話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

冬薔薇姫

茄子

021 妖精種の国 その4

 御婆様のお部屋に行く途中、下位妖精種から高位妖精種まで、わたくしの羽を見て驚愕の目を向け、そして頭を垂れてひれ伏していらっしゃいました。
 この羽、そんなに特殊な物なのでしょうか?

「ここです」

 ダクマ伯母様が足を止めた部屋は、華奢な細工の施された扉の付いた巨木でございました。
「コンコン」とノックをして、ダクマ伯母様が中に声をかけます。

「お母様、ダクマでございます。お見せしたいものがございましてやってまいりました。中に入ってもよろしいでしょうか?」

 そう声をかけてしばらくして、中からゆっくりと扉が開かれました。
 開けてくれたのは下位妖精種のようでございます。
 奥にいらっしゃるお婆様は、蒼銀の髪に銀色の瞳の、儚げな雰囲気を持った方でございまして、わたくし共が入って来たのにも関わらず、わたくし共には見向きもせずに窓から外を眺めていらっしゃいます。

「お母様、お元気でいらっしゃいますか?」

 ダクマ伯母様がそう声をかけますが、お婆様に反応はありません。

「……お母様、お見せしたいものがございますの。パウラ、こちらへ」
「はい、ダクマ伯母様」

 わたくしは言われた通りにダクマ伯母様の隣に並びました。

「お母様、この娘の羽をご覧ください。初代聖女様と同じ物でございます」
「……初代聖女様と?」

 そこで初めてお婆様が声をお出しになり、わたくしの方をご覧になり、目を見開きました。
 その目には驚愕と恐怖、そして尊敬と畏怖の感情が入り乱れているようでございまして、わたくしはどうしたらよいのかとダクマ伯母様を見ますが、ダクマ伯母様は心配そうにお婆様の様子を監視していらっしゃいます。

「初代聖女様も蒼銀の髪に金色の瞳と伝説が……。初代聖女様が再び降臨なされた?」
「……お母様、この娘は、リベロの娘でございます」
「リベロ?……いいえ、けれども、伝説の聖女様にあまりにも似ておりますわ。ダクマ、この娘は何者ですか?」
「お母様、わたくしの事がわかるのですか!?」
「何を言っているのです、自分の娘ぐらいわかります」
「ああ、神よ! 感謝いたします!」

 ダクマ伯母様のこの反応からして、今までは娘であるダクマ伯母様の事を認識できていなかったような感じですわね、そこまでお心を病んでしまっていたという事でしょうか。

「それよりもダクマ、この娘は何者です?」
「……リベロの実の娘でございますが、ご覧の通り先祖返りを起こしたとしか思えないような見た目でございます」
「ダクマ、リベロとはあの忌み子の事ですか?」
「ええ、然様でございます」
「忌み子が伝説の聖女様の生まれ変わりを産んだと言うのですか!?」

 御婆様はふらりと座っていた椅子から立ち上がり、わたくしに近づいてきますと、顔を触ったり体を触ったり、最後に羽に恐る恐ると言った感じに触れていらっしゃいました。
 触れられた場所から、ふわりと虹色の光が舞い上がります。

「ああ、何という事でしょう。とても忌み子の子供だとは思えません。ダクマ、わたくしをからかっているのではありませんか?」
「いえ、事実でございます。忌み子のリベロは人間種の国に嫁ぎ、そこで生まれたのがこのパウラでございます」
「パウラ、そう、パウラと言うのですね。初代聖女様のお名前、ポーラとよく似ている名前です。偶然にしてはあまりにも出来すぎています。わたくしが忌まわしきインキュバスに襲われたことも、神の思し召しだというのでしょうか? ああ、それにしてはあまりにも無体な事……」
「お母様、あまり無理をなさってはお体とお心に負担がかかってしまいます」
「大丈夫ですわダクマ。むしろ今までの鬱屈した心が晴れていくような感覚さえございます。それもこれも、この虹色に発光する薄羽の効果なのでしょう。初代聖女様はその虹色に輝く薄羽の力で、死者をも蘇らせたと伝説にございますもの」
「パウラ、お母様は心を病んでしまわれるまで、初代聖女様の研究者の第一人者でいらっしゃいました」
「なるほど、それでお詳しいのですね」
「お母様がここまでお話になるのは、リベロを孕んで以来になります」
「ということは、約37年ぶりという事でしょうか?」
「ええ、まさに奇跡としか言いようがありませんわね。それにしてもお母様のお心が悪い方向に向かわなくてよかったですわ」
「そうですわね」

 お爺様は賭けに勝ったと言ったところでしょうか?

「パウラ、貴女はどうしてこの国に来たのですか?」
「聖女として、魔物討伐をしております。場合によっては邪悪なるモノを封印もしくは浄化することも考えております、お婆様」
「ああ、貴女も聖女なのですね。ポーラ様と同じく。……そうですか、神は貴女と言う存在を求めているのかもしれません。初代聖女様、ポーラ様が神に求められたように」
「神へは当時の勇者の娘の中で一番美しい娘が献上されたと文献にはありましたが」
「そうです、ポーラ様の代わりに献上されたのです。それは、神々がこの地上を去るその時まで続いておりました」

 まさに生贄でございましたか。
 神が真に欲したのは、妖精種の初代聖女、ポーラだったと言うわけですね。
 それにしても、わたくしが妖精種の初代聖女の生まれ変わり、もしくは先祖返りと言うのは本当でしょうか? いままで普通に生きてきましたし、突然そのようなことを言われても困ってしまいますわね。

「パウラは人間種の国の聖女としてこの国に滞在しているのですね?」
「はい、お婆様」
「いつまで滞在する予定ですか?」
「お付きの者の剣の修繕が終わり次第になりますので、あと一週間ほどだとダクマ伯母様が仰っておりました」
「そうですか。ダクマ、陛下に伝言を。気分が良いので久しぶりに食事を共にしたいと」
「かしこまりました、お母様」

 わたくしはそのままダクマ伯母様に連れられてお婆様の部屋を出ました。

「ダクマ伯母様、この羽はどうやったら隠せるのでしょうか?」
「隠すように念じれば消えるはずです」
「そうですか」

 わたくしは羽を隠すイメージを思い浮かべましたが、上手く隠すことが出来ません。

「上手く出来ませんね」
「元の姿に戻りたいとでも思えばよいのではありませんか?」
「わかりました」

 わたくしは今度は羽の無かった自分を思い浮かべました。
 そうしますと羽が消えた状態に戻ることが出来ました。

「貴女には感謝すべきですわね。お母様のお心があのように晴れたのは、貴女のおかげですもの」
「わたくしは何もしておりませんよ?」
「それでも、貴女の羽が顕現した姿が、お母様をあそこまで戻してくれたのです」

 御婆様、妖精種の初代聖女様の信奉者だとお爺様は仰っておりましたが、わたくしが似ているからと言う理由だけで状態が回復なさるなんて、信奉者と言うよりも狂信者に近いのではないでしょうか?
 それにしても、インキュバスにお婆様が襲われた事も神のご意志だとすれば、神と言うのは随分残酷な存在でございますわね。
 こんなにも忌み嫌われているインキュバスですが、魔物のくくりには入っておりません。
 昔は妖精種のくくりに、現在は魔人種のくくりに入っております。
 それに、忌み嫌われているインキュバスですが、一部では崇めたられている存在でもございますのよ。
 子供がいない女性には、子供を授けてくれると言うことで、一部人気を博しているのでございますが、サキュバスに関しても、一部の男性に絶大な人気を誇っております。
 精を吸い取られるといいますのに、人気があると言うのは、男性と言うのはしょうがないものでございますね。
 それにしても、お婆様のご容体が回復したようで何よりですわ。

「ダクマ伯母様、新しい本なのですが、神について書かれたものを中心に集めていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「構いませんが、なぜです?」
「はじめて現れた邪悪なるモノは、仲間に裏切られ番を失った龍神だと伝承にございますので、もし今回も邪悪なるモノが存在する場合、神に関係しているのではないかと思いまして」
「神に関わるものが、必ずしも邪悪なるモノになるとは限りませんわよ」
「それでも、知らないよりは知っておいたほうが良いと思います。妖精種は有翼種に次いで神に近い存在と言われておりますので、神に関する本も多く存在しているのではないでしょうか?」
「そうですわね。けれども、神に深く関わる本になりますと禁書がほとんどですので、お父様に話してはみますが、どうなるかはわかりませんよ」
「お話していただけるだけで嬉しいです」

 御婆様が回復なさったので、ダクマ伯母様の機嫌もいつもより良い感じですわね。
 それにしても、神に深く関わる本は禁書ですか、約五千年前に天に昇って行ってしまわれたことと言い、その後定期的に出現する邪悪なるモノの存在と言い、何か関係があると思うのですよね。
 前世で読んだ小説にはその因果関係は記載されておりませんでしたが、もしかしたら元になった乙女ゲームのファンブックなどを読めば分かったかもしれませんが、生憎乙女ゲームの方には興味がなかったので読んでいないのですよね。
 この世界に転生するとわかっていたら、ファンブックも読みましたし、ネットで攻略サイトや考察サイトも見ましたが、未来は予測出ませんものね。
 わたくしだって、前世でわき見運転しているトラックに引かれて死んでしまうとは想像しておりませんでしたもの。
 まあ、直前まで本を読んでいて気が付くのが遅れたわたくしも悪いのですけれども……。
 けれども、転生してしまったものは仕方がありませんわよね。
 でも不思議ですわ、小説の中のパウラは、悪役令嬢でしたし、妖精種の羽があるなどと言う記載は一切ございませんでしたわよね。
 母親がインキュバスを経由して産まれた子供という事も書かれていませんでした。
 もっともと、ヒロインとランツェル様の恋物語ですので、悪役令嬢役のパウラについて詳しく書かれていなかっただけなのかもしれませんわね。
 ダクマ伯母様と与えられた部屋に戻りますと、ダクマ伯母様はお爺様に話があると言って部屋をすぐに出て行きましたので、わたくしは大人しく残りの本を読んでおりますと、ハーロルト兄様がわたくしを膝の上に抱えまして、下位妖精種が用意した果物などを口元に持ってきますので、それを食べて咀嚼すると言う鼓動を繰り返しました。
 ハーロルト兄様と一緒にいると、食事中も読書の手を休めることが無くて済みますので良い事ですわね。
 そうしておりますと、本を置いてある部屋の扉が音もなく開き、下位妖精種の方々が本を次々と運び込んできました。
 中には相当古い本も混ざっているようですが、そんなことに構わず次々と本の山が形成されて行きます。
 乱雑に扱われているわけではないので構わないのですが、最初に用意されていた本の量の軽く倍の量の本が最終的に用意されたのには驚かされました。
 これ、全部わたくしが頂いてよろしいのでしょうか?
 背表紙のタイトルをざっと見てみますと、希望通り神にまつわる書籍が多いようですが、その他にも魔法に関する本が沢山ございますわね。
 とりあえずは、先に頂いた本を読み終わってから、新しく頂いた本を読むことにいたしましょう。

「パウラ、ほらあーんして」
「あーん」
「美味しい?」
「そうですわねえ、妖精種の食事は基本的に薄味ですが、美味しいですわ」

 ただ、必要栄養を取るためにはもっと食べなくてはいけないでしょうけれども、生憎そこまで胃が大きくないのですよね。
 引き続き、ハーロルト兄様が給仕をしてくださいますので、わたくしは食事をしながら本の世界に没頭致しました。
 今読んでいる本は、妖精種の初代勇者の物語でございまして、いかに果敢に、勇猛に戦ったのかが記載されております。
 当時、勇者は神より神剣を託されたとありまして、今も妖精種の勇者はその神剣を使って魔物討伐を行うのだそうです。
 神剣ですか、一度見てみたい気も致しますが、妖精種の勇者一行はこの国から西に向かったと聞きましたので、道中で合う可能性は限りなく低いですわよね。
 本当に、各国の勇者一行は様々な場所に赴き、魔物討伐を行っていますので、わたくし共のように真っ直ぐに北の湿地を目指すと言うのは珍しいのではないでしょうか?
 わたくしだって、前世で読んだ小説の知識がございませんでしたら、各地を転々と旅したと思いますもの。
 それで言いますと、わたくしを悪役令嬢と言う、恐らくこの世界の小説もしくは乙女ゲームの知識があるエーフィー様が南に向かったのは、やはりレベル上げの目的なのでしょうか?
 言っては悪いですが、ランツェル様方は兵士に混ざって訓練をするという事もございませんでしたので、レベル的には1からのスタートなのかもしれませんわね。
 大丈夫でしょうか? いくら祖国の南側にいる魔物が弱いものが多いとはいえ、たまに突然変異種や、大量発生することもございますが、無事でしょうか?
 まあ、腹に据えかねたものがあって、同日に出立させたわたくしが心配するのもお門違いかもしれませんけれども。
 ああ、けれども、小説でも最初は祖国の南側に出立して、レベルを上げながら情報収集をしていくと言うストーリーでしたし、そのように動いているのかもしれませんわね。

「冬薔薇姫」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く