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生死と勝敗はここでは勝敗が優先だ。

こたつ@mu

第1話 引退試合

 古代ローマ、ここでは毎日のようにコロッセオで命がけの戦闘が行われていた。起源は敵兵の遺体を墓に持っていき死者の無念を晴らすことだった。それが敵兵をとらえ、見世物として戦わせとらえた敵兵の始末と娯楽を民衆に与えることで皇帝の人気取りも行うようになっていき、次第に強さを競いたいものが出場するようになった。これは、その時代のこういうこともあったのではないかと考えてみた話だ。
 “絶対に負けない”そう誓ってこの数十年、俺はこの闘技場で負け続けている。才能がないのか、度胸が足りないのか、努力が足りないのか、そのすべてかいずれにせよ俺は勝てなくなった。闘技場では、どちらが勝つかを予想して賭けられ、その1部を私たちはもらう。だれも俺に賭けなくなった。そして今や、負けすぎて追い出されそうになっている。
「また負けたのか?」
「ああ、これで1360敗目だ。もう次負けたら出ていけといわれたよ。まあ、ここまでよく生き延びてきたし、そろそろ引退でも悪くないかなとは思っているよ。」
「ふーむ、そうか。同期としては、少し寂しいものがあるな。」
「まあ、片や無敗のチャンピオン、片や全敗の落ちこぼれ、こうなるのも仕方あるまい。」
「そういって、また負けるのか?」
「・・・」
いつから、負けるのが普通で、仕方ないと受け入れるようになったんだろう。つらい修行にも、苦しい戦いも、必死でやっていた。それでも、勝てなかった。新しく入ってくる新人にすら負けてしまう。そうして、俺は負けるのを受け入れてしまった。
次の対戦相手は新人の星と期待されているルーニーだ。新人なのに負けなしで、将来有望視されている選手だ。どうやら、俺の引退と世代の交代を意識して行う試合のようだ。
「いやー、運がないですね、次負けたら引退って言われてるのに僕と当たるなんて。必敗のグラン先輩。まあ、正直負ける気しないんで、引退する準備してたらいいんじゃないですか、なんならもう棄権して地元に帰ったほうがプライド傷つかずに済みますよ。」
「・・・もう負けて失うものなんてないんでな。最後の試合くらい、華々しくやってやるよ。」
「へえ、そいつは期待しておきますね。なんせ、これに勝てれば僕は100勝ですから。」
闘技場では、勝利数がものをいう。強い相手に勝つだとか、負けが少ないだとかよりも勝利数が多いほうが勝てる可能性が高いとみなされるからだ。そのため、100勝ごとにランク付けされる。ちなみに、あのチャンピオンは3000勝している。やつは、そのためにもやる気になっているのだろう。正直、手加減くらいしてくれたらよかったのだが。
「なあ、会長。あいつ、なんで勝てないんだ?私は、ずっと同期としてあいつを見てきた。センスもあるし、努力もしてる。相手への研究や行った試合の反省も他とは圧倒的だ。でも、全然勝ててない。あいつに聞いても、自分が弱いからとの一点張りだし。」
「あいつはこの闘技場に命を懸けてないんだよ。ほかのやつらは、ほとんどが死んでいった。多くは、試合での怪我や事故死が原因だ。勝つために身を削っているから勝てるが、簡単に死んでしまう。お前のように圧倒的に強いわけではないあいつは生き残るために負けるという選択をしたわけだ。負けたからといって死ぬ必要はないが、死ぬ気で勝とうと思うなら、死ぬ可能性はあるからな。あいつの生き汚さは強く、あいつが生きるかどうかである程度は稼げていたんだが、さすがにもう年だ。死ぬことを恐れる老戦士など、必要なかろう。」
戦闘が始まる。ルーニーは剣士で片手剣の振りが非常に速いことから相手が避けられず勝つことを得意としている。
「一撃で試合が終わったら、申し訳ねえな、全力で行くぜ。」
「こい、先輩の意地を見せてやる。」
自信満々に剣を構えている。俺はどの武器が得意というのはないため槍を持ってきている。剣よりも広い間合いで戦い、有利にしようという考えで決めた。素早く近寄り、剣を振り下ろしてくる。速い。間近で見るとこうも速いのかと驚く。仕方なく、右に体をずらし無理やりよける。そこに、横から凪払いが来る。しかし、それは読んでいた。こいつの必勝パターンだ。槍を縦に持ち、防ぐ。しかし、非常にパワーがある。あの振りの速さを表すような押し。思わず、よろけてしまう。そこに、突きが飛んでくる。しかし、さすがにそれには当たらない。突きを出した腕をつかみ、投げ飛ばす。勢いづけて倒したが、あまり痛くはなさそうだ。
「なかなかやるな。この一合で終わると思ったが、さすがに経験が深い。よろけたのは、演技だったのか。」
「さすがに最後だからな、すぐに終わってしまうのはもったいないからな。いったろ、華々しくやろうぜ。」
「おふざけは抜きだ、ここから本気で行く。」

「やはりうまいな、グランのやつ。相手の攻撃を読んでいるみたいに動いてる。」
「しかし、勝てない。あいつは、相手を知ることはできても自分のことが分かっていない。それに、強みがない。闘技場は真剣勝負。相手の強みをつぶすメタゲームでは、負けないことはあっても勝てない。命がけの勝負では相手が普段通りに動くとは限らない。」
「勝つのは相手を殺すか、降伏させるか、技を時間内に当てたうえで技を受けない回数が少ないかのいずれで、あいつみたいな技受けでは判定負けする。」

 片手剣の攻撃は主に3つ。振り下ろし、横凪、突き。どれも技の出が早いうえにつなぎもうまい。それに、新人とはいえもう100戦も勝っているだけの実力を感じる。防戦一方で、槍をうまくつけない。距離を取って槍を突こうとするとすぐに近寄ってきて間合いをつぶされる。そしてついに横凪を受けそこなってしまい、吹き飛ばされる。
「これは決まったかな。」
「いや、まだだ。」
そういって立ち上がるものの、ダメージは結構大きい。ぶつけられた横っ腹は非常に痛い。槍で防いだと思ったが、槍ごとたたかれてしまった。このまま負けるのかと思うと泣きたくなってきた。ここまで、俺は何をしてきたのか。同時に始めた同期には完全に置き去りにされ後から入ってくる選手に負け続け、果ては負け試合で最後を飾る。こんな終わりじゃ納得できないと、久しぶりな感情が湧き上がってくる。等の昔に勝ちへのあこがれはなくしたと思ったが、どうやら失ったわけではなかったようだ。
思いが力に代わる感じがする。それで勝てるほどこの競技は甘くないが、勝てる自信がわいてくる。考えるんだ、勝つ方法を。相手は、強い。相手の行動を読んでいるだけでは力負けしてしまう。かといって、こちらから攻め込んでも相手の剣ほどうまくない槍が通じるのか疑問がある。そうだ、相手の行動を読んでカウンターを仕掛けるだけではなく、そこに攻撃を置けば俺の下手な攻撃でもあたるのではないか。考えたことはあったが、一度試したときは完全に読みが外れて意味のない攻撃をしてしまいコテンパンにされた。しかし、今なら。勝利への渇望と今までの多くの負けを積み重ねがある今なら。
近寄ってくる。全神経を相手の動きに注目する。振り下ろしなら腕を上げる。つくならそのまま、横凪なら腕を横に振る。一瞬の動きだが、俺ならわかるはず。腕を上げる。振り下ろしが来る。俺は槍を腕の軌道上に置く。腕にやりが刺さる。思わず、剣が手から取れる。そして、俺は槍を抜き、突きの状態で降伏を迫る。
「降参しろ、まだ新人なのだから俺に挑む機会はたくさんある。」
「まけた、、、まけ?ほんとに?嘘だろ、こんな全敗の男に?」
「そうだ、俺の勝ちだ。どうやら、引退試合にはならなかったようだ。」
「降参する。でも、次、次は絶対に負けない。もっと勝ちまくって、今度はコテンパンにやっつけてやる。」
「ああ、待ってる。」
 こうして、俺の引退をかけた試合は俺の勝利で終わった。俺は今まで生きることに必死で勝つことから逃げていた。しかし、勝利の甘美を知ってしまった。ここから、俺はいままでの逃げたことと向き合うことになる。

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