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冬薔薇姫

茄子

025 魔人種の国 その2

 魔人種の国の王宮にあてがわれた部屋で、思う存分本を堪能していますと、ハーロルト兄様が出立するだけの準備が整ったと言っていらっしゃいました。
 滞在して三日、もう出立の準備が整ってしまったのですか。
 まあ、邪悪なるモノが出現すると思われる湿地はこの魔人種の国にありますし、食料品もそんなに買い込まずに済みますので、準備の時間も短かったのでしょうね。
 名残惜しいですが、この王宮にある本ともお別れしなくてはいけませんわね。
 様々な魔法の本を読むことが出来まして、今まで以上に魔法に造詣が深くなったような気がいたします。
 ……覚えたからには使ってみたいのですが、ほとんどが大魔法でございますので、流石に簡単に訓練で使いたいとは言えませわよねえ。
 それにしても、魔人種の国にある本だからでしょうか? 他の国と違いまして魔法に関する本が多くあるような気がいたしましたわね。
 まあ、ここは邪悪なるモノが存在している湿地があることもあり、魔物が頻繁に出現しておりますので、その対処法が多くなるのは仕方がない事なのかもしれませんわね。
 魔物に関しての本も沢山ございまして、今まで生態がよくわからなかった魔物の特徴が書かれた本もございましたので、本当に助かりましたわ。
 ああ、流石は本好きの納める国なだけあって、充実した本の山に、ずっとここに滞在していたいぐらいの気分になってしまいますわね。
 けれども、邪悪なるモノを討伐した帰りにまた王都に寄る事も可能でございますし、これっきりと言うわけではありませんわよね。
 祖国にある本もまだ、読み終わっておりませんし、わたくしが居ない間にまた蔵書が増えているでしょうし、そちらも早く帰って読みたい気持ちもございますのよね。
 ああ、悩ましいですわ。
 けれども、邪悪なるモノを浄化しましたら、そのまま魔物討伐という名目で諸国を旅するのもいいかもしれませんわね。
 あ、我ながら名案かもしれませんわ。
 けれども、邪悪なるモノを浄化したと言う報告は国に帰ってしなければいけませんし、一度はきちんと祖国に帰らなければいけませんわよねえ。

「パウラ~、聞いてる?」
「ええ、聞いておりますわ、ハーロルト兄様。出立の準備が整ったのですわよね」
「うん、明日にでも出立できるけど、どうする?」
「この王都の本とお別れするのは名残惜しいですが、邪悪なるモノを浄化しない限り、わたくしの平穏な読書時間はやって来ませんし、さくっと行って、邪悪なるモノを浄化いたしましょう」

 そうして、祖国に邪悪なるモノの浄化を報告いたしましたら、魔物討伐という名目で諸国漫遊いたしまして、各国の本を読み漁りたいですわ。
 そうですわよね、国王陛下もまだまだお若いですし、ちょっとの間、第一王子とその正妃が国を空けても構いませんわよね。
 その時、部屋の扉が「バーン」と開きまして、パパが入っていらっしゃいました。
 本を手にしていたわたくしを両手で持って抱えあげますと、それはもう嬉しそうな顔をしております。

「パウラ、聞いたぞ! 出立の準備が整ったそうじゃないか。もう行ってしまうのか? パパは寂しいぞ。がんばって邪悪なるモノを浄化するのだぞ」

 寂しいのかとっとと出て行って欲しいのか判断に迷うことを言わないで頂きたいものですわね。

「邪悪なるモノを浄化したら、すぐにこの王都に帰ってきて、読書の続きをするといいんじゃないか?」
「一度、祖国に帰って邪悪なるモノを浄化したことを伝えなければなりませんわよ?」
「おっかたいなあ、本当に俺の子?」
「確かに、わたくしの製作者かもしれませんが、わたくしのお父様とお母様は別にちゃんといらっしゃいますわ」
「えー、俺がいなかったら産まれなかったのに? そう言う事言っちゃう? パパ悲しいなあ」
「わざとらしいですわねえ。その理論で言いますと、わたくしとお母様が姉妹になってしまうではありませんか」
「リベロはそう言っても気にしないんじゃないかな?」
「わたくしが気にしますわ」
「パウラはお堅いなあ。もっと気楽にいこうよ」
「パパ、あまりおふざけが過ぎるのもいかがかと思いますわよ?」
「ちぇ」

 パパはわたくしを離しますと、ソファーに勝手に座って、やはり先ほどまでわたくしが飲んでいた紅茶の入ったカップを手に取って中身をコクコクと飲んでしまいました。

「お、これは水の龍神種の国で好んで飲まれてる紅茶だな。美味いんだよなあ、これ。パウラが邪悪なるモノを浄化したら、俺もお役御免だろうし、国王辞めて諸国漫遊しようかな」
「それ、いったい何人わたくしの弟妹が増えるかわからないのでやめていただけます?」
「うーん、俺、インキュバスの中でも草食系だよ? 神の啓示が無かったらヴェロッテもリベロも犯さなかったし。そもそも、インキュバスの糧が人間種や亜人種の精だって誤解されてる節があるよな。普通に食事で十分だっての。まあ、精を搾り取るのが一番効率のいい栄養補給の仕方だけど。まあ、妖精種のくくりに入っていた時代の祖先が色々やらかしてくれちゃったおかげで、魔人種のくくりになったり、今でも誤解されちゃったりしてるんだよなあ」
「お婆様とお母様を犯しておいて、どの口がいうのですか」
「だから、神の啓示のせいだって。魔人種でも神の啓示には逆らえないんだってば」

 まったく、神様はろくなことしませんわね。
 まあ、今わたくし達が魔物に苦しんでいる原因を作ったような方々ですし、そもそも碌な方々ではないのでしょうけれどもね。

「それで、いつ出立するんだ?」
「明朝にでも出立しようと思っています。パウラ曰く、邪悪なるモノが羽化する前に対処したほうが良いという事なので」
「そうかー。まあ、がんばって。俺の最高傑作のパウラなら、羽化する前の邪悪なるモノならサクッと浄化出来るだろうしな」

 軽く言ってくれますわねえ。
 まあ、小説の中では羽化し終わってほぼ完全体になっている邪悪なるモノと対峙することによって大分苦戦しておりましたが、羽化する前でしたら、攻撃されることもないでしょうし、確かにそんなに難しくはないとは思いますけれどもね。

「それでは、明朝に出立しようと思いますわ」
「邪悪なるモノがいるっていう推測地点の湿地も結構な広さがあるから、気を付けていくんだぞ」
「そうですわねえ、千年前の地図ではあてになりませんし、移動している可能性もありますものね」

 小説の中にも、湿地としか書かれておらず具体的な地図も挿絵にはありませんでしたもの、地道に探すしかありませんわよね。
 えっと、地図で計る湿地帯の大きさは、前世の日本で言えば、尾瀬ぐらいありますので、探すのは結構骨が折れそうですわね。
 ここに邪悪なるモノがいます! って、わかりやすい目印でもあればいいのですけれども。
 小説の中では完全に羽化しておりましたので、瘴気がそこに集中しているため、すぐに場所が分かったのでしたわよね。
 羽化するために、都合よく瘴気を集めているとかはないでしょうか?
 うーん、蝶の羽の生えた、羊角を持った、神秘的な風貌の邪悪なるモノ、どんな所にいたのか、もう少し描写があっても良かったのではないでしょうか?
 乙女ゲームの方をしておりましたら、背景と下で絞り込めたかもしれませんわねぇ。

「パパ、湿地帯で瘴気が集まっていると事に心辺りはありませんか?」
「ないなあ、と言うかあそこの魔物は強いから、この国の勇者が率先して行ってるけど、瘴気が集まってる場所を発見したっていう報告は受けてないな」
「そうですか」
「あ、でも水鏡で見たら少しは絞り込めるんじゃないかな」
「ああ、わたくしを覗き見していたという水鏡ですか」
「便利だぞ、我が国の勇者一行とはそれで連絡を取り合っているからな」
「重要そうなアイテムですけれども、お借りしてもよろしいのですか?」
「問題ないって、所詮道具なんだから、使ってなんぼだって」

 パパはそう言いますと、早速と言わんばかりにソファーから立ち上がりますと、わたくしを腕に抱き上げて、部屋を出て行きました。
 わたくし、どこに連れていかれるのでしょうか?
 なんて考えていますと、連れていかれたのは執務室のような場所でございまして、床に降ろされますと、水盆のような物をごそごそと取り出して見せてくださいました。
 水鏡なんていうので、てっきり鏡のような物だと思いましたけれども、水盆のような物なのですね。

「えっと、湿地帯だったな。……これが上空から見た湿地帯の全体図。聖女のパウラならこの状態で瘴気が集まってる場所が分かるんじゃないか?」
「えっと……」

 言われて水盆を覗き込みますが、ちょっと範囲が広すぎませんか?
 流石、尾瀬並ですわねえ……。

「ちなみに、我が国の勇者一行が回ってる場所はこの東側の火山帯だな」
「では、そちらの方ではないという事ですわね」
「それで、見当はつきそうか?」
「えっと、拡大は出来ますでしょうか?」
「できるぞ、こうして指で拡大したい部分をぐいっと」

 スマホの拡大機能を使うような感覚ですわね。
 言われた通りにあちらこちらを拡大してみて言っておりますと、滝付近に瘴気が集まっているのが分かりました。
 って、湿地の中でもこの王都からかなり離れている場所ではありませんか。
 けれど滝ですか、滝ぐらいの水量があれば、新しく覚えた魔法を使えるかもしれませんわね。

「なになに、わかっちゃった?」
「ええ、この滝の当たりに瘴気が集まっているようでございますの」
「ああ、北の方にあるこの滝か。確かに、魔物が特に活発化してる場所ではあるなあ。我が国の勇者一行も東側と北側のどちらに行こうか迷っていたぐらいだったし、なるほど、北側が正解だったのか」

 パパがそう仰いますと、水盆を操作いたしまして、東側を映し出しました。
 そこには、戦闘をしている勇者一行の姿が見えます。

「あちゃー、戦闘中か。北側に移動するように命令しようと思ったんだけど、タイミングが悪いなあ」
「この戦闘が終わったら声をかけてみてはいかがですか?」
「まあ、そうするか」

 パパはそう言うと、真剣な顔で戦闘をしている勇者一行を眺めています。
 ふむ、そういう顔もできるのですね。
 三時間ほどその戦闘を眺めていると、やっと一段落ついたのか、最後の魔物を倒して、勇者一行が肩の力を抜きました。
 すると、パパが水盆の横についていたコードの付いた、まあ、マイクのような物だとは思いますが、それを手にしまして「あーあー」と声を出しました。

「おーい、聞こえるか?」
『陛下? なんすか? 今やっと魔物の集団を討伐したところなんすけど』
「ああ、見てたから知ってる。そんなお前達に朗報だ。俺の最高傑作が、邪悪なるモノが存在しているかもしれない場所を特定したぞ」
『は? マジで邪悪なるモノが復活してるんすか?』
「俺の最高傑作曰くそうみたいだな。それでだ、その場所なんだが、お前達が最初に行くかどうか悩んでた北側にある滝な、その周辺っぽいんだわ」
『そっちだったかー!』
「今から露払いをかねて北側に進路変更してくんね?」
『らじゃーっす。ってか、陛下の最高傑作ってなんすか?』
「俺が孕ませた娘」
『へえ、そんなんいたんすか。まあ、陛下が最高傑作っていうぐらいだし、器量良し能力良しの存在なんでしょうねえ』
「ああ、まじで最高傑作だから、見て驚けよ」
『へいへい。んじゃま、休憩したら北の滝の方に進路を変えますよ』
「ああ、よろしく頼むわ。今こっちに滞在中の人間種の勇者一行は明朝には出発する予定だから、合流するまで死ぬなよー」
『そう思うんだったら、陛下が勇者やって下さいよー』
「ばーか。俺までそっちに行ったら誰が王都に魔物の軍勢が押し寄せた時に対処すんだよ」
『そんなのお貴族様にたよればいいじゃないっすかー。こっちは毎日まじで命がけだっての』
「俺の次に実力があるってことで勇者に選ばれてんだから、がんばれよー」
『へーい。んで、その陛下の最高傑作の勇者一行はどのぐらいで合流できそうっすか?』
「あ、俺の最高傑作は人間種の聖女だから。そうだなあ、あの馬車のスピードなら三日もあれば合流できるんじゃねーの?」
『三日かあ、んじゃ、その間に出来るだけ露払いしときますねー』
「頼んだぞー。んじゃ、また何かあったら連絡するからなー」
『はーい』

 ……聞いていて思いましたが、国王と勇者のやり取りってこんなに軽いものでいいのでしょうか?
 まあ、各国の事情もあるでしょうし、こんな感じに気軽な国があってもおかしくはないのかもしれませんけれども、もっと国王陛下としての威厳のような物とか……、あ、そうでした、パパはチャラいんでしたわね。

「んじゃま、交渉成立ってことで、パウラは心置きなく邪悪なるモノの浄化をして来い」
「はい、わかりましたわ」

 小説の中には、魔人種の勇者一行との合流描写なんてございませんでしたわよね。
 まあ、魔物の露払いをしてくださるのでしたら、向かう途中の魔物討伐も幾分楽になるでしょうし、助かるのですが、よろしいのでしょうか?
 ……うん、効率を考えると、このほうが良いですわよね。

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