全力で逃げて何が悪い!

茄子

003 逃げる方法が出来ました

 ただいま全力で寝込んでいるランジュミューアですが、忘れてましたがこの世界、ファンタジー要素があったんですよ。
 ゲーム中にはほとんど出てこない死に要素だったんで忘れてましたけど、いるんですよ、要するに魔法使い的なものが。
 まあ、魔法使いにもいろいろ分類があるので、それはまた後で説明する機会があったら説明しましょう。なんせ寝込んでて暇なのでね!
 ともあれ困った事というのが、その魔法使いの中でも病気治癒に特化した魔法使いさんを、お父様が呼びくさりやがりましたのですよ。なんたって学校に行く=社交界デビューですからね、娘が社交界デビューできないとか、お父様的には無しだったんでしょうね。
 まあ、仮病なんで治るわけがないんですけど、さっきから魔法使いさんが首を傾げてますよ。手ごたえがないんですね、わかります。
 それにしても魔法使いさん、黒いローブを深くかぶってるだけでは飽き足らず、ちらり見える顔の上半分が黒いマスクに隠れてて怪しさ大爆発です。

「お嬢様は本当にご病気ですか?」
「ああ、他所では言わないでほしいが数日おきに嘔吐までしている」
「はあ……、そうですか」

 めっちゃ疑われてますね私。だって魔法使いさんは冒険者と一緒に、魔物討伐に行くこともありますからね、胃にダメージを受ければ吐くぐらい知ってそうですよね。
 そう!いるんですよ魔物!これもゲームにほとんど出てこない死に設定です!だって普通の学校での恋愛ものなのに魔法使いだの魔物だの冒険者だの、出て来ようがないですよ。だって通うの12歳から15歳までの間なんですよ。前世で言えば中学生ですね!そこから進路ごとに色々学ぶんですけど、私は修道院か田舎に引きこもりを希望してます。

「お嬢様と、二人っきり、でお話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「わかりました」

 おい、お父様よ。いくら魔法使いさんが女性だからって、初対面の他人と娘を2人っきりにするなよ。安全面的に大問題でしょう!
 とか考えてる間にメイドまで出て行っちゃいました。扉の外にいるとか言ってくれましたけど、私には不安しかないですよ。扉の内側にいてください、是非に。
 二人っきりになって沈黙が重い部屋の中、寝込んでいるということになっている私は、一応不安そうな顔で魔法使いさんを見ると、顔の上半分はわかりませんが、めっちゃいい笑顔をむけられてますよどうしましょうね。

「仮病は良くないなあ、お嬢様ぁ」
「…なんの、ことでしょう?」
「眩暈や頭痛だけじゃなく、胃を押し上げての嘔吐までするのはすさまじい根性。メイドさんの話しでは、具合がひどく悪い日は水分をよくとってから嘔吐するのだそうですねぇ」
「たまたまですわ」
「へえ?……んでも、なーんの効果もないってなると、私の信用にかかわるんですよねぇ。ちょーっとは回復した感じに演技をしてくれません?」
「何をおっしゃっているのか、わかりかねます」

 そう口にした瞬間、顔面を思いっきり鷲掴みされる。あ、この人冒険者さんについて現場の前線に出てる人ですね、容赦ない行動にびっくりです。

「まあ聞いてくださいよお嬢様ぁ。お嬢様にも悪いようにはしませんからぁ」
「なひゃへをひゃなひふぇ」

 アイアンクローというか口に掌があるので喋りにくい、そして息がしにくいです。
 そもそも、私は一応依頼主の娘で、侯爵令嬢なんですけど、こんなことしちゃっていいんですかね?こんなことしちゃうために人払いをしたんでしょうけどね!

「まあまあ、まだ窒息しないから大丈夫。手加減してるし」

 してるんですか、手加減。もうちょっと手加減してくれてもいいんですけど?

「お嬢様さぁ、ちょっくら神殿で能力判定してみませんか?」
「ふぁい?」
「よし!良い返事ですねお嬢様。早速行きましょうそうしましょう!」

 いやいやいや!今のは疑問であって肯定の返事では無いですけど?あ、わざとですよね、わかってます。

「まあね、正直なところ、さっきお嬢様に回復の魔法をかけた時に、反射されたんですよ」
「反射?」
「そう、未覚醒の魔法使いに稀にある現象なんですけどねぇ。お嬢様って昔っから風邪をひきやすくてこじらせやすかったのに、回復魔法使いを前の奥様は呼ばなかったそうじゃないですかぁ。ってことは知ってたかもしれないですねぇ」

 なるほど、そう言われていればそうかもしれない。でも、お母様がそんなのを知ってるなんてそんな設定なかったっていうか、お母様自体がゲーム開始時には亡くなってるから、設定が生えたのかしら?
 そこでやっと手が離されたので、思いっきり深呼吸を何度か繰り返して、涙の浮かんだ目で魔法使いさんを見ます。

「でも、神殿に行って能力判定をするのは学校を卒業してからが決まりのはずです。まだ体が出来上がっていない子供が、無理をしないようにとの決まりごとのはずです」
「なんにでも例外ってのがあるのよぉ」

 そういって手をひらひらと振って、私の目じりの涙をぬぐってから魔法使いさんはニカっと笑う。

「魔法使いになったら、学校に行かなくて済むんじゃないかなぁ?修行の日々が優先されるしぃ」
「いきます!」

 なるほど、寝込んで引き込もる以外にもその手があったんですね。
 それはとても素晴らしいことです!魔法とかまさにファンタジー!私にどんな魔法の才能があるんでしょう、回復系なら田舎で診療所を開くのもいいですね、攻撃系や防御系なら冒険者にお供するのもいいですね!
 ああ、夢が広がっていきます!
 期待に胸を膨らませたところで、魔法使いさんが枕に私の頭を押し付けて、具合の悪い振りを続けるように言います。
 もちろん、病弱な私を自分で演出するので喜んでしていると、外で待機していたメイドと、自分の部屋に戻っていたお父様を呼びました。
 お父様、なんで部屋に戻ってたんですかね?そんなに急ぎの仕事でもあったんですかね?まあ、どうでもいいですけど、そんな態度だと娘に愛想をつかされますよ?
 もっとも、ゲームの設定で、前妻であるお母様に似てる私に会うのがつらいというのは知ってますけど。
 愛してたとか言うなら愛人作ってんじぇねーよとか言いたくなってしまいますよね。
 やって来たお父様に、魔法使いさんが単刀直入に言いました。

「お嬢様には魔法使いの才能があるかもしれません。神殿で能力判定をすべきです。このままでは才能が開花する前に力尽きてしまうかもしれません。神の元でその才能を開花させれば、体調も戻るかもしれません」
「いや、しかしそれは…」

 そうですよね、魔法使いの種類のよっては貴族令嬢らしからぬものもありますもんね、もう社交だ云々言えなくなる可能性がありますもんね。

「お嬢様が亡くなってもいいというのですか!」
「くっ」

 魔法使いさんの勝利が確定した瞬間ですね。というわけで、私はすぐさま神殿に行くことになりました。
 神殿はこの国ですと王城の敷地内にありますので、馬車で移動することになります。
 この時間ですと兄様がお仕事中ですので、差し入れに何かをお持ちいたしましょう。何がいいでしょうか、軽くつまめるものにしましょうか?体調がいい(と言っておいた日)に仕込んだジャムを差し入れしましょうか?飲み物や職場での食事にお使いいただけますものね。

「お父様、私は……能力判定を受けたいと思います。もし何も才能がないと出ても、田舎に引きこもれば家名に傷もつきませんもの」
「ランジュミューア、お前はそれでいいのか?婚約はどうするのだ、このままではお前は社交界に出ることもできない、不出来な娘だと婚約を白紙にされるかもしれないのだぞ」
「かまいません。このような事になってしまってから、覚悟しております」

 むしろ別に婚約白紙とかどうでもいいです、悪役令嬢とかになって婚約破棄になったほうがよっぽどやばいので!
 私の言葉にお父様は唸りながらあごひげに手を添え、しばらく考えた後頷いてくださいました。
 もし本当に私に魔法使いの才能があったら、全力で悪役令嬢から逃げ出すことが出来ますね!素晴らしいことですし、その後の生活も安泰です。
 あ、でも役に立たない魔法の才能という可能性もあります。例えばろうそく程度の炎をともすことしかできないとか…。火種の節約には役に立つかもしれません。あとは手で扇ぐ程度の風を起こす程度の能力とか、使い道がわかりませんね。
 ベッドから起き上がり、お父様が部屋から出ていくと魔法使いさんはそのまま部屋に残ってますが、お着替えの時間です。
 未婚女性は髪を下ろしますので、結わない代わりにカールを緩くかけてリボンなどの装飾を普段はつけるのですが、今回は神殿に行くというのでそう言ったものはつけずに、ヘッドドレスだけをつけます。
 なるべく装飾品の少ないドレスで、色は暗めのものか白のものか悩みましたが、魔法使いさんが黒っぽいので白をベースにしたものにしました。
 コルセットをしめてスラッシュとう下着部分を外につまみ出したり、動きやすくした切込みの入ったドレスがこの時代の特徴です。かわいいと私は思いますよ。
 この時代はそこまで腰を締めつけるコルセットではありませんけど、まあ金属製の物だったりするのでちょっとしたロボット気分です。防具と考えれば、まあ…ありなんじゃないでしょうかね?
 ドレスを着終わったところでメイドが軽めのメイクをしてくれます。これは流石ファンタジーと思うのですが、この時代らしからぬ化粧品です。保湿油というものと、ファンデーションはリキッドタイプのみですが、仕上げに軽く白粉をブラシでなでつけて眉を描いて、絵具のような紅を塗る感じです。
 まあ、私は若いのでそこまでしませんけど!若い肌って素晴らしいですね!ちなみに私は記憶を思い出してからはオリジナルの化粧水と保湿油を使ってます。
 口紅を使うころまでには口紅も開発したいですが、ちょっと調合方法があいまいなんですよ。趣味でアロマテラピー的なものをしてたので、化粧水と保湿油は作れたんですけどね。まあ、頑張って思い出しましょう。
 一応、リキッドファンデーションが有害でないかは確認済みです。っていうか、そうでもなければオリジナルで化粧品作る材料とかの入手方法を調べられませんよ。
 いやあ、お金持ちでよかったですね、本当に。
 ちなみに、化粧水と保湿油はお決まりのローズを使用してます。この屋敷には薔薇がいっぱいあるので材料には困りませんでしたけど、実際に抽出するのって面倒ですよねえ。
 メイドに変なものを見る目で見られましたけど、まあ気にしません。気にしませんとも(涙)。

「お嬢様というのは準備に時間がかかるのですね」
「そうですね。色々とあるのです」

 魔法使いさんはコルセットとか使ってなさそうですけど、防具は何を使ってるのか後で聞いてみたいですね。
 それにしても、あの乙女ゲームって意外とファンタジーの死に要素多いですね。もったいないですけどこれはあれです、世界観を作りこんだけど使わなかった的な奴ですね。
 ちなみに能力判定っていうのは乙女ゲームの最後で出てきます。ヒロイン、まあ妹が選んだ相手によってその才能が変わるとか、神様適当ですよね。ちなみにハーレムだと聖女とかいう称号が与えられて、ハーレムを維持できます。
 これってゲームでは出てきませんでしたけど、聖女の血を多く残すために子供を一人でも多く産ませるための策なんですよ。いやですね、生々しい。
 さて、そんなこんなで馬車に乗ってます。お父様もいますので馬車の中には、私とメイドとお父様と魔法使いさんの4人がいます。
 とっても気まずいですね。誰か話題を提供して下ませんか?私は病弱で今朝嘔吐したばかりの具合が悪い、という設定なので無理です。
 困ったことですが、メイドが何か話題を提供するわけもありません。身分的に当たり前ですよね、私と二人の時ならまだしも、お父様がいますもんね。となれば魔法使いさんですが、………視線で助けを求めたらお父様に見えないように、手を横にふられました。
 拒否ですか?そうなるとお父様ですが。

「…魔法使い殿」
「なんでございましょう」
「我が娘には、ランジュミューアには、本当に魔法使いの才能があるのか?」
「今はその可能性がある、としか申し上げることが出来ません」

 重いっ会話の選択が重いですよお父様!
 いや聞きたいのはわかりますけど、馬車の中の空気が一層重くなってます。何か楽しそうな話題とかないんですかね?

「……城にはお前の兄のリングフィアルが仕事をしているだろう、お前が判定中に知らせいく」
「で、でしたらその……これを兄様にお渡しいただけますでしょうか?」
「それは?」

 メイドからバスケットを受け取り、膝の上にのせて言うとお父様は訝し気にバスケットを見る。

「先日私が作ったジャムです。お茶などの際に使っていただければと思いまして」
「ふむ」

 あら?空気はなんだか軽くなったけど、お父様がなんだか不機嫌になったような気が?うーん、確か私ってお父様に別に嫌われてはいないのよね。ということは、もしかすると兄様にだけ差し上げるのが気に入らないのかしら?

「お父様も、もしお嫌でなければ…その、お屋敷に戻ったら貰ってくださいますか?」
「もちろんだ」

 即答ですか。なんとなく思った時もありましたけど、お父様って案外親ばかですか?子供3人に対して親ばかなので、とても素晴らしいと思いますよ。
 ジャムはまだありますので、一瓶ぐらい差し上げても問題はありません。でも兄様に差し上げるのは、一番出来のいいものですわ。だって兄様は私の味方ですもの。今朝だって、仕事を休むとか言い出してしまって、送り出すのに苦労をしてしまいました。
 きっと私からのジャムを受け取ったら、喜んでくださいますね。
 お父様には二番目によく出来たものを差し上げましょう。なんだかんだいって私に気を使ってくださってますし、親ばかですものね、今のウキウキの雰囲気からすると、楽しみにしているに間違いはありませんね。

「私、もう貴族令嬢としては、お父様にだいぶご迷惑をおかけしてますので、出来ることをしたいのです。これからも、もしよければ……これからお父様のお茶をご用意したり」
「そんなものはメイドや侍従の仕事だ。お前は自分の体を第一に考えなさい」
「はい」

 言い方!お父様ってば言い方がよくありませんよ。娘の体調が心配なのはわかりますけど、普通だったら傷つきますよ。私の精神年齢が高くてよかったですね。
 ちなみに精神年齢は黙秘しますけど、若くはないですよ。だって今世も加算してますもの。………加算してもたった12年分じゃね?とか思ったどこかの誰かさん、乙女の秘密というのは暴いてはいけないのです、と全力の笑顔で念を押しておきますね。

「し、しかし。もし魔法使いの才能が開花されて体調がよくなったのならば、そうだな、修行の合間になら茶の時間を共にしても良い」
「ありがとうございます」

 ツンデレですか?オッサンのツンデレとか需要有るんですかね?ちなみにお父様は38歳のダンディなオジサマですので、私的には需要ありまくりです。
 かわいいでしょう、私のお父様!でも妹のことも同じぐらい親ばかしてるんですよ。ゲームでは私と妹の板挟みになって、最終的に悪役令嬢の私を切り捨てて一緒に隠居するんです。もうっお父様ってば、ばかかわいいでしょう!

「城が見えて来たな」

 この国は全体が城壁に囲まれておりまして、段状に高くなっていきます。上に行けば行くほど階級が高いという感じですね。緑が少ないのか?と言われれば、いいえと答えます。もともと山一つ分を国にしているので、山と言っても、富士山とかを想像しないでくださいね。
 まあぶっちゃけ大きな国ではないんですよ。というか、この乙女ゲームの世界に大きな国はまだ存在してません。小国が点在してたり、国でもない集落が点在してたりします。
 ともあれ、私の家は貴族でしかも侯爵家ですので住まいは上の方になるので、お城までは割と近いんです。
 下に行けば行くほど下位貴族や平民貧民などになっていきますが、私は行ったことがありません。というか、家の外に出たのも実は数回目です。
 だって、学校に通うになって初めて社交が始まるんですよ。貴族の子供、特に上位貴族の子供なんてそれまで家で過ごすのがほとんどです。
 洗礼を受けに行く時とか、特別な用事がなければ引きこもりなんですよ。
 お城は石で出来たルネサンス建築のお城で有名な、シャンボール城のような感じです。まあ迫力がありますけど、手前中央に神殿があるんです。政治に宗教ががっつり食い込んでますね。
 まあこの国は唯一神ではなく、主神がいる多神教ですので、私は別に構いませんけどね。というか、この世界全体が唯一神教がない気がします。能力判定で神という存在を実感するからでしょうかね?
 まあ、子供なので難しいことはわかりません。え?精神年齢は若くないだろうって?この世界では子供だから問題ないんです。
 馬車が城門を通り過ぎて、車止めのところまで行くと停車し、まずメイドが外に出て次いで魔法使いさんが、そしてお父様が出て最後に私が外に出ます。
 しっかし、近くで見てというか、中に入ってみてもすんごいお城ですね。魔法使いを駆使して作ったとか言うおかげで、石のつなぎ目わからないとか、重力無視してるだろう!とかいう部分とかありますよ。

「では私はリングフィアルのところにいる。終わったらお前も来るように」
「はい。……お願いいたします」

 差し出された手にジャムの入ったバスケットを渡し、お父様を見送ると、今度は魔法使いさんが手を差し出してくる。

「迷子になっては困りますので」
「…………はい」

 ものすっごく不承不承ですが、はじめてに近いお城ですので仕方がありませんね。魔法使いさんは慣れているんでしょうか?足取りに迷いがありません。
 うーん、お父様が私のために用意した魔法使いさんですし、もしかしたら高名な方なのかもしれません。
 神殿エリアは一般にも開放しているだけあってか、神殿まではあまり時間をかけずに到着することが出来ましたが、あいにく学校を卒業した方々が能力判定を受ける時期ですので、順番待ちになってしまうようです。

「ほらこっちこっち」
「え?だって順番が、……いいのですか?」
「いいのいいの」

 5人ほど待っていらっしゃいましたが、魔法使いさんはどんどん前の方に行ってしまいます。
 能力判定を終えた方が出てきたところで、魔法使いさんは私の手を引いて中に入ってしまいました。
 中は城の壁に銀色と金色の何かの文字のようなものがかかれ、床には典型的な魔法陣のようなものがあります。

「あそこに立ってくれればいいわ。あとはわかるから」

 そう言って魔法使いさんはメイドと一緒に部屋を出ていってしまいました。一人残された私は、不安とか期待とか、ぶっちゃけわけがわからないとかで胸がいっぱいでしたが、魔法陣に足を踏み入れ中央に立って、なんとなく目をつぶり手を合わせます。
 神が能力を判定するというのなら、神に祈るべきでしょうからね。

 ふわり、と足元から風を感じ目を開けると周囲を金と銀の文字のようなものが螺旋を描き私を取り囲み昇っていき、天井まで到達すると今度は降り注いできます。

『汝、植物ノ女王ナル者也』

 そんな声が聞こえ、金と銀の光が目の前に集まりだし、光の板のようなものを作りそこに文字が浮かび上がってきます。
 ステータス画面っぽいものを想像していただけるとわかりやすいかもしれません。ちなみに何と書かれているかというと、こんな感じです。

【ランジュミューア=リル=ユルシュル=デルジアン
 種族:人間
 性別:女
 年齢:12
 称号:侯爵令嬢・転生者・植物の女王
 
 STR:6
 DEF:8
 DEX:19
 AGI:17
 INT:86
 MND:74
 LUK:63

 スキル:
  植物の女王(植物を操り使用できる)】

 こんな感じです。まあわかりやすくしてくれてる気がします。けど、なんですかねこのスキル。なんともいえないのですけど、魔法使いってことでいいんでしょうか?
 植物を操る魔法ですかね。うん、なんかいい感じかもしれません。
 なんとなく光の板に触れるとそのまま体の中に吸い込まれてしまい、一瞬全身に痛みが走りました。なんでしょうかね?
 あ!よくある小説だと念じると今のステータス板が出てくるとか。
 そう思って念じてみますと、具現化はしませんが頭の中に浮かんできました。なるほど、こういうタイプですか。
 とか思いながらなんとなく手の甲を見ると、銀色の蔦のような模様が張り付いています。ついでに言うなら両手に!驚いて袖をまくると見える範囲の腕にもあります。
 誰もいないのでスカートもめくってみましたら、足にもありました。これはまさか顔にもあるパターンですかね?
 そう言えば魔法使いという職業の人は顔や体の一部を隠すと聞きますけれど、もしかして魔法使い特有のものだったりするのでしょうか?
 なるほど、これでは社交は無理ですね。よっしゃ!学校に行かなくていい理由が出来ました。
 意気揚々と扉を開けて外にいるメイドと魔法使いさんに顔を見せた所、メイドが目を大きく開けて今にも倒れそうになっているので、顔にもあるんですね、蔦の模様。

「すっごいことになってるねぇ。首から繋がってて、頬のここから目じりの此処まで銀の蔦模様があるよ」

 そう言って頬から目じりまで触れて来たので、なんとなくわかりましたが、髪で隠れる感じではなさそうですね、目じりとかは特に。

「全身に有るんでしょうねえ、これではドレスも苦労しますし、社交はもうできそうにありません」
「嬉しそうだけど、家族の前ではしゅんとした演技しときなよぉ」
「魔法使いになれた事が嬉しくてつい」

 でもそうですよねえ、娘(妹)がこんな模様を体中に付けて現れたらびっくりですよね。しょんぼりした演技をしましょうか?それとも希望に満ちた演技をしましょうか?悩んでしまいますね。
 心配をかけたくないので元気に…、でも社交という世界で役に立てなくて申し訳ないのでしょんぼりと…、うーんどうしましょうね。

「お、お嬢様っお嬢様がぁ…」
「大丈夫ですわ、私の体はさっきよりずっと調子がいいのですから、きっとこれで正解でしたのよ」

 嘘じゃありません。なんだか体が軽いんです。でもメイドは私の体に浮かぶ銀色の蔦模様にショックを受けているようです。
 黒とかより目立たないと思うんですけど、だめでしょうか?
 メイドをなんとか宥めてそのまま兄様の仕事場に向かう途中、何人もの方々に振り返られたり、凝視されてしまいました。
 魔法使いという職業自体が珍しいですものね、それになりたてとはいえ、体に浮かんだ模様を隠さないのは珍しいと魔法使いさがおっしゃってました。
 見てるとだんだん愛着がわいてくるので、そこまで隠そうとは思わないのですけど、顔なんてどう隠せっていうんですかね。それこそマスクを被るしかないじゃないですか。
 せっかくの美少女なのにもったいないですし、この蔦模様もアクセントになるかもしれないじゃないですか。
 ちなみに、兄様の仕事場に到着した瞬間、兄様は私を見て膝から崩れ落ち、お父様は持っていたカップを落とすほど動揺なさってしまったため、お話をするまでに随分時間がかかってしまいました。
 宥めている途中でいらした王子、又従兄のスティーロッド様がいらしてくださらなかったら、もっと時間がかかっていたかもしれません。

「しっかし驚いた。ジュミーがこんな姿になる魔法使いだったとは」

 あ、ジュミーというのは私の愛称です。というか、スティーロッド様しか呼びません、兄様はランジュと呼んでくださいます。

「植物を操る才能があるそうですので、今後はそちらの方面で人のお役に立とうと思います」
「うん、がんばれー。俺は適当に応援しておく」
「ありがとうございます。ところで兄様にお父様、私の顔を凝視してもこの模様は消えないと思いますよ」
「あ、ああ……我が娘のかわいい顔にこんな模様が浮き出るなんて」
「ランジュの顔にこんな痣のような…でもそれでもかわいいよランジュ」
「ありがとうございますわ、兄様もいつもかっこよくていらっしゃいますわ」
「ブラコンとシスコン。ついでに親ばか」

 あ、貴重なツッコミ役ですわね、スティーロッド様。私一人ではどうしようかと思っておりましたの、本当に助かりますわ。

「それにしても魔法使い殿、流石にこの顔で人前に出るのは無理だし、ジュミーのかわいさを損なわない仮面制作師を紹介してくれる?」

 あ、スティーロッド様もボケかもしれないですね。どうしましょう、ボケばっかりで私ではツッコミが追い付かないかもしれません。

「かしこまりました。お嬢様のご希望はありますでしょうか?」
「特には。この模様もそれほど気にしていないのですけど…」

 先ほど鏡を見せていただきましたが、特に気にならないのですよね。元々あったかのように一体感があるというか、まあそういう感じなのですが、他人の眼には奇異な物に見えるようなのですわ。
 魔法使いさんが言うには、そういうもの、だそうです。

「顔全体を覆う仮面になってしまいますでしょう?」
「それはなんか気に入らないし、腕のいい仮面制作師ならいい感じに作ってくれるんじゃない?」
「そうですね、デザインの希望があれば叶えてくれると思います」
「そうなのですか」

 うーん、中央が開いた感じの仮面?…ナニソレ。
 というか、樹脂とかで作って色を花とかから取れば自分でも作れるんじゃないでしょうか?
 そう思いながら、無意識に手が動き想像するマスクの形を描いていく。自分では気が付いていませんでしたが、この時わずかに私の手元が光っていたそうです。
 考えているとふと手に重みを感じてみてみると、想像していた仮面が出来上がっていました。

「……なんですか?これ」
「お嬢様が作ってました。今ここで」
「は?」

 いや、確かに樹脂とかで作れるだろうとか思ってましたよ?思ってましたけど本当にできるとは思わないでしょう!?いや、なんとなく3Dプリンター的な感じを思い浮かべてましたけど!これはおかしいでしょう?

「魔法だったな」
「魔法ですね、植物を操る魔法というのとなんだか違う気もしますけど」
「いえ、樹脂を使って」
「樹脂とは何だ?お前は自分で化粧品も作っていたが、その知識はどこから学んだんだ?」

 お父様、ナイスツッコミですね。ちょっと回答に困ってしまうのですが、どうしましょうかねえ。
 うーん、植物に関することだからわかったとか、曖昧な感じに答えておきましょうか。開花する前でもそれに関してなんとなくできる気がした、とか言えばなんとなくいけるきがします。

「なんとなくわかりましたの」
「ジュミー、それは流石に苦しい言い訳だ」
「なにをおっしゃいますの、事実ですわよ。それよりも、植物を操るというのは、こんなこともできるのですね」
「ランジュはすごいな。俺なんか特に冒険者や魔法使いの才能はなかったからな、こうして文官になる道を選んだが、そうかランジュは魔法使いの才能が…」

 兄様が心配そうに私の手から仮面を取ると、そっと顔にかぶせてくださいました。
 イメージしたのは髪の生え際の部分は透明なブリッジを描き、目じりから頬の横までを白いマスクが覆うもの。
 髪型次第ではほとんど見えなくなるようなマスクだけれど、兄様はかぶせたマスクを優しく辿った後に、優しく頭を撫でてくれる。

「こんな全身に模様が浮かび上がるなんて、きっと強い力なんだろう。冒険者についていけるものかもしれない。俺は不安だ、かわいいランジュに何かあったら……」
「兄様」
「なにかあったら、なにかした相手も、一緒にいた仲間も皆殺しにする」

 ヤンデレですか?兄様にヤンデレ属性とかゲームの設定ではなかったと思うんですけど、また設定が生えたんですか?ちょっとその設定は困るんでやめてもらってもいいですかね。

「兄様ってば心配のし過ぎです。大丈夫ですよ」

 今一番怖いのは兄様です。

「植物系の魔法使いは今この国にはいないな。カロリーティア姉上、見てやってくれよ」
「この姿の時はその名前を呼ぶなと言っているでしょう、愚弟」
「カロリーティア様って、第二王女様?あの深窓の第二王女様……」
「ああ、バレてしまっては仕方ないですね。その通り、国一番の回復系魔法使いであり、第二王女のカロリーティアよ」
「んなぁ!」

 お父様と兄様は知ってたのか驚きませんので、知らされてなかったのは私だけですね。なるほど、城の中に詳しいし順番もぶっちぎれるわけですか。
 というか、第二王女様が魔法使いとか初めて聞きました、病弱で深窓の王女様とかは聞いたことがありますけど。……あ、病弱。なるほど仮病ですかわかります。

「私の場合背中に模様があるから、この仮面は変装用。でもびっくりしちゃった、貴方のお父様ってば娘を治してくれってめちゃくちゃ頭下げるんだもの」
「娘の為ならそのぐらい」

 親ばかですねお父様、素敵です。でも教えてくださればよかったのに、隠していたので減点です。

「国の外に出ることもあるから、病弱で深窓の第二王女なんて言われてるんだけど、至って元気なんだな、姉上は。んで、今のところ国一番の魔法の使い手だから、ジュミーが弟子入りするにはいいんじゃない?」
「それなんだけどねスティーロッド。この子の魔法使いの才能は多分私よりずっと上なのよ。開花させたその日に考えただけでこんな高度な魔法を使えちゃうとか、教えることないわ」
「マジ?」
「大マジよ。まあ基本的なことは教本とかで教えることはできるけど、魔法使いって個々が独自の方法で発動させるから、今回の場合は特に無理」
「……ってことは、実戦か」
「あ゛?」

 スティーロッド様の言葉に、聞いたことが無いような低音濁音で兄様が睨みつけました。兄様ってば私のためにヤンレデになるのはやめてくださいね。

「ところで、体調はどうなんだ?」
「はい、良好です。体が軽い感じがします」

 お父様の言葉にうなずいて答えると、お父様は少し考えた後頷く。なんだか嫌な予感がします。

「修行がない、体は問題なくなったとなれば学校に行ってもいいのではないか?」
「この模様がありますので無理です」

 速攻で拒否させていただきました。全力で逃げてる最中ですので、全力でお断り申し上げます。
 仮面で隠しているとはいえ、学校では奇異な目で見られるに決まってますから、いかない方が身のためです、ええそうですともそうに決まっています。

「髪型次第ではほぼ隠れるようだし、なによりその仮面ならばお前の愛らしさは損なわれない!」
「「親ばか」」

 ほら、カロリーティア様とスティーロッド様に言われてますよ。

「父上、しかし魔法使いの才能を開花させたことでランジュにもし悪い虫がつきでもしたら、それならば俺が全力で踏み潰しますが、傷ついたりしたらどうするんですか。婚約者のバスティアンだって何を言うかわかりませんよ」

 ヤンデレは勘弁していただきたいのですが、いいことを言ってくださいました兄様。そうですよ、かわいい娘が傷ついたらどうするんですか!

「お父様、私が学校に行くことで家の名が傷ついたら、私は今度こそ皆様に合わせる顔がございません」
「「そんなことはない!」」
「ランジュを悪く言うやつがいれば、この俺が潰してやるから安心しろ」
「ランジュミューア、その程度のことで傷つく家名など捨ててしまえばよいのだ」

 くっそう、変なスイッチ入れちゃったかもしれませんね。スティーロッド様とカロリーティア様はすっかり観覧モードですね。

「学校に行ってその愛らしさを見せつけてくれば良いのだ」
「皆に思い知らせてやれ、ランジュは素晴らしい淑女だと!しかも魔法使いの才能がある素晴らしい淑女だと!」
「「学校に行っても大丈夫だ!私(俺)が付いている!」」

 あ、これは学校に行くフラグですね。どうしてこうなったんでしょうか?……あ、私の一言ですかね。
 どうやってこの状況から逃げましょうか?しばらくは魔法の練習があるとか言えますけど、長くは続かないでしょうし…。困りましたね。
 そもそも、乙女ゲームの舞台である学校に行きたくないんですよ。私が行く学校って第3エリアにある高位貴族専門学校じゃないですか、いやですよそんな自分で自滅しに行くとか、私はマゾじゃないんです。

「もしこの魔法の力がうまく使えず、誰かを傷つけてしまったら、私は…」

 ここでウソ泣き!これはポイント高いですよ!
 美少女が泣きながら自分の力に恐れて、人前に出ることを嫌がり学校に行かない。これだ!

「修行をして、それでもし安全だとわかれば…けれど、いつ終わるかはわかりませんし、遅れての入学はそのまま家名を傷つける、いえ…周囲の人に良く思われない……違いますわね。私が、皆様に何かをしてしまうと思うと、怖くって」

 ぽろぽろと涙を流しながらソファから立ち上がって数歩歩いて、窓辺まで行ったところで、顔を手で覆って膝をついて涙声で言えば、お父様も兄様も動揺しますよね。
 スティーロッド様とカロリーティア様にはバレてる気もしますが、この際どうでもいいです。重要なのはお父様と兄様を説得することですからね。

「お父様、兄様。私はこの力をちゃんと自分の物に出来るまで、人里離れた場所で一人過ごしていようと思います」
「「それはだめだ!」」
「けれど、カロリーティア様ですら己より強いとおっしゃったのです、どのような魔法の力なのか、わからない今は、私は自分が怖くて…」

 顔を手で覆ったまま、涙声で言えばお父様が唸り声を上げるのが聞こえてきます。

「演技派」
「女優になれるわ」

 スティーロッド様とカロリーティア様の声も聞こえましたが、外野うるさいですよ。

「では俺がランジュに付き合う!そうすれば父上も安心だろう」
「は?」
「にゃ?」
「あ゛?」
「あらまあ」

 兄様の言葉にお父様が首を傾げ、私は思わず変な声が出てしまいましたが、スティーロッド様の低音濁音の声と、カロリーティア様の声で消されたので、問題ありませんね。

「フィアル!てめぇ仕事はどうするんだよ!お前はこの部署の責任者だぞ!」
「休暇を申請する!ランジュの修行が終わるまでだ」
「ああ゛!ふざけんなよ、はいそうですか、なんて受理できるわけがねーだろうが!」

 なんだかスティーロッド様と兄様の言い合いが始まってしまいましたね。どうしましょうか?ここはスティーロッド様に加勢して、兄様を此処に押しとどめておく方がいいのでしょうか。
 私が考えているとお父様が二人の間になって、二人の口喧嘩を止めるように手を間に入れると、じろりと二人を見て口を閉じさせました。
 流石大人ですね。

「私は元文官だ、リングフィアルに穴は私が埋めよう」
「お父様には領主のお仕事があるではありませんか!無理をしてお体を壊したらどうするおつもりですの!」

 とっさに止めるために出た言葉ですが、もっともなことですよね。今もお忙しくしているように見えますのに、兄様の仕事を引き継ぎなんて、無理に決まってます。

「「なるほど」」

 おいまて、なるほどじゃねーよ。
 スティーロッド様も兄様もそこは否定するべきところでしょう!何納得しちゃってるんですか。

「だっ駄目です!お父様のお体が心配です!」
「大丈夫だジュミー、君の父親は今は引退したが伝説級の文官で、宰相補佐になってほしいと土下座されてほどの人物だぞ。子供が生まれるからいやだこの野郎、と断ったらしいがな」

 そんな理由で名誉ある宰相補佐を断るとか、なんですかこの親ばか!かわいすぎですか、ダメ人間ですね!
 というか宰相様にこの野郎とか言っちゃっていいんですか?

「その話しは、俺がこの部署を任されたときに宰相殿に聞かされたな。『家族の時間が減るから、そんなめんどくさいことをやるか。馬鹿か?あほか?お前みたいな仕事中毒と一緒にするなこの野郎』と言ったそうだ」

 悪化してる!親ばかと口の悪さがが悪化してます!

「お、お父様がそのような事を宰相様におっしゃるなんて…」

 あ、びっくりしすぎて涙止まっちゃいました。

「安心しろ、あいつとは学校時代からの腐れ縁だ」

 そうですか、そうなんですか…。でもどうかと思うんですよ、お父様を大切にしてる、心根の優しい出来た娘としては、兄様の今後の出世に影響するんじゃないかとか、色々思うわけなのですが、どうなのでしょうね?

「でもなあ、人里離れたっていってもこの国の中でだろう?お前の家の領地のどっかの山林に家でも建てるか?」
「そうだな、侍従とメイドを数人連れていって住まえるぐらいの家を」
「待ってください!私は一人で」
「「だからそれはだめだ!」」

 兄様とお父様ってば、そこは譲らないのですか。どうしましょうね?…いやでも兄様との2人での生活も悪くはないかもしれません。兄様に毎日私の手料理を食べていただくのもいいかも…。

「って、だめです!私にかまけていて兄様の恋人ひいては婚約者探しに支障が出たらどうするのですか!」
「問題ない。婚約者は父上が適当に見繕うからな」
「任せておけ。良いお嬢さんを用意しておく」

 なんですか、この普段は絶対ない連携は。

「お嬢様、あー、ランジュミューア様。時にはあきらめも必要よぉ。だって、これ以上駄々をこねると、うちの愚弟も一緒に住むとか言い始めるし、そうなったら安全上私も一緒に住むことになっちゃうもの」

 マジっすか。なんでそうなるのかはわからないですけど、それはめっちゃめんどくさそうですね。とていうか、家族以外の男性と一つ屋根の下とか、ありえないですって。しかも王子様とかなんですか、なんなんですかねこの国の上層部って大丈夫なんですか?
 城塞都市国家とか言われてるのは習いましたけど、不安で仕方がないです。まあ、外に出れば魔物がいるので城壁の外で暮らす勇気はありませんけどね!
 すみませんねヘタレで!平和な日本人だったので殺生とか苦手なんですよ。まあ、慣れると思いますけどっていうか、慣れて見せますけど!多分……。
 さて、カロリーティア様の話を信じるなら、今のうちに兄様との生活を承諾するのが最善かもしれませんね。

「わ、わかりました。……兄様との生活と修行をします。期限は…期限はわかりませんけどっ」
「ランジュ!二人で幸せな暮らしをしような」

 プロポーズですか?正真正銘の同父母兄弟での結婚はこの国の法律では認められてないのですが、まあ行き過ぎた家族愛ということにしておきましょう。

「兄様のお食事は出来る限り私が作りますわ。せめて兄様に私の作った美味しいごはんを食べていただきたいです」
「もちろんだ!身の回りの世話をするメイドと侍従は連れていくが、料理はコックではなく料理のできるメイドを連れていこう。お前の補佐をさせるために」
「兄様、嬉しいです」
「俺もランジュの手作りのご飯を食べることが出来ると思うと、嬉しいよ」

 近づいてきた兄様に両手を握られて目をキラキラされて言われてしまうと、照れてしまいますね。
 でも兄様が私のご飯を美味しいと言ってくれたら幸せですものね。

「プロポーズかよ」
「プロポーズね」
「ランジュミューアの手作り料理…。くっ私も食べたい」

 ツッコミを入れてくださってありがとうございます。あとお父様、ツッコミ場所が違うので減点ですね。

「まあ、お家が完成するまでお城に住んでおきなさいよ。このお城は対魔法使い用の結界が張ってあるから、そうそう惨事は起きないわ」
「いろんな魔法使いが出入りするし、なんか有用な情報があるかもね」
「そんな!一緒の家にもう住めなくなるなんて!……ああ、私まで城に住んだら残った家族がっ。私はどうすればいいんだ!」

 なるほど、確かにお城ならヒロインである妹と接触もないでしょうし、ある意味安全かもしれません。
 そしてお父様ってばすでに板挟みになってますけど、領地内にお家が完成したらどっちにしろ別居ですよ。
 うーん、家から色々持って来させないといけませんね。メイドも何人か来るようにして…。そういえば。

「お城に住むのは私はいいのですが、どこに住むのでしょうか?」
「俺のへyぶへっ」
「バーカ」

 何かを言いかけたスティーロッド様に、兄様が思いっきり張り手をしました。思いっきり吹っ飛んでいって壁にぶつかってますが、グーパンじゃないだけましなのかもしれませんね。王族への不敬罪にならなければいいのですが、カロリーティア様が何も言わないのできっと大丈夫ですね。そうに決まってます。

「客室でいいわよ。リングフィアル様が宿泊の時に使ってる部屋の隣でいいでしょ。どうせ毎日泊まり込む気満々なんだろうし」
「もちろんです!」

 もちろんなのですか兄様、私は構いませんしお仕事の引継ぎもあって忙しくなりますものね。
 それにしてもこれで家に帰る必要がなくなりますので、フラグは盛大に折れたのではないでしょうか?うん、折れたと思いましょう。
 今日からお城の客室暮らし、借り暮らしのランジュミューアといったところでしょうか?え、古い?……異世界のことだからわかりませんね、と笑顔で言っておきます。
 さて、今日も全力で乙女ゲームの悪役令嬢役から逃げて見せましょう!

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