婚約破棄されたので帰国して遊びますね

茄子

02

 さてはて、ここの所社交界では、カインとリゼルが恋仲なのではないかという噂が流れておりますのよ。もちろん私が情報操作をして本人たちの耳には入らないようにしておりますけれども、真に愉快な事ですわね。
 でも、カインも悪いのですわよ?私とのダンスを終えると、すぐにリゼルのところに行くようなことが多々目撃されているのですもの。
 それに、何かにつけてソールズベリ家が出資している店の品を推薦したりもしておりますので、何か関係があるのではないかと勘繰られても、仕方がない事でございますわよね。

「大分面白いことになっているようですね」
「ええ、ローラン様は何かなさっておいでなのですか?」
「はて?私はただ婚約者候補が特定の女性と仲良くしているのは良くないと言ったぐらいでしょうか」
「まあ、意地が悪くていらっしゃいますのね」
「婚約者候補を減らすための努力と言っていただきたいものです」
「ふふふ。そういうことにして置いて差し上げますわ」

 それにしても、カインは本当にいい働きをしてくださいます。見ていて飽きませんもの。
 あんなに必死になって想い人を守ろうとする姿は流石と言えるのではないでしょうか?けれども、それを受ける側のリゼルですが、何か考えているようですわよね。
 リゼルが純粋であれば、ここで胸を撃たれて恋に発展する場面なのでしょうけれども、そうはうまくいかなさそうでドキドキいたしますわ。
 さて、リゼルは何をしてくれるのでしょうか?私を楽しませてくれるといいのですが、せいぜい期待させていただきましょうか。

* * *

「カイン様、私不安なのでございます」
「不安と言いますと?」
「ダリアン様のご不興を買ってしまったのではないかと思うと、心が苦しくなって仕方がないのでございます」
「そんな馬鹿な事があるわけないではありませんか」
「けれども、きっとダリアン様はカイン様のことがお好きなのですわ、だからきっとこうしてカイン様が私と一緒に居ることを良く思わなくて、……こう言っては何ですが、嫌がらせをしているとしか思えないのでございます」
「そんな!」
「カイン様、私は悲しゅうございます。私とカイン様はそのような関係ではございませんのに、邪推をされてしまうだなんて」
「リゼル様、俺は…」
「なんでございましょうか、カイン様」
「俺は…」

 あら、ついに告白をするのでしょうか?思ったよりも早く片が付いてしまいそうで詰まりませんわね。少し風魔法でいたずらをいたしましょうか。
 私はぶわり、と風魔法で2人の周囲に小さな竜巻を作って2人の距離を縮めます。

「きゃぁっ」
「危ないっ」

 おそらく抱き合うことになってしまったであろう2人の間に沈黙が流れました。
 さて、私の出番でございますわね。

* * *

「な、なにをなさっておりますの!」

 あ、ちなみに今はお茶会の最中でございまして、カインとリゼルがいるのは少し離れたバルコニーとなっておりますので、異変に気が付いた私がそちらを見たら2人が抱き合っていたという具合でございます。
 私の声に参加なさっている方々がそちらを見て「おや」ですとか「まあ」というような声を上げます。

「違いますのよ、今風が吹いて倒れそうになったところを助けていただいただけですのよ」
「そ、そうです。誤解なさらないでください」

 お2人とも必死ですわね。せっかくの告白タイムが台無しになって残念ですけれども、そもそもお茶会の席で告白をしようとすること自体が間違いですので、むしろ私に感謝してくださらないと困ってしまいますわ。
 けれどこの日から、噂話は真実なのではないかという話しになって社交界を駆け巡ることになりました。もちろんリゼルは窮地に立たされているわけでございますが、カインもカインで窮地に立たされているのでございます。
 なんといってもこの私の婚約者候補としてやってきているのですものね。

 婚約者候補とは違いますけれども、皆様覚えおいででしょうか?私の元婚約者の事ですわ。
 あの後、再度王太子教育をされているようなのですが、状況は芳しく無いようで、全て悪いのは私だと喚き散らしているようなのでございます。全く持ってどうしてそうなってしまったのでございましょうね。
 時折届けられる書状も、「婚約者に戻してやる」だの、「謝れば許してやる」というようなものでございますのよ。しまいには、この私に「婚約者になれることを光栄に思え」とのたまわっている次第でございます。
 一体全体何様のおつもりなのでございましょうね。
 まあもっとも、そのおかげで隣国の有力な貴族の勧誘がスムーズにできておりますので、ありがたいと言えばありがたいのですけれども。
 そうですわねぇ、隣国の有力貴族の約30%の吸収に成功しているといえますかしら?王太子は辺境や国境付近の貴族など田舎者だと言ってないがしろにしておりますので取り込むのは簡単でございましたわ。ヴァナディア国王陛下には少し申し訳ないことをしているとは思いますけれども、遅かれ早かれといったところでございますものね。
 あと、王太子教育が進んでいないばかりか、ジゼルと一緒に豪遊三昧をしているとかで、国民感情もよくなくなっているのだそうですわ。典型的なだめ君主になりそうですわね。

 さて、話を戻してカインとリゼルの話になりますけれども、あの抱き合ってる現場を見られて以降、カインは何を思ったのか、リゼルを無視し始めたのでございます。
 恐らくは噂が流れないようにとの配慮なのでしょうが、遅いというか無駄というか、今更なので余計に真実味が増してしまったという感じなのでございます。
 それに、逆にリゼルがカインを追いかける図が目撃されておりますわ。カインもリゼルにダンスに誘われては断れないようで、踊ってその度に、離れがたいというような空気を出すのでございます。
 さて、いったい何が起きたのでございましょうか?恋愛経験のない私にはわかりかねてしまいますわね。
 こういう時は年の功に訊くに限りますわ。

「そんなわけで、どうしてなのでしょうか?」
「そうですねえ、カインの方はダリアン様の想像している通りでしょうが、リゼルの方はあれですね、開き直ったというか、ここで若い燕を捕まえて離れた場所で商売を再開させようとしているのかもしれませんね」
「なるほど、この国では商売がやりにくくなってしまっているけれど、他の国ではということでございますわね」
「そう言うことです」
「なるほど、勉強になりますわ。そうなりますとカインは利用されてしまう感じになってしまいますわね」
「まあ、カインが婚約者に選ばれてしまえば意味のない戦略ですが、今回の噂でカインは大きくリードを許してしまった感じですからね」
「そうですわねぇ、国王陛下もカインはそろそろ国に帰してもいいかもしれないとおっしゃっておりましたわ。そうしますとスペンサーとローラン様の一騎打ちになってしまいますわね」
「それはそれで受けて立ちましょう」

 さて、私はこの場合ローラン様を応援したいところなのですが、私情を挟むわけには参りませんものね。あくまでも国王陛下のお決めになる事に従いませんとね。

「それにしても婚約者を選ぶだけでこんなにも楽しめるだなんて思ってもいませんでしたわ」
「普通は面倒なものですからね」
「国王陛下は頭を悩ませておりますわね」
「そうでしょうねぇ」

 まあ、私の知らぬところで悩んでいるようなので構いませんけれども。

 それにしてもリゼルは他国でいきなり事業を成功させる自信がおありなのでしょうか?普通ですと根回しとかいろいろ必要になるのではないかと思うのですが……。
 ああ、そのためのカインですわね王子が認めているのでしたら最初からお墨付きをもらったようなものですわ。
 近々カインにゆさぶりをかけてみましょうか?二人で駆け落ちをして暮らしてみたらきっとドラマティックな結末になりますわ。

「ご機嫌ようカイン」
「やあダリアン様、ご機嫌よう」
「なんだか元気がありませんわね、どうかなさいました?」
「ああ、いや…大したことはないんですよ」
「そうですの?私で良ければどんなことでも相談に乗りますわ」

 私は味方ですアピールをいたしますわ。

「婚約者候補という立場で出会いましたが、私はこれでも半神ですもの、人々の悩みを聞くのは義務のような物でございます。もちろん他言は致しませんわ」
「ダリアン様……。実は、私には、その…想う方がいるのです」
「そうなのですか」
「驚かれないのですね」
「そうではないかと思っておりましたもの。それに社交界では随分と噂になっておりますのよ、カインとリゼルのこと…」
「そうなんですか。俺が何をしても無駄だってことですよね」
「カインはリゼルを守りたいのですよね」
「はい」
「では心の赴くままに動いてみてはどうでしょうか?私の婚約者候補ということを忘れて心のままに動いてみるのもいいかもしれませんわ。私のことはどうぞお気になさらないで?カインが苦しんでいる姿を見ることの方が私も…」
「ダリアン様、申し訳ありません」

 私はつらそうに眉を寄せて口元に扇子を広げて当てますと、カインは申し訳なさそうな顔をして私を見ます。

「いいんですのよ、まだ婚約者候補は残っておりますもの、カインの思うままに行動してくださいませ。その方が私も嬉しく思いますわ」

 見ていて面白そうなんですもの。

「すみません、ありがとうございますダリアン様。俺、リゼル様から逃げずに向き合ってみようと思います。
「そうなさいませ、カイン」

 さてはて、どうなることやら。

 翌日、カインは夜会でリゼルにファーストダンスを申し込みました。そしてそのままリゼルを離すことなく3曲踊ってしまったのです。流石にリゼルもこの状況は想像していなかったのでしょうね、踊っている最中緊張からか目を白黒させておりましたわ。

* * *

「カイン様、これはいったいどういうことでしょうか」
「俺はもう逃げるのを止めました。どうか俺と一緒に俺の国に来てはくれませんか?」
「それは……まるで」
「まるでプロポーズですか?そうです、俺はリゼル様が好きです。愛しているんです」
「カイン様っそんなことを言ってはなりませんわ。貴方はダリアン様の婚約者候補ではありませんか」
「そんなことはもうどうでもいいんです。ダリアン様には謝りました。ダリアン様も応援してくれています」
「え!?」

 あら、リゼルが私の方を見ましたわね。私はにっこりと微笑みを向けて扇子を揺らします。人の恋路は邪魔いたしませんわよ。

「リゼル様、お返事を」
「わ、私は…もうこんな年でございますし、カイン様のお気持ちを受け入れるには…」
「関係ありません。何でしたら今此処で跪いて許しを乞うても構いません」
「なっそのような真似はなさらないでくださいませ」

 そのようなことをされてしまっては大変ですものねえ、受け入れるにしろお断りするにしても、しばらくは恰好の話題のネタにされてしまいますわ。

「ならどうか今お返事を下さい」
「………わ、私はカイン様を、お慕い申しておりますわ」

 まあ、そういうしかありませんわよねえ、もう3曲目のダンスに入ってしまいましたもの。うふふ、カインってば少しつついただけでこの行動力なのは流石軍事国家出身ですわ。けれども、これで彼の軍事国家には恩を売ったことになりますわね。今後もよき我が国の後ろ盾となっていただきましょうか。

* * *

「ローラン様、スペンサー、ご覧になって。カインがどうやら婚約者候補から脱落したようでございますわよ」
「そうですね」
「まったくもってふがいない。あんな人妻に誑かされるだなんて」
「まあ、もしかしたら純愛かもしれませんわ、あまり悪く言ってはいけませんわよスペンサー」
「そうでしょうか?私にはカインが未亡人に誑かされたようにしか感じられません」
「あらまあ」

 クスクスと笑う私の目の前では、3曲を踊り終えたカインとリゼルが口づけを交わしているところでございました。

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