話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

冬薔薇姫

茄子

023 妖精種の国 出立

 妖精種の国を出立する際、今まで頂いていた本とはまた別に、お婆様が研究資料として使っていたと言う本を沢山頂いてしまいました。
 中には禁書もございましたがよかったのでしょうか?
 お爺様と精神が回復なさったお婆様は、初代聖女の生まれ変わりに違いないわたくしが持つにふさわしいと仰って、様々なものを持たせてくださいました。
 本の他に、妖精種の初代聖女が神から賜ったというアンクレットも頂きました。
 国宝だと思うのですが、お婆様がわたくしにこそ使われるものだと仰って、半ば押し付けるようにプレゼントしてくださいました。
 もちろん、アンクレットに関する本も一緒に。
 ダクマ伯母様は最後までわたくしの事を忌み子の子供と言ってよく思っていなかったようですが、他の方には概ね受け入れられていたようで、問題であったお婆様にも受け入れられることが出来て、来てよかったと思える国でございました。
 なによりも、お母様の出生の秘密を知れたのは重要でしたし、わたくしに妖精種の持つ羽があることが判明したことも大発見でしたわね。
 次の目的地は魔人種の国の中の一国でございます。
 わたくしのお婆様の出身国になりますが、国王が代替わりしているため、現国王とは血の繋がりはございません。
 まあ、お婆様は魔人種のその国の中でも高位貴族の令嬢であったため、血が繋がらないとはいえ紹介状を預かっておりますので、渡さなければなりませんわね。
 向かう魔人種の国の国王はつい最近代替わりをしたばかりで、国内が少々荒れているかもしれないと妖精種の国でお爺様に言われましたが、通らざる得ない国でございますので、行くしかありませんわよね。
 お爺様は行って欲しくないと何度か仰っておりましたし、ダクマ伯母様に至っては国自体が滅んでしまえばいいなどと言っておりましたので、何か因縁がある国なのでしょうか?
 妖精種は戦闘を好みませんので、他国と戦争をするとはほとんど聞いたことがありませんが、かつて戦争を仕掛けられたことがあるとか?
 うーん、行ってみないとわかりませんわね。
 妖精種の国で修繕されたヨルクの剣には、修繕だけでなく、攻撃力アップの魔石が付与されておりまして、ヨルクはますます手放せなくなってしまったと苦笑しておりました。
 修繕費と魔石の使用によって、大分費用が掛かったようですが、顔色一つ変えずハーロルト兄様がお支払いなさいました。
 何気にハーロルト兄様ってば魔物討伐などで稼いでいらっしゃいますので、わたくしほどではないですが潤沢な資材をお持ちですものね。

「ハーロルト兄様、わたくしの羽で遊ぶのはいい加減お止めになっていただけますか?」
「だって、こんなに美しい薄羽、妖精種でも見たことが無い」
「まあ、読書の邪魔にならなければよいのですけれども、わたくしを膝に乗せる時、羽が邪魔になりませんか?」
「問題ない」
「そうですか? ならよろしいのですけれども」

 そういってわたくしは、ハーロルト兄様のお願いで薄羽を出した状態のまま妖精種の国で頂いた本を読んでいきます。
 やはり禁書が少なくない数混ざっているようで、読む際は注意が必要ですわね。
 魔人種の国へ向かう途中、いつものように魔物に遭遇しましたが、相変わらずハーロルト兄様達だけで倒してしまわれて、わたくしの浄化特化のメイスの出番はありません。
 せっかく苦労して作りましたのに、勿体ないですわよね、浄化の魔石、高かったのですよ? 浄化の魔石一個で普通の伯爵家なら一年は遊んで暮らせるぐらいの値段はしました。
 いつか出番があると良いのですが、ありますでしょうか? あるとしたら、邪悪なるモノと対峙した時かもしれませんわね。

「パウラ、今日はペスカトーレだよ。はい、ソースが口の周りにつかないように大きく口をあーんして?」
「あーん」
「美味しい?」
「おいひいれふ」

 あ、口にものを入れたまま喋ってしまいました、淑女として失格な行為でございますわね、つい油断してしまいましたわ。
 今後は気を付けましょう。
 その後もハーロルト兄様の給仕を受けながら、読書を進めていきますと、約五千年前の龍神について書かれた禁書を手にすることになりました。
 伝承では仲間に裏切られ、番を失ったため闇落ちしたとありますが、この禁書にはその経緯が詳しく記載されておりました。
 それは、亜人種や人間種の手には負えない邪悪なる魔物を消滅させると言う、神の行動がきっかけだったのです。
 最初は何の問題もなかったそうなのですが、討伐に向かった神々が、一柱、もう一柱と、だんだんと邪悪なる魔物に食われ、その度に邪悪なる魔物は力を蓄えると言う悪循環が発生してしまい、最終的には討伐隊を組んでいた神々だけでは思った以上に対処できない状態にまで陥ってしまったそうなのでございます。
 そこで神々が思いついたのは、邪悪なる魔物に最も強い力を持った神をぶつけ、相殺することによって消滅させるという事でございました。
 そこで選ばれたのが、龍神の一柱だったのです。
 仲間の神々は、最後までその龍神の一柱に生贄にすることを伝えず、出来る限り力を削ぐので最後の一撃を与えるようにと誘導し、最後まで力を蓄えさせて、最後にその龍神を裏切るような形で強大な力を得た邪悪なる魔物に持っている神力全てをぶつけさせるよう魔法陣を組み、その龍神の神力を持って、強大な邪悪なる魔物を消滅させることが出来たのだそうです。
 けれども、神力は神にとって存在する力そのもの、その全てを吸い尽くされた龍神は当然姿形も意志も保つことが出来ず、邪悪なる魔物と一緒に消滅してしまいました。
 本当に最悪だったのはそこからだったのです。
 邪悪なる魔物の討伐を終えた神々は、消滅した龍神の番にこう言ったそうです「お前の番は、邪悪なる魔物に食われてしまった」と。
 けれども、それを信じることのできなかった番の龍神は調べに調べ上げ、共に旅だった神々が己の番を裏切り、生贄にする形で邪悪なる魔物を消滅させたことを知り、怒り狂ったのでございます。
 神々はその怒りを鎮めるため、怒り狂った龍神から神力を吸い上げ、亜人種や人間種の勇者や聖女に討伐させたのだそうです。
 そうして、もうこのような事が起きないよう、地上での事は地上に生きる者達に任せることにして、神々は天に昇って行ってしまいました。
 残された亜人種や人間種のほとんどがそのことを知らないまま。
 そして、邪悪なるモノに変じてしまった番を失った龍神は最終的に人間種の勇者によって倒されましたが、最後の抵抗として、自分の負の感情を世界各地にばらまいたのです。
 それが、後に現れる邪悪なるモノの種となったとこの禁書には記されております。
 神が身とは何と自分勝手な生き物なのでしょうか。
 わたくし共はそんな神々を崇めているのです、皮肉なものでございますね。
 禁書を読んで、邪悪なるモノがどうして誕生したのか、そしてなぜ未だに誕生し続けるのかが分かりました。
 仲間に裏切られたという事は伝わっておりましたが、神々がこんなにも身勝手だという事は伝わっておりませんでしたわね。
 後の事は知らないと言わんばかりに、地上の事を捨て、天井に昇ったのも、随分と身勝手なのではないでしょうか? 神々にはわかっていたはずです、世界各地に散らばった邪悪なるモノに堕ちた龍神の負の感情が、次なる邪悪なるモノを生み出すという事を。
 それなのに、地上に留まることなく、天井に昇ってしまったのですから、亜人種や人間種を見捨てたという事なのでしょうか?
 その割には神託や啓示をなさいますよね。
 神々の気まぐれでしょうか? それとも罪悪感? どちらにせよ碌なものではございませんわね。
 そう考えた瞬間、足に付けたアンクレットが熱を帯びて、わたくしは禁書を抱えたまま意識がブラックアウトしてしまったのでございます。


【ハーロルト視点】

 突然パウラが気を失った。
 本を読んでいる間に眠るという事はあったけれども、今のは間違いなく気絶だろう。
 手にしているのは妖精種の国でパウラが貰った禁書。
 何か関係しているのか?
 そう考えていると、顕現していたパウラの薄羽がブルリと震え、虹色の鱗粉を撒き始め、パウラは禁書を持ったまま、宙に浮かび上がった。

「ハーロルト殿下、いったい何が!?」
「わからない。禁書のせいだとは思うが、原因が特定できない」
「ハーロルト殿下、パウラ様が付けているアンクレットの魔石が発光しております!」
「あれは妖精種の初代聖女が神々から贈られたと言うアンクレットだったな、何か関係があるのか?」

 訳も分からないままパウラを下ろそうと手を伸ばし、その足に触れた瞬間、頭の中に映像が流れ込んできた。
 それは、パウラが光り輝く何かと対話をしている映像だ。

『なぜ裏切ったのですか? 話し合えば彼の龍神は納得して自ら身を捧げたかもしれないではありませんか』
『それは叶わぬことだったのだ。彼の神の願いは番の元に帰る事、到底犠牲になれとは言えない状況だったのだ。しかし、彼の神の犠牲無くして、強大な力を得た邪悪な魔物を消滅させることは不可能だった』
『身勝手ですわね。神々を総動員してでも協力して倒すべきだったのではありませんか?』
『弱き神は邪悪なる魔物の餌食となるだけだっただろう。あれ以上邪悪なる魔物に力を付けさせるわけにはいかなかったのだ』
『それが、生贄を捧げると言う結論に至った理由なのですか?』
『そうだ』
『では、なぜ地上を捨て天に昇ったのですか。地上に生きる者を見捨てたのですか? その割には神託や啓示を行ったり、魔法と言う存在を使えるままにすると言うのは、どういう心づもりなのですか?』
『我々とて、地上に生きる者を見捨てたわけではない。あのまま我々神々が地上に存在し続ければ、我々の力にあてられた強大な力を持った邪悪なる魔物が再び誕生しただろう。それを防ぐために天に昇ったのだ』
『魔物は、神々の力が原因で発生するのですか? 理性を失った動植物が魔物の定義です、理性を失う原因が神々の力にあると言うのですか?』
『かつてはそうであった。今は、そうとは限らぬがな』
『神々が総出で世界各地に散らばった最初の邪悪なるモノになった龍神の負の感情を浄化すれば、その後新たなる邪悪なるモノは誕生しなかったのではありませんか?』
『それは不可能であった。世界中に散らばった負の感情の種は、地中深くに潜り込み、目覚めの時を待つ状態に入ってしまったのだ。だから、目覚めるのを待って一つずつ消していくしか方法がないのだ』
『千年前に誕生した邪悪なるモノは封印するのみに留まりました。今回現れた邪悪なるモノはその封印が解かれたと考えてよろしいのですか?』
『正確には封印ではなく弱体化だな。種に戻るまで弱体化させたと言うのが実際の所だ。まあ、地上に生きる者に封印と伝わったのは、そのように見えたからだろう』
『地上に生きる者は、最初の邪悪なるモノの負の感情が芽吹き、それを消し去るのを待つしかないという事なのですか?』
『そうだ』
『絶望しかございませんわね。地上に生きる者は、魔物や邪悪なるモノに怯えて生きて行かなければいけないのですね』
『世界中に散らばった負の感情はまだ無数に存在している。その全てを消し去るまで、我々神々は、地上に生きる者の進化を止めているのだ』
『進化すると、不都合な事でも?』
『進化し、神への信仰が薄れれば、その分扱える魔法の威力も減っていく、邪悪なるモノに対する力が衰えていくのだ。だから、地上にいる者の進化を止めている』
『勝手ですわね』
『地上に生きる者達を守るためだ』
『一つお尋ねしたいことがございます』
『なんだ?』
『界渡りは何故発生するのですか?』
『この世界は不安定だ、他の世界の影響を強く受ける世界。したがって、上にある世界から界渡りとして魂や存在そのものが穴に落ちるように渡ってくるのだ』
『他の世界の影響を受けやすい……。それは、わたくしがかつて生きていた世界の影響もうけているという事でしょうか?』
『然り。其方の前世の世界の影響力は強い』
『そうですか……。ヒロインであると思われるエーフィー様が物語と大分違っているのは、やはり界渡りだからでしょうか?』
『そうだ。あの者も界渡り、しかも歪な影響を受けたせいで魅了の魔眼を所有して生まれ落ちた』
『厄介ですわね。今のままのエーフィー様が邪悪なるモノを倒せる確率はどのぐらいですの?』
『其方らが浄化した方が余程堅実的と言える程度だな』
『そうですか』
『パウラよ、次に行く魔人種の国では妖精種の国と同じように歓迎を受けるだろう。なんと言っても今から向かう国の国王は、リベロを孕ませたインキュバスだ』
『は?』
『シルバの精を吸い取ったサキュバスがインキュバスとなりリベロを夢の中で犯し、誕生したのが其方だ』
『なんてこと……、わたくしも忌み子だということですのね』
『それは地上にいる者の一部が勝手にそう呼んでいるだけ。インキュバスにとっては当然の行為でしかない』
『わたくしの父親は、間違いなくお父様という事でよろしいのですか?』
『ああ、間違いない。一夜で行われた夢であるため、リベロとシルバからはただの悪夢として忘れられているがな。インキュバスが居なければ、今、其方は存在していない』
『感謝すべきか悩みますわね』
『二代に渡り、インキュバスを介して産まれた子であり、界渡りでもあるパウラは、歴代の聖女の中でも飛び抜けた才能を持っている。その才能を持って、現在羽化しようとしている邪悪なるモノを浄化するのだ』
『わたくしは、ただ読書の時間を邪魔されたくなくて聖女をしているのですけれどもね』
『現在の希望は其方だ、パウラ』
『勝手に希望になさらないで下さいませ』
『羽化する前に邪悪なるモノを浄化出来れば、そこにある種はもう発芽しないだろう』
『羽化してしまった後では遅いと?』
『残照が残り、後のその場所には強力な魔物は発生することになる』
『本当に厄介ですわね』

 パウラがそうため息を吐いた瞬間、映像が途切れ、腕の中にパウラが下りて来た。
 今のは何だったんだ? 神の啓示や神託を受けたという者が言う状況に似ていたが、あんなに長く対話すると言うのは聞いたことが無い。
 腕の中で眠るパウラの顔を見て、私は思わずため息を吐き出してしまう。
 まったく、どこまでいっても規格外な婚約者だな。

「冬薔薇姫」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く