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冬薔薇姫

茄子

022 その頃ランツェル一行は

【ランツェル視点】

「はあぁっ!」

 掛け声とともに振り下ろした剣で、スライムが一刀両断され、黒い靄のような物に変化する。

「エーフィー、浄化を!」
「ごめんなさい、あたし、まだ浄化魔法は使えなくって……。すぐに講師の人を呼んで来ます!」
「早くしてくれ」

 放っておけばまたスライムに戻ってしまうのだから、浄化はすぐさま行わなければならない。
 エーフィーも努力はしているのだ、しかし、未だに浄化魔法を覚えることは出来ていない。
 しかし、昨日小回復スモールヒールを使えるようになったと言って、俺の擦り傷を回復してくれたのだし、確実に進歩している。
 俺も、最初は苦戦していたスライムも、今のように一撃で倒せるようになったし、パウラのせいで無理やり旅に出されはしたが、こうして確実に功績を上げているのだ、勇者として文句は誰にも言わせない。

「ランツェル、魔法の講師を連れてきました!」
「早く浄化を!」

 エーフィーが連れて来た講師が結界を張り、その中に集められた瘴気を浄化していくのをエーフィーは真剣に見ている。
 早く自分も浄化魔法を習得しようと必死なのだろう。
 そんなエーフィーを見ていると、心が温まるような感じがするから不思議でならない。
 父上は、俺が魅了の魔眼に囚われていると言っていたが、そんなことは無い。
 この想いは本物の愛情だ。
 浄化が終わったとエーフィーの講師が言った事で、周囲にまだ魔物が居ないか様子を見に行った。
 エーフィーと講師は馬車に戻ったようだ。
 王族仕様の馬車は、他の馬車よりもずっと快適なのだろうが、長時間乗っているとやはり疲れが出てしまう。
 だが、エーフィーはそんな事に苦言を呈することもなく、夜番こそ令嬢であるエーフィーにはさせられないが、それ以外の事はよくやってくれている。
 男爵家の庶子とはいえ立派な令嬢、野営続きの日々に文句の一つでも言いたいだろうに、それを我慢している姿は、健気で、そして凛としていてまさに聖女として相応しいものだと言える。
 あんな、ビブリオフィリア変人のパウラには無理な話だろう。
 きっと今頃兄上に本が足りないと文句を言っているに違いない、兄上もあんな女を婚約者に選ぶなど、何を考えているのだろう。
 あんな女が兄上の正妃になるなど、何の意味がある。
 エーフィーのような娘こそ、国の未来を背負うにふさわしいのではないか? しかし、だからと言って兄上の正妃にさせるつもりはない。
 俺が勇者として兄上より功績を上げれば、兄上の王太子の座を奪うことが出来るかもしれない。
 いや、俺はそんなものよりも、エーフィーと平和な暮らしを送りたい。
 王位も大公の座もいらない。
 平民に紛れて暮らすのもいいだろう、その方がエーフィーと自由に愛し合うことが出来る。
 制約の多い王族の地位など、俺には何の価値もない。
 それにしても、元婚約者のペトラはがめつい女だったな、俺から一方的に婚約破棄をしたからと言って、多額の違約金をふんだくっていった。
 まあ、金程度であの女から解放されるのであれば安いものだと思うしかないな、ペトラと婚約を続けていれば、王族としての何たるかを延々と言い続けられ、俺はストレスでどうにかなってしまっていたかもしれない。
 ペトラは俺には俺の魅力があると言っていたが、あいつは結局、王族としての俺しか見ていなかったのだろう。
 ことあるごとに王族としてしっかりしなければならないと言っていたのがいい証拠だ。
 その点エーフィーは違う。
 俺は俺らしく、自由にふるまう姿こそが真実なのだと言ってくれ、俺の心を自由にしてくれる。
 聖女としても献身的に努力をするエーフィーの存在こそが今の俺の支えだ。

「今日の夜番はアウェスだったな、しっかり見張っていろよ」
「分かっていますよ」

 夜番は、ヨルンとドゥオ、そしてアウェスの三人で回してもらっている。
 王子であり勇者でもある俺が夜番をすることは無いのだから、聖女であるエーフィーも夜番をする必要などない。
 それにしても、一緒に旅をする前から想っていたのだが、エーフィーは本当に朝が弱い。
 まあ、俺と体を重ねた翌日は仕方がないとしても、その他の日も朝起きるのをだるそうにしている。
 朝が弱い体質なのだと、苦笑していたが、体質ならば仕方がないだろう。
 それにしても、王宮ではエーフィーは様々な令嬢に嫌がらせを受けていた、その首謀者はパウラだ。
 あの性悪女がエーフィーに嫌がらせをして、聖女教育の邪魔をしていたのだ。
 その証拠に、王宮を離れてエーフィーは回復魔法を覚えることが出来た、まだ小回復スモールヒールしか使えないが、エーフィーのように真面目に講義に取り組んでいれば、ペトラが使う回復魔法を追い越すのも近いだろう。
 そもそも、ペトラが回復魔法を仕えていた方がおかしいのだ。
 聖女になるわけでもないくせに、俺の婚約者であったくせに、魔法師団にでも入りたいのかと思うほど、ペトラは魔法の勉強に時間を割いていた。
 もちろん、俺の正妃となるための教育もきちんと受けていたが、何か、鬼気迫るような表情で魔法の講義を受けていたことを思い出す。
 もしや、いずれ俺と婚約を破棄して魔法師ギルドに登録して冒険者と共に旅に出るのか、もしくは魔法師団に入団して国に仕える気だったのか?
 それならば、わざわざ俺から婚約破棄を言い渡さなくともよかったのではないだろか?
 それとも、聖女に立候補でもする気だったのか?
 馬鹿馬鹿しい、あんな俺の表面しか見られないような女が、聖女になどなれるわけがない、聖女に相応しいのはエーフィーだ。
 途中立ち寄った獣人種の国の勇者と聖女にも会ったが、聖女はエーフィーよりも優れているとは思えなかった。
 そもそも獣人種は歴史を紐解けば、人間種や亜人種に奴隷として扱われていた歴史の方が長い、それが約千年前、時の邪悪なるモノを封印した際に勇者一行に貢献したとして、奴隷制度を撤廃され、国を作ったのだ。
 人間種に比べても浅い歴史しかない。
 エーフィーは獣人種の国の魔法師に、父上に付けられた魔眼封じの腕輪を取って貰った。
 十五人ほどの魔法師が数日使い物にならなくなったと言われたが、エーフィーが腕輪のせいで度々苦しそうな顔をしているのを知っている俺としては、身も知らない魔法師の安否よりも、エーフィーの腕輪が取れたことの方が喜ばしい。
 エーフィーの淡く光る紫色の瞳を見ていると、心の中にある澱のような物が薄れていくような気がするから不思議なものだ。
 父上はエーフィーには魅了の魔眼があり、護身魔道具を付けて行動するように言われたが、そんなものは必要ない。
 魅了の魔眼があろうとなかろうと関係ない、俺とエーフィーの間には真実の愛があるのだから!


【エーフィー視点】

 ったく、スライム一匹倒すのにどれだけ時間が掛かっているのよ、最近やっと一撃で倒せるようになったみたいだけど、たかがスライムよ? 信じられない!
 獣人種の国の勇者との模擬試合でだって、ランツェルってば手も足も出せずにぼろ負け、あたしが恥をかいたわ!
 獣人種のウサギ耳を付けた聖女が、獣人種の勇者は実力で選ばれるから、まだ旅に出て間もないランツェルが勝てないのは仕方ない、なんて変に慰めて来るから余計に腹が立ったわよ!
 なによ、獣人種なんて、乙女ゲームの中じゃ途中で出てくるチュートリアルの雑魚キャラじゃないの。
 でも、この獣人種の国には少しは感謝してあげなくちゃね、このあたしの魅了の魔眼を封じていた腕輪を外してくれたんだもの。
 その代わり、十数人の魔法師が数日使い物にならないほど魔力を消費してしまったとか言われたけど、そんなこと知った事じゃないわ、あたしの魅了の魔眼の効果を考えればその程度の犠牲で済んだんだからむしろ感謝して欲しいぐらいよ。
 それにしても、乙女ゲームの中ではランツェルはハーロルトにコンプレックスを抱いているけど優秀で、勇者として立派に成長していくっていうのに、現実では庶民に憧れているとか語っちゃうのよ? 信じられない!
 ランツェルなんて、勇者として功績を上げて、立派に大公にならなかったら何の意味もないっていうのに何考えちゃってるわけ?
 庶民になるとか本気で言うなら、キープしてるアウェスの正室になったほうがよっぽどましよ。
 勇者一行のお付きの三人は、夜番ごとにあたしが体で慰めてあげているのよ。
 最初は夜番の途中だからって遠慮していたけど、あたしが潤んだ目で「お役に立ちたいんです」っていったらすぐに落ちたわよ。
 魅了の魔眼で事前に落としていたし、簡単だったわね。
 ランツェルはあたしが朝に弱いって思っているみたいだけど仕方ないわよね、夜遅くまで夜番になっているお付きを体で慰めてあげているんだから、朝が遅くなるのは仕方がないわよね。
 ランツェルだって、獣人種の国に滞在している間、あたしの事を散々抱いて来たんだから、満足でしょうし、あたしは聖女として勇者一行を癒やさなくっちゃいけないのよ。
 まあ、魅了の魔眼を封じられた時は焦ったし、そのせいで講師を魅了できなくて講義はきついものだったから毎回逃げ出して、サボっていたんだけど、その度にどこからか現れる令嬢共に嫌がらせをされてたのよね。
 嫌味を言われたり、水をかけられたりもしたわ。
 それもこれも、悪役令嬢のパウラが手を引いていたのよね。
 婚約者でもないくせに悪役令嬢はやっぱり悪役令嬢でしかないって事よね、ハーロルトも見る目がないわ、もしかしたら、親の力を使って無理やり婚約させられたのかも。
 そうだったら、あたしが救ってあげなくっちゃね。

「エーフィー様、講義を始めますので、本を開いてください」
「あたし、今の戦闘を見ていて疲れてしまいました。回復魔法は覚えたのですし、しばらく新しい魔法を覚えなくたっていいではないですか」
「浄化は聖女の大切な仕事でございます」
「貴女が出来るんだから何の問題もないはずですよね?」
「……エーフィー様、何度も申しますが、私に魅了の魔眼を使おうとしても無駄です。私はこの通り、魅了の魔眼を防ぐ護身用魔道具を装具しておりますので」
「……ふんっ。とにかくあたしは疲れて講義を受ける気になれません。もう寝るから起こさないでくださいね! あ、戻って来たランツェル達にはいつも通り上手く言っておいてくださいね、そうでなかったら、貴女にあたしが嫌がらせをされたって言いつけてやりますから」

 夜に備えてゆっくり寝ておかなくっちゃね。
 今夜の夜番はアウェスよね、ふふ、ああ見えてアウェスってばランツェルを裏切る背徳感に酔っているから、あたしが夜番をしてるアウェスの隣に行けば、今ではすぐにキスをしてくるのよ。
 本当に魅了の魔眼ってすごいわよね。
 まあ、獣人種の勇者や聖女は護身用魔道具を付けているせいで魅了の魔眼が効かなかったけど、あんな雑魚キャラどうでもいいわ。
 それにしても、ハーロルト達は北に向かったけど、初っ端からあんな強い魔物がでる地帯に向かうなんて信じられない。
 もしかしたら今頃死んじゃってるかもね。
 パウラはどうでもいいけど、ハーロルトはあたしの恋人にしてあげてもいいと思っているんだから、死んでもらったら困るのよね。
 それにしても、乙女ゲームでは年末になって魔物が活発化してあたしに神の神託があって聖女に立候補するんだけど、実際はもっと早い時期に魔物が活性化して、パウラとハーロルトが聖女と勇者になるかもしれないって聞いたから、焦って立候補したのよね。
 ったく、番狂わせもいいところだわ。
 本当ならもっと余裕があったし、出立するまで時間があったから、あたしも回復魔法とか浄化魔法とかちゃんと使えるようになっていたはずなのよね。
 それにしても、馬車の中でランツェル達が見ているから嫌々講義を受けているけど、なんでこんな目に合わなくちゃいけないわけ? 本当なら王宮で優雅にお茶を飲みながら、ランツェルの恋人として甘い時間を過ごしながら魔法を学んでいたはずなのに、上手くいかないのは全部パウラのせいよ!
 しかも、なんでかわかんないけど、勝手に聖女に立候補して、ハーロルトと一緒に旅に出るし、挙句にあたし達まで巻き込まれて同日に無理やり旅に出されるし、本当に最悪!
 でも、この世界はヒロインであるあたしの為に存在しているのよ、パウラが何かしたって、それは変わらないんだから無駄な足掻きよね。
 ふん、今に見てなさい、このあたしが聖女として華々しく活躍して、伯爵位を賜って逆ハーレムを作って、ついでにハーロルトも恋人にしてやるんだから。

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