婚約破棄されたので帰国して遊びますね

茄子

03

 さてはて、いよいよ各国の王子様方がいらっしゃる日になりました。
 王太子様方は今回の婚約者候補レースには参加なさらない方針で各国で協議を行ったようでございます。
 なんといっても主神殿に行くことを決めておりますものね。ほんの数十年とはいえ、行くのが遅れるのは良いことではないと言いますか、お父様が拗ねてしまいますわ。

 私の一押しはやはり同じ半神のローラン様でしょうか。親が神ということと結婚の前歴がございますので色々学べそうでございますものね。
 そんなわけで早速ローラン様についてお父様に調べていただきました。
 ローラン=アイヒホルン様、光の神の一柱のお子様でいらっしゃって御年121歳でいらっしゃるそうです。結婚歴は過去3回。主神殿にて枢機卿をなさっておいでだそうですけれども、実質現人神として奉られていると言っても過言ではないそうですわ。
 奇跡と呼ばれる魔法を数々お使いになることが出来、また薬学にも特化なさっているそうで、その人気は主神殿随一だそうで、今回私の婚約者候補に名乗りを上げたのは、私に半神としての在り方を教えに来たことも兼ねていらっしゃるのだとか。
 なんともありがたいことでございますわね。
 私はこういってはなんですが箱入り娘の自負がございますので、人生経験が豊富な先達の言葉を聞くのがこう見えて大好きなのでございますわ。
 まあ、決めるのは一応国王陛下となっておりますのでどうなるのかはわかりませんけれどもね。
 国王陛下ももう私を国外に出すのは主神殿におくときだけだと決めたようですので、お婿に来ていただける方だけを選ぶのではないかと思いますわ。

 ところで、一気に男子生徒が増えたわけですけれども、なんと時期外れのクラス替えが行われましたのよ。まあしかたがないですわよね、私の婚約者選考会を兼ねておりますもの、私のクラスにどうしても集中してしまいますし、そうなりますとこのクラスに一気に男子生徒が集まってしまう事になって仕舞いますものね。
 そんなわけで、ハインツが別のクラスになってしまう事になってしまいした。イレーヌには申し訳ないことしてしまったかもしれませんわね。
 女生徒は変わりませんが、王子が集まるということで、このクラスの男子生徒は侯爵家以上の男子生徒が残るのみとなりました。まあ、接待役といったところでしょうか。
 女生徒の移動がなかったのはあえてでございますわ。移動がございましたらエリスがまず移動になってしまいますもの、そうしたら面白くはなくなってしまいますでしょう?
 私はまだエリスで遊びたいのでございますわ。

 さて、いらっしゃった王子方は総勢6名、それに半神のローラン様が加わって7名が新しくクラスメイトになった次第でございますが、なんと申しますか、能力もそうですが容姿でも国内で選抜が行われたのかというかのように優れた方々が集まってしまいました。
 まあ、際立って容姿が優れていらっしゃるのはローラン様でいらっしゃるのですけれどもね。

「ご機嫌ようローラン様、この度は主神殿よりわざわざお越しいただきありがとうございます、先達として色々と教えていただければ幸いでございますわ」
「ご機嫌ようダリアン様、私もまだまだ若輩者ですが、お教えできることがあればなんなりと」

 うん、思いっきり社交辞令同士ですがよろしいのではないでしょうか。つかみは大切ですわよね。
 他の王子方にもご挨拶をいたしましたが、皆様社交辞令がお得意なようで結構なことですわ。流石は各国選抜といったところでございましょうか。

「私もこの国に帰って来たばかりでございますので、この国の詳しいことに関しましてはほかの生徒にお聞きくださいませね」

 まあ、貴族の名前と爵位、領地に名産品ぐらいは頭に入っておりますけれどもね。まだ詳しい派閥や裏での取引などは把握しきれておりませんのよ。
 友人関係になりますと中々に把握に時間がかかってしまいますものね。
 各国の王子方もただ婚約候補者として来ただけではなく、この国の情勢把握を兼ねていらっしゃっているのでしょうし、手土産ぐらいは持たせて差し上げないとお可哀そうですものね。

 王子方がいらっしゃって一か月、予想通りと申しますか、エリスが早速動いているようで見ていて面白くて仕方がございません。
 そしてそのエリスに反応する女生徒の動きもなかなかに見ていて楽しみなのでございますわね。
 そんな中、今日はお茶会を開いております。一応主催者は私ですので忙しく動いておりますと、エリスの姿が見えないことに気が付きました。ついでを言うと王子の1人の姿も見えませんわね。
 流石に主催者が席を外すわけにもまいりませんので、イレーヌにそれとなく言いましたら数人の令嬢と共に探しに行ってくださいました。行動力があって結構なことですわ。

「よろしいのでしょうか?イレーヌ様はその、ハインツ様の件でエリス様とは少々険悪と申しますか…」
「構いませんわよ」

 カーラが心配そうに言ってくださいますが、だから行かせましたのよ。
 どこかで言い合いでも起こしてくだされば、お父様が喜々として報告にいらっしゃることは間違いありませんものね。お父様ってば最近は私に頼まれごとを良くされるものですから、嬉しくてたまらないといった具合のようでございますわ。
 親孝行はしておくべきですわよね。

「エリスというのは、初日に私に話しかけてきた男爵令嬢のことですね」
「ええそうですわローラン様。あの男爵令嬢でございます」
「ははは、彼女には驚きましたよ、いきなり貴女の婚約者候補だなんてお気の毒、だなんて言われてしまいましたしね」
「まあ、そうでしたの?エリスにも困ったものでございますわね」

 「ほほほ」「ははは」と笑い合いながらお茶を頂いておりますと、会場となっている庭園の奥の方から言い合いをする声が聞こえてまいります。もっとも、この声は私が風魔法を使って会場内の会話を捕捉しているから聞こえるものであって、通常では聞こえないものでございますけれどもね。

「おや、言い合いがはじまったようですよ」
「そのようですわね、困ったものですわ」

 ローラン様も風魔法をお使いのようでございますわね、流石でいらっしゃいますわ。抜け目がございませんわね。

「例の男爵令嬢が責められているようですが行かなくてよろしいのすか?」
「主催である私がこの場を離れるわけにもまいりませんでしょう?それに、言い合いになっているということはエリスにもなにかしらの非があるということでございますわ、一方的に助けに入るべきことでもございませんでしょう?」
「確かにそうですね。それに、聞こえてくる話だと、王子の1人を連れ込んだから怒られているようですし、自業自得というものかもしれませんね」
「そうですわねぇ、けれど、この私の婚約者候補を連れ出すだなんていい度胸をしている娘でございましょう?見ていて飽きなくて」
「確かに、面白い娘ですね」

 そういって私とローラン様は再び笑い合いました。

* * *

「貴女!エンリケ様をこんなところに連れ出して何を考えておりますの!」
「な、なにをって気分転換に、お散歩にお誘いしただけです」

 あ、エンリケ様とおっしゃるのは婚約者候補としていらっしゃった王子のお一人のお名前でございますわ。
 私とローラン様は今、風魔法で言い合いをしているイレーヌとエリスの会話を盗み聞きしている最中でございますの。
 もちろん、表面上はお互いに笑顔で別のことを話しながら、でございますわよ。

「気分転換にこんな人気のないところまでですの?常識を疑いますわね。エンリケ様に何を言ったかわかりませんけれども、貴女のしていることは非常識でございますのよ、おわかりですの?」
「非常識だなんて、どうしてそうやって皆様は私のなすことを邪推なさるんですか」
「邪推ですって!?邪推で済むのでしたら問題はございませんわ。実際に私は被害にあっているからこそこうして御忠告に参りましたのよ」
「被害って何ですか!」
「ハインツ様の件ですわ。何度も申しましたように、貴女がいたせいで、私とハインツ様は一時険悪な仲になったのは言うまでもございませんわ。もしダリアン様がいらっしゃらなかったらどうなっていたか。エンリケ様、このような者の甘言に惑わされてはダリアン様の婚約者候補失格と言われてしまいましてよ」
「それは困りますね」

 エンリケ様は苦笑なさったようなお声でいらっしゃいますわね。
 火遊びがばれてしまっては困ると言ったところでございましょうか。まあ、バレバレなので婚約者候補の中では頭一つ下になってしまいましたけれども。

「エンリケ様!?どうしてそんなことをおっしゃるんですか。こんな意地の悪い方々の言い分など信じなくてもいいではありませんか。私たちはただ散歩をしていただけなのですから、何も後ろ暗い事なんてありませんよ」
「だ、そうですわよエンリケ様。どちらの言い分を信じるかはエンリケ様次第でございますけれども、私はダリアン様よりエリス様の姿が見えないと探すように言われてきておりますの、その意味がお分かりになりますわよね?」

 あら、探して来いとは言ってはおりませんけれどもそのように解釈されてしまいましたのね。まあ構いませんわ、そのぐらいの事でしたら許容範囲というものでございますわ。

 それにしても、エリスという娘はハングリー精神が強いと申しますか、上位者の異性に対する欲が強いと申しますか、ある意味感心してしまいますわね。

「いやはや、あのエリスという少女は見ていて確かに飽きませんね。今日も私に対して随分と秋波を送ってくれましたよ。もっとも私にだけではありませんが」
「まあ、そうなんですの?ローラン様に秋波を送るだなんて身の程を知らぬものでございますわね。ああでも、ローラン様の最初の奥様は確か身分の低いご令嬢でいらっしゃいましたか」
「ええ、神殿に仕える娘でした」
「100年ほど前のことだそうですが、30年ほど連れ添ったのでしたわよね」
「はい」
「いいですわねえ、私も何度結婚するのかはわかりませんが、連れ合いを亡くすまで共にいることは寂しいのでしょうか?」
「おや、私と結婚したら何回というものはそうそうなくなるのではないでしょうか?けれどもそうですね、確かに連れ合いを亡くすというのは寂しいものですね。もっとも、私はこのように姿が変わりませんから、妻になったものは私が浮気をするのではないかと常に警戒をしていたように思います」
「まあ、そうなのですか。やはり半神と結婚するというのは難しい課題がいくつもございますのね」

 お茶会から数日たちまして、エリスは相変わらず私の婚約者候補の方々に万遍なく秋波をかけているようでございます。器用なものですわよね。
 中にはそんなエリスを避け始めている方もいらっしゃいまして、その方々に関してお父様には調査をお願いしております。
 もちろんエリスの秋波に陥落していると申しますか、今の時点でまだエリスを避けていない方々は婚約者候補として失格と言えますので国王陛下にはお伝え済みでございます。
 ローラン様とお話しますのは色々と勉強になりまして、私も率先してローラン様とお話するようにしておりますのよ。
 ですから周囲にはローラン様が本命かとも思われておりますが、あくまでも選考は国王陛下がなさいますのでわかりませんわよねぇ。
 それに会話の内容と言えば、結婚生活はどういうものなのかということや、エリスを見てどう思うかなどといったことで、色恋の話ではございませんので、皆様の期待に添えることが出来るかはわかりかねますわね。

「そういえば、主神殿での暮らしというのはどういうものなのでしょうか?半神として奉られるのではないかと思っているのですが、実際のところはどうなっているのでしょうか?」
「そうですね、まずは問答無用で枢機卿の地位につかされてほぼ主神殿に拘束されて世界の平和を祈るという退屈な日々ですね。まあ、書類整理や神々との連絡役なんてこともしますよ。私が幼いころにはもう一人半神がいらっしゃったのですが、生憎と寿命で亡くなってしまわれましたからね」
「半神の寿命と言いますと500年ぐらいでしたでしょうか?」
「大体そのぐらいと言われていますね。昔は神との交流も多く、もっと半神もいたのだそうですが、ここ数百年はほとんどそのようなことも無いようで、主神殿といたしましても、一日も早いダリアン様のお越しをお待ちしていると言った所存なのですよ」
「まあ、そうでしたのね。けれどもローラン様がいらっしゃいますし、もう少し外の世界で遊んでから行っても構わないと思いますのよ?」
「おやおや、意外とおてんばでいらっしゃるのですね」
「うふふ、箱入り娘で世界をあまり知りませんので、今はこの状況を楽しんでおりますの」
「状況と言えば、隣国の元婚約者からまたお手紙が届いたとのことですが、差し支えなければ内容をお伺いしても?」
「まあ、お耳が早くていらっしゃいますのね。なんということもありませんわ、私に婚約者として戻ってきてもいいというような内容でございましたの。失礼極まりない事でございますわよね」
「おやおや、確かジゼルという娘と新しく婚約したのではなかったでしたか?」
「それが、ジゼルという娘はどうも王妃教育に向いていないようでして、側室として扱うことになりそうだそうですわ。ですから、私に戻って来いとおっしゃっているようですの。ちなみに、ヴァナディア国王陛下には話は通っていなかったようですわね、国王陛下経由で問い合わせた所そのようなことは考えていないと正式にお返事をいただきましたもの」
「そうでしたか、それはようございましたね」
「ええ、遊ぶ駒が手に入りましたもの」

 私は扇子で口元を隠しながら「ほほほ」と笑いました。

 さて皆様、婚約者候補が3人に絞られましたのでご紹介いたしますわね。
 カイン=ドゥメルグ、軍事国家出身の方でとても硬派な方でいらっしゃいます。エリスの秋波に最初に嫌悪感をあらわになさった御方だそうです。意外なところだと好物は甘いものと小動物なのだそうですわ。ギャップというものでございましょうか?
 親しみの湧く栗色の髪に精悍な顔立ち、高身長と鍛えた体が魅力的で、婿になったらきっと子作りの心配はないだろう、というのがお父様のお言葉ですわね。
 次にスペンサー=ルガージュ、小国ながらに信仰心に篤い国からやってきた方で、私のことを悪く言うエリスに嫌悪感をお持ちになっていらっしゃるようですわね。はちみつ色の柔らかな髪に、青い瞳の持ち主ですわ。
 ポイントと致しましては、研究熱心でいらっしゃって、私やローラン様の会話に興味津々なご様子でいらっしゃいます。
 そして最後にローラン様ですわ。プラチナプロンドを緩く結んで目は全てを見通すような金色の目をなさっております。言わずと知れた半神でいらっしゃって、今回の最有力候補なのではないかと言われている御方でございますわね。
 お父様のお調べになったところによると、3度の結婚はどれも恋愛結婚だったそうですわ。
 まあこんな感じになりまして、残りの方々は強制帰国していただきました。
 エリスの秋波にやられていたのですから仕方がありませんわよねえ。
 そういえば、こんなことがありましたのよ。

* * *

「あら、まあ…」

 王宮の御客人を宿泊させるエリアに分不相応な訪問者が来たと報告を受けましたので、私は国王陛下を伴ってその方がいらっしゃるお部屋に行きましたら、なんとエリスと婚約者候補の方がキスしているではございませんか。
 まあ、倒れ込んだエリスを支えようとして偶然事故で、とも思えそうな状態ではございましたが、決定的証拠というものでございましたわよね。
 そもそも、たかが男爵令嬢を王宮の客室エリアに呼び寄せる時点で、何かがあると言っているようなものですもの、私はわくわくが止まりませんでしたわ。

「いったい何をなさっているのですか!これはいったいどういうことなのですか」
「違います!これは事故なんです。誤解なさらないでいただきたいダリアン様!」
「事故?事故で口づけをなさったと言うのですか?それにエリス、貴女にはほとほと呆れてものが言えませんわ、それにどうしてここに居りますの?」
「それは、呼ばれたからで」
「呼ばれた?」

 私は婚約者候補の方を見ます。

「ちがっ、見たい本があると言うから、それをお渡ししようとしただけであって決してやましい目的などではありません」
「まあそうですの、けれどそれならば学園でお渡しすればよろしいではありませんか、わざわざこのような場所で、それも二人っきりになるなど言語道断ですわ」
「それはっ」

 なおも言い募ろうとする婚約者候補の方をぎろりと睨みつけて黙らせると、エリスに向き直ります。

「エリス、貴女も男性と二人っきりになるような状況など恥を知るべきですわね。先日の庭園のことで懲りてはおりませんの?それとも、貴女には貞操観念というものはございませんのかしら?」

 ところで、エリスと婚約者候補はいまだに抱き合ったままなのですが、というか体勢を崩した格好のままなのですがいい加減疲れないのでしょうか?

「それに、まだそのような恰好をなさっておいでで、私はまるで馬鹿にされているようで不愉快ですわ。国王陛下、私はこの方と婚約をするなど出来ればご遠慮したいのですが、そこのところどうぞお考えいただけますでしょうか?」
「そうだな、国を代表してのことだというのに、このような小娘の罠にかかるような男ではダリアン様の相手にはふさわしくないだろう」

 そんなわけでまず一人脱落でございますわね。

* * *

 と、いうようなことがございましたのよ。エリスってばハニートラップがお好きなのでしょうか?
 うまく育てればよい諜報になりそうなのですけれども、行動目的が私利私欲の為でございますので、如何せん育てるというか、思考回路の矯正が面倒そうでございますわよね。

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