婚約破棄されたので帰国して遊びますね

茄子

02

「まあ、エリスご機嫌よう」
「あ…、おはようございますダリアン様」
「昨日はごめんなさいね、まさか貴女がステノンのことを恋人だと思い込んでいただなんて知りませんでしたのよ」
「それは、私の勘違いというか…」
「勘違い!?」

 朝の教室、私は入ってきたエリスにさっそく声をかけました。昨日喧嘩を売られましたし、買わない道理はありませんわよね。

「まあまあ、私ってば勘違いで貴女にあんなに責められてしまいましたのね」

 私は扇子を開いて困ったというように、眉を寄せて周囲を見渡してからもう一度エリスに視線を戻します。

「それで…謝罪の言葉はないのかしら?」
「え?」
「だって、私ってば謂れもない罪を押し付けられたような物でございましょう?私とっても傷つきましたのよ。なんと言いましても、元婚約者に冤罪をかけられて婚約破棄されたばかりですもの。こういうことに敏感になってしまっておりますの」
「それは、だって…」
「だって、なんでしょうか?それとも私には謝罪は必要ないとでもおっしゃるのでしょうか?」

 私がひどく傷ついたと言わんばかりに声を震わせて言いますと、エリスはうろたえたように周囲を見て助けを求めようと致しますが、先ほど私が周囲に目配せをしておきましたので、誰もエリスを助けようとは致しませんわね。

「そ、そんなこといってないじゃないですか」
「そうですか、それでは昨日のことを謝罪してくださいますか?」
「それは、だってダリアン様が誤解されるような行動をするから」
「私、なにか誤解されるような行動をしましたかしら?」
「ニコラス様だってハインツ様だって、ダリアン様が来てから私を避けるようになったんですよ、絶対に何かしたに決まってるじゃないですか」
「ニコラスとハインツ?一体何のことをおっしゃっておりますの?私は昨日のことについての謝罪を求めておりますのよ?」
「だからっダリアン様が来てから全部おかしくなっちゃったんです」

 論点がすり替わっておりますけれど、私は惑わされませんわよ。

「それと昨日の謝罪の件は別ではありませんか。つまり貴女はこの私に謝りたくない、自分に非はないとそうおっしゃっていますのね?」
「そ、そういうわけじゃ…」
「では謝罪の言葉を頂けますかしら?」
「だったらダリアン様も認めてくださいよ、ニコラス様とハインツ様に何かしたって」
「……もう結構ですわ。貴女とお話しても無駄なようですわね」
「え!?」
「だって貴女、私に謝罪する気はないみたいなんですもの。それに、ステノンを恋人だと思い込んでいたようですのに、ニコラスとハインツのことを持ち出して、論点のすり替えも甚だしいではありませんか。そのような方に今更謝罪を頂いてもなんだか意味がないことのように感じられてしまいますわ」
「そんな一方的なっ」

 私は困ったように溜息を吐き出すと開いていた扇子を閉じて、ぽん、と自分の手に叩き付ける。

「一方的?私は何も間違ったことは言っておりませんわよ。ステノンのことで私を無責任にも責めたことを謝罪してほしいと言ったのに、貴女はそのことを謝罪せず、挙句の果てに関係のないニコラスとハインツのことを持ち出して、この私に謝罪をしろとおっしゃったのですわよ」
「それは、だって」
「だって、なんですの?貴女は随分自分勝手なことをなさっていると自覚はおありなのかしら?」

 ぽん、ぽん、と扇子を手に叩き付けていく。

「私は、悪くありません」
「まあまあ!悪くないだなんてよくも言えましたわね。この私を侮辱しておきながら今度は開き直りですの?皆様お聞きになりまして?私こんな侮辱を受けたのは隣国で婚約破棄を叩きつけられた時以来ですわ!」

 私はバシンっ、と手に強く扇子を叩きつけて怒りを露わに致します。そう致しますと、ブワリ、と私の纏う空気が変わり、髪が揺らめきます。
 所詮は魔力が膨れ上がっているだけなのですが、見た目の印象から私がよほど怒っていると周囲の方々には見えることでしょう。
 その証拠に気絶するご令嬢が出てしまっております。

「…不愉快ですわ、私は今日はもう帰りますわね」

 そう言って窓枠に腰を掛けてそのままフワリ、と浮かび上がります。少々お行儀は悪いですが私が只人ではないと思い知らせるための行為になっておりますので、お目こぼしくださいませね。

「では皆様ご機嫌よう」

 そうして私はその日から一週間学園をお休みいたしましたわ。お休みする理由ですか?そんなものもちろん面白くするためでしてよ。
 休んでいる間、幾人もの学園の関係者が私に面会にいらっしゃいましたので、皆様にちゃんとそのことをお伝えいたしました。皆様きちんと理解してお帰りになっていただきましたので、今頃学園では面白いことになっているかもしれませんわね。

* * *

 学園を休んで2週間、私の方にも変わった出来事がございました。
 私の婚約破棄を聞き付けて、各国の王子・王太子より婚約の申し出が舞い込んできているのでございます。まあ仕方のない事でございますわよね。

『また婚約をするのか』
「さぁ、どうかしら?」

 まぁすることになるとは思いますわよね。国関係者はノリノリで選んでいらっしゃいますし。でも今度は私があちらの国に行くのではなく、あちらがこの国に来ることにしていただきましょうか。
 この国で少し遊ぶと心に決めましたものね。

『また主神殿に行くのが遅くなるな』
「ほんの数年、数十年など神や半神にとってはあっという間の出来事でございましょう」
『それはそうだがな』

 まぁ、せめて学園での遊びが終了するまではこのままでいる予定ですものね。
 そういえば隣国の元婚約者ですが、あのあと、王太子として再教育を受けているようですが、成果は芳しいとは言えませんわね。
 お詫びの手紙として頂いた物の内容があんまりでございまして、久々に心の底から笑ってしまいましたわ。
 内容と言いますのが、

『此度のこと、大変に遺憾である。
 俺とジゼルの間を邪魔しただけには飽き足らず、父上を脅して国に影響を与えているそうではないか。
 恥ずかしいとは思わないのか。
 俺は寛大だから、お前が父上に俺の婚約者にジゼルを推薦することと、俺の後ろ盾をさせてやることで許してやる』

 と、言うような内容でございました。まあ、私が省略しているところもございますが、あまりにもくだらない内容でございましたので、読むに値しませんでしたのよね。
 まあ、あの国も終わりと言っていいでしょう。彼が国王になりましたら即刻戦争を仕掛けてもいいかもしれませんしね。といいますか、あちらから戦争を仕掛けてまいりそうですもの。
 あの国もお気の毒ございますわよねえ、今からでも側室でも娶って新しくお子様を成したほうが手っ取り早いのではないでしょうか。
 隣国のことですし関係はないと言いたいところですが、戦争や同盟の関係がございますのでそうも言ってはいられないようなのでございますよね。まあそこは国王陛下の腕の見せ所というところでございましょう。

「隣国のことも気になりますが、この国にやってまいります王太子や王子の方々も気になりますわね。私を巡っての悲喜交々の争いが起きるかと思いますと面白くて仕方がありませんわ」
『本当に我が娘は良い性格をしているな』
「父親譲りとでも言っておきますわ。聖女と名高いお母様譲りではないでしょうからね」
『確かにそなたの母親は気の弱い女であったからな』
「そんなお母様を手籠めになさるだなんて悪いお父様でいらっしゃいますこと」
『健気な姿に心を打たれて少しばかり情けをかけてやったのだ』
「それで私が生まれたとあっては中々に業が深いのではないでしょうか」
『ふはは、それもまた一興よ』

 本当にいい性格をなさっておいでですわよね。半神も次第に数を減らしていると申しますのに、私が一番若い半神となることは仕方がないことといたしまして、主神殿ではどのような扱いを受けるのでしょうか?崇められることはまちがいなさそうですけれどもねぇ。

「そういえば学園の方はどうなっておりますかしら?」
『うむ、そなたの予想通りエリスが孤立しているようじゃな。なんと言ってもそなたを怒らせたわけだからなあ。いじめというものにもあっているようじゃ』

 まあ、なんて予想通りなのでございましょうか。皆様行動が読みやすくて結構な事でございますわね。
 さて、そろそろ学園に顔を出してもいいかもしれませんわね。
 あまり虐めが過ぎても困ってしまいますし、やはり黒幕として様子を見ることは大切ですものね。
 明日は学園に行ってみましょうか、さてはて、どうなっていることでございましょうかね。

* * *

 ご機嫌よう、3週間ぶりの学園でございます。
 あれからさらに1週間ほど休んでみましたが、私が学園に登校したことで、多くの生徒や教職員の方々がほっとしたようでございます。
 さて、エリスの方はどうなっていますでしょうか?

「エリスはどうしておりますかしら?少しは反省してくださっているといいのですが」
「それは、その…」

 カーラが言い淀んでおりますわね。まあ、わかりますわ、典型的ともいえるいじめにあっているなんて言えませんものね。

「なにかありましたかしら?」
「それがその、彼女は孤立しているようでございまして…」
「まあこの私の怒りを買ったのですから当然でございますわよね」
「それで、その一部の生徒が暴走していると申しますか、その…嫌がらせと申しますか、そういった類のものをしているようなのでございます」
「そうなのですか?それはお気の毒でございますわねぇ」

 かと言って止める気もありませんけれども、と言外に言えばカーラはどこかほっとしたようでございます。
 カーラもいじめに直接加担はしておりませんけれども、間接的には加担しておりますものね。

「エリスに会いたいと思いますわ。どこにいるのでしょうか?」
「この時間であれば、医務室でございましょうか?学園には登校しておりますが授業は受けていないのでございます」

 所謂、医務室登校というものでございますわね。虐めを受けていると言っているようなものでございますけれども、教師も今回ばかりは何も出来ないようでございます。というよりも、教師もいじめに加担している者がいるようなのでございますよね、お父様の情報によりますと、ですけれども。
 全くどこもかしこも腐っておりますわねぇ。まあ、その虐めのきっかけを作った私が言うことではありませんけれども。

「医務室ですか、ご体調が悪いのでしょうか?」
「いえ…その…、医務室の校医と懇ろの仲になったという噂もございまして」
「まあ」

 たくましいですわね。ただでは転ばないということでございましょうか。たしか校医は伯爵家の次男でございましたし、あまり出世は期待できませんし、キープといったところでございましょうか。

「そうそう、今度この学園に諸外国の王子方がいらっしゃいますのよ。皆様にお知らせしていただいてもよろしいでしょうか?」
「諸外国の王子ともうしますと、噂のダリアン様の婚約者候補でいらっしゃいますのね」
「そうですわねぇ、国王陛下ががんばって選考していらっしゃるようですわねぇ」

 もっとも、私はいずれ主神殿に参りますし、一時の結婚という形になりますわよねえ。
 そういえば、候補者のなかには同じ半神のローランさまが主神殿からいらっしゃるという話もございましたし、もしかしたら候補者の中では頭一つ抜きんでていらっしゃるかもしれませんわね。
 お父様も彼ならば、とおっしゃっておりましたし、いったいどんな御方なのでしょうか?
 なんでも光の神の一柱のお一人のお子様だというお話でいらっしゃって、御年100歳を超えていらっしゃるそうですわよねぇ。
 私はまだ16歳ですのでかなりの年の差となってしまいますが、あちらはすでに何度かご結婚為さっていらっしゃる身でいらっしゃいますので色々と勉強になるのではないでしょうか?

「王族なんて面倒なだけだと思いますのに、隣国ではその王族が問題になっているようでお可哀そうに思いますわ」
「ああ、婚約を破棄なさった…」
「そうなんですの、先だってお手紙を頂きましたがあまりにもおかしげな内容でしたのでお返事を書く気力もなくなってしまいましたわ」
「そ、そうなのですか」

 カーラが何やらいろいろ考えているようですが、おおむね間違ってはいないと思いますわよ。
 さて、エリスに会いにでも参りましょうか。

 エリスに会いに行きましたら、突然泣き出されてしましまして、校医に面会を拒否されてしまいましたわ。全く持って失礼な話でございますわね。
 私が何をしたと言うのでございましょう。私は・・なにもしておりませんのにねぇ。
 まあいいですわ、エリスも面白いですけれども、私が今日来たのはやって来る王子たちを見定めるということが主な目的ですものね。
 それにしても婚約破棄をしてから一ヶ月ほどしか経っておりませんのに各国から王子を送り込んでいらっしゃるだなんて、皆様行動が早くて結構なことですわ。

「そうそうエリス、貴女にも言っておきますわね。私の婚約者候補として各国の王子方がいらっしゃいますのよ。せいぜい失礼のないようになさいませね」

 保健室を出る時にそう告げますと、エリスの目がわずかに光ったように見えますわ。ああ、面白いことになりそうで結構なことですわね。

 さらに一週間後、保健室登校をして居たエリスですが、やっと保健室登校を止めて教室に来るようになりました。私はエリスを無視しておりますのでどうということはございませんけれども、古典的ないじめにはやはりあっているようでございますわね。
 皆様それなりに育ちがいいので、やり方が陰湿で結構なことですわ。
 カーラ様もどうにかしたいようなのですが、何分こうなっている原因が私ですので、身動きが取れない状況のようですわね。ニコラス様に至っては我関せずという感じで、なんとも無責任なものですわね。

「カーラ様、明日より各国の王子方がいらっしゃいますので教室の雰囲気が悪いままではよくないと思いますのよ」
「そ、そうでございますよね」
「ええ、私も少し大人気がなかったように思いますし、エリスのことは許してもいいと思っておりますの」
「然様でございますか!」

 カーラは心底ほっとしたような表情で微笑みました。侯爵令嬢とは思えないほど人がいいですわよね、カーラは。
 まぁ社交界で生きていける程度の度胸はあるようですので心配はしておりませんけれども、半神である私にもこうして臆することなく話しかけてくれる数少ないかたでございますので、私にとっても貴重な女生徒でございますわ。

「早速皆様にもお伝えしてまいりますわね」
「ええ、お願いいたしますわ」

 私がカーラを見送りますと今度はイレーヌがいらっしゃいました。イレーヌもカーラ同様私に普通に話しかけてくださる豪胆な肝を持っている女生徒ですわね。

「ダリアン様、よろしいのですか?エリス様は相変わらず自分は悪くないと言っているのですわよ?」
「構いませんわ。私は今後婚約者の選定でいそがしくなりますもの。それに関して何かしら関わってこないのであれば今回のことは不問にいたす所存でございますわ。所謂恩赦というものでございますわね」
「然様でございますか」

 イレーヌは少し残念がっているようですわね。率先してというわけではありませんが、虐めを行っていたグループの主犯格でありますので虐める対象が無くなって少し寂しいのかもしれませんわ。
 けれど、私の予測ではその寂しさも一時のものだと思いますのよね。エリスのあの目の輝きからして、私の婚約者候補としてやってくる方々に手を出しそうなのは目に見えておりますもの。

「まあ、婚約者候補としてやってくる方々に何かするようでしたら、私も何も言わないわけには参りませんわよね」

 中には100歳を超える方がいらっしゃるのですが、見た目は私と変わらないそうなので学園には通うそうなのですが、意味があるのでしょうか?
 ああ、私と交流を深めるという意味はございますわね。

「まさか、エリスは男爵令嬢でございますわよ。各国の王子様方に何かできるような身分ではございませんでしょう」
「そうでしょうか?男爵令嬢だからこそ分不相応なまねごとをしでかすかもしれませんわよ。前例はございますでしょう?」

 暗にニコラスとハインツのことを言っているのですが、イレーヌは少し考えた後に清々しいほどにっこりとほほ笑みました。

「そうでございますわね。もしそのようなことがございましたらこのイレーヌ、今度こそエリス様に身の程をわからせて差し上げたいと思うのですがよろしいでしょうか?」
「そうですわねえ、やりすぎない程度ならよろしいのではございませんこと?」

 死んでしまってはもったいないですものね。

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