婚約破棄されたので帰国して遊びますね

茄子

ダリアン 01

「さて、婚約者候補もあの2人になったわけですけれどもお父様」
『そうだな』
「お父様はどちらがよろしいと思いますか?」
『どちらでも構わない。主神殿に行くのに変わりはないからな』
「そうですの。ところで、お父様はどうしてそんなに主神殿に私を行かせたがるのですか?昔からですわよね。半神が主神殿に行くのがしきたりになっているのはわかりますけれども、最初の100年ほどは自由にしている人が多いではありませんか」
『それは、主神殿のほうがいろいろと便利だからだ。それに母神と父神にも早くお前を会わせたいしな』
「なるほど?」

 私はコテリと首をかしげます。お父様の親のような神様がいらっしゃることは学んでおりますが、その方々は普段は主神殿にいらっしゃるのだそうですわ。
 つまり孫の顔を早く見せたいというようなことなのでしょうか?

「ローラン様でしたら問題なく主神殿に行くかと思いますが、スペンサー様ですと本人の希望はともかく国王陛下がこの国にいるように言うかもしれませんわよ?」
『ならばローラン一択だな。お前もローランの方がいいのだろう?』
「あら、私は別に…」
『スペンサーよりもローランの方を好いているように父は思っておったが、違うのか?それにスペンサーには1度しか会っていないが、ローランには何度か会ったしな』
「それは、たまたまそうなっているだけですわよ」
『そうか』
「そうですわ」

 いけませんわね、公平な目で見なければなりませんのに、ついうっかり私情が漏れ出てしまっているのでしょうか?
 お父様に突っ込まれるほどだとは思いませんでしたわ。それに、私自身ローラン様を好きかどうかはわかりかねている状況なんですもの。
 確かに頼りになりますし、話しやすくていらっしゃいますが、それこそ年の差を考えれば不思議な事ではないと申しますか、むしろ子ども扱いされているのではないかと思うのですわよね。
 口説かれることもありますが、半分以上からかわれているようにも思いますし……そう考えると胸がむかついてきますわね。
 スペンサーに関しては、可もなく不可もなくと言ったところでしょうか。口説かれたこともありませんし、どちらかと言えば崇められているといった感じですものね。色恋に発展するとは思えませんわ。
 そう言えば話は飛びますけれども、半神と人間との間にも子供は生まれますのよ。けれどもローラン様が子持ちという話は聞いたことがありませんわね。
 今度ご本人に聞いてみるのもいいかもしれませんわね。まさかそう言った行為が出来ないということもないでしょうし、たまたま出来なかったとか?
 確かにできにくいとは聞きましたが3回も結婚していて1人もいないというのは流石にないのではないでしょうか?これは要確認ですわね。

『どうした?』
「なんでもありませんわ、ちょっと確認すべきことが出来ただけですわ」
『そうか』
「ところでお父様、半神が生まれにくくなったり魔法使いが生まれにくくなったりという原因については判明しているのですか?」
『それについては人間が我々神の加護がなくても生きていけるようになったからだな』
「そうでしょうか?」
『ああ、昔のように怪我や病に対して奇跡が必要ではなくなりつつあるだろう。だからだ』
「文明が発達する代償というものでございますわね」

 難しい問題ですわね。この分ですと魔法使いは前文明の遺産となり、半神も産まれなくなってしまい、いずれ信仰というものすらなくなってしまうかもしれませんわね。
 もっとも、この世界の神様は人間にちょっかいをかけるのが大好きな方々が多いので、そうそう信仰が失われるということはないとは思いますけれどもね。

『しかし、人間の父親というのは娘を嫁に出すのには苦しみを伴うものと聞く』
「そうなのですか?」
『ああ、だから私もそうなのかと思っていたのだが、意外と平気なものだったな』
「まあ、お父様の娘は私だけではありませんものねえ」

 もっとも数百年も前の話で、今はご存命ではないのですけれども。

「お父様、恋とはどんなものなのでしょうか?」
『ふむ、私は人間を見初めるときはこう、守ってあげたくなるような、愛おしいという気持ちだがな』
「…愛おしい」

 だとしたら私のローラン様に対する感情は違いますわよね。

『どうかしたのか?』
「いえ。自分の気持ちについて考えておりました」
『ふむ、自分の気持ちとな?何か思い悩むことでもあるのか?』
「ありますわ。お父様が悪いのですわよ」
『え!?』

 ぷいっとお父様から顔をそらして胸の前で指をつんつん、として自分の気持ちについて考えを続けます。
 わ、私がローラン様に対して抱いているのは尊敬とか、そういった感情であって思慕とか恋愛感情ではありませんわよね。そうに決まっておりますわ。

『ダリアン~よくわからないけど機嫌を直しておくれよ~』
「ぷいっ」
『いい情報を上げるから』
「情報?」
『隣国の元婚約者がこの国に対して戦を仕掛けようとしているんだ。もっともほとんどの者が賛同していないし、独断専行といった感じなのだけどね』
「あらあら、まあまあ」

 それはそれは面白いことになりそうですわね。
 私の恋愛事情など気にしている場合ではございませんわ。私もひと暴れ出来そうですわ。

「流石はお父様ですわ」
『そうだろうそうだろう!父は役に立つのだぞ』
「お父様、その調子で詳しく調べてきてくださいませ」
『おお任せろ』

 そう言ってお父様はふわりと残滓を残して消えてしまわれました。
 それにしても戦争になりますかしら?けれど独断専行ならば戦争というか内乱?暴走?でもまあ、こちらの国に手を出すのでしたら遠慮はいりませんわよね。堂々と吸収できますわ。

* * *

 そうしてやってきましたわ、元婚約者の軍勢ともいえない傭兵の集まり。お金はどこから出したのでしょうか?国庫でしょうか?国庫でしょうね。
 横領罪になりますけれどもよろしいのでしょうか?まあよろしくはないのでしょうけれども。

「隣国との戦いに赴くと聞きましたが、本当ですか?」
「スペンサー、本当ですわよ。私が目当てで来ますもの、籠っていてはもったいないではありませんか」
「そうですか、私は戦いには不向きなので…」
「構いませんわよ」

 もとより期待はしておりませんもの。

「私は行きますよ」
「まあローラン様、そのようなことをして大丈夫なのですか?」

 主神殿関係とか色々面倒なことになりませんか?厄介ごとは困るのですけれども。

「こう見えて攻撃魔法も使えますし、剣術にも覚えがあります」

 あら、やる気満々ではないですか。

「ではお願いいたしますわね。けれど私の分も残しておいてくださらないと困りますわよ?」
「ふむ、ダリアン様はなかなかに好戦的でいらっしゃる」
「なんと言っても私に恥をかかせた方ですもの、それなりに思うところはありますのよ」

 まあ、基本的に気にしてはいないのですけれどもね。
 さて、軍勢と言ってもたかだか数百程度の傭兵崩れ集団ですものねぇ、まああとは腐った貴族の所有する騎士団ですけれども、敵になれるほどの強さとは思えませんわ。

「ではローラン様、戦に参りましょうか」
「こちらは2人でよろしいのですか?」
「ええ、国境を超えた直後に叩きたいと思いますし、国境付近には常に軍隊が待機しておりますのよ」
「そうなのですか。待機しているのはこうなることを予想してのことですか?」
「ええもちろんですわ。あの阿呆な王太子が何もしてこないわけがありませんもの」

 むしろしてこないと思う方が難しいですわよね。王太子の時か国王になってからかはわかりませんでしたが、準備は万全でしてよ。
 それにしても、ローラン様の戦力はどのぐらいなのでしょうか?主神殿にいらっしゃるのであまり戦いなどの記録がないのですよね。お父様も戦力に関する情報は教えてくださっておりませんし、うーん、ちょっと不安ですわね。
 まあ、いざとなったら私がカバーすればいいですわね。

 国境付近までは飛行魔法で飛んでいきます。馬車よりも早いんですのよ。
 ローラン様も飛行魔法をお使いになれますので、この方法を取りましたが、お使いになれませんでしたら馬車移動を考えておりました。

「ローラン様、飛行魔法までお使いになれるのですね」
「はい、こういった補助魔法はたいてい使えるようになっておりますよ」
「流石ですわね」
「それにしても、こうして二人で移動しているとデートのようですね」
「まあ、これから戦に赴くと言いますのに暢気なものですこと」
「ははは、如何せんダリアン様が緊張しているように見えませんのでつい」

 これは口説かれているのでしょうか?からかわれているのでしょうか?相変わらずわかりにくい方でいらっしゃいますわよね。
 もうっ。
 私は思わず頬を膨らませてしまいました。……あらいやですわ、これではまるで子供のようではありませんか。

「見えてきましたわ、あそこが国境でしてよ」
「向こうに見えるのが敵の軍勢というものですね。……ふむ、烏合の衆といった具合でしょうか」
「なかなかに辛辣でいらっしゃいますわね」
「けれどもそうなりますと、手加減が難しいですね。殺してしまっても構わないのでしょうか?」
「王太子さえ生きていればあとは知りませんわ」
「では、国境を越えたところで早速叩きましょうか」

 私たちは国境の内側に降り立ちます。
 国境の兵士たちは私の姿を知っておりますので、突然現れた私にも驚いた様子はございますが警戒した様子はございません。

「皆様、こちらは私の婚約者候補のローラン様でいらっしゃいます。今回の戦いにご助力してくださるのだそうですわ」
「「「おおー!」」」

 皆様やる気満々ですわね。良いことですわ。
 自国の姫が謂れのない罪で婚約破棄された挙句に、馬鹿にされたような今回の進軍ですものね。それはもうやる気に満ち溢れるというものなのかもしれませんわ。

「さて皆様、敵の軍勢はたかだか600人程度でございますわ。私たちは200人しかおりませんけれども、私がここに居ります、安心して戦いなさいませ!神の加護は我らにございます!」

 事実、お父様の加護は私にございますものね。

* * *

 さて、いよいよ戦いが始まりました。
 無断で国境を越えてくる無作法者にはまず魔法でご挨拶をいたしましょうか。

「D Ariel ferrum」

 風魔法が一瞬で数人の首をはねていきます。
 あまりのことに一瞬あちらの軍勢の足が止まります。

「Amo Kuru iecit」

 そこにローラン様の氷魔法が襲い掛かります。なるほど、ついてくるだけあって流石に有能でいらっしゃいますのね。

「国境を侵す愚かな者たちよ、神に見捨てられた愚かな者たちよ、身をもってその罪を知るがよろしいですわ!」

 そう言って私は味方に当たらないように風魔法を展開していきます。600人いた軍勢はあっという間に数を減らしていき、もう半分ぐらいになってしまったのではないでしょうか。

「手ごたえがないですわね」
「これで本気なのでしょうかね、肩透かしもいいところです」
「王太子は……」

 私達は一度空に舞い上がって敵陣を眺めてみますと一番後方にいますわね。一気に後方に攻め入ってもいいのですけれども、どうしましょうか?

「ローラン様はどう思いますか?」
「後方から挟み撃ちというのはどうでしょうか?」
「なるほど、では私は後方に参りますわ」
「では私は前方から叩きましょう」

 そう言って私たちは散開いたしました。

 ブワリ、と音を立てて後方、王太子の真後ろに立ちますとすっと優雅な礼を取ります。

「ご機嫌よう、王太子。この度は我が国への侵略、いかなるおつもりでしょうか?もっとも、いかなるおつもりであってもこの事実、変えることは出来ませんのでそのおつもりで」
「なっどこから」
「それは、もちろん、上からですわ」

 にっこりと笑みを浮かべて言えば、まるで化け物でも見るような目で私を見てまいります。そういえばこの方の前で魔法を使ったことはございませんでしたわね。

「さぁ、戦いましょうか」

 私は腰に差した剣を抜き風を纏わせ、王太子の周囲にいる兵士の首をはねていきます。血しぶきが上がり、ドレスが汚れてしまいますが後で着替えれば問題はございませんわね。
 王太子は…あら、すっかり怯えているようですわね。まさかとは思いますけれどもこういう状況を予想していなかったのでしょうか?
 おもらしまでしてしまっているようですが、王太子としての威厳も何もありませんわね。

「さぁ、死になさい。D Ariel ferrum」

 前方から冷気が漂ってきますので、ローラン様の方もこちらに近づいてきたのでしょう。私は風魔法の檻を作って王太子を拘束いたします。どうせ逃げられないでしょうが、下手な動きをされても困りますし、隣国への交渉材料になりますものね。

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