全力で逃げて何が悪い!

茄子

外伝 兄様ルート

※ルート分岐なので内容が既存の投稿と被っている部分があります。

 入学してはや3か月、季節は春めいた日々が終わり、夏に向かって熱くなってきております。もっとも、この国にも梅雨がございますので、最近はずっと雨が続く日々です。
 けれどもこれも神の恵み、森の緑には欠かせないものですので、受け入れ感謝するべきなのでしょう。
 降りすぎて川の増水などという事も、ままありますが、1500年の歴史のある国ですので、それなりに対策はされておりますのでご安心ください。
 この時期になりますと、乙女ゲームでは春のイベントが終わり、梅雨のイベントが発生します。あの後増えたお友達、もう一度言います、増えたお友達!からの噂によりますと、どうやらアレクシアはエジッヴォア先生狙いのようです。
 他の方との好感度を上げていたのは、生徒自治会で同じグループになって、グループ担当教師がエジッヴォア先生になるようにするための工作だったようです。
 私とランちゃんはグループがアレクシアと別になり、私達は同じグループになれたので安心していたのですが、あいにく世界の強制力はそう甘くないようでして、私の逃げ込み場所である神殿に、なぜかエジッヴォア先生がやってくるようになってしまったのです。
 もちろん、それに付随してアレクシアもやってきます。
 そうです、イベントが発生するんです。本当に厄介ですよね。ついでに言えばですが、いくら教師とはいえ授業時間外に男女2人っきり(アレクシアがいますけどね)というのはよろしくないと、レジス神官様もよく1階の礼拝堂にいらっしゃるようになりました。
 私のサンクチュアリが台無しですわよね。

「この季節に花を描くとしたら、君たちは何がいいと思う?」

 これはエジッヴォア先生の梅雨のイベントの一つですね。これに正解すると連続イベントが始まります。選択肢は、紫陽花、仙人草、紫君子蘭、睡蓮、そして薔薇です。
 正解は睡蓮。雨の降る噴水や池、そこでスケッチするエジッヴォア先生と遭遇する、というイベントです。
 本当に遭遇するだけのイベントなんですけど、好感度が上がるんです。なんででしょうね?会話の内容でしょうか?
 スランプに陥ってるエジッヴォア先生にあの花がいい、などというだけなのですが、それがインスピレーションを掻き立てるのかもしれません。

「私は睡蓮がいいと思います!」

 そうですわよね、乙女ゲームの記憶を持った転生者でエジッヴォア先生狙いならそう答えますわよね。

「私は、やはり薔薇ですわ」

 ちなみに、薔薇は種類によっていつの季節でも咲くものですので、これは好感度が下がる選択肢です。
 季節を感じることが出来ない感受性しかない人間だと、がっかりされるのです。

「睡蓮。この時期の雨の中の睡蓮は美しい。アレクシア嬢は感受性が豊かなのですね。薔薇は、雨の中でも美しく咲きますが、この季節でなくともよいでしょう」

 アレクシアが勝ち誇った顔でこちらを見てきますが、取ったりしませんのでご安心ください。なんで唯一婚約者がいないエジッヴォア先生のイベントなのに、私こと、ランジュミューアが登場しないといけないんでしょうか?
 そもそもアレクシアは絵画の才能があるようですが、私にはありません。乙女ゲームでもランジュミューアが、絵の出来栄えで勝負を仕掛けることはありませんでしたので、これはきっと予定調和です。
 好感度も下がったでしょうし、とっととお引き取り頂きたいのですが、どうしてまだいらっしゃるのでしょうか?

「しかし、薔薇というのは雨に濡れても美しい。白い薔薇の花弁を雫が伝って行く様は、美しいものでしょう」
「エジッヴォア先生、睡蓮の花なら噴水や近くの杜の池などいかがです?今が花盛りですわ」
「そうですねアレクシア嬢。今度スケッチをしに行こうと思いますよ。君の助言を嬉しく思います」
「お役に立ててうれしいです」

 はいはい。イベント成立ですねー、おめでとうございます。ちゃっちゃか出ていけ。そして私は一人カラオケにいそしむんだ!
 レジス神官様だってお2人がいなくなれば気を使ってくれるんですよ。つまり邪魔だから出ていけ。
 ……ああ、ここ最近一人カラオケを邪魔されしすぎて口が悪くなってしまいました。これはいけませんわね。思いっきり歌ってストレスの発散を……するには邪魔者がいるのでした。
 雨が降っているので、昼間ですが礼拝堂に明かりがともされて、外からの光ではなく、内側からの光でステンドグラスがてらされております。
 また違った趣があっていいものですよね。夜間に見たらもっと美しいのかもしれませんが、夜間に来る予定もございませんのであきらめますわ。
 ところでこのイベント、成立後にランダムで雷落ちるイベントがあるんですよ。明かりが消えて暗い部屋の中で、恐怖のあまりヒロインであるアレクシアはエジッヴォア先生に抱き着いてしまう。そんなイベントです。
 そうまさに…・

 ドーンガラガラガラガラ!!!

 こんな感じに轟いて地面が揺れて、何故か不明ですが明かりが消えるんですよ。電気じゃないくせに停電ですか?
 本来なら時計塔でのイベントなので本当に暗闇ですが、礼拝堂ではステンドグラスから外の明かりが入ってきますね。うん、ちょっと別の意味で怖いです。

「キャァア!」
「アレクシア嬢、大丈夫ですよ」

 イベントしてますわね。

 ガラガラガラドーーン!!

 雷が連続で落ちてますけど、学校大丈夫ですか?結構近いですよ?
 あ、雷とか私は平気です。ぶっちゃけ綺麗だと思ってるぐらいです。落雷の瞬間の稲光、あれはとても美しいですよね。まさに神の雷と思えます。
 暗闇の中、というわけではないのでがっつり抱き合ってる姿がみえますが、二人の世界のようですので黙っておきましょう。そっと距離を取って、関係ありませんからね。
 あ、下がってたら壇上に上がる階段の手前まで来てしまいました。
 ふむ。雷が落ちるたびに光るステンドグラスというのは、怖いような美しいような不思議なものがあります。
 けれどやはり美しいと思う方が勝ってしまいます。もともと雷は好きですしね。このお腹に響く音も嫌いではありません。
 雷に打たれるというのも経験しておきたいような気もします。恋の話じゃありませんよ?物理的にです。

「ああ、神よ。アナタは美しい」

 思わず手を合わせステンドグラスに向かってそう呟いてしまいました。敬虔な信者ですので仕方がありませんよね。万物に神は宿っているのです。
 ふと横を見れば、私の顔を、レジス神官様がじっと見ていらっしゃいましたので首を傾げれば、はっとしたようにほほ笑んでくださいました。

「怖くはないのですか?」
「はい。これも神の御恵みだと思えば、怖くなど思うはずもありませんわ」
「貴女は素晴らしい信者でいらっしゃいますね」
「レジス神官様に言っていただけるなんて、なんだかとてもうれしいですわ」

 神託を受けるほどの神官に認められましたよ。やはり私は敬虔な信者なのです。神様もこんなに敬虔な信者の私に試練は与えないでもらいたいものです。
 ついでにそろそろイベントが終わったようですね、明かりがつきました。抱き合っていた二人が慌てて離れてますけど、ずっと見えてましたので今更ですよ。
 あとアレクシア、その勝ち誇った笑みは減点ですので、お止めになったほうがよろしいと思いますわ。

「まあ、お2人はそのような仲でしたの?ごめんなさい、私はお邪魔しておりましたのね」
「そんなことはありませんよ、ランジュミューア嬢。これはたまたまです」
「お姉様ってば、気を使わなくっていいですのに」

 二人で言ってる内容に齟齬がありますね。構いませけど。

「申し訳ないのですが、ここは神殿。その……そういうことをなさりたいのなら、場所を移していただけませんか?」
「レジス神官、ですからそのようなことではありません」
「それに、エジッヴォア先生はこの神殿によくいらしておりますが、スケッチをしている様子もお見受けできませんし、神に祈りを捧げている様子もございません。噂では時計塔からの風景をスケッチしていると聞きました。悩みが解消されたのなら、絵に集中されてはいかがでしょうか?」

 訳:用がないなら出て行け。ですねわかります。

「それに、彼女は歌の練習や、神への祈りを捧げにここにきているのです。その邪魔をするような騒がしい行為は避けていただきたい」

 うわ、良いこと言ってくれたけど、なんでかアレクシアに睨まれてる。というか、時計塔でイベントしてるんならこっちにまで来ないでほしいですね。
 まあ、このイベントが終わったら、エジッヴォア先生のイベントはしばらくは外でのイベントのみですし、神殿にも近づかないでしょう。
 近づきませんよね?

「お姉様は歌を歌えるんですか?そうですよね、歌唱の授業を受けてますものね。すごいですね、歌唱の授業は過酷と聞きますから、ぜひその歌声を聞かせてほしいです。もしお恥ずかしいなら私も一緒に歌いますよ」
「いえ、まだ人に聞かせられるようなものではございませんので、歌うのはお許しになって?アレクシアの歌を聞いたことはありませんが、きっと上手なのでしょうし、エジッヴォア先生に後ほどお聞かせしたらいかがかしら?」
「な゛っ……。そ、そうきますか。ふーんなるほど?い、いいですよ。ではどっちがうまいかエジッヴォア先生に評価していただきましょう!ただし、今すぐは無理ですので一か月後!そうしましょう」
「は?」

 一か月後には連続イベントが終わって好感度が中くらいまで上がってる時期ですよね。恋愛要素で加点を狙っているのでしょうか?

「そもそも、勝負とは言っておりません」
「でもエジッヴォア先生にお聞かせしてみたら、といってました。エジッヴォア先生が、お姉様の歌声は素晴らしいとほめていらっしゃいましたもの!私と比べてもらおうとしていらっしゃるのでしょう!」

 してねーですわよ。
 というかいつ聞いたのでしょう?正式に1人カラオケが許可されてからは、入り口にオンリーヌを立たせてランちゃん以外来ないようにしておりましたのに。
 最初の時しかなさそうですけど、あれをレジス神官様だけでなく、エジッヴォア先生にまで聞かれてたとか、恥ずかしすぎます。
 そしてアレクシア、ここまで試練兼勝負系イベントがなかったので、ここぞとばかりに持ち込みましたね。
 あ、でも今回はあっちから申し込んだ感じでしょうか?

「困りますわ。私の歌は本当に…人に聞かせるようなものではなくて。エジッヴォア先生、どうかお忘れになってください」
「いや。あの歌声と姿に、ずっと悩んでいた絵の道に光が差し込んだ気がしたのです。ですからここに来てランジュミューア嬢の姿を見ると、インスピレーションがわいてくるんです」

 わー、迷惑ですね。

「彼女の迷惑を考えてくださいエジッヴォア先生」
「しかし…」
「エジッヴォア先生、きっと睡蓮の花を描くのもインスピレーションがわいてくると思うんです。私、おつきあいします」
「アレクシア嬢…。そうですね、いつまでもランジュミューア嬢の邪魔をしては、いけませんよね」

 うん。

「何度もお邪魔してしまい申し訳ありませんでした。今後はこのようなことがないよう気を付けます」
「良き絵が描けることをお祈り申し上げます」

 やっとエジッヴォア先生とアレクシアがいなくなったところで、思わず大きく息を吐きだしたところをレジス神官様に見られてしまいました。

「あ、あの…今のは」
「かまいません。気を張っていらしたのでしょう?妹さんとの間のことは少し難しいと聞いています。私もこれで失礼しますので、存分にお使いください」
「ありがとうございます」

 レジス神官様はマジで紳士ですね。惚れちゃいそうですけど、神官は神様の従僕。恋とかはご法度というわけではありませんが、神への信仰と板挟みになる人が多いので、若いうちは倦厭される方が多いそうです。
 うーん、がっつりタイプも顔なんですけど残念ですね。
 男性と言えば、教師の中ではルイクロード先生、レディベル先生と随分親しくなりました。
 ルイクロード先生とはやはり古代文字の論議が白熱してしまうことも多々ありますし、先週は王室図書館でご一緒しまして、植物に関する古代文字を集めるお手伝いをしていただきました。
 植物、といっても一般に貴族の間で知られているものだけでも数百種類、ハーブなどを入れれば数千種類になるかもしれません。
 本当に難しいんですよ、王室図書館でも許可証ごとに入れるエリアがあります。ちなみに私は禁書エリアにも入れます。ええ、スティーロッド様のおかげですわ。
 噛まれたことは絶対に忘れませんけど!
 ルイクロード先生は禁書エリアには立ち入れませんので、そこは羨ましがられてしまいましたわね。
 もっとも、禁書エリアはマジヤバイ!そう私の勘が告げているので立ち入りません。なんというか、空気感からしてもう、なんか魔物でも召喚してんじゃないかって感じの気配がビンビンです!
 スティーロッド様にお伺いしたところ、この100年は誰も入ったことがないとのことです。
 埃が積もってそうで嫌ですね。
 まあともあれ、ルイクロード先生とはそんな感じで、研究仲間という感じになりました。でもいまだに古代文字の文章の解釈では対立することも多いです。
 象形文字なら象形文字らしくしてくれって感じなのですけど、漢字みたいに意味がいっぱいあっていやですよね。しかも日本語のようにニュアンスを感じろみたいな文章が多いんです。いじめですか!
 レディベル先生とは、なんというかスカウトされております。劇団というか楽団というか、それに入らないかと言われておりますのよ。
 高く評価されておりますが、まだほとんど歌ってないんですよ。まだ基礎体力作りと発声がメインです。
 その発声練習がまた鬼畜なんです。夜の女王のアリアって知ってますか?あれの笑い声の部分の高音域。女子はあれを出させられるんです。
 確かに腹筋と背筋と踏ん張る脚力が必要ですよね。ちなみに、マリオン様は酸欠で倒れました。肺活量も鍛えないといけませんわね。
 筋肉が付きましたので、家でダンスの練習をするのですが、相手をしてくださる兄様に、安定して踊れるようになったとほめていただきました。
 これも武術授業と歌唱授業のおかげですわね。
 それでレディベル先生なのですが、美しい声の人は男性でも女性でもお好きだそうです。歌劇団とこの際呼称いたしますが、そこにとても美しい歌声の女性がいらっしゃったのですが、結婚して妊娠なさったので歌劇団をお辞めになってしまったそうです。
 ですので、新しい歌姫をお探しになっているとかで、私にお声をおかけいただきました。私の歌に関しましては、レジス神官様からお聞きしたとかで、全く油断なりませんわね。
 でも、歌を褒めていただけるのはうれしいです。あのレディベル先生に笑顔で褒めていただけると、照れてしまうのですわ。
 とまあ、そんな感じに3か月は過ぎております。梅雨が明けたら長期休みに入りますので、家で研究三昧!と行きたいところなのですが、お父様に少しは帰ってきてほしいと泣き疲れてしまいまして、兄様と実家に帰ることになっております。
 まあ、夏休みのイベントは家でのイベントではなく、外出先でのイベントになりますので、私が引きこもっていれば問題はないと思います。

 そういえば、エジッヴォア先生が本命で一筋狙いのようですが、アレクシアですが攻略はうまくいっているのでしょうか?
 イベント系の選択肢は間違っていないようですので、好感度が下がっているようには思えませんが、なんともうしますか、他人行儀な感じがするのですよね。
 もっとも、この時期でしたらそれも不思議ではないのですが、乙女ゲームの中ではもう少しこう、フレンドリーな感じというか、スランプ解消の糸口をくれてありがとう!みたいな感じなのですが、どうしてでしょうね。

「……って、私か!」

 そうか、スランプ解決の糸口が私の歌ってる姿をのぞき見したことですから、最初の好感度が足りてないのかもしれませんわね!
 ああ、しまった。これではヒロインの役を奪う悪役令嬢のようではありませんか。困りました。
 ここは妹の恋を応援する姉の役になってみるべきでしょうか?
 いえ、やっぱり面倒ですし危険な予感がしますので、全力で距離を置かせていただきましょうね。
 そんなこんなで、そろそろ一人カラオケの時間です。
 いつものようにピアノのふたを開けて音を確認して。
 こんな曇天は思いっきり叫ぶ歌にしましょうか。

「抜け出せない迷宮で アリアドネの糸は見つからない
 どこまで行っても迷い道
 なあ恐ろしき怪物よ 幾つの躯を積み上げた?
 なあ恐ろしき怪物よ どれだけ人を引き裂いた?

 鉄が地面をこする音 地響き聞こえる足音に
 怯えて隠れて逃げて迷って!
 ほらほら逃げなきゃ捕まってしまう!
 そこを右にそこを左に 曲がって迷って
 そこを上にそこを舌に 迷って惑って

 出口の見えない迷宮で アリアドネの糸が見つからない
 どの道行っても行き止まり
 ああ恐ろしき怪物が 自慢の怪力で斧を振り上げる
 ああ恐ろしき怪物が 自慢の斧を振り下ろす

 追いかけてくる足音に 震える足を叱咤しろ
 怯えて隠れて逃げて迷って
 ほらほら逃げなきゃ殺されてしまう!
 そこを右にそこを左に 曲がって迷って
 そこを上にそこを舌に 迷って惑って

 ぐるぐるぐるぐる迷宮を 迷って走って行き止まり
 ぐるぐるぐるぐる迷宮を 曲がって惑って行き止まり
 ほらほら聞こえてくるだろう!
 恐ろしき怪物の 地響き唸らす足音が!
 逃げろよ逃げろ! 殺されたくないのなら!
 アリアドネの糸を探して ほら走れ!」

 歌い終わって一息つく。やはり思いっきり歌ってストレスを発散させるのはいいですね。

「レディランジュミューア様」
「ハ、ハイ?」
「何かお悩みがあるようですが。いつにない大きな声で歌っていらっしゃいましたし、歌詞が随分と悩まし気なものでした」
「えっと…」

 OH…。叫んでいたせいか聞こえてしまっていたようですね。どう言い訳しましょうか?そもそも歌っている歌は、思い付きで歌詞が出ていると言っているので、心を病んでいるとか思われてしまいそうですよね。
 ああ、本当にどうしましょう?

「えっと、ちょっと考えてしまうことも多くてそのような歌詞になってしまいました。ご迷惑をおかけしておりましたら申し訳ございません」
「いいえ。やはり何か悩みがあるのですね?私は神官です。悩み事を相談してください。他言は致しません」
「その…では、ご相談に乗っていただけますでしょうか?」
「もちろんです」

 そこで、前世で言う告解室のような部屋に行きます。レジス神官様との間には格子とレースカーテンがありますので、こちらの表情は見えないでしょう。暗いですしね。
 私が着席して、レジス神官様も着席した音を確認して、思い切って口を開きます。

「妹が、エジッヴォア先生に、その恋愛的な意味での好意を抱いているようなのです。姉として協力したいのですが、私たち姉妹はその、言いにくいのですが仲が良いとはいえず。昔から何かと比較されてきていたせいか、あのように何かにつけて妹は私に挑戦的な時もあって、私としてはあの子をこれ以上刺激しないようにしたいのですが、エジッヴォア先生が私の歌で、何やら悩んでいたことの解決の糸口を見つけたようで、妹になんと申しますか…今まで以上に、敵対視されてしまっているようで、どうしたらいいのか悩んでいるのです。私は妹の恋を応援しておりますのに、難しいものですね。先ほど、雷が落ちた時あの2人が抱き合っているのを見て、上手くいっているのだと思ったのですが、私の思い込みだったようでお恥ずかしいです。けれど、エジッヴォア先生も振り払わなかったということは、悪い感情はないを持っている、というわけではないのではないかと思えますので、なんとかうまくいく方法はないのでしょうか?」

 一気に話したら疲れました。

「難しい問題ですね。どちらも当人同士の問題ですが、確かに先ほどの様子から、貴女を敵対視しているようにも感じました。私が間に入っても良いのですが、ここは家族に相談してみるというのは如何でしょうか?」
「家族にですか」

 まあ、今度帰りますし、少し家族会議をするというのも悪くはありませんね。

「はい、そうしてみます。ありがとうございますレジス神官様」
「いいえ」

 よし!これで私があの歌を歌ってたっていう理由付けは出来ましたわね。
 告解室から出てレジス神官様の顔を見て一礼をすれば、レジス神官様はほほ笑んでまた上に戻っていく。
 また一人になってふと考えるのは兄様の事。ここの所お酒を召すことが多くなってしまった兄様にも、何か悩みがあるのなら、私が力になって差し上げたいのに、兄様は私には大丈夫としか言ってくださらない。
 私はそんなに頼りないのでしょうか?今度思い切ってお話ししてみましょう。
  さて、家族会議ですけど、まずはバスティアン様との婚約の話しですよね。今のところ決定はしていませんが、アレクシアとの婚約が濃厚です。姉が駄目なら妹というのは流石ルネサンス時代です。
 でも、アレクシアの本命はバスティアン様ではなくエジッヴォア様。そうなると婚約の話しは進まない方がいいでしょうね。
 さて、この後は体術の授業ですわね。神殿をでて体術の授業のために体育館に行きます。雨天なので室内です。体育館があるとか、ルネサンス時代の何かを無視してますけど、雨の中運動するとかまっぴらごめんです。
 ジャージもどきに着替えて体育館に行けば、既にマドレメルはいらっしゃっていたので、駆け寄ってご挨拶をいたします。

「ごきげんよう」
「ごきげんよう、マドレメル様。本日も清々しい雨模様ですわね」
「ええ、神の御恵みに感謝を」

 会話だけだと優雅ですよね。格好がジャージもどきと場所が体育館でなければ、ですけどね。
 体術は太極拳のようなものをイメージしてください。あとバレエ。一つの型を維持、そして流れるように次の型に移動。その流れをこの3か月続けてきましたが、ヨガのようで好きだったりします。
 今後は攻撃の型が加わるそうなので、空手のような感じでしょうか?柔道?まあどちらにせよ校医のお世話になる確率がぐんと上がりますね。
 いつものように軽くストレッチをしていると、最近ストレッチにお付き合いくださるようになったマドレメル様も、一緒にストレッチをしてくださいます。
 周囲からは未だに少し奇異な目で見られますが、準備運動怠って怪我をしたら大変ですものね。
 流石に前世日本の国民的体操はしませんよ。兄様はあれを本気モードで3回連続第二体操までやったら、翌日全身筋肉痛になりました。
 あなどってはいけませんよ。
 そうそう、兄様は文官ですが細マッチョというものだったらしく、筋肉質でいらっしゃいました。
 なぜ知ってるかと申しますと、偶然兄様がお着替えしているところと出くわしてしまいまして、上半身裸のところを見てしまったのです。
 無礼ながら、もやし系かと思っておりましたので、意外な筋肉に思わず凝視してしまいましたら、兄様が素早く自分の上着を私の顔にかぶせて、お姿が見えないようにしてくださいました。
 紳士ですね。でもその上着を着ればよかったのではないでしょうか?ちなみに上着はいい香りがしました。私が作った洗濯石鹸の香りです。
 兄様の上半身、絶対に記憶から消しません!というかそうですよね、薪割とか出来てましたし、筋肉があってもおかしくはありませんよね。
 あの大胸筋に鎖骨下筋はたまりませんね。一度直に触れさせていただきたいのですが、はしたないと怒られてしまいそうです。
 体術授業が開始して型を維持しながら、無心になるべきところに邪念にまみれた思考ですので、どうしようもないですが、これは実はけっこう根気が必要なので、現実逃避しないとやってられないんです。
 私って集中力がないんですよ。
 それで何の話でしたっけ?そうそう兄様の筋肉の話しです。
 あの後、背中に抱き着いてみたのですが、服の上からもわかる筋肉でいらっしゃいました。すぐに離されてしまいましたが、今度は正面から抱き着いてみたいですね。
 あ、昨晩の膝枕のお礼に抱き着かせてもらうというのはどうでしょうか?
 昨晩は珍しくお酒に酔ってしまわれた兄様がソファに横になってましたので、僭越ながらお膝をお貸しいたしました。お酒には弱くない兄様ですのに、まるでやけ酒のように飲んでいらっしゃって、どうなさったのでしょうね?
 仕事がうまく行ってないのでしょうか?そろそろ私に付き合わなくていいというべきでしょうか。
 でも兄様との生活に慣れすぎてしまって、いないと私が寂しくて仕方がありませんわよね。力仕事をしてくれる人もいなくなってしまいますもの。
 ところで、いつものことですが、筋肉がプルプルします。ええ、同じ型の維持って力を抜いても力がいるんです。
 これが自然にできるようになってこそ、体術というものを極めることが出来るのでしょうね。
 そこまでするつもりはありませんけれど!
 でも護身術ぐらいは身に着けておきませんと、いざというときに困ってしまいますよね。
 いざというのは、森で獣に襲われた時とか、冒険者として外の世界で魔物に襲われた時のことですよ。
 小太刀も自分なりに訓練してますが、まあぶん回してるだけです。素振りっていうやつですよ。
 刀なんて、短刀はありますが小太刀なんてあつかったことありませんからね。サバイナルナイフなら使えますけど。
 もう無理!というところで丁度先生から声がかかって次の型に移ります。ちなみに、初期のころは肉離れを起こす生徒が続出しました。筋肉痛を通り越して肉離れですよ!
 ここって本当に高位貴族用の学校ですよね?なんというか、強いられてますよ私たち!

「はあ、はあ…」

 毎回の事ですが、こういう授業の後は汗がすごいですね。新陳代謝が上がってる気がしますので、ダイエット効果が自然と出ているのではないでしょうか?
 ちなみに、型を維持するときは、使われる筋肉を意識すると効果的ですよ。あの国民的朝の体操だって、使う筋肉を意識して思いっきり恥を捨ててやると、かなりの効果があります。国民的体操になっているだけのことはありますね。
 授業後はマドレメル様と一緒にバスエリアに移動します。
 入浴後は特に毎回約束していないので、出る時間は違うのですが、以前タイミングが合ったときに薔薇の香りがすると言われたので、こっそりお風呂に入る時に薔薇を召喚して花びらを浮かべているとお教えしたところ、お2人も入浴が必要な日は薔薇の花を用意するようになったとのことです。
 お揃いのようでなんだかうれしいですね。

「お姉様!」
「……あら、アレクシア。ずぶぬれでどうしたのですか?」

 イベントでしょうけどね。えっと、ずぶぬれになるイベントって何がありましたっけ?ああ、バスティアン様のイベントで、浮気相手のヒロインをヴァランティーヌが雨が降ってるのに庭の方につき飛ばして、ヒロインが水たまりに尻もちをつくというイベントですよね。
 ランちゃんがそんなことするとは思えませんが、強制力でしょうかね?

「ヴァランティーヌ様とすれ違ったときに足をもつれさせてしまって、中庭の水たまりの上に転んでしまったのです」
「そうですか」

 ふむ?言葉に悪意はない感じですね。というか、本人も驚いているという感じです。

「ヴァランティーヌ様に何かされたわけじゃないんです!本当に私が足をもつれさせてしまって。ヴァランティーヌ様は慌てて手を差し伸べてくれたんです」
「そ、そうですか」

 何やら必死ですね。

「本当にどうしてあんなことが…。そんなはずないのに」

 本命以外のイベントが進むのは困ってしまいますものね。なるほど、私に対してはライバル的悪役令嬢役を押し付けないとイベントが進みませんが、ヴァランティーヌという悪役令嬢役は、基本的にエジッヴォアのイベントには関係ないですからね。
 うーん、典型的なざまぁされ系転生ヒロインかとも思いましたが、一途なようですし案外話せばわかるのでしょうか?
 でもどうしましょう?アレクシアも私が転生悪役令嬢だと気が付いてはいそうですけど、先ほどのライバル宣言などのやり取りを見るに、変に絡まれそうというか、協力するために落ちぶれろとか言ってきそうですわよね。

「お姉様!私っ」
「お互いに汚れを落とすのを先にしましょうか」

 ごめんね今世妹、姉は乙女ゲームから全力で逃げるって決めているので、貴女の恋を陰で応援はしますが、巻き込まれるのはお断りしますわ。

「でも私」
「アレクシア、夏休みに実家に帰りますので、その時にゆっくりお話ししましょうね」

 ちなみに、夏休みという単語はこの世界には存在しません。夏期休暇と呼ばれております。

「わかりました。夏休みに待ってます」

 転生者ってバレバレの会話なんですけど、アレクシアは気が付いていないようですわね。
 そんなに他の攻略対象者のイベントが進むのが困るのでしょうか?正直そこまで覚えてないのでわかりませんわね。
 さてまあ、夏休みまではこの調子で逃げ回ってみましょうか。

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