婚約破棄されたので帰国して遊びますね

茄子

05

「エリス、最近どうも顔を暗くしていることが多いようですが、何か思い悩むことでもあるのですか?」
「ローラン様、その…私、クラスというか学園中の女子になんだか避けられてて、虐めを…ぐすっ受けてて」
「それは……お気の毒に」

 翌日、さっそくローラン様が行動に移されたようですわね。教室の隅で二人でお話なさっておいでですわ。
 けれどローラン様、「お気の毒に」の前に随分と間がありましたけれども、何か色々含んでいたのではないのでしょうか?そのぐらいは私でもわかりましてよ?

「きっと何かお互いに誤解があるのでしょうね、一度皆様と話し合ってみてはいかがでしょうか?きっと解決策が見つかるはずです」

 流石ですわ!一見手を伸ばしているように見えてその実態は全くの丸投げ!けれどもエリスにとってはローラン様が後ろ盾になったと錯覚できるような感じになっておりますわね。このテクニックはメモをしておきましょう。
 それにしても面白いことになってきましたわね。イレーヌ様達との話し合いでしょうか?私は表立って虐めをしているわけではございませんし、何よりも見ている方が面白いので、話し合いは風魔法で聞かせていただくか、同席するだけにさせていただきましょうか。

「そ、そうでしょうか…。私はいつも話し合いをしようとしているんですけど、あちらが聞く耳を持ってくれないんです。それに、私、1人で皆様とお話合いをするなんて怖くって…」

 暗にローラン様に同席して欲しいと言っておりますわね。しかもエリスの味方として。

「そうですね。中立として話し合いの進行役でしたらお受けいたしますよ。その方がエリスも安心できるでしょう」
「え…はい…」

 まあ、残念でしたわねぇ。これではエリスの味方というには中々に難しいかと思いますわ。うーん、これが年の功というものなのでしょうか、のらりくらりと話を交わすのが上手でいらっしゃいますわ。

「では、ダリアン様」
「まあなんでございましょうか?」

 あら、私を巻き込むおつもりですの?

「女生徒を集めていただけますか?話し合いの場を用意していただきたいのです」
「そう言う事でしたら喜んで。けれども、私は決してエリスの味方は出来ませんのよ。なんと言いましても私もエリスには喧嘩を売られている立場でございますもの」
「まあ、それは」

 ローラン様は苦笑なさっておいでですわね。
 私、喧嘩を売られたことと、私は謝罪をいたしましたのにエリスからまだ謝罪がないことを忘れてはおりませんの。しつこいかと思いますでしょうか?けれどこれはけじめというものでございますわよ。

「仕方がないことですね。とにかく話し合いの場を設けて下さらないと話が始まりまりませんから、どうかよろしくお願いいたします」
「わかりましたわ。早速皆様にお伝えいたしますわね。日程は後ほどお伝えいたしますわ」

 さて、話し合いですか。どうなりますでしょうか?私への謝罪の件から始まっておりますし、そのことをまずどうにかしなければなりませんわよね。もっとも、エリス本人が覚えているかもわかりませんけれども。

* * *

 そんなわけで、お話し合いの日がやってまいりました。一週間ほどで席を用意いたしましたが、なんとニコラスやハインツ、ステノンも参加しての話し合いとなってしまいました。
 どうしてこうなってしまったのかと申しますと、話合いをするという話があっという間に校内に広まりまして、特に関係者が集まってはどうかということになった次第でございます。
 ニコラスとハインツは婚約者との仲をぎくしゃくさせられたという前科がございますのでこちら側の味方でございますし、ステノンに至っては勝手に恋人宣言されて迷惑をこうむったという被害者でございますものね。
 ああ、ちなみに、カインとスペンサーも参加しておりますが、ローラン様と一緒に中立の立場を取っていらっしゃるようでございます。

「ではここに、話し合いを開始いたします。まずはエリスから主張をどうぞ」
「は、はい。…わ、私は皆様に謂れのない虐めを受けていて、それを止めていただければそれでいいのです」

 まあ、殊勝なことを言っておりますわね。

「そもそも、エリス様が分不相応にも高位の子息に取り入ったことがこのようになったことが原因ですわ。カーラ様など冤罪をかけられましたのよ」

 イレーヌがそう反論すれば、カーラはコクリと頷きましたし、ニコラスが気まずそうな顔をしておりますが、まあ解決いたしましたのでよろしいでしょう。

「私も、ハインツ様にエリス様がべたべたとなさって、一時期は険悪な仲になったこともございますわ。それだけではありません、ステノン様を勝手に恋人呼ばわりして、ダリアン様に失礼なことをおっしゃったではありませんか!私たちはその態度を改めてくださいませと何度も申し上げているだけですわ」
「嘘です!私そんなことしてません!」

 まあ、それはダウト、というものでございますわね。

「ダリアン様、どうなのでしょうか?」

 ローラン様のお言葉に、私はゆっくりと周囲を見渡してから扇子を開いて口元を隠すと眉を寄せて、弱弱しい声を出します。

「私がエリスに理不尽な言いがかりをつけられたのは事実でございますわ」
「そうですか。エリス、ダリアン様はこうおっしゃっておいでですが?」
「嘘です!私が虐められているんです信じてくださいローラン様」
「ローラン様、私はエリスより冤罪をかけられましたのに謝罪をまだ頂いておりませんの。謝罪さえいただければ、私はすべてなかったことにしてもいいと思っておりますのに、エリスは頑固にも私が悪いの一点張りなのでございます」
「違います!私は謝罪するようなことは何もしてません!どうか信じてください!」

 エリスが必死に訴えておりますけれども、数の暴力というものがございますのよね。こちら側には証人がたっぷりございますのよ。

「では、私がステノンを誑かしたなどというようなことをおっしゃったのはどうしてなのかしら?私はただあの日、魔法の研究のことでステノンと話していただけですのに、そのように邪推されてしまってとても傷つきましたのよ。そのことに対する謝罪を頂いてはおりませんの」
「そうなのですか、エリス。そうであるのなら謝罪をすべきですね」
「ちがっ違うんですローラン様。ダリアン様は魔法の研究をだしにステノン様を篭絡しようとしたんです」
「まあ!篭絡!?この私がそのような手段でわざわざ篭絡するとおっしゃいますの?そのような手間のかかることをして何が楽しいのでしょうか?」

 実際は楽しいのかもしれませんけれどもね。たまには嘘もつきませんと、人生の楽しみが減ってしまうというものでございます。

「ローラン様、謝罪の一つもできない方と、話し合いをしても無意味だと私共は思っているのでございますわ。ですからこうして今までの関係がこじれてしまっているのでございます。それに、エリス様はこう言っては何ですが、身に起こったことのすべてが私共が裏で糸を引いているように邪推なさっているようで、先日の裁縫室での事件もご自分で転んだだけですのに、まるで私やダリアン様がやったかのように男子生徒に言いふらしているというではありませんか。全く持って遺憾でございます」

 そこで今まで黙っていたカインが口を開きました。

「その話は俺も聞いた。ダリアン様に切られたと言っていたな」
「まあ!そのようなことをしておりませんわ」
「そ、それは…で、でもダリアン様があんなことを言わなければあんなことにならなかったんです!」

 そこでローラン様がクスリと笑って「あんなこととは?」とエリスに促します。

「獣の匂いがすると、そうおっしゃったのです」
「獣の匂い…」

 あら、カイン様が少しショックを受けているようでございますわね。でも大丈夫ですわよ、男性の獣臭さと女性の獣臭さでは意味が違ってまりますもの。

「あら事実でございましょう、獣と戯れた後に着替えもせずに裁縫の授業を受けるなど考えられませんわ」
「そうですわね、エリスが着替えていれば問題がなかったのではないでしょうか」
「確かに、学園には着替えの持ち込みが許可されていますし、着替えを持ってきてはいないのですか?」
「私の家にはそこまでの余裕はないんです、ローラン様」

 エリスの言葉に数人の令嬢から「くすくす」と笑い声が漏れ出す。エリスの家の財政状態を笑っているのでしょうけれども、印象は良くありませんわねぇ。もちろん私は苦笑を浮かべるだけですわ。

「では獣と触れ合うべきではありませんでしたね。悪いわけではありませんが、匂いに敏感な方もいらっしゃいますので」
「ローラン様はどちらの味方なんですか!」
「私は中立ですよ」

 初めからそうおっしゃっていたと思いますのに、いつの間にエリスの味方だと思い込んでしまったのでしょうね?

「そんな!私の味方だって言ってくれたじゃないですか!」
「言っておりませんが?」
「だって、お気の毒だって…」
「ええ、お気の毒とは言いましたね」

 ……ああ、なるほど、脳内がお気の毒という事であの間がございましたのね。理解いたしましたわ。
 それにしてもエリスの脳内お花畑具合は素晴らしいですわね、何でも自分の都合のいい方に解釈する能力はずば抜けているのではないでしょうか?

「ひどい!ローラン様も私を騙したんですね!」
「騙した覚えはありませんね」
「カイン様、聞きましたか?私をこうして皆が虐めるんです」
「……」

 カイン、沈黙を持って返答を成すのは結構ですが、エリス相手に通じるとは思えませんわよ。

「獣臭いのだって、カイン様と一緒に猫と遊んでただけなのにひどいと思いませんか!?」
「一緒に遊んだ覚えはないな」
「そんな!酷いです!一緒に遊んだじゃないですか。私、カイン様が猫と遊んでいるときのあの柔和なお顔が素敵だって思うんですよ、だから照れなくってもいいんです!」

 …え、何を言っておりますのこの子。ちょっと理解が追い付きませんわね。
 カイン様は確かに小動物がお好きですけれども、それを隠しているとかそういうことはありませんわよね?学園でも結構目撃されているようですし。

「いや、俺は別に照れてはいない」
「いいんです、私はわかってますからっ。カイン様、言ってやってくださいよ。猫と遊んだぐらいで獣臭いとおっしゃるダリアン様が最低だって!」
「まあ…」

 最低、ですか。この私に対して最低と言いますか。随分な言われようですわね。

「私が最低ですって?酷い言われようですわ。謝罪がないだけではなく重ねての無礼、私の堪忍袋の緒も限度というものがございますのよ?」
「事実じゃないですか!」
「私は貴女に謝罪を済ませておりますのに、貴女からの謝罪を受け取っていませんの、それが問題だと申し上げておりますのに、どうしてご理解いただけないのでしょうか?」
「私は悪くありません!」

 まあ、開き直られてしまいましたわね。
 さてどうしましょうか。ここでエリスをコテンパンに言い負かせてしまうのも面白いのですけれども…。そうですわねぇ、イレーヌ達も随分ストレスが溜っているようですし、やはりここでエリスをコテンパンにやっつけてしまうのもいいかもしれませんわね。

「では聞きますわ。ニコラスにお伺いしたのですけれども、自分が紅茶が入ったカップを持って歩き回ってカーラに自分からぶつかったのにもかかわらず、カーラが紅茶をかけたとおっしゃったようですわね、それはどうしてですの?」
「そ、それはちょっとした誤解で」
「誤解?ならばどうしてその場で誤解だとおっしゃらなかったのかしら?おかげでカーラはあらぬ冤罪をかけられて婚約者のニコラスから責められてしまいましたのよ」
「…う、うるさいわね。だから誤解だって言ってるじゃないですか」

 あら、もう被った皮が脱げかけているようですわね、つまらないですこと。

「次に、ハインツに妙に親し気でしたわよね。それこそ恋人のように」
「そ、それはハインツ様は友人だっただけです。それに、イレーヌ様がハインツ様をサポートしてあげなかったのが悪いんじゃないですか?」
「なんですって!」

 イレーヌがギン、とエリスを睨んで何かを言いかけましたが、手を上げて制止します。

「イレーヌ、ここは私にお任せなさい」
「……はい」
「サポートというのは一体どういうことをおっしゃっているのでしょうか?無意味に傍に侍り侍女のような真似事をすることがサポートというのであれば、貴女は貴族の令嬢として失格ですわね。それこそ侍女にでもなればよろしいのではございませんか?」
「なっ」
「貴族のサポートというのはいかに伴侶が快適に過ごせるように手配することも入っておりますのよ。ただ傍にいてお世話をするだけではございませんの。イレーヌはハインツが武術に集中できるように授業の内容をまとめたものを作成したり、家の執務の代わりをしたりと色々しておりましたのよ。貴女にできるのかしら?たかが男爵令嬢の貴女に」
「で、出来ますよそのぐらい!どうってことありません!」
「まあまあ、そうですの。ではどうしてただハインツ様の傍に侍っていただけでしたの?ただの侍女としての役目しか出来ないのならそれは役立たずと同義ですわ」
「酷い!私は私にできる精一杯のことをしてるんです!」

 精一杯で侍女程度なのですか、ふっ馬鹿らしいですわね。

「その精一杯が周囲からはまるで恋人のようだと思われていたようですわよ。実際にイレーヌの目にはそのように映っていたようですし、おかげでハインツとの仲が一時険悪になってしまいましたのよ。まあ、お互いに話し合いをすることで今はよりを戻したようでございますけれども」

 イレーヌとハインツは私の言葉に深くうなずきました。私は「そして」と続けます。

「ニコラス、ハインツとそのように仲を深めておきながら、2人が婚約者と仲を戻したら今度はステノンと随分親し気になさるようになりましたわよね。それこそステノンの予定を考えずに四六時中一緒にいらっしゃいましたわ。私が魔法の話で盛り上がった時など、まるで親の仇のように睨まれたのは今でも覚えておりましてよ。それに、私がステノンを馬車で送った翌日などは、まるで私がステノンに秋波を送ったかのような言い様でございましたわよね。あれには傷ついてしまいましたわ。ああそうそう、あの時でしたわよね、貴女が自分で自分はステノンの恋人なのだと言ったのは全く持って勘違いでございましたけれども」
「な、な…」
「何か反論がございますか?あるのであれば聞きますわよ?」

 恋人だと思い込んでいたのはエリスだけでしたものね。ステノンがすぐさま否定してしまいましたからまさに赤っ恥といったところでございましょうか。

「わ、私はステノン様とその、とても仲良くさせていただいてたんです!恋人になるのだってもうちょっとだったんです!それをダリアン様が邪魔したんです!」
「だ、そうですわステノン。そうなのですか?」
「いいえ?それこそエリス様は友人の1人でしかありませんよ。まあ、友人というには多少親しげにされていましたが」
「そうでしたの、やはりエリスの思い込みというものでございますのね」

 エリスは顔を真っ赤にしてステノンを睨みつけています。

「それでエリス、私に対しての謝罪はまだ頂けませんの?まあ、水に流したことですし今更謝られても、といった感じですので結構ですけれども」
「じゃあどうして今此処でそんな話を持ち出したんですか!」
「必要だからですわよ?貴女がひどい目にあっている原因を話し合う場ですもの」
「そうですね、ダリアン様の言う通りです。エリス、落ち着いて話し合いをすべきだと思いますので、少し深呼吸をしてはいかがですか」
「ローラン様、私は虐められているんです。この話し合いはその犯人を責めるためのものでしょう!」
「いいえ、どうしてこのようになっているのかということを話し合う場ですよ」

 本当に、エリスの脳内はどうなっているのでしょうか?お父様でもわからなさそうですわよねぇ。

「どうしてそんなことを言うんですか、ダリアン様を糾弾してくださいよ!そうすればすべて解決するじゃないですか」
「私を糾弾、ですか?それは随分と面白いことをおっしゃいますのね」

 糾弾される覚えなどありませんわね。

「ねえエリス、私は貴女を嫌っているわけではありませんのよ。むしろ好ましく思っておりますのよ。だって、貴女を見ているととても楽しいんですもの、けれども貴女は少し自分の立場というものが見えていないようですわね。この私に対して最低だの糾弾だのと言える立場だと思っておりますの?たかが一国の男爵令嬢風情が半神であるこの私に対して、そのような物言いが許されるとお思いなのかしら?」
「な…」

 あら?私が半神だとまるで今思い出したというようなお顔ですわね。
 何をいまさらなことに驚いているのでしょうか?それとも本当に忘れていたのでしょうか?そうだとしたら間抜け以外の何物でもございませんわね。

「半神として、この国の王族として私を愚弄したエリスをこの場を持って奴隷とすることを宣言いたしますわ」
「なっ奴隷ってどういうことですか!この私が奴隷!?そんな馬鹿な!」
「死罪のほうがよかったかしら?私としてはどちらでもいいのですけれども、奴隷のほうがまだ人を…男性をたらしこむ能力で何とか這い上がれるチャンスがあるのではないかという温情を持っての判断でしたのよ」

 まあ、そんなこともできる暇もないほど働かされるかもしれませんけれどもね。

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