太ももを撫でようとしてパニエの下にある暗器に触れたらしく一気に足を持ち上げられる。
「念入りなことだな」
「このようなこと、許されるとお思いですか」
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