全力で逃げて何が悪い!

茄子

002 プロローグ

 私は常々思っていたことがある。転生した悪役令嬢たちは、なぜ皆同じ舞台でヒロインと戦うことを選ぶのだろう、もしくは状況を変えようと努力するのだろう?と……。
 確かに、ゲームや小説の話しが始まったその瞬間に転生という記憶を思い出したのなら仕方がないのかもあいれない、けれども幼いころならば戦わずに逃げればいいのだ。
 もっとも家の事情で難しかったり手遅れだったりする場合ももちろんある。だから別にそのこと自体を否定するわけでも悪く言うわけでもない。

 ただ、私は、逃げる!

「きゃぁぁぁぁぁぁ!ランジュミューア様っ!誰か、誰かお医者様をお呼びになって!」

 入学式の朝、前世の記憶、この世界が乙女ゲームだと思い出した私は、入学式に参加する前に前世で得意だった『体調不良』を起こして倒れて不参加することにした。
 この時、眩暈が、頭痛がなどと甘いことを言うだけでは足りない。メイドに見つからずにコルセットを装着される前に胃をダイレクトに下から押し上げるようにえぐるようにパンチ。これで嘔吐は確実!
 嘔吐による顔色の悪さ、そして貴族令嬢が嘔吐するという状態。これによりもちろん入学式は欠席、この世界は大体前世のルネサンス時代をベースにした、つまり16世紀ぐらいの文化だからこれで数日は寝込める!治ったころにまた嘔吐すればまた寝込める!
 そう!これを繰り返しつつ、学校に行って多くの人の前に出るのが怖いとか言えば、学校に通う=社交開始のこの国において、致命的な弱点!
 婚約者になってる侯爵子息とは、何回か会ったけど、今にして思えばお互いにお世辞ばっかりで中身のない会話ばっかりだったわね。
 あんなんじゃヒロインに持っていかれて当然でしょ。
 もっとも、ゲームの中じゃ私って変に意地を張って、ヒロインに色々勝負を持ちかけて成長を促す系悪役令嬢だったし、婚約破棄の理由もそれを悪くとらえた感じで言われてのことなのよね。
 うちには妹もいるし、兄様には悪いけどこのまま病弱を貫いて婚約破棄したのちに田舎に引きこもってたいんだけどなあ。
 田舎に静養している間だけは元気が戻るみたいにして。あ、修道院でもいいんだよ?私って前世も敬虔な信者だったし、日本国神道だけどね。だから唯一神とか言われてもピンとこないけど、その唯一神を他の神と一緒に崇めるのは全く問題なしなのよ。
 というか、日本人でしたので、敬虔な神道の信者でもお墓参りするし除夜の鐘は聞きに行く死んだときは仏教でのお葬式だった。
 あ、死んだ後に少しだけ様子見てたんだよ、みんな結構泣いてて、私も泣け来ちゃったよ。
 まあともかく、そんな私がこんな異世界転生しちゃったわけで(しかも乙女ゲーム)、やることと言ったら逃げるの一手でしょ!
 お婆様が元王女で侯爵家令嬢で、記憶は思い出してなかったけど影響はあったのか、メイドやメイドにも優しく接し、教養もあり自分で言うのもなんだけど、桜色のようなピンクブロンド、真珠のように滑らかで白い肌、ぱっちりとした琥珀色の眼、プルンと艶やかな桃色の唇。
 12歳という年齢せいだからか、まだそこまで凹凸はないけれども、それなりの兆候は見える体型。将来に期待大!

 話しを戻して、思いっきりメイドの前で嘔吐した私は、予定通りベッドの上に寝かされて診察を受けております。

「緊張のあまり、体調をを壊した、のかもしれませんな」
「申し訳ありませんお父様、お母様…。ふがいない娘で、私なんとお詫びしたらいいのか…」

 お医者様の言葉に落胆したような両親と妹、不安そうな兄様、差がはっきり出てますよ。でもまあ、お医者様という他人がいる場所で、変なことは言えませんもんねえ。

「いいんだよ(せっかくの社交界デビューの機会なのに)。気にせずにゆっくり休みなさい(こんなことになるなど、もうこの子は社交界で奇異の眼で見られるだろう)」
「そうですよ(人前で嘔吐なんて信じられないわ)、今は体を治すことに専念なさい(所詮あの女の子供なんてこんなものなのね)」

 お2人とも副言語が聞こえてくるようですが、体調の悪い私はもちろん文面通りに受け取らせていただきますね。
 あ、兄様ってば顔をしかめてお父様たちを見ちゃだめですよ。妹に関しては心配そうにしてるけど、目が笑ってるますよ。一歳違いとはいえ、優秀とか言われてるんだから、もっと仮面ぐらい被れるようになっておきなさいよ。
 まあ、そなったらヒロインとしては微妙なのかもしれないけどね。

 あっ、言い忘れてましたけどこの妹がヒロインです。来年入学して学校のイケメン総ざらいしていく予定のヒロインです。
 私との仲は、お分かりのように微妙です。一歳違いで、何でもかんでも比べられてるっていうのもあるんですけど、母親が違うんですよ。
 私と兄様は前妻の子供で、妹は今のお母様の子供です。あ、ちゃんとお父様の血はひいてますよ。ようは私たちのお母様が私を妊娠して体調が悪くなってる間に、愛人作って子供まで作って、ちょうどよく私のお母様が亡くなったので、喪が明けてすぐにお腹の大きな愛人を正妻にしたんです。
 なんで、王女であったお婆様の血を引くのはこの家では兄様と私だけです。
 兄様はもう学校を卒業して文官に就職しておりますが、今日は私の入学式ということで、お仕事をお休みしてくださいましたのに、申し訳ないことをしてしまいました。
 働いている兄様との好感度を上げることで出てくる、隠しキャラの王子様もいるのですが、私の又従兄ですので、兄様と同い年で学年とクラスが同じだったこともあり、実は何度も我が家でお会いしていたりします。妹も、正体は知りませんが遭遇していたと思います。
 幼少期から思えば攻略対象とのフラグを形成してましたよね、いやあ、強制力かは知りませんがすごいですね。
 ちなみに兄様は、文官の仕事があるので、城に近い家を借りててそこに幾人かの侍従とメイド、使用人を連れて住んでいます。私もできればそこに住まわせていただきたいです。
 あ、でも私がいたら兄様の恋人を見つける邪魔になるかもしれないですね…。そうなると、早いところ田舎か修道院に行くように仕向けなくては…。
 別にこの家に住むことが嫌なわけじゃないんですよ?ただこの家にいるだけで、妹に勝負を吹っ掛けるイベントが発生するんですよ。それを避けるに逃げるのは定石ですよね。

「色々思うところもあったのでしょう、今は静養するべきですな」
「はい」

 このお医者様は、私が小さい時からお世話になっております、お世話になっているというだけあって、私は風邪をひきやすい、悪化させやすいというような、まあちょっと病弱な素質はあったんですよ。
 あとこの家の事情もご存じなので、色々配慮してくださるいい人です。

「ありがとうございます」
「今風邪でも引いたら、またどれほど寝込むことになるかわかりませんからの」
「はい」
「俺もしばらくこの家から城に通うことにする。あっちの家は引き払おう」
「でもお兄様」

 そうなると私の逃げ場がない上に、家でのイベントが発生する条件が整っちゃうじゃないですか。

「妹がこんなに気負ってるんだ、兄としてそれを見過ごせない」
「ありがとうございます」

 私と兄様の兄妹仲はとてもいいんですよ。ゲームでも最後まで私の味方でいらして下さいました。
 さて、全力で逃げる気は満々ですが、今後どうなりますかね?とりあえず、ゲームの中で私の派閥形成が出来る1年は、このまま病弱で通しますよ。
 世界の強制力がどこまで効くのかは知りませんけど、私は全力で逃げますからね!

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