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転生ヒロインに告ぐ!この世界はゲームじゃない!

茄子

33 同情はせぬがの(アルスデヤ視点)

 ここ数日、奇妙な噂が学園内に蔓延している…、いや、再度蔓延しているといったほうがいいかもしれぬな。
 それはセイラ様がミレーヌ様を対象にしたいじめの主犯であるという噂。
 以前はケーテ様が多くの生徒を半洗脳して扇動していたが、今のケーテ様はあの件以来セイラ様からは一歩引いて行動している。
 妾達が見ても、おかしな様子はないしフロレーテ様が気が付いていない以上、ケーテ様が今回の件に関わっているとは思えない、そうなると今回の噂あいったいどこが発信源なのか?
 確認できる限りでは、ミレーヌ様の周囲、わかりやすく言えば元友人として親しくしていた者たちだが、ケーテ様に洗脳されていた者たちでもある。
 今は罪悪感からか距離を取りつつ、ミレーヌ様の行き過ぎた行動を注意する程度の間柄に留まっていたはずなのに、ここ数日ミレーヌ様がセイラ様にいじめられていると噂を流しているように見受けられる。

「困ったものよの」
「どうかなさいましたの?」
「いや、セイラ様も苦労すると思うてな」
「私が苦労ですか?」

 セイラ様は自分がいじめの主犯に祭り上げられても気にしないのだとは思うが、周囲がそれに黙っているとは思えない。
 一年に満たない付き合いではあるが、セイラ様は他の12公爵家の子女から特別に大切にされているように見える。
 そしてそれはきっと本人たちも意識しないレベルで、まるで刷り込まれた常識のようにそう行動しているようにしか思えず、セイラ様もそれをおかしいと思っている様子はない。
 そして、日に日におかしくなっていくものもいる。
 カイン様だが、当初よりセイラ様への好意は隠していなかったし十分に高かったように思えるが、最近のカイン様のセイラ様に向ける感情は執着や依存といったものに近いように思える。
 ふと向かいで昼食を食べるセイラ様を見れば、すぐに視線に気が付くきょとりと目を瞬かせて首を傾げてくるが、なんでもないといえばそのまま食事を再開するのをじっと観察する。
 今回セイラ様の依頼という形でカイン様と距離を取る手伝いをしているが、正直なところセイラ様の感情がわからずどこまでしていいのかがわからないのも問題視したいところじゃな。

「セイラ様」
「なんでしょうか?」

 声をかければ手を止めてにっこりとほほ笑んでくれる姿は、王妃となるにふさわしいと思えるし、今でも王妃・帝王教育として組まれている講義を休む様子もない。
 音を立てずにフォークとナイフを置き、膝の上に手を置いてまっすぐにセイラ様を見る。
 そうすればまるで鏡写しのように、同じように綺麗な姿勢を取り話しを聞く姿は、見ていて気持ちがいい。

「セイラ様はカイン様と距離を置きたいといい、妾達はそれに協力しておるが、実際のところセイラ様はカイン様をどう思っておるのじゃ?」
「婚約者ですわね。あとは王族の、王子でいらっしゃいますわ。敬い優先すべき存在でいらっしゃいますわ」

 その言葉に、違和感を感じる。それはまるでカイン様を見ているのではなく、王族というくくりでしか見ていないように思える。
 こうなる前の仲は決して悪くなく、政略的な婚約であるにもかかわらず随分と良好なように見えていな。
 しかし離れてみれば、見えてくるものもある。

「セイラ様個人としては、カイン様を好いてはいないようにも見えるのじゃが、相違ないかの?」
「そうですわねえ。……個人的意見を申し上げるのでしたら、どうでもいいですわ」
「どうでもいい?」
「ええ、私が婚約者で無くなってしまったら、今まででしたら他の12公爵家の令嬢が、自分の思いを犠牲にして婚約者にならなければいけませんでしたでしょう?そうなるぐらいでしたら、お相手のいない私が婚約者であったほうが合理的でしたけれど、ミレーヌ様を選ばれるのでしたら、いずれにせよ私が婚約者でなくとも、次代に被害はありますが今代は特に被害はありませんもの」
「なるほど」
「ええ」

 婚約そのものも、12公爵家の人間の為であるというのか。
 この国の成り立ちは古く、ラウニーシュ神国と並ぶとも言われている。初めの神人によってつくられたのがラウニーシュ神国なら、この国は継続的に神の強い加護を得続けている国。
 その象徴であり現象が12公爵家と王族だと言われている。
 12公爵家は王族を守り、国を守る存在であり、王族は国に12公爵家を留めるための鎖ともいわれている。

「セイラ様は12公爵家の方とカイン様が命の危険にあっていて、どちらかしか助けられないのであれば、助けるのは」
「カイン様ですわね」

 迷いのない答えに少し驚いてしまう。

「12公爵家は王族を守るために、国を守るために存在しておりますわ。それに、12公爵家の者が命の危険ぐらい自分でどうにかできなくてどうしますの」
「…すまぬ、質問が悪かったの」
「いいえ?」
「プライベートで、何の気負いもなく身に着けるドレスを選ぶ際に、カイン様からのものと12公爵家の方から贈られたものと、どちらを選ぶかの?」
「そうですわねえ、その時の状況にもよるでしょうが12公爵家の方々からの物の方ですわね」
「なるほど」

 ああ、これはそういうことなのかと納得するしかない。
 セイラ様の中での守るべき優先順位はカイン様であっても、選ぶべき選択肢は12公爵家の人間を基準にしているのだ。
 生きた兵器、理性のある怪物ともいわれる12公爵家の人間を、自分の常識で推し量ってはいけないとは言われていたが、セイラ様は特に基準が普通ではないのかもしれぬな。
 生きている以上本能に基づく考えはあるはずじゃ。しかしその本能自体が妾と違うのであれば、それは妾達と同じ生き物といえるのか?
 セイラ様を大切にする12公爵家の方々と同じように、セイラ様は12公爵家の方々を大切にしている。
 それはもう本能のように、自分の命を犠牲にしてでもそうするのだろうと直感してしまう。

「妾はのうセイラ様」
「なんでしょうか?」
「おぬしが不気味で仕方がないのじゃ」
「あらまあ、それは……仕方がありませんわね」
「うむ」

 理解できない存在ゆえに、不気味で仕方がない。

「しかし、嫌ってはおらぬよ。普通に接する分には好意を持っておるぐらいじゃ」
「そうなのですか?ありがとうございます。私もアルスデヤ様には友情を感じておりますわ」
「それは嬉しいのう」

 この国が侵略されない理由が分かった気がするの。
 こんな者たちを相手にするぐらいなら、指をくわえてみていた方がずっとましじゃ。
 今目の前にいるセイラ様とて、その気になれば一瞬でこの辺りを草一本生えない荒野に変えることができるのだ。
 それが何人も、体力も回復魔法でそれこそ回復するような、疲れを知らない化け物を相手に戦うのは、自国民を疲弊させるだけだ。どんな過酷な状況に追い込まれても、こやつらを事を構えてはならない

 では、なぜそんな存在を敵に回すような行為をカイン様はするのだろうか?


「今回の件、なにゆえにカイン様を避けるのじゃ?ミレーヌ様を構うのは今に始まったことではあるまい?浮気者の末路に相応しい罰とは思うが、婚約者の変更など王族でるがゆえにそうたやすくできるわけもないと思うのじゃが?」
「ええ、普通であれば。けれどこの国の王族の伴侶はちょっと特殊ですのよ。……認められれば、だれでも伴侶になれますの」
「誰でも…」
「ええ。でもただ、なれないだけですわ」
「なぞかけじゃな」

 なれるのになれない、認められればということは認められることが難しいのであろうか?
 誰に認められるのじゃ?…12公爵家の人間であろうか?確かにそれはそう簡単には認められぬのであろうが、過去には確か12公爵家に養子に入り伴侶になったものもいると聞くゆえ、まったく無理な話というわけでもないのであろうな。

「ミレーヌ様は、認められるということかの?」
「どうでしょうか?その可能性は誰にでもありますわよ」

 でも、とセイラ様は続ける。

「私は12公爵家の人間ですから構いませんけれど、==================」
「え?」
「いいえ」

 にっこりと、セイラ様は笑みを浮かべて首をかしげる。
 聞こえなかった部分、不意に途切れた音に違和感を感じるが、まるで聞いてはいけないことであるように、本能が再度聞くことを拒絶する。
 もしかすると、それがこの国の根源に関わることだからなのかもしれぬな。
 この国の重要文献を持ち出した存在は、例外なく発狂する。
 それを知って無事でいることができるのは、この国の王族と12公爵家の当主のみと言われている、この国の秘密。
 知った瞬間、見た瞬間、通常の人間は狂い死ぬ。

「…妾はこれでも王位継承者でのう、不用意なことを聞かせぬでほしいの」
「申し訳ありません」

 ついうっかり、と言うセイラ様に悪気はないのであろうな。
 それ故に質が悪い気もするのだが、妾が無事だったのは少なからず王位継承者として神に情けをかけられているからであろうなあ。
 もし王位継承者でなければ、今の言葉を聞いてしまい今頃狂っていたかもしれん。
 いた、もしかしたらセイラ様が妾に友情を得ているから故、神が目こぼししたのかもしれぬ。
 代わりのいる王位継承者として情けをかけられていると考えるよりは、そっちの方が確率が高いかもしれぬの。

「しかし、一方通行過ぎる関係にカイン様が疲れてミレーヌ様に走った…、となればセイラ様にも多少の責任があるのではないかの?」
「なぜです?」
「想うことに疲れてしまう前に、思いを多少でも返して居れば」
「身体的接触はしておりましたわよ?もちろんカール様が困ってしまいますので節度は持っておりますが」
「そうではないが…、ふむ…なんと言えばよいのかの」

 思いに対して身体的接触で返すのは、間違っていないが正しくもないの。しかし、政略的な婚約者として間違っているとも思えんし、どう説明すればよいのであろうか。

「妾に友情を感じるように、カイン様に何かを感じることはないのかの?」
「なにか………。そうですわね、強いてあげるのなら」
「あげるのなら?」
「手間ですわ」
「手間?」
「ええ、カイン様に費やす時間を勉学や訓練に仕えればと思うことはありますわ。カイン様のおかげで中途半端に滾ってしまうので、エドワード様に不要な訓練に付き合っていただいたりと、手間だとは思いますわね」

 それはつまり、面倒だと思っておるということなのだろうかの?
 そうだとしたら、カイン様はとてつもなく報われないどころか、むしろ嫌われているに近い感情を向けられて…。
 いや、面倒とも思っていない分感情はフラット、気にもされていないということかのう?
 それは嫌われているよりもひどいのかもしれぬ、何の感情も発生していない、発生した感情は自身の義務や、12公爵家の方々に関する何かを害する可能性があるということで発生したもの。

「なるほどの、そういうことか」

 そうなのであれば、今回のミレーヌ様の件もカイン様なりにセイラ様の気を引こうとして行っている者なのかもしれぬな。
 全くもって効果は出ておらぬがの。

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