婚約破棄されたので帰国して遊びますね

茄子

03

「カーラ、イレーヌ。恋愛感情というのはいったいどういうものなのかしら?」
「「はい?」」

 私は学園で友人と言えるカーラとイレーヌに素直に聞いてみることにいたしました。なんといっても二人は今婚約者とうまくいっているのですから、恋愛感情については私よりも詳しくていらっしゃるはずですわ。

「そうですわね。私はニコラス様とは政略でございますのでそこまで恋愛感情があるかと言われると、あまりないのでございますが…」
「そうなのですか?」
「私はハインツ様のことが好きでございますわね。なんと申しましても私がいないとどうしようもないというところが可愛らしくて仕方がないと申しますか、支えて差し上げたくなると申しますか」
「なるほど」

 やはり庇護欲なのでしょうか?

「こんなことをお聞きになるということは、ダリアン様にも想う方がお出来になったのですか?」
「それが分かりませんの。婚約者候補のお2人について考えているのですが、中々に難しくて」
「まあまあ!それはぜひご協力させてくださいませ、このイレーヌ、必ずやお役に立って見せますわ」
「イレーヌ様、あまり興奮してはダリアン様が驚かれてしまいますわよ」
「カーラ様もこの際ニコラス様に対して恋慕を抱いてみてはいかがでしょうか?」
「れ、恋慕でございますか?」

 カーラが恥ずかしそうに頬を染めますね。こういうのを可愛らしいというのでしょうか?うーん、私には中々に難しいことですわね。

「恋慕というのは支えて差し上げたいとか、庇護欲というような物なのでしょうか?」
「そうとは限りませんわ、頼りがいがあるとか、一緒にいて心が温かくなるとか、そういったことも恋慕なのでございますわ」
「心が温かく」

 思わず胸の上に手を当てます。ローラン様やスペンサーと一緒にいるときにそのような感情になったことはございませんわよね?
 そうなりますとやはり私はどちらにも恋などしていないということになるのでしょうか。

「でもまあ、ダリアン様ほどの方となりましたら、あまり恋慕という感情を抱かないのかもしれませんわね」
「まあ、どうしてですのカーラ」
「庇護欲を抱くのでしたらともかく、ダリアン様ほど完璧な御方でしたら、それこそ自己完結できてしまわれますもの、どなたかに頼るなどということをしなくても済むのではないのでしょうか」
「なるほど、そういう場合もございますのね。そうなりますと、私が恋慕を抱くのはお父様になってしまうのではないでしょうか?今のところ一番頼りにしておりますわ」
「そ、それはまた違うのではないでしょうか?」
「そうですわ、イレーヌ様の言う通り、親に向ける愛情とは別なものだと思いますわよ」
「難しいですわね。昔からこういったことには不向きな性格なのですわよね」

 私は頬に手を当てて眉間にしわを寄せてしまいます。

「まあ、私の想いなど関係なく婚約者は決まってしまうのですが、国王陛下が決めかねている理由がどうも私の感情を優先させようとしているかららしく、早めに決着をつけるには私の感情をはっきりさせる必要があるのではないかと思いまして…」

 そうなのですわよね、勝手に決めてくださって構いませんのに、前回失敗したからでしょうか、国王陛下がまず私の感情を優先しようとしてくださっているのですわよね。
 ついこの間知ったことなのですけれども。
 それにしても困ってしまいましたわ。ローラン様とスペンサーのどちらがいいかなどと私に決めろとおっしゃられましても今更ですものねぇ。もっと早めに言ってくだされば、エリスを使ってもっとスペンサーやローラン様にゆさぶりをかけれたかもしれませんし、スペンサーに今更ご婦人や令嬢を使ってのハニートラップを仕掛けるのもどうかと思ってしまいますものね。
 本当に困りましたわ。

「ではでは、わかりやすいところで言うと、可愛らしいと思うのはどちらでいらっしゃるのですか?」
「スペンサーですわね」
「では頼りになると思うのはどちらでいらっしゃいますか?」
「ローラン様でいらっしゃいますわね」
「それでしたら、長くともに居たいと思う方はどちらでございますか?」
「長く、ですか?長くともにいることになるのはローラン様になりますわね。寿命を迎えるまでのお付き合いになりますもの。只人のスペンサーの寿命はあと数十年ですし」

 イレーヌは「そういうことではなくて」、と頭を抱えてしまいます。
 私は客観的なことを申し上げたのですが何か間違えてしまったのでしょうか?

「ダリアン様、こちらにいらっしゃいましたか」
「まあローラン様。ご機嫌よう、どうかなさいましたの?」
「いえ、美しい花が手に入りましたのでお届けに参りました」
「まあ嬉しいですわ!」

 私はローラン様から渡された花束を受け取り、その美しさと良い香りに酔いしれてしまいます。

「いい香りですわね」
「主神殿から届けさせたものなのですよ。主神殿の庭に咲いている物でして、ぜひダリアン様に見ていただきたいと思ったのです」
「まあ、わざわざ?ありがとうございます。このように美しい花が咲いているのですね、流石は主神殿ですわね。きっと地上の楽園のような場所なのでしょうね」
「そこまで過大評価されると困ってしまいますが、まあ清浄な地ではありますよ」
「そうなのですね」
「ええ、貴女にもぜひ見ていただきたい」
「ふふふ、いずれ行くことになりますわ。それにしてもこの花、本当に綺麗ですわね」

 薄水色の蓮の花のような物ですが、蓮とはわずかに違いますわね。なんという花なのでしょうか?

「そういえばスペンサーの話は聞いていますか?」
「スペンサーですか?なにかありましたの?」
「王宮にある書物の半分を読んでしまったのだそうですよ」
「まあ!それはすごいですわね。決して少なくない量ですのに…」
「ええ、ですから彼には主神殿にある図書塔の図書を見ていただきたいと思ってしまいますね」
「そうですわね、きっとスペンサーの良き糧となりますわね」

 私たちがそのように話しておりますと、控えていたカーラとイレーヌが、何やら目で会話をしていたようでございます。流石に目でのやり取りとなりますと、半神である私には思考を読み取ることが出来ませんので難しいですわね。
 ローラン様のご用事は本当にお花を届けてくださることだけだったようで、すぐに立ち去って行ってしまいました。
 私は花を侍女に持たせて席に座り直しますと、イレーヌが何とも言えない顔をしておりました。

「なんですかイレーヌ」
「いえ、なんだかダリアン様がとても嬉しそうでいらっしゃったので、珍しい光景を見たような気になってしまいましたのよ」
「そうでしょうか?でも確かにあのように美しいお花を頂けて嬉しくないはずがありませんわね」
「そうではなく、ローラン様がいらっしゃったこと自体を喜んでいらっしゃったような」
「そうでしょうか?わかりかねてしまいますわね。カーラはどう思いますか?」
「私も、ダリアン様が喜んでいらっしゃるように見えましたわ」
「そう、ですか」

 自覚はありませんが、そうなのでしょうか?だとすれば、私はローラン様に何かしらの感情を抱いているということなのでしょうか?

「けれども、スペンサーを主神殿に連れていくというのはいい考えかもしれませんわね。なんといっても主神殿にある書物は神代の物もあると聞きますもの、きっとスペンサーも喜びますわ。ローラン様の口利きがあればきっと古い古書を読むことも出来ますでしょうし」
「「……」」
「なんでしょうか、お2人して私の顔を見て」
「いえ、今度は随分楽しそうになさっているなあと思いまして」
「楽しそうですか?」
「ええ、とっても」
「そうでしょうか?」

 イレーヌの言葉に私は首をかしげてしまいます。
 スペンサーが喜ぶ姿を想像して、私も嬉しくなったのですが楽しそうな顔をしていたのでしょうか。

「これは困ってしまいましたわね」
「なんですのイレーヌ」
「本当にどちらが本命か私にもわかりかねてしまいますわ」
「まあ、本命だなんてそんな言い方は良くありませんわよ、まるで私が二股をかけているようではありませんか」
「婚約者候補を選定しているだけですものね」
「カーラ、なんだか棘のある言い方でしてよ?」
「いえ、ただ二股ではないのですがいつまでもはっきりしないのはお2人に対して不義理なのではないかと思ってしまいまして」
「不義理ですか…」

 そういうものなのでしょうか?

* * *

「ふう…」
「おや、ダリアン様どうかなさいましたか?随分と悩まし気でいらっしゃる」
「ローラン様、申し訳ありませんせっかくのお茶会だと言いますのに」
「かまいませんよ」

 私は今、ローラン様とスペンサーと私の3人でのお茶会に参加しております。
 婚約候補者同士の交流を深めてと言うことで行われているのですが、この2人のどちらかと婚約と結婚をいたしますのよね。そう思って改めて二人を見てみますと中々に悩ましく思えてしまいます。
 そういえば、話しは変わりますがローラン様に聞いてみたいことがあったのでしたわね。

「ローラン様、ローラン様にお子様がいらっしゃるというお話を聞いたことがないのですが、今までの奥様との間にお子様はお生まれにならなかったのですか?」
「いいえ、いましたよ。皆、寿命で亡くなってしまいましたが、各国の王族などに嫁いだり婿入りしたりしております」
「まあそうでしたのね。お父様曰く、娘を御嫁入させる際には苦しみが伴うものだと聞きましたが、そうだったのでしょうか?」
「苦しみですか?そうですね、少し物悲しい思いは致しましたが、そこまで苦しかったという記憶はありませんね」

 それにしても、ローラン様のお子様はいらっしゃったのですね。それも何人かいらっしゃったということですし、今もその血縁者がいらっしゃるということですわよね。
 ふむ、少し胸がモヤっとしてしまいますわね。どうしてでしょうか?

「半神という存在はやはり只人には計り知れないものがあるのですね」
「スペンサーは自分の娘が嫁に行くことになったらどう思いますか?」
「実際に娘がいないので何とも言えませんが、そうですね…家族が離れるというのは寂しく思えるのではないでしょうか?」
「家族が離れるですか…、私にはあまりわかりませんわね、お母様は私が幼いころに亡くなってしまいましたし、お父様が私よりも先に亡くなるということはありませんし…」

 私は頬に手を当てて首をかしげました。家族という観点から見ると、私は誰を家族にしたいと思ってしまうのでしょうか?
 ローラン様は…長い時間を共に致しますので、自ずと家族のようになるのではないでしょうか?そうなりますと、家族になりたいのではなく家族になるというべきかもしれませんわね。
 スペンサーは、家族になりたいというか、傍に置いておきたいと言った感じでしょうか?純粋にこちらを慕ってくれている様子を見るのは、心地が良いと申しますか、心が穏やかになる気がいたしますものね。
 ふむ、難しいですわね。
 どちらを好きかと聞かれてもやはり、なんとも言えないと言った感じでございますわ。

「単刀直入に申しますが、私はお2人のどちらが好きかがわかりかねておりますの。お2人は私のことをどう思っておいでなのでしょうか?」
「「え」」

 驚いた顔をされてしまいました。それはそうですわよねぇ。いきなり私をどう思っているか聞くだなんておかし気な話ですわよねえ。

「私はダリアン様のことを好ましいと思っておりますよ」
「わ、私は敬愛しております」

 これは、さらに難しくなったのではないでしょうか?それに好ましいだなんて、また難しいことをおっしゃって、意地悪な方ですわね。
 もっとこう、はっきりとおっしゃってくだされば私だって……。
 私だってなんだというのでしょうか?
 いやですわね、もやもや致しますわ。なんでしょうかこの感覚。

「ダリアン様どうかなさいましたか?」
「いいえ」
「ダリアン様?どうして私から顔をそらすのでしょうか?」
「別に何でもありませんわ」
「……ローラン様はいつも私のことをからかって遊んでいらっしゃるようですわね、と思っただけですわ」
「からかってなどいませんよ」
「けれども、私のことを好ましいなどと言ってからかっているではありませんか」
「ですから本当に好ましく思っているのですよ」
「……好ましいという言葉は意味合いがたくさんございますものね、汎用性があって便利な言葉ですわ」

 あら、私ってばどうしてこんなに刺々しい言葉をいっているのでしょうか?

「ではこう言いましょうか。私はダリアン様が好きだ、と」
「……い、今更そのように言われましても信じられませんわ。そう思いませんかスペンサー」
「え!そ、その…えっと」

 スペンサーはいきなり話を振られておろおろしておりますわね。その様子を見て私も少し心が落ち着いてまいりましたわ。全くなぜ心を波立たせてしまったのでしょうか。

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